起業から現在にいたるまで意識しているのは、社員にとっての“働きやすい環境”
社長として過ごした過去、今、そして未来。
T.K.
改まってこのように3人でお話させていただく機会ってこれまでありませんでしたので、お二人に何をお聞きしようか、話そうかと、今日はとても楽しみにして来ました。私は2015年に中途採用で入社しましたが、メンバーのモチベーションが高く、キラキラした方が多いなという印象は、実は今もそんなに変わっていません。社員のモチベーションを保ちながら会社を成長させるのは大変だったかと思いますが、どのような信念や考えを持って、経営されてきたんでしょうか。
徐
まずは創業時の話からしましょうか。私は新卒で入社した会社では科学システム部門でキャリアをスタートしました。8年ほど経ったころ、所属していた部門が縮小するタイミングが訪れ、このまま会社に残るか、それとも自分の得意な専門分野で挑戦するかでずいぶん迷いました。
“自分の実力に自信がなければ、大きな会社にいても将来はない”
このときは自分の力を信じて起業するという決断を下しました。私が重要な選択をするときの基準は“自分が最も価値を置くものは何か”です。判断基準としては一般的に、お金、ネームバリュー、自分のやりたいことなど、様々な基準がありますが、私はお金や名誉よりも自分の“信念”を選択しました。当時、起業は脱サラと呼ばれ、企業を飛び出した人というイメージが強く、起業することに今ほどポジティブな反応が少なかったように思います。私と同じ道を選択してくれた、創業メンバーの一人である東村とは「もし失敗したら、一緒にまた、別の仕事を見つければいいじゃないか」と度々こぼしていたほどです。
私自身、技術者として働いた経験があったので、技術者の働きやすさは今もかなり意識しています。働きやすい環境の1つ目は、成長を感じられることとお互いをリスペクトしあえること、2つ目は、常に最先端の技術に触れられること、3つ目は実力があれば若くてもより責任が大きいポジションを得られる環境を用意することです。立場が違ってもリスペクトはしたいですし、辞めていく社員に対してはよく「戻ってくるのを待っているよ」と言っています。
Y.C.
私は社長としての徐さんと副社長としての東村さんしか知りませんので、「別の仕事を見つけたらいい」なんて話をされていたとは想像もしていませんでした(笑)。
徐
失敗したときのことを考えなかったことはありませんよ。皆さんに起業はおすすめしません。
T.K.
起業はすすめないって、以前からおっしゃっていましたね。ご自身は起業を決断されたのに、どうして私たちにはすすめないんですか。
徐
起業からの30年間を振り返ると、苦しい時期が何度もありました。会社に行くのが辛くてオフィスへのエレベータに乗りたくないときも、眠れないこともずいぶんありました。会社を継続し、成長させていく過程では苦しむタイミングが必ず幾度もあります。それに耐えていかなければなりません。またその本当の苦しさは、誰とも共有できないことでもあります。同じ創業メンバーの東村にさえ「彼がやる気を無くしてしまうかもしれない」と思うと、不安を打ち明けられなかったくらいですから。親が子供に辛い顔を見せたり、弱音を吐けないのと一緒ですよ。
経営者を続けるには、実力、信念、心の強さがとても重要だと思っています。さらには“運”。運という言葉で片付けるのは、説明をさぼっているように聞こえるかもしれませんが、やはり運という誰も読めないものがあるとしか思えません。信念で選んでも失敗することもある、また運の力が大きくとも、努力と実力がなければチャンスが来てもそれを掴み取ることはできない。苦しいことが多い、自分では読み切れないことがあるという意味で、おすすめできないということですね。
ただ、それらを覚悟して起業したいという思いをもっている人がいれば、応援したいという気持ちもあります。
T.K.
徐さん個人として創業時と今では、ご自身のパワーや能力に変化を感じることってありますか。
徐
新しいことへの感度が徐々に鈍ってくるのではないかという危機感がありますので、足りないところはカバーしてもらっています。したがって時間がたつにつれて、私個人のパワーというよりはチームとしてのパワーが大事だと実感しています。
Y.C.
