物理モデルベースデジタルツインの力をひも解く(その1)

皆さま、こんにちは。
IDAJの森田です。
今回は、マルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の開発元である、Gamma Technologiesが公開しているBLOGの内容を翻訳および一部改修・追記してご紹介します。
遠隔監視を支えるIoTデバイス
遠隔地の設備監視拠点から、機器の状態を監視する産業用センサーに至るまで、現代の多くのシステムは、人の手が届きにくい場所で動作する小型の自立型IoTデバイスに依存しています。
通常、これらのデバイスにはソーラーパネル、バッテリー、通信モジュールが搭載されています。その役割はシンプルで、データを収集し、電力を維持し、情報をクラウドへ確実に送信することです。そして多くの場合、数カ月から数年にわたりメンテナンスなしで稼働し続ける必要があります。この目的は一見単純に思えますが、変化する環境条件下で継続的に動作させることは非常に難しいことです。
本記事を含み、太陽光充電型、バッテリー駆動IoT監視デバイスに対する物理モデルベースデジタルツイン適用に関して、3部構成でご紹介します。
第1回:デバイスが直面する運用上の課題と、可用性、健全性(SOH:State of Health)、残存寿命(RUL:Remaining Useful Life)を予測するために、なぜ物理ベースのモデリングが不可欠となのかを解説します。
第2回:GT-SUITEとGT-AutoLionを用いて構築されるモデリング基盤についてご説明します。
第3回:モデルがIoTクラウド環境へどのように統合され、日々の運用実行に活用されるのかについてご説明します。
大規模分散ネットワークにおける課題
多くの業界で、太陽光充電型、バッテリー駆動IoT監視デバイスは、大規模かつ分散型の計測ネットワークの重要な要素となっています。これらは遠隔地や過酷な環境下に設置され、接続されたエコシステムの一部として動作していますので、高い信頼性が求められる一方で、メンテナンスの機会は限られます。

GT-AIによるIoT監視デバイスのイメージ図
エネルギーバランスと運用継続性
小型ソーラーパネル、リチウムイオンバッテリー、4G・5G通信サブシステムを備えたこれらのデバイスは、太陽から得られるエネルギーと、電子機器や通信処理によって消費されるエネルギーとの間で、常にバランスを取り続ける必要がありますが、時間の経過とともに、2つの運用上の課題が生じます。
1つ目は、今後数日間にわたって、デバイスは十分な充電率(SOC:State of Charge)を維持し、予定されている監視・計測期間で動作し続けることができるのか、それとも省エネルギーモードへ移行させる必要があるのかという、運用の継続性に関するものです。2つ目は、デバイスのバッテリーはどの程度の速度で劣化しているのか、そして容量低下や内部抵抗増加によって交換が必要になるまで、どれくらい使用可能なのかというバッテリー寿命に関するものです。
テレメトリデータだけでは限界がある
外気温、電圧、電流、その他バッテリー管理システム(BMS)の状態情報といったテレメトリデータだけでは、これらの課題を解決することはできません。なぜなら、これらのデータは現在の状態を示すことはできますが、内部で進行する劣化プロセスや、将来性能を左右する物理現象までは明らかにしないからです。
単純なヒューリスティックや統計回帰モデルは、初期段階では機能することが多いのですが、季節変化、使用状況の変化、あるいはそれらのモデル構築時に用いられたデータセットとは異なる環境条件に直面すると、徐々に予測精度が低下します。

GT-物理デバイスのデータを意思決定へ拡張するデジタルツイン
物理モデルベースデジタルツインとは?
そこで、分散型デバイスネットワークの運用にあたっては、物理モデルベースデジタルツインを採用することをご提案します。ここでのデジタルツインは、システムを物理法則に基づいて表現したモデルを内部に持ち、実際のテレメトリデータによって継続的に更新されます。パターンから挙動を推測するのではなく、システムの基礎物理に基づいて挙動をシミュレーションします。太陽光充電型、バッテリー駆動IoT監視デバイスにおいて、このデジタルツインは、日射量、温度、BMSの制御条件、電子機器の負荷が、バッテリー内部の電気化学反応にどのような影響を与えるかを再現・解析できるシミュレーションモデルとして機能します。
GT-SUITE と GT-AutoLionによるモデル構築
モデリングの基盤となるのが GT-SUITEです。GT-SUITEは、ソーラーパネルの動作、MPPT充電制御、BMSロジック、電子機器の負荷、さらには熱伝達相互作用を含め、エネルギーと熱に関するシステム全体の挙動を再現します。バッテリーは、GT-AutoLionを使って、デバイスに搭載されている特定のリチウムイオン電池の特性に合わせて調整された、高精度な電気化学モデルで表現します。
このGT-SUITEとGT-AutoLionの組み合わせによって、システム全体を現実に近い形で再現できるだけでなく、実際の使用環境の中でバッテリーがどのように劣化するかを詳細に把握できるようになります。
設計モデルから運用デジタルツインへ
モデルの検証が完了すると、そのモデルは周囲環境全体をシミュレーションする代わりに、実際のデバイスから送られてくるデータを使って動作する「デジタルツイン」として利用します。温度、SOC、電流、BMSデータなどが直接モデルへ入力されます。これにより設計段階で使っていたモデルを、そのまま運用でも活用できるようになります。つまり、設計時の検証に使用された同じモデルが、実際に稼働しているデバイスの状態を評価し、将来の性能を予測する役割を担います。
IoTクラウドとの連携
このデジタルツインを最新のIoT・デジタルツイン向けクラウド環境へ統合すると、日常的なデータ処理の一部として動作するようになります。デバイスから送られてくるデータは保存・処理された後、デジタルツインへ入力されます。
そして、そこから得られた稼働継続性の予測、SOHの更新、RULの予測結果が、ダッシュボードや分析システム、自動制御ロジックで使用されるデータベースへ書き戻されます。
GT-Playは、こうした一連の処理を大量のデバイスに対しても安定して実行できるようにする実行基盤として機能します。

GT-デジタルツインのクラウド構成図
次回は・・・
第2回では、基盤となるモデルをどのように構築するか、また GT-SUITE と GT-AutoLion を用いて、劣化をどのように高精度に表現するかについて解説します。
出典:Gamma Technologies Blog(2026年4月20日公開)
Part 1 — Exploring the Power of Physics-Based Digital Twins
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