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OpenFOAMによる“沸騰・凝縮”・“化学反応・拡散”解析(原子力分野)

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの伊藤です。

2023年2月「GX(グリーントランスフォーメーション」)実現に向けた基本方針」が閣議決定され、脱炭素化とエネルギー安定供給の両立に向け、2030年度の電源構成において原子力比率20~22%の達成を目指すことが明記されました。それを受けて、既設の原子炉の再稼働、安全性向上を目指した次世代革新炉の開発・建設に関する報道を目にする機会が増えてきました。

弊社では、加圧水型軽水炉(PWR)の蒸気発生器内の相変化計算や圧力容器の冷却計算など、OpenFOAMを使用したCFD解析の実績が数多くあります。原子力分野だけでも解析対象は多岐にわたりますが、本記事ではOpenFOAMを使用した計算例としてはまだ目にする機会の少ない“沸騰・凝縮”と“化学反応・拡散”をテーマに、IDAJで計算した事例をご紹介します。

これらのテーマは、商用CFDソフトウェアでも安定的に計算することが難しいことがあります。比較的難易度の高いこれらのテーマの解析事例を通して、オープンソースCFDソフトウェアの実用性の高さをご理解いただけるようにわかりやすくご説明します。

沸騰・凝縮

沸騰・凝縮といった相変化を伴う現象は、時空間的に急激な密度変化が発生し、熱バランスを保ちながら、安定に計算するのが難しい解析対象です。

例えば、高精度な冷却制御が求められる鋼板の冷却挙動の計算では、水噴流が鋼板に衝突する際に沸騰が発生し、また発生した蒸気が水で冷やされ凝縮するため、鋼板周囲では急激な密度変化が発生します。

鋼板の冷却解析

混相流の計算手法には、VOF法やオイラー混相流モデルなどがあり、解析対象に応じて使い分けています。まずはVOF法を使った事例からご紹介します。

 

  • VOF法

対象は、原子炉圧力容器内溶融物保持(IVR)です。溶融炉心が圧力容器底部に落下し、沸騰を伴う自然対流によって圧力容器外部から冷却するプロセス(外部原子炉容器冷却、External reactor vessel cooling :ERVC)をモデル化して計算しました。

IVR-ERVCの実現可能性を正確に評価するには、下向き加熱面からの周期的な沸騰現象に伴う限界熱流束(CHF)の高精度な予測が必要です。VOF法によって気液界面形状を再現した自由表面流れ計算することで、蒸気膜の有無による固体-流体熱伝導の差異を考慮した計算を行うことができます。

下向き加熱面の周期的な沸騰現象の再現計算

 

また、この計算手法は主要な熱処理方法の1つである焼入れ工程の検討にも適用することができます。

沸騰性冷却材を用いた急冷処理において、冷却特性に大きく影響する処理物表面の蒸気膜の挙動を精度良く予測できますので、熱応力や変動応力の発生原因の1つである表面と内部の冷却差などを小さくするための対策検討等への活用が期待できます。

焼入れ解析

 

  • オイラー混相流(二流体モデル)

沸騰水型原子炉(BWR)や加圧水型原子炉(PWR)では、冷却材喪失事故時に、格納容器内圧の上昇を抑えるために、高圧水蒸気をプール水中に噴射して液体に戻す工程があります。このプロセスでは、凝縮に伴う急激な体積変化により大きな圧力振動が発生するため、周辺機器への影響の低減が設計上の課題の一つです。

そこで水と水蒸気の両方を連続相としてオイラー混相流でモデル化し、ノズルから水中に噴出する遷音速・超音速の水蒸気の噴流が急激に凝縮する現象を計算しました。計算の安定性が良く、圧力振動の振幅も実測に近い結果を得ることができています。

プール水中での高圧水蒸気の凝縮解析

化学反応・拡散

  • 水素爆発

化学反応計算の例として最初にご紹介するのは、NEDOが実施した水素爆轟実験を対象とした、テントの中の水素と空気の混合気の点火による火炎伝播現象の解析です。この計算では、燃焼モデルにPaSRモデルを使用し、化学種9つ、化学式21本の反応機構を使用しました。

水素-空気混合気の点火による火炎伝播現象解析

 

  • 触媒(表面反応)

排ガス規制が厳しさを増し、排出ガス浄化能力の向上が課題となっている三元触媒コンバーターを対象として、触媒表面での表面反応を考慮した計算を行いました。各化学種の物性値モデルには、気体分子運動論に基づくKinetic theoryモデルを使用しました。

表面反応を考慮した三元触媒コンバーターの熱流体解析

表面反応を考慮した三元触媒コンバーターの熱流体解析

 

  • 大気拡散

ビル風など、風環境の予測と評価を大規模な空間領域で行うことはもちろん可能ですが、多成分の化学種拡散、粒子追跡の計算機能を使用した計算を行うことで、気流場のみならず、拡散場の予測も可能になります。

この計算では、発電所の冷却塔からの排気プルームの上昇と排気中のトレーサー粒子の地面への堆積量の予測を目的として定常計算を実施しました。どちらの予測精度についても良好な結果が得られています。

 

排気プルーム上昇および排気中のトレーサー粒子の地面への堆積量の予測

排気プルーム上昇および排気中のトレーサー粒子の地面への堆積量の予測

 

今回は、原子力分野の事例を中心に、OpenFOAMを使用した“沸騰・凝縮”・“化学反応・拡散”の計算事例をご紹介しました。こういった数値計算の難易度が高い複雑な物理現象であっても、OpenFOAMを使用して実用的な計算が可能であることが少しでもご理解いただければ幸いです。

ここでご紹介したテーマだけでなく、異なるテーマでも、「OpenFOAMを使用してこんな計算を実施したい」というご要望やアイディアがございましたら、どうぞお気軽に当方までご連絡ください!

 

 

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