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電気自動車の障害を取り除く:CONVERGEで熱伝播に挑むIAV

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

今回は、オートノマスメッシング熱流体解析プログラム「CONVERGE」の開発元である、Convergent Scienceが公開しているBLOGの内容を翻訳してご紹介します。


運輸分野に対する排出量削減の要請は、自動車業界に新たな進化と発展の時代をもたらしました。世界中の多くの国々では、電気自動車を脱炭素に欠かせないものとして位置づけており、すべての新興技術(より正確に言うと、電気自動車の場合は“再興”技術だと言えます)と同様に安全性が一番の関心事です。

統計的に電気自動車の安全性は従来のパワートレインと同程度ですが、最悪のケースでは、熱伝播によってバッテリーが発火または爆発し乗員に危険が及ぶだけでなく、有毒ガスが周囲に放出される恐れがあるため、バッテリーの熱暴走と熱伝播は潜在的な危険として注目されています。

Convergent Scienceは先頃、熱暴走伝播の問題に取り組むため、IAVと提携しました。IAVは、ドイツのベルリンに拠点を置く国際企業で、40年以上にわたって自動車業界向けに技術ソリューションを開発してきました。IAVは、困難なエンジニアリング問題に取り組むための、最高の専門知識と手法を提供することに専念しており、電気自動車のバッテリーにおける熱伝播も同社が取り組む難題の内の一つです。

IAVでバッテリー電気自動車のパワートレイン開発に取り組む研究開発チームを率いるDr.Alexander Fandakovは、「熱伝播の研究が重要な理由はたくさんあります。何よりも車両の安全性が第一ですが、もう一つの大きな理由は法律です。」と述べています。

電気自動車のバッテリーが損傷し、危険性が差し迫っている場合、熱伝播が発生する前にドライバーと乗客が車を停止させ車外に出るのに十分な時間があることを規定する法律が、世界中の多くの地域で制定されています。例えば、国連の規制では、“熱伝播による危険な状況が車内に生じる5分前”までに車両乗員に知らされることが義務付けられています1。さらに、熱暴走から熱伝播までの時間を大幅に長くすべきであるという議論もなされており、これが意味するところは、基本的に熱伝播は一切許されないということになります。

これらの法規制要件を満たすため、メーカーは熱暴走のリスクを評価し、熱伝播を軽減する方法を考案するために、さまざまな条件下でバッテリーモジュールやバッテリーパックの広範な試験を実施しなければなりません。しかし、広範な試験には多くのコストがかかります。

「電気自動車のバッテリー開発では、熱伝播に関する試験を実施するには、少なくともモジュールまたはバッテリーパック全体が必要な場合が多く、これらはたいてい開発プロセスの後期にならないと入手できないという課題があります。また、熱伝播を調べる際には様々な境界条件を考慮しなければなりませんし、試験後のバッテリーパックは基本的にゴミ箱行きです。ですから、これらの試験は極めて高くつきます。そして、試験結果に基づく追加の熱伝播軽減策を、この開発後期になって実装するのは決して簡単ではありません。」とFandakov氏は説明します。

したがって、物理的試験の数を減らすことができれば、時間と費用を大幅に削減できることは明らかです。ここで、登場するのが数値流体力学(Computational Fluid Dynamics:CFD)です。CFDを使えば、様々な化学反応、材料、構成のバッテリーパックを様々な条件下でシミュレーションし、熱伝播軽減策の有効性を仮想的に検証することができます。ただし、効果的な開発ツールとなるためには予測CFDコードが必要で、これが、IAVがCONVERGEを選んだ理由です。

これを受けてConvergent Scienceの主任エンジニアKislaya Srivastavaは「CONVERGEは、物理現象に基づく手法で3次元の熱暴走と熱伝播をモデル化します。つまり実験プロファイルに頼るのではなく、化学反応メカニズムと忠実度の高いモデルを組み合わせて、熱暴走の挙動を予測します。」と、説明します。

IAVとConvergent Scienceは共同で、CONVERGEで熱暴走をシミュレーションするための数値的手法の開発と妥当性確認を行いました。まず、異なる種類のバッテリーの熱暴走反応速度をモデル化し、次に検証済みの反応速度メカニズムを使用して、様々な材料のバッテリーシステムの3次元温度分布と熱伝達を予測しました。ここでは、3次元モデル化作業の概要をご紹介します。実験作業とシミュレーションについての詳細は、Sensら20242の文献をご参照ください。

