【適用事例】OpenFAOMベースのiconCFDを使った「どぶ付け(移動込み)の熱処理(焼き入れ)」解析
皆さま、こんにちは。
IDAJの伊藤です。
OpenFOAMをベースに開発したGPLに準ずるCFDソフトウェア「iconCFD」を使って、筐体の熱処理の1工程である、どぶ付けによる冷却工程(焼き入れ)を再現した解析をご紹介します。
筐体の熱処理は金属材料の加工プロセスにおいて、欠かせないプロセスの一つであり、幅広い製造分野で活用されている技術です。熱処理はきわめてデリケートな作業ですので、熱処理によって製品品質に大きな影響が出ます。とりわけ、沸騰性の冷却剤を使用した焼き入れの場合には冷却能力が優れている反面、冷却ムラが発生しやすく、計算によってその冷却ムラを抑える工程設計が可能となれば、本プロセスの改善に大きく貢献できると考えられます。一方で、本プロセスは沸騰現象が熱伝達特性を支配するので、一般的には、熱流体解析によるアプローチが難しいとされてきました。
沸騰性の冷却剤を用いた筐体熱処理では、以下の現象を考慮する必要があるため、今でも商用CFDコードでは、工業的に用いられる対象に対して、実用的な時間で安定して解析することが難しいのではないかと思います。
・高温の筐体を液体(水)に漬けるため、沸騰が発生する
・特に冷却初期は筐体温度が高いため、膜沸騰が発生する
・形状的に蒸気がたまりやすい箇所とたまりにくい箇所では、冷却速度が異なることから、筐体内に温度分布が発生し、冷却ムラによる筐体品質への影響が懸念される
そこで、弊社で開発しているiconCFDの「沸騰+固体熱連成モデル」を用いて、このどぶ付けの焼き入れ(筐体の熱処理)現象が計算可能かどうか、再現可能かどうかを検討してみました。
計算の概要
中央に穴の開いた形状(外径20cm、アルミ製)を対象にしました。
計算の設定
- 物理モデル
iconCFDバージョン:v3.3
ソルバー:idajChtMixingInterPimpleFoam
VOFベースの圧縮性混相流ソルバーに固体熱連性機能を追加したソルバー
ソルバータイプ:非定常
基礎方程式(固相はエネルギー方程式のみ)
連続の式
Navier-Stokes式
エネルギー方程式
液体体積分率の輸送方程式(VOF法)
乱流モデル kOmegaSST
- 物性値の設定
水:
密度:体積膨張モデル(右下図)
基準密度:958.4 kg/m3
体積膨張係数:0.00085 1/K
分子粘性係数: 2.82e-4 Pa sec
比熱:4217 J/(kg K)
熱伝導率:0.679 W/(m K)
プラントル数:1.75
表面張力:0.0589 N/m
飽和温度:373.15 K(Antoine式より算出)
蒸発潜熱:2256000 J/kg
水蒸気:
密度:理想気体の状態方程式
分子粘性係数: 1.23e-4 Pa sec
比熱:2077 J/(kg K)
熱伝導率:0.0251 W/(m K)
空気:
密度:理想気体の状態方程式
分子粘性係数: 2.686e-4 Pa sec
比熱:1007 J/(kg K)
熱伝導率:0.02645 W/(m K)
Al(固体):
密度:2688 kg/m3
比熱:905 J/(kg K)
熱伝導率:237 W/(m K)
沸騰モデル:
解析メッシュと計算に使用したマシンスペック
iconCFD付属のiconHexMeshで作成しました。そうメッシュ数は、流体領域17万、固体領域6万の合計23万メッシュで、壁面第一層のセル厚みを2mmとし、最大10層作成しています。計算に使用したマシンのスペックは、Intel(R) Xeon(R) CPU E5645@2.40GHz 6Cores です。
計算結果
計算結果を見てみると、空洞の内部、特に上部に蒸気がたまりやすいことがわかります。また、蒸気だまり近傍の壁面温度が、ほかの部分より温度が下がりにくいということも確認できました。膜沸騰領域では、VOF法によって界面をシャープに再現できており、計算も全体的に安定していました。温度分布と熱フラックスが得られますので、熱処理に際に問題となる冷却ムラを予測することが可能になります。
汎用熱流体解析コードでは現実的ではない、膜沸騰領域を加味した計算である、どぶ付けによる焼き入れの現象を、iconCFDの「沸騰+固体熱連成モデル」を用いて計算できることがおわかりいただけたかと思います。
■本事例に関して、オープンソースベース汎用CFDソフトウェア「iconCFD」、iconCFD・OpenFOAM用プリポストプロセッサー「ennovaCFD」に関するご質問、不明点などございましたら下記までお気軽にお問い合わせください。
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