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Case Study実績・お客様事例

島津製作所 様(IDAJ news vol.71)

航空機用空調装置の性能最適化検討に「modeFRONTIER®」をご活用

株式会社 島津製作所 航空機器事業部 技術部 様
IDAJ news vol.71お客様紹介コーナーより抜粋
発行日 2013年3月

解析種別:最適化、ポスト処理機能
課題等:航空機、空調システム、ノン・ブリード空調、熱交換器

省略

導入の決め手は、情報を整理し理解の助けとなるポスト処理機能と技術サポート

modeFRONTIERをご導入いただいて、1年ほどになります。ご導入時期は確か、別の最適化ツールを導入して運用もされていらっしゃった時期だと記憶していますが、そんな中でmodeFRONTIERを選択された動機をお聞かせください。
従来より蓄積してきた実証データや弊社独自の物理モデルシミュレーション技術をさらに発展させる、または効率化させるツールとしてmodeFRONTIERなどの最適化ツールに注目したことが始まりです。当時、設計作業の改善ポイントの洗い出しと実作業プロセスへの適用を念頭におき、空調機器関連の作業フローの見直し、また大型機の空調能力アップというミッションに取組んでいました。社内作業の改善では、モデルベースでの更なるCAEの活用と、設計作業負荷のフロントローディング等がありました。弊社では様々な試験施設がありますが、地上実験という制約があるため、広範な温度と湿度に加えて大気圧まで異なる上空での環境や条件の再現が困難です。そこで、試験設備でカバーできない部分は、コンピュータ上で機体での作動状態を再現できるモデルを作り上げて、事前検討・検証するというCAEの重要性が増しています。
別の最適化ツールを利用していたものの、モデルをデバッグする際の作業効率に多少の不満がありました。そんな中modeFRONTIERをご紹介いただいたことがきっかけで、試用することにしました。modeFRONTIERを使っての最適化計算ワークフローの構築は、慣れないうちは難しい部分もありましたが、技術サポートの方がツールの利用方法からノウハウまで、親身になって対応してくださいましたので、modeFRONTIERをより理解することができましたし、また、スムーズに最適化業務を立ち上げることができたと思います。
弊社では高品質なツールのご提供はもちろんですが、技術サポートも大変重要だと考えております。このように技術サポートをご評価いただけると非常に嬉しく思います。modeFRONTIERをご利用いただく中で、ツールとして評価できる点がございましたら、お聞かせください。
ポスト処理機能の豊富さとツールの使いやすさがあげられると思います。多次元解析チャート、クラスタリング、散布図マトリクスなど、頭を整理しながら効率的に理解することができると思います。私自身は使い始めてまだ日が浅いのですが、それでも直感的に操作することができます。
私も、別のツールの利用経験がありますが、ポスト処理機能はことに優れていると思います。また、細かいことですが、エラーデザインをスキップして次の計算を進めてくれる機能が便利です。弊社では自製シミュレータを使用しているため、計算がなんらかの原因で進まないときに、自動的にリカバリーする機能が十分ではありません。しかし、modeFRONTIERと連成させた場合には、エラーデザインが発生しても、次のデザインを計算してくれるので最適化計算がストップすることがありません。また、最適化アルゴリズムのおかげで、自分が求めたい解の周辺情報を効率よく探索できる点も良いですね。従来は設計パラメータが多数存在する場合、最適値とかけ離れている値の計算も多数実行してしまい、無駄な計算が多かったと感じています。
ありがとうございます。ユーザー様が考えるための情報をご提供する、「考える」を支援するツールであるということこそがmodeFRONTIERの役割だと考えています。長年にわたって開発を重ねてきたポスト処理機能群ですので、これからもどうぞご活用ください。

最適化ツールのブラックボックス化は使い方次第、熟練技術者の判断・決定思考の可視化も可能に

modeFRONTIERをご導入いただいて、成果と呼べるような結果はございましたか。
実設計への適用は、まだまだこれからで、定量的に評価できる段階には至っていません。しかし、導入時の目的であったCAE作業の効率化と同様に重要だと思えるプラス・アルファの効果もありました。それは、エンジニアの育成ツールとしての活用です。最適化ツール導入前には、「最適化ツールを使うと、設計者が考えなくなる」、「ソフトウェアが勝手に計算して最適解を導くのだから技術力が下がる」といった懸念をよく耳にしました。いわゆる"最適化ツールによるブラックボックス化"ですね。確かに、使い方によってはそういう状態に陥ることもあるでしょう。
しかし、
  • 熟練の技術者が知識・経験、勘所によって意識的または無意識的に判断していた事柄を、膨大な計算量で裏付ける
  • 熟練技術者の思考を、ワークフローなどの目に見え、人間が理解できる形に置き換える
といった可能性を最適化ツールは持っていると思います。使いようによっては"頭が良くなる"ことがあるかもしれません。若く、経験の少ない技術者に、ベテラン達が「決める」過程を見せてあげることができるので、教育的側面でも効果があるように思います。
業務効率化、工数削減といった目に見える成果に加えて、先述のような効果が得られることがmodeFRONTIERの本質の一つです。弊社でも、こういったインタビューや、カンファレンス・セミナー等を通してアピールを続けていきたいと存じます。