単一セルのスタディ

IAVとConvergent Scienceのチームは、まずCONVERGEを使用して、ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、ナトリウムイオン電池(SIB)など、異なる種類のリチウムイオンバッテリーの単一セル試験を実施しました。下図は、CONVERGEでの3次元シミュレーションで使用した、クランプを含む単一セルのジオメトリです。

クランプを含む単一セルジオメトリ

クランプを含む単一セルジオメトリ2

セルは単一の固体としてモデル化され、セル層の方向に沿って異方性熱伝導率が適用されます。また、構成要素間の熱伝達を可能にするため、それらの間に界面が定義されます。そして、CONVERGEの確立された熱暴走メカニズムを使用して、それらをキャリブレーションし、セル内のThermal Abuseが正しく表されるようにしました。

ここでは、Renメカニズムを使用したセルNMC811にフォーカスします3。加熱試験の実験データを使用してこのメカニズムのキャリブレーションを行い、次に、加熱-待機-探索(Heat-Wait-Seek)試験と釘刺し試験の実験データに対して、キャリブレーション済みメカニズムを使用したNMCモデルの妥当性を確認しました。下図は、加熱試験と加熱-待機-探索試験における3つの熱電対位置における、CONVERGEの結果と測定データを比較したものです。

セルNMC811の加熱試験(左)と加熱-待機-探索(右)試験の、CONVERGEでの結果と実験測定値の比較

セルNMC811の加熱試験(左)と加熱-待機-探索(右)試験の、CONVERGEでの結果と実験測定値の比較2

下図は釘刺し試験の結果です。最も代表的な熱電対位置における、CONVERGEの結果と測定データを比較したものです。CONVERGEの結果は、3ケースすべてにおいて実験データとよく一致しており、キャリブレーションされたメカニズムが、異なる方法で発生させた熱暴走におけるセルの挙動を表せることが実証され、その予測能力を裏付けるものとなりました。

セルNMC811の釘刺し試験の、CONVERGEでの結果と実験測定値の比較

セルNMC811の釘刺し試験の、CONVERGEでの結果と実験測定値の比較2

熱伝播のシミュレーション

単一セルシミュレーションの妥当性確認が完了したため、7セルモジュールでの熱伝播スタディを実施しました。単一セルスタディのセルNMC811化学反応に使用したのと同じ、キャリブレーション済みのRenメカニズムを使用して、いくつかの異なるシナリオを検討しました。ハウジング内のセル周辺の空間を窒素または空気で満たす、また、熱伝播を遅らせるためにセル間断熱材または浸漬油冷(Immersion Oil Cooling)を使用するなどです。

熱伝播スタディに使用した7セルモジュールのジオメトリ

熱伝播スタディに使用した7セルモジュールのジオメトリ2

「CONVERGEには熱暴走化学反応だけでなく、数多くの機能が備わっています。オートノマスメッシング機能は、ユーザーによるメッシュ作成が不要で、複雑なバッテリーパックの形状でも容易に再現します。また、解適合格子機能は、シミュレーション中にメッシュを動的に調整し、複雑な物理現象を捉えます。しかも計算コストは下がります。さらに、固体と流体の熱連成モデルによって、固体と流体の計算領域間の熱伝達を解析でき、その多相モデルを使うと、液体冷却技術を調査することができます。」とKislayaは説明します。

下図は、セルの周囲に空気が存在し、かつ断熱材を使用していない場合の結果です。釘刺しにより中央のセル(セル7)で熱暴走が発生すると、隣接するセルも直ちに熱暴走状態になります。CONVERGEは、熱伝播のタイミングと持続時間を極めて正確に捉えることができます。予測ピーク温度は測定ピーク値よりも低いものの、測定ピーク温度は主にガス温度と見なされるため、シミュレーションで得られた固体セル表面温度と直接比較することはできません。固体セル表面温度がセル内部のプロセスを推進し、最終的に熱暴走が発生します。シミュレーションでは、これらの重要な値が捉えられています。

