IDAJ

Case Study実績・お客様事例

ヨコオ 様(IDAJ news vol.111)

modeFRONTIER®でパラメトリックスタディにかかる工数を削減し、電磁界解析モデルに対する有効性を確認

株式会社 ヨコオ 技術本部 先行技術 開発部 様
IDAJ news vol.111お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2023年3月

解析種別:電磁界解析
課題等:車載アンテナ、設計業務の効率化、設計品質の向上、指向性アンテナの形状最適化、特性限界値探索

省略
ここからは、modeFRONTIERを適用されたプロジェクトについてのご説明をお願いいたします。
自動車の車体の屋根の上に設置されるシャークフィンアンテナ、車両前方のインパネ内に設置されるインパネ内蔵アンテナ、フロントガラスに貼り付けて使用するフィルムアンテナなどの設計に適用しました。
最初に簡単にアンテナ設計のフローについてご説明します。
まずは解析したい3Dモデルを生成しCST Studioを使用して電磁界解析を実行します。その解析結果をもとにアンテナを試作し、ネットワークアナライザを使って評価します。評価をして問題がなければ電波サイトで電磁場を測定し、設計が完了します。
図1 アンテナ設計フロー
皆様ご承知のことと思いますが、電磁波のふるまいは4つの式から成るMaxwellの方程式で表現されます。数値解析では物体を離散化し、各グリッド内でMaxwellの方程式を解くことで数値解を求めています。弊社が使用しているのは3次元電磁界シミュレーターのCST Studioで、電磁波の空間放射を可視化しています。このCST Studioを用いたパラメータスタディを、modeFRONTIERで自動化しました。
一つ目の事例は、モノポールアンテナの周囲に無給電素子を配置した構成の指向性アンテナの形状最適化です。所望する周波数における水平面の正面方向の利得値(註:電磁波の放射の強さ)を最適化すること、シャークフィン形状の筐体内に収めるために、高さと利得値のトレードオフを定量・定期に評価することが目的です。設計変数は、各アンテナ素子の高さを、H1~H3とし、パラメータは下限値、上限値、離散値、パターン数としました。パターン数は150~200個、総当たりで計算すると膨大なケースとなりますので、最適化アルゴリズムによる効率的な解の探索が必要なケースです。
図2 モデル概要
図3 設計変数
今回は目的関数が2つの多目的最適化を実行します。1つ目は放射方向の利得の最大化で、これは電気特性の最適化を目指すものです。図7の右図の通り、アンテナ正面方向の利得値を平均的に強くするために前方3点の平均を最大化します。2つ目は、機構要件の最適化を目指して、素子の高さを最小化することを目的関数としました。3本あるアンテナ素子のうち、最も高い素子を小さくします。
図4 目的関数(1)
図5 目的関数(2)

