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データセンター冷却の変革 ~物理ベースシミュレーションからAI制御へ~

皆さま、こんにちは。

IDAJの森田です。

今回は、マルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の開発元である、Gamma Technologiesが公開しているBLOGの内容を翻訳および一部改修・追記してご紹介します。


データセンターは、冷却システムの設計と制御に革新的なアプローチが必要となる前例のない熱的課題に直面しています。AIワークロードや高性能コンピューティングアプリケーションによって計算需要が急増するにつれ、発熱量は劇的に増加し、次世代システムの一部では従来のデータセンターの何倍もの熱流束を発生させています。この指数関数的な熱負荷の増大は、従来の冷却手法での適応限界をはるかに超え、高度な熱マネージメント戦略は「あれば望ましいもの」ではなく、システムの信頼性とエネルギー効率を維持するために「不可欠なもの」となっています。

GT-NARXモデルを用いてシステム挙動を予測し、制約条件のもとで制御アクションを最適化するモデル予測制御(Model Predictive Control:MPC)フレームワーク

GT-SUITEの非線形自己回帰モデルを用いてシステム全体挙動を予測し、制約条件のもとで制御アクションを最適化するモデル予測制御(Model Predictive Control:MPC)フレームワーク

液体冷却ループ、蒸気圧縮サイクル、高度な空気調和ユニットを含む現代のデータセンター冷却システムの複雑さは、様々なエンジニアリング上の課題を生んでいます。従来の設計アプローチでは、物理的なプロトタイプ製作と実験的検証に大きく依存し、それが開発サイクルの長期化を招き、最適化技術の適用範囲が限定的なものとなっていました。また、制御の観点では、従来のPIDコントローラーは、複雑な熱システム内の非線形ダイナミクスや相互に影響し合う多数の変数への対応に苦心してきました。
モデル予測制御(MPC)は、一般的にこの従来のアプローチを上回る能力を発揮してくれます。
変革をもたらすソリューションとして知られるようになってきたデジタルツイン技術によって、リアルタイムの運用データを使って継続的に更新される冷却システムの仮想版を構築できるようになりました。これらは、システム設計、最適化、インテリジェント制御開発のための包括的なプラットフォームとして機能します。GT-SUITEは、デジタルツインの構築・展開に必要な仮想環境をご提供し、開発時間とコストを大幅に削減しながらシステム性能を向上させることができます。

従来の冷却限界を超えるための挑戦

現代のデータセンターには、従来のコンピュータルームの空調(Computer Room Air-Conditioning:CRAC)システムでは効率的に処理しきれないほどの、極めて高い熱負荷を発生させる数千台のサーバーラックが設置されています。課題は単純な排熱にだけにとどまらず、エネルギー消費の最適化、変動する負荷全体に対する精密な温度制御の維持、そして動的な運転条件下でのシステム信頼性の確保を同時に実現しなければなりません。

基板やサーバー、ラック単位で直接的に除熱をする革新的な冷却ソリューションが数多く登場しています。本記事では、重力駆動循環と相変化技術を活用したパッシブな冷媒ベースのシステムである「リアドア熱交換器システム」に着目してご説明します。相変化技術とは、流体が蒸発時に熱を吸収し、凝縮時に熱を放出する性質を利用して効率的な熱移動を実現するものです。このシステムのポテンシャルを最大限に引き出すには、システム挙動の予測、複数入力の同時最適化、動的な熱負荷への適応といった能力を持つ高度な制御戦略が必要で、それには包括的なデジタルツインの実装が不可欠です。

(上段)CRACユニット、二重床・天井、コールドアイル・ホットアイルの概念を採用した従来型データセンター空冷設備、(下段)リアドア熱交換器を用いた設備

(上段)CRACユニット、二重床・天井、コールドアイル・ホットアイルの概念を採用した従来型データセンター空冷設備、(下段)リアドア熱交換器を用いた設備

データセンターの冷却において、モデル予測制御(MPC)は、従来のPID制御に対していくつかの優位性を持っています。MPCは将来の熱負荷や機器の挙動を予測できるため、温度偏差が発生してから対応するのではなく、冷却リソースを、先手を打って最適化することができます。これによって、より安定した温度制御、エネルギー消費の削減、チラーや気流システムのよりスムーズな運転を実現します。また温度、湿度、気流といった多変数間の相互作用を独立したPIDループよりも効果的に扱えるため、現代のデータセンターに見られる複雑で密接に関連した環境に非常に適していると言えます。

データセンターの熱マネージメントへの包括的なデジタルツインアプローチとは?

