GT-SUITEによるGoogle Deschutes CDUのモデリング:液冷システム成功への設計指針

皆さま、こんにちは。
IDAJの森田です。
今回は、マルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の開発元である、Gamma Technologiesが公開しているBLOGの内容を翻訳および一部改修・追記してご紹介します。
データセンターが直面する困難なバランス
データセンターが1ラックあたりの電力密度の向上とAIワークロードの想定以上の急速な拡大に向けて進化する中、液体冷却は極めて高い熱負荷を効率的に管理するための不可欠な技術となっています。しかし次世代冷却システムの設計は容易ではなく、信頼性・エネルギー消費・水使用量・安全性のバランスを取りながら、タイトな導入スケジュールにも対応しなければなりません。このような環境においては、シミュレーションは重要な役割を果たすものと考えています。シミュレーションによって、広大な設計空間を探索し、動的条件下での性能を予測し、実際のハードウェアができるかなり前の段階でコンポーネントと制御システムを評価することが可能です。
こうした背景を踏まえて、Googleはオープン・コンピュート・プロジェクト(OCP)を主導し、「Project Deschutes」として知られる標準化された2メガワット(MW)対応の次世代・冷媒分配ユニット(CDU)の仕様を策定しました。このプロジェクトでは、業界全体での採用と相互運用性を促進することを目的として、詳細な仕様書とCADテンプレートモデルが公開されています。OCPの貢献メンバーとして、Gamma TechnologiesはこのCDUのGT-SUITEフルモデルを開発し、仕様書に記載されたジオメトリと性能を忠実に再現しました。このモデルは、すぐにお使いいただける形で提供され、データセンターのシステムの挙動を評価し、CDUをより大規模な施設レベルのモデルに統合し、新製品やスケーリング戦略に向けて設計を応用するために活用することができます。
CADから忠実度の高い1D・3Dモデルへ
Deschuteモデルは、完全な3D CADアセンブリから公開されました。GEM3Dを使用して、ジオメトリを自動的にGT-SUITEのシミュレーションモデルへ変換し、パラメータを手動で抽出することなく、正確な圧力損失と、流体・熱挙動を計算します。オリジナルのジオメトリ上で温度分布や流れの変数を直接可視化できるため、結果を直感的に把握でき、設計の繰り返し検討を加速します。
これらの前処理によって、時間とエラーの両方を削減し、OCPリファレンス設計への忠実さを維持しながら、CADから検証済みシミュレーションへと迅速に移行することができます。

元のCADファイルのジオメトリを1Dコンポーネントのネットワークに変換し、元のジオメトリ上に結果を可視化した例
OCPの性能仕様の再現とシステム統合
公開されたDeschuteモデルはOCP仕様書に記載された性能目標を再現しており、設計検討のための信頼できるベースラインとなります。このシステムはチラーからバッファータンク、IT冷媒回路へと接続されるため、モデルをより広範な施設アーキテクチャに直接統合することができます。コンポーネントのサイジングの調整、配管の再構成、または代替材料や流体を検討することができ、その際も検証済みのリファレンス構造を利用することができます。これによって、このモデルはOCP設計の研究だけでなく、将来の次世代CDU開発においても非常に価値がある資産となります。

モデルの挙動を検証するための、シミュレーション性能結果と仕様書データとの比較
モジュラー型のシミュレーション環境
GT-SUITEでは、様々なコンポーネントや材料、冷却技術を迅速に比較することができます。モジュラー型の環境により、単相・二相冷媒の評価、各種熱交換器の検討、メーカーの異なるポンプやフィルターのテスト、ドライクーラーと冷却塔の影響比較も可能です。また、ジオメトリと運転条件を調整し、PUE((Power Usage Effectiveness:電力使用効率、データセンターの電力効率を示す指標、1.0に近いほど高効率)、WUE((Water Usage Effectiveness:水使用効率、データセンターのH2O利用効率を示す指標、小さいほど少ない水で冷却できている)、廃熱回収ポテンシャル、冷媒選定に関わるトレードオフを把握できますので、CDUをサイト固有の環境条件やサステナビリティ目標、運用上の制約に合わせてカスタマイズし、ポテンシャルの高い設計の実現に寄与します。

