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NARXメタモデルを用いたモデル予測制御(MPC) ~燃料電池車向けのより高度なトルク要求制御~

皆さま、こんにちは。

IDAJの森田です。

今回は、マルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の開発元である、Gamma Technologiesが公開しているBLOGの内容を翻訳および一部改修・追記してご紹介します。


商用車両の電動化が拡大する中、実環境における効率性や運転性、信頼性を実現するための電力マネジメントのあり方が見直されています。モデル予測制御(MPC)は、車両の将来の電力需要を先読みして制御することで、エネルギーの無駄を削減し、過渡応答を平滑化するとともに、動力源を最も効率的な領域で運用します。システムの挙動とリアルタイム入力から学習する動的かつデータ駆動型のメタモデルと組み合わせることで、MPCは実用的かつ高精度な予測トルク制御を実現します。

なぜ、車両の電力マネジメントにMPCを適用するのか

従来のルールベース制御では現在の状態に反応しますが、MPCは先読み制御を行います。各制御周期において、MPCは短期的な車両挙動を予測し、速度追従、効率、制約条件の遵守といった目標を最もよく満たす制御入力を選択します。燃料電池車では、このアプローチによって坂道走行や過渡状態における急激な出力変動を抑制し、スタック利用効率を向上させ、安定した運転を維持できます。

最大の課題は“リアルタイムで利用できる十分な高速性と、幅広い運転条件での高い精度を両立した予測モデルの構築ができるのか”ということです。NARXのようなデータ駆動型メタモデルは、この課題を効果的に解決します。適切に設計された実験データから複雑なシステムダイナミクスを学習し、運用時には高速に実行できます。

GT-SUITEにおけるNARXメタモデルの構築

開発はGT-SUITE上のグライダー(滑走)モデルから始まります。このモデルは車体、タイヤ、アクスル、デファレンシャルを表現し、動力源の複雑さを除いた車両の進行方向ダイナミクスを再現します。実験計画法(DOE)を用いて、過渡的な駆動トルクプロファイルに車両質量や道路勾配の変化を組み合わせ、速度応答を計測することで、すべての運転条件を網羅する実験条件を構築します。

GT-SUITEのMachine Learning Assistantを用いて複数のメタモデル候補を学習・評価し、最も適合度が高く誤差の小さいNARX構成を選択します。下図はメタモデルによるトルク推定値と、実際に走行サイクルを実現するために必要なトルクを比較した例です。

制御用途では、このマッピングを逆変換し、メタモデルを高速なトルク推定器として利用します。モデルは現在の車速、車両質量、勾配を入力として受け取り、目標となる速度変化を達成するために必要なトルクを予測します。検証後、メタモデルはFMU(Functional Mock-up Unit)としてエクスポートされ、より広範なシミュレーションや制御ワークフローへ容易に統合できる移植性の高いインターフェースとなります。

MPCによる予測トルクと必要トルクの比較

MPCによる予測トルクと必要トルクの比較

MPCの組み込み:GT-SUITE内でのPython+FMU活用

この予測機能をリアルタイム制御へ適用するため、NARXメタモデルを基盤としたMPCフレームワークを連続制御ループ内に実装します。予測ループはGT-SUITEのPython Functionテンプレート内にFMUを組み込むことで実現されます。各予測ステップでは、現在のトルク、速度、標高、位置を取得し、先読み区間での目標速度と標高を読み取ったうえでFMUを呼び出し、現在の車両質量と勾配条件において目標を達成するために必要なトルクを計算します。このトルク要求は電力に変換され、燃料電池システムへの入力電力要求として利用されます。

運用時には、GT-SUITEのプラントモデルが所定の周期で一時停止し、FMUを呼び出して予測トルクを取得し、その結果を反映した制御指令でシミュレーションを再開します。この閉ループ制御により、特に標高変化をはじめとする走行負荷の変化を先読みしながら、必要十分なトルクのみを要求し、非効率な過渡応答を回避できます。

事例:燃料電池トラックへのモデル予測制御の適用

効果を定量的に評価するため、商用の燃料電池配送トラックを対象に、長い上り坂と熱負荷で知られるDavis Damサイクルにおいて、MPCと従来のルールベース制御を比較しました。

結果は明確でした。MPCはルールベース制御と比較して約5.6%の水素(H₂)消費削減を達成しました。この改善は、予測的なトルク平滑化によって非効率な出力変動を最小化できたこと、また勾配変化を先読みすることで地形変化に伴う過不足のないトルク指令を実現できたことによるものです。

 商用燃料電池配送トラックモデル

商用燃料電池配送トラックモデル

水素消費量比較(MPCとルールベース制御)

水素消費量比較(MPCとルールベース制御)

NARXを用いたMPCがシステム性能を向上させる理由

最大の利点は高速性と高精度の両立です。適切に構築されたDOEで学習したNARXメタモデルは、非線形な車両ダイナミクスを高精度で表現しながら、制御システムで利用できる軽量性も備えています。FMUとしてエクスポートすることで、一貫したインターフェースを提供し、さまざまなプログラムで簡単に再利用できます。さらに、GT-SUITE内へメタモデルを組み込んで、プラントとコントローラーの前提条件を一致させ、開発全体を通じてシステムレベルの現実性を維持することができます。最終的には、予測トルクを燃料電池への出力要求へ変換して、スタックをより効率的な運転領域に維持し、水素消費量の削減、運用コストの低減、耐久性向上を実現します。

NARXを用いたMPC実装のステップバイステップワークフロー

このワークフローを再現または拡張する場合は、まず対象となる運転サイクルを反映したDOEを設計し、車両質量、勾配、トルク変動などの条件を網羅します。次にMachine Learning AssistantでNARXメタモデルを学習・検証し、精度と信頼性のバランスが最適なモデルを選択します。その後、モデルをFMUとしてエクスポートし、Python Functionテンプレート経由で組み込むことでMPCを実装します。最後に、エネルギー消費量や追従誤差、コンポーネントの運転領域などを代表的な走行サイクルで比較評価し、効果を確認します。

まとめ

NARXメタモデルを用いた予測トルク制御では、商用燃料電池車に対して実用的なリアルタイム知能をご提供します。Davis Damサイクルでの検証では、約5.6%の水素消費削減という具体的な改善効果に加え、走行品質と運用の一貫性向上も確認できました。車両台数の増加や運行ルートの多様化が進む中、需要を先読みして最適な出力を供給できるMPCは、次世代車両制御において非常に有効な技術だといえます。

このアプローチを自社システムへどのように適用できるかを検討される際は、ぜひIDAJへお問い合わせください。NARXを活用したMPCを既存のワークフローへ統合する方法をご紹介します。

 

出典:Gamma Technologies Blog(2026年4月9日公開)

Model Predictive Control with NARX Metamodels: Smarter Torque Requests for Fuel Cell Vehicles


 

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