GT-SUITEは、物理ベースシミュレーション、AIを活用したメタモデリング、リアルタイム統合機能を組み合わせて、データセンターの高度な冷却システムのモデル化・最適化・制御に必要な、完全なデジタルツインエコシステムをご提供します。

このデジタルツインによるアプローチは、熱マネージメントの課題に取り組む方法を根本から変えます。無数の運転シナリオの仮想検証、予知保全戦略の立案、インテリジェント制御システムの開発を、実機展開前に実施できるようになります。このGT-SUITEをプラットフォームとした各種機能は、データセンターの冷却システム開発における、あらゆる領域をカバーします。

1.任意の冷却技術のための物理ベースモデリング

対象となるリアドア熱交換器システムでは、ラック背面に設置された蒸発器へ、冷媒が重力によって供給されます。蒸発器はラックのほぼ全体にわたって配置され、熱によって冷媒が蒸発し、浮力駆動流によって施設の冷水に接続されたコンデンサへと還流します。

データセンターのITシステムの熱負荷を処理するための、施設の冷水を利用したリアドア熱交換器冷却ループ

データセンターのITシステムの熱負荷を処理するための、施設の冷水を利用したリアドア熱交換器冷却ループ

GT-SUITEは、任意の構成で液体冷却ループ・蒸気圧縮システム・空気調和ユニットをシームレスに組み合わせることができるなど、統合されたデジタルツインプラットフォーム上で高度な冷却システムとアーキテクチャのモデリングに対して優れた能力を発揮します。GT-SUITEのロバストなソルバーは、冷却水から冷媒まであらゆる流体種に対応し、相変化熱伝達、重力駆動循環、強制対流の間の複雑な相互作用を正確に計算することができます。
フィン付き相変化チューブとDCファンアレイを備えた高度な冷却システムでは、冷媒の蒸発・凝縮・重力駆動流の精密なモデリングが求められます。GT-SUITEの高度な熱交換器モデルと二相流解析機能を使えば、様々な熱負荷と運転条件に対するシステム性能を予測するために必要な計算精度を確保しながら、包括的なデジタルツイン実装の基盤を形成することが可能です。

ITラック、気流管理、施設の冷水ループに接続されたリアドア熱交換器を統合したデータセンター冷却アーキテクチャのGT-SUITEシステムモデル

ITラック、気流管理、施設の冷水ループに接続されたリアドア熱交換器を統合したデータセンター冷却アーキテクチャのGT-SUITEシステムモデル

2.モデル予測制御のための機械学習

GT-SUITEが備えている機械学習アシスタント(MLアシスタント)を使用すれば、物理ベースのシミュレーションをデジタルツイン環境におけるモデル予測制御(MPC)アプリケーションに最適な、高速に動作するメタモデルへと変換することができます。メタモデルとは、基となる物理ベースモデルの数学的表現で、忠実度の高いシミュレーションの入出力関係と動的挙動を捉えながら、計算の複雑さを大幅に低減した近似モデルです。数千もの運転条件が存在する中で、大規模な物理試験を必要とする実験的なデータ収集に頼ることなく、GT-SUITEの検証済み物理モデルから直接トレーニングデータセットを生成します。

GT-SUITE内の機械学習ワークフロー

GT-SUITE内の機械学習ワークフロー

このアプローチで生成される非線形自己回帰(NARX)メタモデルは、その冷却システム固有の挙動を捉えるもので、出力が、入力と出力の両方の学習値に依存する構造になっています。これは、高度な冷却システムにおいては、チラーバルブ開度とファン回転数が時間経過とともに複数の計測点の温度制御にどのように影響し合うかを理解するためのプラントモデルとなります。生成したメタモデルは完全な物理シミュレーションに対して5%以内の精度でありながらも、桁違いに高速で動作します。これはデジタルツインアプリケーションにおけるリアルタイムMPC実装に不可欠な特性だと言えます。

予測的な最適化と制御を実現するために、GT-SUITEの仮想システムと統合されたモデル予測制御(MPC)フレームワーク

予測的な最適化と制御を実現するために、GT-SUITEの仮想システムと統合されたモデル予測制御(MPC)フレームワーク

3.外部制御プラットフォームとのシームレスな統合

機械学習アシスタントには柔軟なエクスポート機能がありますので、外部の制御開発環境とシームレスに統合させることができます。NARXメタモデルは、リアルタイム制御システムへ組み込むためにCコードとして直接エクスポートするか、Simulinkとの統合向けにフォーマットされたC / MEXファイルとしてエクスポートしますので、手動によるモデル変換や複雑なインターフェースプロトコルは不要です。

