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カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~実機適用に向けて~(その1)

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

これまでに2回にわたって、オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEによる本題の基礎検証編をご紹介しましたが、今回は、実際のエンジン適用を見据えて必要となる技術の中から、ガス噴射と壁面消炎のモデル化手法についてご説明します。

カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~基礎検証編~(その1)

カーボンニュートラル実現に向けた水素利活用課題へのCONVERGE適用 ~基礎検証編~(その2)

 

おかげさまで、ここ半年の間に多くのお客様からお問い合わせをいただき、多数の委託解析・委託開発を担当させていただきました。弊社としましても、解析技術構築はこの数年が勝負であると認識しており、多くのお客様をご支援させていただきたいと思います。どうぞ最後までお付き合いください。

 

ガス噴射のモデル化

水素や天然ガス、アンモニアを燃料として使用する場合、気体として導入する方式が考えられます。解析では、空気や予混合気を導入するのと同じように、個別の流入境界で質量流量や圧力を規定して設定することになりますが、ガソリン/ディーゼル燃料を液体で噴射させるのとは別の課題が生じます。

ここでは、水素ガス導入を例に考えてみます。

 

1.水素噴流の特徴

成層混合気を活用する場合、噴流の到達距離(ペネトレーション)や横方向への広がり、拡散度合いを正しく予測する必要があります。検証題材とする実測には、シュリーレン撮影、シャドウグラフ撮影、シリコンオイル粒子散乱法が用いられ、可視化した画像からペネトレーションや広がりを得ます(下図)。噴流の特徴は、噴射ノズル内で流れは音速に達し、空間へ吐出された後にマッハ数が1以上の超音速となり、衝撃波を伴いながら亜音速化していきます。つまり、噴孔出口の近傍では非常に高い流速が発生することになります。その一方で、噴孔径や燃圧をパラメータとした、不足膨張の効果を加味した改良運動量理論によってペネトレーションがほぼ予測できることもわかっています(出典1・2)。また、可視化実測がない場合には、これを計算の検証題材として活用する手段もあるでしょう。

出典1:辻村拓,他,「高圧水素噴流の噴射および噴流発達特性に関する研究」, 機論B, Vol.70, No.693, 論文No. 03-0866, pp.1342-1347, 2004年.

出典2:辻村拓,他,「非定常ガス噴流の混合気形成および燃焼過程に関する研究」, 同志社大学,研究概要,2002年.

水素噴流可視化例(シャドウグラフ法)

水素噴流可視化例(シャドウグラフ法)

 

2.水素噴流のシミュレーション

先述の論文記載のシャドウグラフ法実測に対して、CONVERGEを用いて計算した結果を下図に示します。噴孔径0.7mm、燃圧8MPaの条件とし、計算で得られたペネトレーションを赤線で表示しています。噴孔近傍のメッシュサイズは0.125mm(噴孔サイズ内におよそ6セル)と細かく設定しています。その下図は、噴孔近傍以外のメッシュサイズの影響を示しており、1.0mmサイズでは立ち上がりに差異が見られたものの、0.5mmサイズ以下ではほぼ同じ結果が得られることがわかりました。

 

ガス噴射による容器内水素自由噴流検証(左:CONVERGE結果、中:シャドウグラフ法実測結果、右:ペネトレーション比較)

ガス噴射による容器内水素自由噴流検証(左:CONVERGE結果、中:シャドウグラフ法実測結果、右:ペネトレーション比較)

容器内水素自由噴流メッシュサイズ影響検証

容器内水素自由噴流メッシュサイズ影響検証

 

