LNG運搬船向け舶用システムシミュレーション ~燃費向上と排出量削減~

皆さま、こんにちは。
IDAJの森田です。
今回は、マルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の開発元である、Gamma Technologiesが公開しているBLOGの内容を翻訳および一部改修・追記してご紹介します。
海運業界は、歴史上で特に大きな転換期を迎えています。世界の貿易が拡大を続ける中、船舶運航事業者には、燃料消費量の削減、温室効果ガス排出量の低減、そして変化し続ける環境規制への対応が、これまで以上に強く求められています。
国際海事機関(IMO)は野心的な脱炭素目標を掲げ、船主や船舶運航事業者は、保有船全体の効率を高める新たな方法の検討が迫られています。代替燃料や新しい推進技術が大きな注目を集める一方で、運用戦略やエネルギーマネジメントを改善することによって、既存の船舶アーキテクチャにも大きな改善余地があります。多くの運航事業者にとって、既存船のレトロフィットは、新造船の建造に伴うコストや複雑さを避けながら、効率の向上、排出量の削減、資産価値の延長を実現する現実的な手段となっています。
こうした効果を得るには、実際の運航条件下で、複雑な船内システムがどのように相互作用するかを包括的に理解する必要があります。そこで有効なエンジニアリングツールとなるのが、システムレベルシミュレーションです。
LNG運搬船の運航最適化における課題
現代のLNG運搬船は、海上で運航される船舶の中でも特に複雑です。一般的な船舶とは異なり、LNG運搬船では、推進や発電だけでなく、貨物であるLNGそのものも管理しなければなりません。
液化天然ガスの輸送中には、その一部が自然に蒸発してボイルオフガス(BOG)になります。このガスは、次の用途に利用・処理できます。
- 推進システムの燃料として使用
- 補助ボイラーで消費
- 再液化して貯蔵設備へ戻す
- ガス燃焼装置によって安全に処理
いずれの選択肢も、燃料消費量、貨物保持量、排出量、船舶全体の効率に影響を及ぼします。同時に、航海中は、推進システム、発電機、蒸気生成システム、貨物取扱設備が継続的に相互作用します。
このような相互依存関係があるため、個々のコンポーネントだけを最適化しても、船舶全体として最高の効率を得られない場合があります。
システムレベルの舶用シミュレーションが重要な理由
船舶は、独立したコンポーネントの集合ではなく、統合されたエネルギーシステムとして機能します。エンジン負荷を変更すると、燃料消費量、排熱の利用可能量、蒸気生成量、電力需要、貨物管理戦略に影響が及ぶ可能性があります。こうした関係を理解するには、船舶全体とその運航環境を表現できるシミュレーション手法が必要です。
GT-SUITEを使用すると、次の要素を組み合わせた統合モデルを作成できます。
- 主推進システム
- デュアルフューエルエンジン
- 補助発電機
- ボイラーおよび蒸気ネットワーク
- 排熱回収システム
- 再液化設備およびガス化設備
- 電力分配戦略
- 船体性能特性
この統合アプローチにより、運用上の判断が船舶全体の性能、燃料消費量、排出量に与える影響を評価できます。