Cコードエクスポートを使えば、組み込み制御ハードウェアへ展開するためにコンパイルが可能なスタンドアローンファイルを生成することができます。一方で、MEXフォーマットは、MATLAB/Simulinkの制御開発ワークフローへの直接統合が可能です。これにより、GT-SUITEの物理ベースNARXモデルを制御エンジニアの好みの開発環境内で活用でき、シミュレーションから実装された制御システムへの移行を加速させます。

高度な制御開発に向けたデジタルツインの統合

プラント制御ソフトウェアと統合されたデジタルツインモデル

プラント制御ソフトウェアと統合されたデジタルツインモデル

GT-SUITEのデジタルツインは、高度な制御アルゴリズムの開発と検証のための包括的な仮想テストベッドとして機能します。Simulinkやその他の一般的なXiLプラットフォームとの統合機能を使えば、デジタルツイン環境内で多入力多出力(MIMO)非線形モデル予測制御(NMPC)システムを直接実装できます。
これによって、物理的なハードウェアを使わずに広範なアルゴリズム検証が可能となり、単一ラックの冷却から不均一な熱分布を持つ複雑なマルチラックシステムまで、多様なシナリオ下で制御性能を評価することが可能です。このデジタルツインアプローチにより、制御戦略の迅速な反復検証、エッジケースの検証、物理システムでの再現に、コストや難しさが伴う外乱に対するロバスト性の検証が実現します。
データセンターというアプリケーションに対しては、各ラックの個別制御を維持しながら最適なエネルギー効率を確保しつつ、冷却システムを数時間ではなく数分新たな温度設定値へと移行させるNMPCシステムの開発に貢献し、リアルタイムの運用データで継続的に更新されることで、予知保全、故障検出、システム信頼性の最大化とエネルギー消費(運用コストと環境コンプライアンス)の最小化を図る性能最適化戦略を実現します。

GT-SUITEを基盤としたデジタルツインによるデータセンター運用の変革

・迅速なシステム設計:物理的なプロトタイプを用いることなく任意の冷却構成をモデル化することで、革新的な冷却ソリューションの市場投入までの時間を短縮しながら、開発コストを削減する。

・インテリジェントな制御開発:高価な実験的計測ではなくシミュレーションデータを活用して高度なMPCシステム向けプラントモデルを生成することで、最初から高度な制御戦略の実装を可能にする。

・仮想検証:デジタルツイン環境において数千もの運転シナリオに対する制御アルゴリズムを検証し、確実なロバストな性能を確保しながら機能・性能検証時間を最小化する。

・予測的な運用:リアルタイムデータ統合を活用して機器の故障を予測し、保全スケジュールを最適化するとともに、運用上の知見に基づいてシステム性能を継続的に改善する。

・エネルギー最適化:動的な熱負荷全体にわたる熱的安定性を維持しながらエネルギー消費を最小化する制御戦略を開発し、運用コストと環境コンプライアンスに貢献する。

 設備投資コスト(CAPEX)、運用コスト(OPEX)、冷却容量の間のトレードオフを示す3次元パレート分析

設備投資コスト(CAPEX)、運用コスト(OPEX)、冷却容量の間のトレードオフを示す3次元パレート分析

まとめ ~データセンター冷却の未来~

データセンターが、より高い電力密度とより複雑な熱的課題に向けて進化し続ける中、デジタルツイン技術はインテリジェントな熱マネージメントの礎となり得ます。物理ベースモデリングからAIを活用したメタモデリング、リアルタイムのデジタルツイン統合に至るまでをカバーするGT-SUITEの包括的なプラットフォームは、次世代の予測的・適応的冷却システムの開発基盤をご提供します。

デジタルツインアプローチは、データセンターの運用を事後対応型の保全から予測的な最適化へと変革し、これまでにないレベルでの効率性・信頼性・性能を実現します。運用データから継続的に学習する仮想システムを構築することで、システム性能をリアルタイムで最適化しながら、次世代冷却技術の開発を並行して進めることができます。

 

出典:Gamma Technologies Blog(2026年3月9日公開)

Transforming Data Center Cooling: From Physics-Based Simulation to AI-Powered Control


 

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