物理モデルと機械学習の融合による信頼性の高いバッテリー劣化予測

皆さま、こんにちは。
IDAJの森田です。
今回は、マルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の開発元である、Gamma Technologiesが公開しているBLOGの内容を翻訳および一部改修・追記してご紹介します。
バッテリー技術は、電気自動車、大規模エネルギー貯蔵システム(BESS)、携帯電子機器などの需要拡大に応えるべく急速に進化しています。その中で大きな課題となっているのが、実際の開発スケジュールの中でバッテリーの長期性能を確実に予測することです。バッテリーは使用中、そして保存中にも徐々に劣化するため、従来の試験手法では正確な寿命推定に長い時間がかかっています。この長期にわたる評価サイクルは、新設計の検証・耐久性評価・保証期間の設定といったプロセスを遅延させることにつながります。こういった遅延は開発サイクルの長期化、検証コストの増大、保守的な設計マージンの設定に直結するため、より迅速で、より予測精度の高いバッテリー劣化評価手法が求められています。
効果的な設計・試験・システム統合にとって、バッテリー劣化の正確な予測は不可欠です。従来の実験的アプローチでは時間がかかることが多く、一方で高精度なシミュレーションは精度が高い反面、多大な計算リソースがかかります。
そこでGT-AutoLionのような物理ベースの予測ツールと機械学習(ML)を組み合わせて、仮想の劣化データセットを生成し、機械学習メタモデルのトレーニングに活用します。メタモデルとは、複雑な物理システムモデルを縮約された数学的形式で表現したものです。これらのモデルにより、バッテリーの状態(SOH:State of Health)を短時間で予測できるようになります。
本ブログでは、このワークフローがカレンダー劣化とサイクル劣化の両方の予測をいかに加速させ、長期実験の必要性を低減あるいは排除できるかを解説します。
バッテリー劣化予測に、なぜ機械学習を使うのか?
疑似2Dモデルに代表される古典的な物理ベースのバッテリーモデルは、高い信頼性と精度が特徴的ですが、多数のシナリオを評価する必要がある場合では、特に計算コストが高くなりがちです。
機械学習(ML)は、精度を犠牲にすることなくこれらのプロセスを高速化するための有力な解決策となりえます。MLメタモデルを構築すると、トレーニング完了後は出力を迅速に予測できます。またMLメタモデルは、“数日間の保存後”、“各サイクル後”といった一定間隔の結果をサンプリングする劣化評価に特に適しています。特に開発初期段階では、十分な測定データが得られないことも少なくありません。そこで活躍するのが、詳細な劣化メカニズムを備えた物理ベースモデルのGT-AutoLionです。限られた測定データでキャリブレーションすれば、広範な運転条件にわたる大規模な仮想試験データを生成することができます。このデータセットが、信頼性の高いMLメタモデルのトレーニングの基盤です。
GT-SUITEのMLアシスタントツールを活用すると、GT-Post・CSV・Excel・TXT・MATファイルといった各種形式のデータをインポートし、高速かつ高精度な劣化予測のためのメタモデルをトレーニングできます。これらのモデルは、カレンダー劣化やサイクル劣化など、さまざまな種類のバッテリー劣化の研究に有用です。
この物理ベースの機械学習ワークフローをどのように利用できるのか、代表的な2つの劣化シナリオを例にご説明します。
ケース1:GT-SUITE内のMLアシスタントツールを用いたカレンダー劣化の予測
カレンダー劣化とは、充放電サイクルなしにバッテリーが静置された状態で生じる容量損失を指します。使用していない状態でも、セル内部では化学反応が継続的に進行し、容量が徐々に低下します。この劣化速度はSOC(充電状態)や温度といった要因に大きく左右され、これらがカレンダー劣化予測モデルの主要パラメータとなります。
仮想カレンダー劣化データの生成
MLメタモデルを構築するにあたっては、まずGT-AutoLionを用いて実験計画法(DoE)に基づく仮想保存データを生成しました。DoEではSOCや初期温度などのパラメータを変化させ、GT-AutoLionで最長5年間もの長期保存期間をシミュレーションし、30日間などの一定間隔ごとにSOH値を記録しました。SOCと温度を入力因子として使用し、SOH値はMLモデルのトレーニング用出力として使用しています。
メタモデルのトレーニングとテスト
カレンダー劣化予測における主な課題は外挿、つまりトレーニングデータが対象とする期間を超えた劣化の推定です。効果的なトレーニングに必要な保存日数の最小割合を明らかにするため、保存日数の20%、30%~、60%といった異なるサブセットを用いて検討しました。最も良かった結果は、総保存日数の60%をトレーニングに使用し、残りの40%をモデルの将来劣化予測能力の評価に充てた場合でした。
- トレーニング範囲内での高い予測精度の達成
- トレーニング範囲を超えた優れた外挿能力の実証
- 物理ベースのGT-AutoLion参照結果との高精度での一致
MLメタモデルが物理ベースの結果と高い一致を示し、物理ベースモデルが捉えた非線形劣化挙動を正確に再現していることがわかります。実用的な観点からは、MLメタモデルが最初の2〜3年分のデータでトレーニングされた場合でも、5年間の劣化を確信をもって推定できることを意味しています。これにより開発時間が大幅に短縮され、より迅速に反復検討ができと早期の設計判断が可能になります。

