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カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~基礎検証編~(その2)

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

前回は、オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEのCONVERGEを用いたエンジン筒内ソリューションや新燃料関連の適用事例についてご紹介しました。そして今回は、水素の基本的な特性を振り返るとともに、改めてシミュレーションで適切に表現できるのかという観点で検証した事例についてご説明します。

水素のシミュレーション

CN達成に向けた方策の一つとして、代替燃料やエネルギーキャリアとしての水素の利活用が期待されています。日常生活の中でも、燃料電池自動車、燃料電池バス、水素ステーション等を目にする機会が増えてきました。また、水素を燃料としたエンジン開発も進められています。

前項で水素エンジンの解析例をご紹介した通り、水素を対象とした数値計算は以前から行われてきました。特に、ガソリンやディーゼルといった炭化水素燃料に比べて、詳細反応メカニズムの規模が10種程度と相対的に小さいため、詳細反応計算例も目新しいものではありません。

水素の特異性

水素って何でしょうか。周期表の筆頭に位置し最も多く存在する元素ですが、物性として以下の特徴があります(出典:井上、電気設備学会誌2016)。

  • 熱物性

  実在気体効果

  臨界温度、臨界圧力が低い

  比熱が大きい

  音速が大きい(対メタン約3倍)

  • 輸送物性

  拡散係数が大きい(対メタン約3倍)

  熱伝導率が大きい

また、反応に関しても炭化水素燃料とは異なる性質を持ちます。

  • 反応

  単位重量あたりの発熱量が大きい(低位発熱量で対ガソリン2.7倍)(※2)

  対空気混合比に対して可燃範囲が広い(4~75体積%、メタン5~15体積%)

    最小着火エネルギーが小さい(対メタン0.1倍)

  層流燃焼速度が大きい(空気中で対メタン6倍、対ガソリン7倍(※2)

  消炎距離が小さい(対メタン0.3倍)

(※2)出典:SIP、水素エンジン燃焼技術終了報告書

これらの性質から水素燃焼には、高速な燃焼、自着火しやすく局所的な温度でプリイグや逆火が発生、冷却損失の増加、窒素酸化物NOxの生成、気体での噴射などといった様々なメリットとデメリットがあり、これらの検証にあたっては、シミュレーションの活用が不可欠です。そこで次項では、これら基礎的な性質をシミュレーションで再現できるかどうか、検証した結果をご紹介します。

水素熱物性検証-1(ジュール・トムソン効果の逆転現象)

断熱膨張であるジュール・トムソン過程において、水素は、窒素・酸素などと異なる傾向を示すことが知られています。窒素は、減圧時に温度が低下するのに対して、水素は温度が上昇するという逆の傾向を示します。この性質はジュール・トムソン係数で整理でき、実在気体効果の一つとして解釈することができます。ジュール・トムソン係数は、熱膨張係数と温度の逆数との差で定義され、理想気体ではゼロとなります。

CONVERGEを用いて、窒素と水素に対してジュール・トムソン係数をプロットした結果を下図に示します。水色と灰色の線は、Redlich-Kwong実在気体の状態方程式を水素と窒素に対して適用した結果で、正負逆の正しい傾向を捉えています。実在気体の状態方程式を選択した後に、臨界温度や臨界圧力、偏心係数の入力が必要ですが、CONVERGE Studioに内蔵の物性データベースから化学種名を選択するだけで設定が完了します。また、CONVERGEでは、物性ライブラリであるCoolPropを用いて圧力・温度依存性のある物性定義手法を選択できますが、その手法(黄色線)でも逆転現象を再現していることを確認しました。使い方は下記をご参照ください。

・IDAJ-BLOG「CONVERGE Studioで冷媒の物性が設定できるって、ご存知でした?」

水素熱物性検証-1(ジュール・トムソン効果の逆転現象)

水素熱物性検証-1(ジュール・トムソン効果の逆転現象)

 

水素熱物性検証-2(臨界圧を超える物性値)

