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標準機能で計算できないなら、iconCFDカスタマイズソルバーで解決!(その2)

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの伊藤です。

前回に続いてiconCFDのカスタマイズソルバーとその事例をご紹介します。

 

iconCFDカスタマイズソルバー

解析事例

VOF沸騰ソルバー(その1をご覧ください。)

焼き入れ解析

液膜相変化モデル(本記事でご紹介します。)

シリコンウェーハの洗浄・乾燥解析

VOFエアレーションモデル、エロージョンモデル(本記事でご紹介します。)

配管中のエロージョン解析

FGM(Flemelet Generated Manifolds)モデル(本記事でご紹介します。)

ガスバーナー燃焼器

液膜相変化モデル

液膜モデルは、薄く広がる液膜の様子を解析するために利用されているモデルの1つで、液膜の解析をVOF法のような気液混相流解析手法で実施する場合は、液膜を解像するためにメッシュを細かくする必要があるため計算コストが非常に大きくなります。一方、液膜モデルを利用する場合はそれほどメッシュを細かくせずともよく、短時間で計算することができます。このモデルはシリコンウェーハの洗浄過程のような、液膜が薄い場合に利用されています。

シリコンウェーハ洗浄解析(相変化は考慮せず)※色は0~0.5mmの液膜の厚さ

シリコンウェーハ洗浄解析(相変化は考慮せず)※色は0~0.5mmの液膜の厚さ

 

本モデルでは、液膜モデルに液膜の相変化(蒸発・凝縮)を考慮した解析が可能です。検証解析の結果から、文献[3]の凝縮・蒸発速度の実測結果と本モデルの計算結果が、よく合っていることが分かります。検証解析には簡易的な形状を用いましたが、IDAJには、大規模な実機スケールの形状で計算した実績があります。

液膜モデル+相変化ソルバーの検証結果

液膜モデル+相変化ソルバーの検証結果

凝縮速度の比較(左)と蒸発速度の比較(右)(左は赤丸が、右は緑三角の点がiconCFDの結果)

凝縮速度の比較(左)と蒸発速度の比較(右)(左は赤丸が、右は緑三角の点がiconCFDの結果)

VOFエアレーションモデル、エロージョンモデル

エアレーションとは液体中に空気が溶け込む現象、エロージョンとは液体と接触する固体表面の腐食現象のことです。特に、液体中の圧力が局所的に飽和蒸気圧以下となる場所で発生する、急激な気泡の発生(キャビテーション)による固体の腐食現象は、キャビテーションエロージョンと呼ばれます。このエロージョンは、液体が流れる配管の設計で問題となるため、シミュレーションによる予測が重要です。

このシミュレーションのために、iconCFDのVOFモジュールに標準搭載されている非定常キャビテーション2相流VOFソルバーにエアレーションモデルを追加し、キャビテーションとエアレーション現象を同時に解析できるソルバーを開発しました。

標準搭載されているVOFソルバーは、2相流を対象としているため気相と液相のVOF値しか考慮していませんが、エアレーション(溶解-脱離)モデルを追加するために蒸気相、空気相、液相のVOF値と、液相の溶融ガスの質量分率の輸送方程式を考慮しています。キャビテーションエロージョンの評価は、文献[4]のerosion powerで評価します。

以下の検証計算の設定と結果から、縮流部で大きな圧力低下が生じていることがわかります。キャビテーションが急激に発生して蒸気が発生していますが、空気があまり発生していないのは、融解空気の離脱速度がキャビテーションと比べて遅いためです。本ソルバーの結果と別ソルバーの結果とを比べると、定性的な結果は一致していますので、結果の違いは解析手法の違いによるものと考えられます。

VOFエアレーション・エロージョンモデルの検証計算設定と結果

VOFエアレーション・エロージョンモデルの検証計算設定と結果

FGM(Flamelet Generated Manifolds)モデル

代表的な燃焼モデルには、乱流渦の消散速度が反応速度を律速すると仮定した渦消散モデルや、中間反応を含めて考慮する詳細反応モデルなどがあります。渦消散モデルの計算速度は速いのですが、反応速度が比較的ゆっくりとした状況では精度が悪化します。反対に詳細反応モデルの精度は高いと考えられていますが、中間反応も含めて計算を行う必要があるため計算コストが上がります。FGMモデルは、計算精度と計算コストのバランスを取った燃焼モデルとして知られています。