気が存在する環境における隣接セルへの熱伝播の、CONVERGEでの結果と実験測定値の比較

気が存在する環境における隣接セルへの熱伝播の、CONVERGEでの結果と実験測定値の比較2

即時熱伝播を伴うケースについてCONVERGEのモデルの妥当性が確認されると、IAVは熱伝播軽減策に注目しました。ここでは、セル間断熱材の使用を取り上げますが、油冷の結果はSensら20242の文献に記載されています。 

「セルからセルに熱が伝わるのを防ぐ方法の一つに、例えば、断熱材となる発泡体をセル間に挿入する方法があります。しかし、このような発泡体にも、バッテリーの総重量やコストなどに影響するという課題があります。これは非常に複雑な問題であり、だからこそ、シミュレーションで様々なタイプのセル間断熱材を調査できるというのは極めて重要です」とFandakov氏は述べています。

以下に示すのは、セル間断熱材を追加した場合の熱伝播に与える影響です。釘刺しにより再び中央のセル(セル7)で熱暴走が発生しますが、セル間断熱材の追加により、隣接セルへの熱伝播が大幅に遅くなっていることがわかります。実験装置で発生する、機械的変形、材料の溶融、バッテリーからの材料の噴出などは、このシミュレーションでは考慮されていませんが、これらの現象が極めて複雑であることを考えると、CONVERGEでのシミュレーションでは熱伝播の進行が総じてよく表されています。総伝播持続時間の、実測値とシミュレーション結果の偏差は約10%です。

バッテリーモジュールにセル間断熱材を追加した場合の熱伝播に与える影響の、CONVERGEでの結果と測定データの比較

バッテリーモジュールにセル間断熱材を追加した場合の熱伝播に与える影響の、CONVERGEでの結果と測定データの比較2

このIAVとConvergent Scienceのコラボレーションでは、IAVの幅広い業界専門知識と最先端の試験施設がCONVERGEの予測シミュレーション能力と統合され、成功を納めました。両社は共同で、バッテリーモジュールにおける熱暴走と熱伝播を研究するための数値モデルを開発し、その妥当性を確認しました。今後、この手法を異なる種類のバッテリー、モジュール構成、熱伝播軽減策に適用することができます。熱伝播を研究する強力かつ効率的な方法があるというのは、業界にとってのゲームチェンジャーとなりえます。メーカーは、法的要件を満たして消費者の安全性を確保しながら、時間を節約し開発コストを削減することができるのです。

このコラボレーションの詳細については、弊社のジョイントウェビナーをご覧ください。A Cool Take on Hot EV Batteries: Navigating Thermal Propagation With CFD Based on Thermal Runaway Kinetics Modeling(熱いEVバッテリーをクールに考える:熱暴走反応モデルに基づCFDで熱伝播に対処する

 

参照文献

[1] United Nations, “UN Regulation No 100 – Uniform Provisions Concerning the Approval of Vehicles With Regard to Specific Requirements for the Electric Power Train,” E/ECE/Rev.2/Add.99/Rev.3.

[2] Sens, M., Fandakov, A., Mueller, K., von Roemer, L., Woebke, M., Tourlonias, P., Mueller, T., Burton, T., Srivastava, K., and Senecal, P.K., “From Thermal Runaway to No Thermal Propagation,” 45th International Vienna Motor Symposium, Vienna, Austria, Apr 24–26, 2024.

[3] Ren, D., Liu, X., Feng, X., Lu, L. Ouyang, M., Li, J., and He, X., “Model-Based Thermal Runaway Prediction of Lithium-Ion Batteries From Kinetics Analysis of Cell Components,”Applied Energy, 228, 633-644, 2018.

 

出典:CONVERGENT SCIENCE BLOG(2024年9月18日公開)

Removing Electric Vehicle Roadblocks: IAV Takes on Thermal Propagation With CONVERGE

マーケティングライティングチームリーダー Elizabeth Favreau


 

CONVERGEをご存じでない皆様、是非こちらをご視聴ください。CONVERGEの概要について9分で確認いただけます。

 

CONVEREGEの適用についてご不明な点がございましたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。

 

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オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEは、2008年の販売を開始以来、エンジン筒内の3次元解析をメインターゲットに、世界中で広くご活用いただいています。

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