水素タンク圧力を想定すると、水素の臨界圧力である1.2964MPa(CoolProp)を超えた状態やまたぐ状態での利用が考えられます。その時の物性値算出が正しく行えるどうかを検証しました。ここでは、水素エンジン燃焼を想定したため、物性データベースCoolPropの値を真とし、実在気体の状態方程式から求められる密度の正しさを確認しました。

先ほど示したグラフの上が密度の算出結果で、丸印がCoolProp値、線が状態方程式による算出値、下はCoolPropからの誤差を示しています。これにより「実用」と想定される30MPa以下での相対誤差が1%以下で、臨界圧前後で不自然に値が変化する様子も認められませんでしたので、状態方程式でも十分な精度を有することが確認できました。

水素熱物性検証-2(臨界圧を超える物性値)

水素熱物性検証-2(臨界圧を超える物性値)

 

水素輸送物性検証

輸送物性である拡散係数を検証します。CONVERGEでは、シュミット数に基づく拡散係数算出方法と(下図内gas.dat)、分子運動論に基づいて化学種ペアの相互拡散係数を算出する方法(下図内transport.dat)を使用することができます。窒素室への拡散の様子を、水素と酸素で比較した結果を下図に示します。どちらの算出方法においても、水素の方が拡散速度が速いことがわかります。分子運動論に基づく方法で速くなるのは当然ですが、陽的に成分影響を考慮しない手法(gas.dat)でも密度低下が動粘度増加や拡散増加に寄与していると判断できます。

下図のケースは乱流の小さい層流場での比較ですが、エンジンのような乱流場での影響はどうでしょうか。乱流エネルギー1[m2/s2]、乱流散逸率100[m2/s3]では、拡散係数算出方法による差異も、水素・酸素の物性差異もなくなることがわかります。また、先述のサンディア水素直噴エンジンにおいて拡散係数算出方法による差異を比較しましたが、筒内圧力に対して顕著な差異は認められません。分子運動論に基づく方法は計算負荷増大を招くため、乱流場を対象とした計算では採用するメリットが少ないと判断できます。

水素輸送物性検証(低乱流場)

水素輸送物性検証(低乱流場)

 

水素輸送物性検証(乱流場)

水素輸送物性検証(乱流場)

 

水素反応検証-1(着火遅れ時間、層流燃焼速度)

燃焼反応の基礎となる着火遅れ時間と層流燃焼速度の検証結果を下図に示します。反応メカニズムにはゴールウェイ大学のメカニズム(2004年、10化学種・21反応式)を適用し、CONVERGEの0D/1Dツールで計算しました。結果(赤線)はどちらも実験を良く再現していることが確認できました。

 水素反応検証-1(着火遅れ時間、層流燃焼速度)

水素反応検証-1(着火遅れ時間、層流燃焼速度)

 

水素反応検証-2(消炎距離)

水素は消炎距離が短く温度勾配が急峻で、壁面からの冷却損失が増加することが想定されています。実験手法に基づいて、ゴールウェイ大学のメカニズムで検証した結果を下図に示します。混合気流入速度を変更していくと、計算でも消炎が発生し、消炎距離は実験結果を良く再現することが確認できました。

水素反応検証-2(消炎距離)

水素反応検証-2(消炎距離)

 

まとめ

CNに関連して“今までにないエンジン”を、CONVERGEによる基礎検証に基づいてご紹介しました。今回ご紹介できなかった領域では、下記のような課題が存在するものと想定しています。

  • 噴流ペネトレーションの検証
  • 乱流燃焼速度の検証
  • エンジン燃焼での検証
  • 壁面温度影響の検証
  • プレイグのエンジン検証
  • NOx生成量の検証

これらについては別の機会にご紹介したいと考えていますが、お急ぎの場合は、当方までご連絡いただければ随時対応させていただきます。IDAJでは、基礎・応用を含めた取り組みを実施し、皆様のモノづくりのお力になれるよう努めております。CNへの新しいお取組みをご検討の場合は、ご遠慮なくご相談いただけますと幸甚です。

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