エタノール混合ガソリン(E10・E20)蒸発挙動解析のためのモデリング技術

皆さま、こんにちは。
IDAJの水島です。
内燃機関エンジンを搭載する乗用車や商用車のカーボンニュートラルに向けた取り組みの1つに、水素・アンモニアなどのカーボンニュートラル燃料(CNF)の導入があります。エネルギー安全保障の観点からも、安定供給と脱炭素化を両立できる水素・アンモニアの社会実装の加速が重要です。

水素・アンモニアなど新CNFの導入
(出典:経済産業省資源エネルギー庁「水素・アンモニアを取り巻く現状と今後の検討の方向性」)
また、諸外国ではガソリンへのバイオエタノール混合が進められており、インドは2025年までに全土でE20実現を目標としています。日本でも、2030年度までにE10ガソリンの供給を開始、2040年度までにE20ガソリンの供給を開始し、2030年代早期にE20ガソリン対応車の比率を100%化する目標が立てられています。このようなエタノール混合の取り組みは、バイオ燃料や合成燃料の活用による液体燃料のカーボンニュートラル化実現に向けた重要な施策となっています。

ガソリン燃料のCNF化
(出典:経済産業省資源エネルギー庁「自動車用燃料(ガソリン)へのバイオエタノールの導入拡大について(報告)」)
このように、BEVやPHEV、FCEVといった電動化対応を除いたとしてもエンジンに対するCNF化が、カーボンニュートラル達成向けたマルチパスウェイとなっています。そこで本ブログではE10・E20といったエタノール混合ガソリンのシミュレーション適用についてご紹介します。
【ご参考】水素燃料への取り組みは、こちら記事もぜひご覧ください。
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カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~基礎検証編~(その1) カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~基礎検証編~(その2) カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~実機適用に向けて~(その1) |
ガソリン成分と同じくC・H原子を含むエタノールは、O原子を含み、その分子構造ゆえ、液体からの蒸発挙動が特殊です。ガソリンにエタノールを混合した場合、エタノールの極性の影響で、蒸発挙動が理想的な挙動から外れることが確認されており、一般的なシミュレーションツールではその挙動を正しく表現するモデルが搭載されていません。
例えば、オクタンとエタノールを混合した液体に対して、混合液中に占めるエタノールの割合(横軸x1)、蒸気中に占めるエタノールの割合(縦軸y1)をプロットすると、x1とy1は線形にならず、約0.1≦x1≦約0.8において蒸気中のエタノール割合y1は、エタノール割合x1によらず約80%を占める、つまりはオクタンよりエタノールの蒸発が支配的になる現象が示されています。このような非理想的な蒸発挙動を考慮することが重要です。

エタノール・オクタン混合液体の気液平衡曲線
(出典:Kobuchi, “Prediction of Vapor-Liquid Equilibria of Alcohol plus Hydrocarbon Binary Systems by Using Wilson Equation with Parameters Estimated from Pure-Component Properties”, JOURNAL OF CHEMICAL ENGINEERING OF JAPAN, vol.45, no.11)
下図はエタノール混合比率が蒸発特性に与える影響を示しています。これを再現するには、ベースとなるエタノールを含まないガソリン燃料(図中ではE0)の蒸留特性と、エタノール混合時の蒸留特性変化を正しく再現するための2つのモデリング技術が必要です。図中赤線のE10(エタノール割合10%)であっても、50%留出温度が約20℃も変化しています。

エタノール混合割合が蒸留特性に与える影響
(出典:JATOP岡部、ガソリン車バイオ燃料WG報告 JAPAN AUTO-OIL PROGRAM、2010/6/25)
このようなエタノール混合ガソリンの蒸発挙動を適正に評価するために、IDAJでは必要なモデリング技術を構築しました。詳細は本記事では割愛しますが、与えた蒸留曲線を再現するように構成成分の割合を自動適合する機能や、エタノール混合時の活量係数変化(非理想性の指標)を考慮した蒸発速度計算モデルなどが含まれています。

エタノール混合ガソリン燃料のためのシミュレーション技術
適用結果を下図に示します。先述の文献にあるエタノール混合による蒸留特性変化を示すグラフをよく再現していることがおわかりいただけるかと思います。

構築した手法で計算されたエタノール混合ガソリン燃料の蒸留特性
これらをガソリン直噴エンジンケースに適用した結果が下図です。吸気行程噴射の直噴エンジンに対して、E0(ガソリン相当)とE20を比較しました。マクロに見た燃料蒸気の混合状態に大きな違いは見られませんでしたが、エタノール混合による温度低下(蒸発潜熱が大きい)によって燃料蒸発が遅れている現象や、壁面付着量の変化が確認できました。

直噴ガソリンエンジン計算でのE0・E20比較
(左図上は当量比分布、左図下は当量比当値面、右図は燃料量履歴)
最後に、非理想性を考慮しないRaoult則を適用したケースとの比較を示します。
E20でRaoult則を用いると、液滴蒸発がより緩慢になり液滴質量が全体的に増大し、それによって、吸気下死点での比較においては、燃料蒸気量が総噴射量の約5%も低下してしまうことが確認できました。
このように、燃料液滴・液膜の蒸発挙動の精度向上には、今回開発した活量係数モデルの適用によるエタノール混合の蒸留特性を再現することが重要だと考えられます。

直噴ガソリンエンジンE20計算におけるRaoult則と活量係数モデルとの比較
今回は、最近特にお問い合わせが増えている、エタノール混合ガソリンのモデリング技術についてご紹介しました。より詳細の内容をご紹介することも可能ですので、ご興味ございましたらお気軽に当社へご連絡ください!
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