モジュール性の例。複数サプライヤーの熱交換器を一つのシミュレーションの中で直接比較し、コンポーネント選定を最適化します。流体組成などの他の要因を変化させ、迅速かつ簡単に比較することが可能です。
高速な最適化と自動化された設計探索
データセンターの冷却システムには、多数の相互作用する変数が関与するため、最適化は不可欠です。GT-SUITEの高速ソルバーによって、大規模な実験計画法(DoE)によるスタディ、分散コンピューティングスイープ、最適化ルーティンを実行することが可能です。Deschuteモデルでは、ラック出口における冷媒温度を安全な範囲内に維持しながら消費電力を最小化する運転点を探索します。このような自動化された設計探索で、最適な流量、コンポーネントサイズ、制御戦略を特定することが可能となり、物理的なハードウェアが存在する前段階であっても、迅速な製品開発と意思決定を支援します。

設計最適化ツールを使用した多因子・多目的最適化の結果(一次・二次流量を変化させ、総消費電力とラックからの冷媒戻り温度を最小化)
極端なシナリオに対応する仮想テストベンチ
2メガワット(MW)対応のCDUを対象とした実規模での物理試験は、特に故障解析においてはコストがかかり、実施が困難な場合がほとんどです。Deschuteのシミュレーションモデルを仮想テストベンチとして活用することで、ITロードの急激なスパイクや極端な外気温、チラーの電源失陥といった過渡現象を検討できます。これらを実験的に再現することは難しいものの、耐障害性の高い冷却システムを設計するためには不可欠な検討です。

熱的ライドスルー解析例。チラーの電源が失われた際に、ポンプとITロードが稼働し続ける状況下で、バッファータンクの容量が供給温度にどのような影響を与えるかを示しています。
デジタルツインと故障検知機能
GT-SUITEのモデルは、リアルタイムのシステム監視を強化する機械学習メタモデルの基盤として活用することができます。期待される挙動と実測挙動を比較し、デジタルツインはバルブ詰まりや漏れなどのバルブ故障、熱交換器の汚れ、ポンプのキャビテーションといった異常を検知して、分類します。
故障検知に関する詳細は、GT社主催のウェビナー「GT-SUITE For Increased Robustness of Fault Detection(GT-SUITEによる故障検出の信頼性向上)」もご活用ください。

バルブ故障が異常検知MLモデルによって適切に特定される様子を示しています。バルブが完全に開かないできない場合は流量が低下しますが、運転中に目視で気づくことは困難です。しかし、異常検知モデルは期待値からの乖離を特定し、これが密かに冷媒供給温度に影響を与えていることを明らかにします。
GT-SUITEは、大規模な合成データセットを生成でき、AIベースの状態監視ツールのトレーニングに効率的なプラットフォームとなります。SCADAシステム等を介した実際の運用データとのインターフェース機能と組み合わせて、特定の故障発生時にどのような対処を行うべきかなどのオペレーターのトレーニングにも適しています。これらによって、オペレーターは予知保全と最小限のダウンタイムを実現するための是正措置に、自信を持って取り組むことができます。

物理ベースまたは機械学習ベースのGTモデルとSCADAなどの制御プラットフォームとの間のリアルタイム通信を、実際の運用中にリアルタイムで活用する様子を示しています。
まとめ:リファレンス設計からスケーラブルな冷却イノベーションへ
OCPに関するGoogleの Project Deschutesで公開されているCDUのGT-SUITEモデルは、高密度データセンター冷却に取り組む際の強力な基盤です。モジュラー型の環境、迅速な設計探索、高度なデジタルツイン機能を組み合わせ、物理試験の必要性を低減しながらイノベーションを加速させます。データセンターへの需要が拡大し続ける中、このモデルはより安全に、より効率的に、そしてより耐障害性の高い冷却システムを設計するために、ぜひGT-SUITEをご活用ください。
ぜひこちらもご覧ください(IDAJ BLOG)
データセンター冷却の変革 ~物理ベースシミュレーションからAI制御へ~
出典:Gamma Technologies Blog(2026年3月12日公開)
Modeling the Google Deschutes CDU in GT-SUITE: A Blueprint for Liquid Cooling Success
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