modeFRONTIERを活用し航空機用空調装置 性能のトレードオフを把握

さて、次に、2012年11月に開催された「modeFRONTIER Conference Day」でご発表いただいた「航空機用空調装置の性能解析」についてご紹介いただきたいと思います。
冒頭に申し上げたように、航空機用の空調装置には、地上で利用する空調システムには無い機能が含まれます。従来の旅客機の空調システムは、エンジン抽気を利用したエアサイクル方式が一般的でしたが、ボーイング社が開発・製造する次世代中型ジェット旅客機"787ドリームライナー"にはエンジン抽気を一切用いない「ノン・ブリード空調」が採用されています。ノン・ブリード空調は、エンジン・コンプレッサからの抽気をなくして航空機の燃費低減に寄与します。今回は、787ドリームライナーよりさらに小型の100~150人乗りの旅客機を対象にしたノン・ブリード空調を設計することを想定し、概略検討を通じて従来との設計面の違いを掴むために実施した事例です。
図1 空調パッケージ系統図
図1 空調パッケージ系統図
ノン・ブリード空調は、エンジンから高温・高圧の空気を抽出することに代えて、電動モータで駆動されるコンプレッサの圧縮空気を空気源とするシステムで、コンプレッサは、一次および二次熱交換器の冷却空気と同様にラム・エア(新鮮空気)を圧縮しています。発電はエンジン・タービンが生成する軸力を使っていますので、エンジン・コンプレッサから抽気するより燃料消費の増加が軽減されることも一般的に知られています。
今回のモデルの概要をご紹介ください。
新たな空気源となった電動コンプレッサの消費電力を可能な限り抑えるための方策を考慮します。このためには、機内へ供給すべき空気流量には必要最小流量の制約があるので、電動コンプレッサの昇圧比を可能な限り小さくすること、すなわち、空調パッケージ入口圧力を極力低く保つことが必要です。また、空調パッケージの入口圧力を低下させた結果、パッケージの各部位の温度状態が従来に比べて低くなるため、従来は必要であったリヒータは不要となります。
図2 ノン・ブリード空調パッケージ系統図
図2 ノン・ブリード空調パッケージ系統図
次に、空調パッケージの冷却能力に対する一次熱交換器と二次熱交換器の冷却能力の寄与を評価するために、これらの冷却能力をパラメータとして空調パッケージの冷却能力を推定しました。まず、地上作動におけるタービンベッドは従来の6割程度にまで低下しているので、空調パッケージの冷却能力に直接寄与する二次熱交換器の冷却能力の感度が非常に高くリスク領域にあることがわかりました。そこで、タービンを停止させる巡航高度において、それぞれの熱交換器への能力配分についての最適化の検討を行うことにしました。
図3 一次熱交換器の温度効率
図3 一次熱交換器の温度効率

機体システムおよび機器設計の両観点から現象を俯瞰

続いて、modeFRONTIERの最適化指標とワークフローについてご紹介ください。
ここでは、機器容積とシステム作動エントロピという二つの指標を元に、16個の設計パラメータを採用しました。"16個"というパラメータの個数は、人間の思考では効率的な解空間の把握が難しいレベルです。このときの解析モデルは図4に示したとおりです。
図4 modeFRONTIERの解析モデル
図4 modeFRONTIERの解析モデル
設計パラメータは、工学的な観点から連続変数ではなく離散値として取り扱いたいこと、さらに最小化を目標とする設計指標が複数ある多目的最適化であることから、最適化アルゴリズムには「遺伝的アルゴリズム」を選択し、1世代あたり16サンプルの200世代の最適化を実施しました。これによって、設計の指標である機器容積とシステム作動のエントロピは、トレードオフ関係にありパレート解として示されることを確認しました。つまり、機体システム観点での最適化と機器設計観点での最適化は相反する関係にあり、一意に設計パラメータを決定できない訳ですが、全体としてよりよい選択をする定量的な判断材料があるということです。この結果を図5に示します。
図5 最適化結果
図5 最適化結果
実務設計を想定すると、ごく限られた一部の側面しか検討していませんが、新しい「ノン・ブリード空調」の概念について、その特色を具体的に垣間見ることができたのではないかと思います。この中でも、熱交換器の能力配分については、従来の延長線上には無い、異なった観点が必要であることがわかり、また、地上と巡航高度の間を上昇する際の空調作動モードをどのように遷移させていくかなどの面白そうな課題が随所にあることを知るきっかけとなりました。
詳細なご説明、ありがとうございました。modeFRONTIERの中心機能である「多目的最適化」をご活用いただき、大変嬉しく思います。是非今後も様々な課題に対してご活用くださいますよう、よろしくお願いいたします。さて、今後の取り組みについて、簡単にお聞かせください。
現在利用している1次元を中心とした自製シミュレータの適用範囲を、静解析から動解析へと拡張する予定です。その中でmodeFRONTIERを適用する可能性があります。
御社が開催されているオンラインセミナー(註:はじめよう!使おう!modeFRONTIERセミナー)で、CATIAを用いた構造解析の最適化についてのコンテンツを視聴しました。時間が取れれば取り組んでみたいテーマです。といいますのも、空調パッケージの中で、機体とのインターフェースになる部分は機体構造から様々な影響を受けるため、難しい設計が求められます。将来的に最適化技術が確立できれば、こういった実業務にも展開したいと考えています。
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.71でご覧いただけます。
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