MLアシスタントツールを使用したカレンダー劣化予測結果と、GT-AutoLionを使用した物理ベースモデルとの比較
ケース2:GT-SUITE内のMLアシスタントツールを用いたサイクル劣化の予測
カレンダー劣化が静置時の劣化を測るものであるのに対し、サイクル劣化は繰り返しの充放電サイクルによる劣化を捉えるものです。この劣化形態は、温度、放電深度(DoD)、充放電Cレートなど、複数の運転変数に依存します。
仮想サイクル劣化シミュレーション
GT-AutoLionを用いて、広範な条件下でのバッテリー劣化をシミュレーションしました。各シミュレーションの後には、容量を推定するための一貫したサイクルシナリオを実施しました。このシナリオは、セルが平衡状態に達するための10分間の休止から始まり、続いて蓄積されたエネルギーを消費するための定電流(CC)放電、そして容量を回復するための定電流、定電圧(CCCV)充電へと続きます。このサイクルをバッテリーが寿命末期(SOH 80%と定義)に達するまで、さまざまな条件下で繰り返しました。MLメタモデルへの入力は初期温度、サイクル数、充電Cレート、放電Cレート、放電深度で、出力はMLモデリングに用いるスカラー変数であるSOHです。
トレーニングと外挿結果
サイクル劣化に対するMLメタモデルの外挿能力を評価するため、効果的なトレーニングに必要な最小サイクル数を明らかにすることを目指しました。さまざまなサイクル数を検討した結果、各シミュレーションの最初の300サイクルをトレーニングに使用した場合に最も良い結果が得られました。残りのサイクルは、将来の劣化を予測するモデルのテスト用に確保しています。
カレンダー劣化のケースと同様、MLモデルは下図に示すとおり非常に優れた性能を発揮しました。
- GT-AutoLionの劣化トレンドを高精度で再現
- トレーニングセットに含まれない後期劣化データの信頼性の高い予測
- 異なる運転条件への汎化
これは、総サイクル数のごく一部を使用するだけで、正確な寿命サイクル劣化予測が可能であることを意味し、シミュレーションと検証の工数を大幅に削減します。

MLアシスタントツールと物理ベースモデル(GT-AutoLion)を使用したサイクル劣化予測結果の比較
まとめ ~機械学習と物理モデルの統合によるバッテリー設計の加速~
ここでご紹介した2つのケーススタディから、バッテリーエンジニアリングにおける物理ベースモデリングと機械学習の組み合わせという有望な手法をご紹介できたものと思います。GT-AutoLionが詳細な仮想データを生成し、MLメタモデルがそのデータを、トレーニング範囲を超えた予測も可能な高速で使いやすいツールへと変換します。このアプローチは開発サイクルを大幅に短縮し、長期実験への依存度を低下させ、最小限の計算リソースで正確な知見をご提供します。
出典:Gamma Technologies Blog(2026年2月20日公開)
Combining Physics and Machine Learning to Predict Battery Aging with Confidence
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