会社が変わり始めていることは私の立場でも感じています。徐さんはこれからの会社の将来のことをどのようにお考えですか。
徐
ライフステージという言葉があるように、会社にも“ステージ”があります。10年、20年、30年と経過し、メンバーが入れ替わり、組織が大きくなるたびに考えて進んできました。2023年にベインキャピタル様に出資いただきましたが、これからより安定的に会社を成長させ、事業拡大していくには大きな会社に支えてもらうことも大切だと考えたからです。相当悩みましたが、このときも自分に言い聞かせていたのは、お金や私欲、自分のためというよりも信念です。ここは創業時からブレていません。
Y.C.
想像していた通りの30年でしたか。
徐
起業したときには、30年も先のことなんて考えられませんでした。10年が経ちそれなりの規模になって、なぜ成長を追い求めてきたのかを振り返ると、優秀な社員を誘って会社に来てもらったのに、蓋をあけてみたら成長しない会社だったでは、皆さんに対する約束が果たせなかったからです。また、お客様や開発元のパートナー様もIDAJを信じて委託してくださっていると考えると、約束したことは絶対に守らないといけないと思ってやってきました。
最初は会社を倒産させないことだけを考えていましたが、ある程度大きくなってからはその考えが責任感に変わりました。社長としては、20〜30名の規模の組織が、全体が見え、問題も把握しやすいので、正直一番やりやすいんです。300名という規模が迫ってくると、問題や悩みが増え、その重みを思うと「成長しなくてもいいいじゃないか・・・」と個人的に考えるところもあります。ですが、成長を追ってきたのは、社員、パートナー様、お客様への還元のためです。その責任を果たすには、やはり成長し続けることが私にとっては重要だったんです。
Y.C.
徐さんからみて、今の若い世代をどう思っていますか。
徐
年齢を重ねていても、若くても、価値観は人それぞれじゃないですか。私と同じ世代でも、まったく違う価値観を持っている方はいらっしゃいますし。その価値観が、働き方に反映されているだけで、一概に世代でまとめるのは少々乱暴かなと思います。
ただ、私と東村を含めた、創業メンバーの価値観は似ていましたね。自分が信じていることを追求し、結果として会社が成長していく、そういう価値観を持っていたので猛烈に働きました。
もちろん、仕事とプライベートをバランスよく両立させたい方もいます。これはいつの時代でも一緒ですから、世代ではなく目指す方向や価値観による違いの方が大きいと思っています。
意識やモチベーションが高いメンバーが多く、“技術が軸”だという同じ思いを共有。
一方で、部署間や社員同士に距離が生まれることを危惧している。
徐
せっかくの機会なので私からも質問させてください。会社として変えたほうが良いところを率直に教えてください。特に、T.K.さんには他社での職務経験があるのでとても興味があります。
T.K.
私は2015年入社ですので、今、徐さんのお話を聞くまで創業期のことはあまり知らなくて。第一印象から変わらずに思うのは、IDAJのメンバーは意識やモチベーションが高く、また“技術が軸にある”という同じ信念を持っているということですね。そういう人が集まって仕事をしているので、メンバーが向いてる方向が一緒だなと感じます。なので、どうしても変えなきゃと感じるところは正直ないんです。
ただ、組織規模が大きくなるにつれて営業と技術だけでなく、他部署との物理的な距離が離れていきます。オフィス内でばったり出会うという機会も減りますし。そのコミュニケーションの減少が壁となることを心配しています。組織が拡大する分、仕組みなのかカルチャーなのか正解はわかりませんが、他部署とのかかわりを増やしていきたいと思います。
徐
その通りだと思います。組織が大きくなると部署間、社員同士の距離ができますね。そのような中で、大事になってくるのは、私は文化だと思います。いつでも、気軽に話し合いができる文化は、大切な企業の土壌だと思います。
T.K.