FGMモデルでは、反応によって生じる火炎の火炎片に注目します。事前に、この火炎片における詳細化学反応計算を行い、流体計算では火炎片の反応計算結果をマッピングすることで燃焼解析を実行します。詳細反応モデルでは、流体解析を行いながら反応計算を行うために計算コストが上がりますが、FGMモデルでは流体解析中に反応計算を行わないため、比較的計算コストが低くなるというわけです。

検証計算として文献[5-7]の加圧下におけるメタン-空気系の希薄予混合燃焼実験を再現しました。下図は、加圧下におけるメタン-空気系の希薄予混合燃焼実験[4]の実測の模式図と結果です。この実験は可燃限界に近い当量比での実験で、計算精度が低いと失火してしまう恐れがあります。

実験装置の模式図(左)、当量比0.56、0.50、0.43での火炎長の実測結果(右)

実験装置の模式図(左)、当量比0.56、0.50、0.43での火炎長の実測結果(右)

 

解析の温度場、OH場の時間変化から燃限界に近い条件であっても失火することなく解析ができています。実測では当量比が下がるにつれて火炎長が長くなっていますが、同様の傾向がOH場の分布で得られており、実測をよく再現できています。

温度場(左)とOH場(右)の時間変化

温度場(左)とOH場(右)の時間変化

 

ennovaCFDのUserGUI機能を用いたカスタマイズソルバー用GUI

ここでご紹介したカスタマイズモデル・ソルバーは、iconCFDの標準機能ではないため、iconCFD用のGUIでは設定できませんので、これまではIDAJが作成したカスタマイズソルバー用の設定手順書を使って、お客様ご自身で設定していただいていました。そこで、解析設定工数削減のために、iconCFD用のプリ・ポストツール「ennovaCFD for iconCFDUserGUI機能を用いてカスタマイズモデル・ソルバー用のGUIを開発しています。

沸騰ソルバーでは、加熱壁面からの熱流束や相変化のパラメータ値を与える必要があります。これらパラメータをGUIで設定、沸騰ソルバー専用の設定ファイルを書き出して計算します。GUIから直感的に操作ができるため、解析専任者でなくても簡単に設定することができます。

他のカスタマイズモデル・ソルバー用GUI開発のご要望、ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

沸騰ソルバーのためのGUI

沸騰ソルバーのためのGUI

 

iconCFDはオープンソースソフトウェアであるため、他の商用CFDコードと比べてカスタマイズの自由度が非常に高いのが特徴です。今回ご紹介した以外にも触媒反応モデルやオイラー相変化モデル、噴霧燃焼モデルなどを開発しています。またお客様のご要望に基づいた物理モデルを組み込んだソルバーやGUI開発が可能です。

参考文献

[3] W. Ambrosini, M. Bucci, N. Forgione, et al., Comparison and analysis of the condensation benchmark results, in: Proceedings of the 3rd European Review Meeting on Severe Accident Research (ERMSAR-2008), Nesseber, Bulgaria, September 2008.

[4] O. Usta, B. Aktas, M. Maasch, O. Turan, M. Atlar, E. Korkut, A study on the numerical prediction of cavitation erosion for propellers, in: Proceedings of the 5th International Symposium on Marine Propulsors, Espoo, Finland, 2017.

[5] P. Griebel et al., Flow Field and Structure of Turbulent High-Pressure Premixed Methane/Air Flames, in: Proceedings of GT2003, ASME Turbo Expo 2003: Power for Land, Sea and Air, June 16-19, 2003, Atlanta, Georgia, USA.

[6] P. Griebel et al., Flame Characteristics and Turbulent Flame Speeds of Turbulent, High-Pressure, Lean Premixed Methane/Air Flames, in: Proceedings of GT2005, ASME Turbo Expo 2005: Power for Land, Sea and Air, June 6-9, 2005, Reno-Tahoe, Nevada, USA.

[7] P. Griebel et al., Lean Blowout Limits and NO Emissions of Turbulent, Lean Premixed, Hydrogen-Enriched Methane/Air Flames at High Pressure, in: Proceedings of GT2006, ASME Turbo Expo 2006: Power for Land, Sea and Air,  May 8-11, 2006, Barcelona, Spain.

 

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