精度面において、ある程度満足できる計算結果となりましたが、実機適用を見据えた上での課題をまとめます。

(1)計算コストの増加

先述のとおり、噴孔近傍で非常に高速な流れとなる一方で、数百ミクロンという噴孔サイズやそこからの噴流速度分布を適切に再現する必要があることから、噴孔近傍のメッシュサイズをミクロンオーダーに設定しなければなりません。この両者の影響によって時間刻み幅が非常に小さくなり、先の例では1e-8sオーダーとなりました。これは実機エンジンに適用した際に、噴射期間中ずっと小さな時間刻み幅を適用しなければならず、計算コスト面で大きな課題となります。一方で液体噴射の場合には、流体メッシュとは独立した液体パーセルを使うため、メッシュサイズの制限を緩和することができました。もちろん、液体パーセルと流体セルとの間で運動量などの物理量交換を行うため、メッシュサイズの影響はゼロではありません。

(2)ペネトレーション適合の難しさ

ガス噴射の場合にはガス挙動を直接解くため、メッシュサイズや乱流モデルがペネトレーションや拡散度合いの精度を決めます。つまり、もし実測に合わない場合は、メッシュサイズを精細化するなどの力技か、本来変えるべきでない噴射速度や噴射方向の変更などが必要となってしまいます。一方で、液体噴射の場合には、分裂モデルや噴射モデルのパラメータ調整によってペネトレーションを合わせこむことが可能です。

3.ガスパーセル法導入のご提案

これらの課題を解決する手法として、ガスパーセル法をご提案します。

ガスパーセル法は、藤本ら(日本マリンエンジニアリング学会誌、2007年)によって提案された手法で、液体パーセルに類似したガスのパーセルを導入して噴孔近傍のメッシュサイズ要請から脱却することが可能です。

噴射するガスは有限個のパーセルで表現され、このパーセルが移動しながら徐々にメッシュ解像されている気相へと運動量を渡します。このとき、ガス化する速度などを調整し、2つ目の課題であったペネトレーション適合の容易さをも実現することができます。CONVERGEでは、UDF(User Defined Function)で実装しています。

ガスパーセル法による噴孔近傍の計算イメージ

ガスパーセル法による噴孔近傍の計算イメージ

 

先述の定容器噴流計算をガスパーセル法で実施した結果を下図に示します。流体メッシュは0.5mm均一とし、噴孔近傍で細分化は実施していませんが、実測相当のペネトレーションや横方向の広がりが得られています。計算時間もガス噴射時に比べて87%削減(10.96時間→1.43時間)でき、高い有効性が確認できました。

 

ガスパーセル法による定容器水素噴流検証

ガスパーセル法による定容器水素噴流検証

 

実機水素エンジンへの適用例として、前回も取り上げたサンディア国立研究所の水素エンジンを題材とした計算結果をご紹介します。ヘッド中央から水素ガスを噴射し、吸気側点火プラグで点火する方式で、水素噴射期間は吸気行程中の34degCAです。以下に、従来のガス噴射手法とガスパーセル手法との比較を示します。遜色ない速度、乱流、当量比分布が得られ、吸気行程と圧縮行程を合わせた計算時間は、39.1時間が17.2時間に短縮、なんと、56%も削減することができました。このように、ガスパーセル法はガス噴射のパラメータ調整を可能にし、かつ効率的に解くことができる手法です。

IDAJには多数の実績がございますので、ご興味がございましたら是非ご一報ください。

 

水素エンジン検証:速度分布(コンターレンジ0~800m_s)

水素エンジン検証:速度分布(コンターレンジ0~800m/s)

水素エンジン検証:乱流エネルギ分布(コンターレンジ0~100m2/s2)

水素エンジン検証:乱流エネルギ分布(コンターレンジ0~100m2/s2)

水素エンジン検証:当量比分布(コンターレンジ0.0~2.0)

水素エンジン検証:当量比分布(コンターレンジ0.0~2.0)

水素エンジン検証:累積の計算時間

水素エンジン検証:累積の計算時間

 

次回は、メタンスリップや未燃炭化水素排出予測のための壁面消炎モデルについてご紹介します。

ご不明な点やご相談がございましたら、どうぞお気軽に下記までお問い合わせくださいますようお願い致します!

 

 

修正・更新:2023年12月7日

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