GT-SUITEによるハイブリッド推進システムの例
GT-SUITEによるLNG運搬船のエネルギーシステムのモデル化
LNG運搬船のシステムレベルモデルでは、船舶全体のエネルギーの流れを捉えます。主なサブシステムは次のとおりです。
推進・発電システム
デュアルフューエルエンジンが推進力を供給し、補助発電機が船内システムへ電力を供給します。これらの運転効率は負荷条件によって大きく変化するため、電力分配は重要な最適化変数となります。
蒸気生成システム
ボイラーとエコノマイザーは、船舶全体の熱需要に対応します。排熱回収システムでは、本来は失われるエネルギーを有用な蒸気生成に転換することで総合効率を向上できます。
ボイルオフガス管理
ボイルオフガスの管理は、運航上の重要な課題です。流れと熱交換をシミュレーションすることにより、ガス化設備および再液化設備の各種システム設計やBOG処理戦略が、航海中のエネルギー収支、貨物保持量、燃料消費量、排出量に与える影響を評価できます。
ガス化・再液化システム
LNG運搬船のガス化設備は、液化天然ガスを気化させ、船舶の推進用燃料として使用できる状態、または必要に応じて気体の状態で供給できるようにします。再液化設備は、ボイルオフガスを回収して再び液化し、貨物の損失を抑えるとともに、タンク圧力を維持します。これらのシステムをいつ使用するかを判断するには、エネルギー消費量と、貨物の保持、運用上の要件とのバランスを取る必要があります。
実際の船舶運航条件の再現
船舶の運航が、単一の定常状態だけで行われることはほとんどありません。
【船舶が直面する変動条件】
- 船速
- 貨物の状態
- 気象・海象条件
- ホテル負荷需要
- 運航モード
これらの条件を正確に表現するために、推進負荷、電気負荷、熱負荷の特定の組み合わせを表す複数の運航シナリオから、航海プロファイルを構成します。
航海プロファイルは、非定常シナリオまたは定常シナリオとしてシミュレーションできます。定常シナリオの場合は、航海中の発生頻度に応じた重み付け係数を用いて各シナリオを再構成できます。これにより、燃料消費量およびシステムレベルの性能を迅速に予測できます。このアプローチにより、シミュレーションは設計ツールにとどまらず、実際の船舶運航を評価できる意思決定支援プラットフォームへと発展します。
潜在的な効率改善機会の特定
ある最適化検討では、LNG運搬船に搭載された補助発電用エンジンの運転に着目しました。
シミュレーションの結果、複数の発電機が比較的低い負荷で頻繁に運転されていることが明らかになりました。この運転戦略は必要な電力を満たす一方で、エンジン全体の効率を低下させていました。
最適化手法を用いて、航海プロファイル全体にわたる代替の発電機負荷配分戦略を評価しました。その目的は次のとおりです。
- すべての運用要件を満たす
- 船舶の信頼性を維持
- 燃料消費量と排出量を最小化
最適化後の解では、負荷をより少ない台数のエンジンに集約し、各エンジンを高い稼働率で運転しました。これにより、エンジン効率が大幅に向上しました。
小さな変更による大きな効果
最適化された運転戦略により、ハードウェアを変更することなく、測定可能な効果が得られました。本記事で紹介する最適化結果は、CLEOSがGT-SUITEを使用して実施したLNG運搬船の詳細な検討に基づいています。発表資料の完全版では、モデルアーキテクチャ、航海プロファイル、最適化手法、詳細な性能結果について、さらに詳しく説明しています。

指標/改善効果:ガス消費量 約3%削減、MGO消費量 約3%削減、CO₂排出量 約3%削減、パイロット燃料使用量 約64%削減
これらの割合は一見すると大きくないように見えるかもしれませんが、長距離の航海や船団全体に適用すると、その効果は大きくなります。わずかな効率向上でも、大幅な燃料節減、運航コストの低減、実質的な排出量削減につながる可能性があります。特に重要なのは、これらの効果が多額の設備投資を伴う機器更新ではなく、運用の最適化によって実現されたことです。
船舶最適化に向けた舶用デジタルツインの構築
海運事業者が効率向上と脱炭素化の目標達成に取り組む中、シミュレーションモデルは、従来のエンジニアリング検討の枠を超えて活用されるようになっています。運航データを用いて妥当性を確認したシステムレベルの船舶モデルは、次の用途を支援するデジタルツインとして活用することができます。
- 航海計画
- 燃料管理戦略
- 運用最適化
- レトロフィット評価
- 将来燃料の評価
- 予知保全の取り組み
これらの機能によって、運航事業者は船上で実施する前に、判断内容を仮想環境で評価できます。これにより、リスクを低減しながら、運用戦略への確信を高めることができます。

GT-SUITEの機械学習アシスタント
まとめ
海運の脱炭素化に向けた道筋は、新しい燃料やハードウェア技術だけに限られるものではありません。既存の船舶アーキテクチャにも、より高度な運用とエネルギーマネジメントの改善によって、大きな改善余地があります。推進システム、電気システム、熱ネットワーク、貨物管理が密接に結び付くLNG運搬船では、こうした改善機会を特定し、評価するために必要な可視性をシステムレベルシミュレーションが提供します。
GT-SUITEを活用して、船舶全体のエネルギーフローをモデル化し、最適化することで、運用効率を高め、燃料消費量と排出量を削減する実践的な戦略を見いだすことができます。これにより、運航事業者の事業目標と環境目標の両立を支援します。
舶用システムが複雑化する中、シミュレーション主導のエンジニアリングは、造船会社、船舶運航事業者、舶用技術プロバイダーにとって重要な能力となりつつあります。システムレベルの舶用シミュレーションにより、設計判断の迅速化、運用効率の向上、海運の脱炭素化に向けたより有効な道筋の検討が可能になります。
●FAQ
舶用システムシミュレーションとは何ですか?
舶用システムシミュレーションでは、推進、電気、熱、貨物の各システム間の相互作用をモデル化し、船舶性能を予測します。
GT-SUITEは舶用分野でどのように使用されますか?
GT-SUITEは、船舶のエネルギーシステムのモデル化、運用の最適化、代替燃料の評価、舶用デジタルツインの開発に適用することができます。
LNG運搬船シミュレーションには、どのような利点がありますか?
シミュレーションを活用すると、運用変更を実施する前に、燃料消費量、排出量、ボイルオフガス管理、船舶全体の効率を最適化できます。
出典:Gamma Technologies Blog(2026年6月19日公開)
Marine System Simulation for LNG Carriers: Improving Fuel Efficiency and Reducing Emissions
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