設計空間の全体像を把握し、解が存在する領域に絞った解探索で作業効率を改善

最適化の計算回数は1,387回、計算時間は46時間でした。この最適化解を評価するために、人力設計を行った結果と比較したいと思います。得られた解は人力では1個、自動最適化ではパレート解全体となるため45個あります。計算時間はそれぞれ2日ですが、人力の方は設計者が業務時間中に計算していますが、自動最適化では、休日を利用しましたのでエンジニアの工数はかかっていません。続いて、複数の最適解の中からエンジニアが選択した解と、人力で得られた解を比較します。パレート解では11db付近で利得値が横ばいとなり、そのあたりに横軸の値が小さくなる解がありそうだとわかりますので、そこから解を選択しました。2つの解を比較すると、自動最適化で得られた解の利得値が人力に比べて1%程度劣化するものの、素子の高さは20%程度向上する、つまり低くなる解を得ることができ、アンテナの寸法がより最適化されたと言えます。
人力の場合は解を一つしか得ることができなかったので、他にも解があるのではないかという疑問が残り、ときにはさらに解の探索を継続することもあり得ますが、自動最適化では一度に複数の最適解を得られることでより最適な解を即座に選択することができます。
図6 実行結果の分析と評価(最適解の比較と解の選択)
続いて、多次元解析チャートを用いてパレート解だけに注目し、解の傾向の変化を観察しました。利得の最大を取るパターンで絞ると、反射素子は上限値である50mm付近を取る必要がありそうです。利得と素子を取る中庸パターンでは、給電素子、反射素子ともに20mm程度を取る必要があることが見てとれます。このように入力変数に対する解の傾向を観察することで今後の設計に応用することができるものと考えています。
図7 多次元チャートを用いた解の分析
続いては、グラウンド板上に2つの平面アンテナを配置した無指向性アンテナを対象とし、アンテナサイズと電気特性の背反性を定量的に評価した事例です。これは、具体的な設計を始める前に原理と基礎モデルを用いてある程度の“あたり”をつけることが目的です。
図8 モデルの概要
図9 設計変数
目的関数の1つ目は、2つのアンテナ性能の最適化を目指した、VSWR(註:Voltage Standing Wave Ratio)の最小化とします。アンテナに入力する波を入射波、空間に放射されず反射して戻ってくる波を反射波とすると、その伝搬路で生じる定在波の最大振幅値と最小振幅値の比がVSWRと定義され、この数値が小さいほど反射波が小さく、アンテナとして性能が良いと言えます。
図10 目的関数(1)
2つ目の目的関数は、2つのアンテナの干渉度を最適化するために、アンテナ同士の通過特性を最小化します。通過特性は、アンテナに入力されて空間に放射された電磁波の一部が、近くに設置したアンテナに入力された波の比で表現します。この値が小さいほど、近接するアンテナ同士の結合が小さく、空間に放射する電磁波が強くなります。
図11 目的関数(2)
3つ目の目的関数は、全体のアンテナサイズの最小化とし、これら3つの目的関数の多目的最適化を実施しました。現在は、アンテナも小型化が要求されていますので、小さい方が製品としての競争力が上がります。
このケースの総計算回数は500回、計算時間は10時間となりました。VSWRに着目すると今回の探索範囲での限界値は約1.3となりますので、入力変数は、探索範囲に対してやや高めに値を取らなければならないことがわかります。
図12 実行結果の分析と評価(1)
通過特性の最小限界値は約-16db付近にあり、入力変数の2つが下限を取る必要がありそうです。
図13 実行結果の分析と評価(2)
探索結果から設計者が所望する解の条件が、通過特性-10db以下、VSWR2以下だとすると、ある範囲には入力変数の解が存在しない、つまり限界値を把握することができ、具体的な設計を進めていく上で、余計な解の探索をしなくて良いということになります。熟練した設計者であればある程度は予測可能ですが、そういったノウハウを持たない設計者であっても探索を実行することで最適解を把握することができます。そしてこのような結果の分析と評価をもとに、お客様からの要求への実現可否などを、これまでよりも早く判断できるようになります。
図14 実行結果の分析と評価(3)
どうもありがとうございました。こちらでご紹介いただいた事例を含めて、ご苦労された点についてお聞かせいただけますか。modeFRONTIERの利用開始から間もないお客様にはご参考になるのではないかと思っています。
電磁界シミュレーションは、対象となる構造を複雑にすればするほど時間がかかります。複雑なモデルであれば数時間から数日かかることもあるほどです。最適化計算では、1ケースあたりの電磁界シミュレーションにかかる時間を短縮していかに最適化計算の回数を増やすか、つまり、CST Studioでのモデリングを工夫しなければなりませんでした。精度に関わりますので非常に苦心した点です。もちろん、応答曲面を使っての仮想最適化も時間を見てトライしたのですが、誤差の少ない応答曲面の生成にまでは至っていません。また別日にでもご相談させていただけると助かります。
また私は最適化ツールの使用経験がなく、modeFRONTIERの入門講習だけを受講して使い始めましたので、様々な設定、解の傾向を理解しやすくするための結果処理やチャートの利用方法など、オペレーションに戸惑うことがありました。そんなときは、modeFRONTIER技術サポートへ問い合わせて、色々と教えていただきました。
応答曲面の精度向上については弊社にノウハウがございますので、ご遠慮なくご相談ください。
ご尽力によってmodeFRONTIERをフル活用いただき、すでに増設もしていただきました。今後の最適化計算の適用に関する展望を開示できる範囲でご説明いただけますか。
今回ご紹介した事例もそうですが、現在は電気的な特性評価への適用がメインですので、この領域での技術構築を加速させたいと思います。また車載アンテナはその設置場所によって温度の影響を受けてしまいます。そこでアンテナの構造的、機構的要素にまで拡大し、より多くの要素を含んだ最適化にも取り組んでみたいと考えています。来年(註:2023年)以降は、modeFRONTIERのユーザーを増やして、設計部門としての効率化を図りたいところです。そうなりますと、将来的にはシミュレーションプロセスや結果データの管理などの問題が生じることになりますので、膨大なデータの有効活用やデータベースの連携などについても徐々に検討したいと考えています。
新たに現在のエレキ系での最適化だけでなく、メカ系も含めた最適化も技術的には可能だと思います。効率よくお取組みいただけるよう技術サポートをご活用いただき、必要な際にはコンサルティングサービスもご提案させていただきます。
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.111でご覧いただけます。
ユーザー登録済の方はユーザーサポートセンターからダウンロードできます。

ご活用いただいている製品

分野1:
電磁場解析
分野2:
最適設計
ユーザーサポートセンター 無料で資料請求