そういえば思い出したことがあります。私の最初の面接のときに、すでに徐さんが面接官として参加してくださったんです。社長自らが初回面接から参加されるのは珍しいと思いますが、その質問に驚きました。簡単な自己紹介の後に、すぐに徐さんからシミュレーション技術に関する質問や私の意見を掘り下げて聞いてくださいました。社長自身が技術側の指向を持っているので、社員も同様にエンジニア気質。これが前職との圧倒的な違いだと思います。
徐
Y.C.さんは、この3人の中で一番職歴が浅いですが、IDAJという会社に対して、どんな思いがありますか?
Y.C.
“技術に強い会社”というのは営業として嬉しいですし、営業活動をする上で安心感につながっています。営業だけでは判断できないことがありますので、エンジニアが同席してくださると心強いです。
私はIDAJができないことは他の会社でもできないだろうと思っています。それくらいの気持ちです。
徐
営業と技術は、“技術が10できるなら、営業は12の要望”を言う関係だと思っています。両者の差である“2”が、技術にとってのチャレンジ。そのギャップを埋めることで、その分だけ技術が成長できるきっかけとなります。技術がしっかりしているからこそ営業が自信を持つことができる。お互いに高めあい、成長しあうことができるんです。
Y.C.
入社前は、副社長や本部長という人には、自分から話しかけてはいけない人というイメージがありましたが、実際は気兼ねなく話しかけられるしすごく質問もしやすいんです。心理的なハードルがとても低い会社だなと思っています。
IDAJにはそういう文化があるんですよね。いつでも“Welcome”な雰囲気を出してくださっているので。
T.K.
私の所属部門の本部長もフランクで、友達みたいな関係です。また同様に、私の上司と徐さんの関係性が良好なことも私のところにまで伝わってきていました。
徐
そうですね。雰囲気づくりや文化のための良い土壌づくりは、マネジメント層から始めないといけません。
製造業は、変わり続ける「私たちのニーズの変化・多様性」に常に対応しようとしている。
IDAJは、その力になる。デジタル技術を軸として、プロセスや手段を革新する。
T.K.
徐さんがお考えになっている今後のビジョンをお聞かせいただけますか。
徐
私たちの技術は、これからも必ず日本の製造業に必要とされると確信していますので、IDAJという会社が活動する領域はこれからさらに拡大していくことが予想されます。その中でもトップレベルの会社を目指したいと思っています。そのために、今は会社の様々な制度や仕組みなどを整えているところです。
T.K.
これから先の2~3年でガラッと変わっていくだろうなと私も感じています。信念があれば、やりたいことを自由にさせてもらえる風土なのかなと思っているのですが、シミュレーションから外れて、異なる領域にチャレンジすることもできるのでしょうか。
徐
とんでもなく外れた提案は大きなリスクを伴いますので私だけの判断ではなく、マネジメントメンバーの意見を聞き、熟考が必要ですが、新しい技術を学んで新しいことに挑戦していくということはとても良いことだと思います。根本にお客様の課題を解決したいという想いがあり、今の事業に関連性があればどんどん自発的に成長してほしいなと思っています。
T.K.
先ほど徐さんもおっしゃったように、会社の成長に伴って“守り”に入ると、社員の成長が止まってしまいます。この業界は、数年で周りの環境が急速に変わる世界なので、私は常に危機感はもっています。
徐
エンジニアはお客様に評価されて、認められることが一番のモチベーションになりますよね。私も以前、エンジニアにモチベーションを持たせようと自分なりに工夫して接していたつもりでしたが、お客様と接することの方が何倍もモチベーションアップに効果的でしたから。普段は寡黙なエンジニアが、お客様と技術についてとても楽しそうに会話しているところを何度も見てきました。
「会社の理念を大事にできる」、「お客様を大切にできる」、「常に新しい技術に挑戦する」という3つのことを常に意識していただける人なら、ぜひ一緒に働いていただきたいと考えています。そのための環境を用意することに会社としても真剣に取り組んでいきます。
一同
“製造設計DXカンパニー”へと変革しさらに成長を加速させるために、一緒に新しい世界にチャレンジしていきましょう。