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造船や海洋開発分野でのCFDの効率的な適用のために

Yutaka Ito

皆さま、こんにちは。

IDAJの伊藤です。

 

2016年にパリ協定が発効し、脱炭素化の世界的な機運が高まる中、今後、需要拡大が見込まれる国際海運分野でも、さらなる温室効果ガス(GHG)の排出削減が喫緊の課題となっています。日本では、海上貿易や海事産業の持続的な発展を図りつつ、地球温暖化に対処するための国際的な取組に積極的に貢献すべく、2018年には産学官公の連携による「国際海運GHG ゼロエミッションプロジェクト」が設立されました。

国際海運分野においては、GHG 削減戦略策定以前から、船舶のエネルギー効率設計指標(EEDI)を導入し、段階的に規制値を強化する等、船舶から排出される GHG を削減する取組が行われきました。特に2050年以降の目標達成のためには、従来の取り組みの継続だけでなく、化石燃料を中心とする従来の燃料から、低・脱炭素燃料への切り替えを進めるなど、従来と異なる様態・規模で取り組みを加速しなければなりません。

 

出典:「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ(概要版)」国土交通省p9

 

リーマンショックがあった2008年秋以降に激減した新造船受注量は、世界経済の成長に伴い、海上荷動きの増加、老朽船舶の代替、液化天然ガス(LNG)燃料船などの発注が回復基調にあると言われています。その中で、国際競争に打ち勝ち、造船の受注を確保し続けるために、日本が得意とする船舶の省エネ技術のさらなる発展が必要です。

 

海事生産性革命「i-Shipping & j-Ocean」におけるCFD

2016年6月に、国土交通省 交通政策審議会より「海事産業の生産性革命(i-Shipping)による造船の輸出拡大と地方創生のために推進すべき取組について」が答申、ここでは、情報技術等を活用して、船舶の「開発・設計」から「建造」、「運航」に至るすべてのフェーズにおいて生産性を向上させ、2025年の世界建造シェアを3割とすることを目標として掲げられました。このうち、「開発・設計」においては、新船型の開発期間の半減を目指すこととしており、日本造船業におけるCFD(※)の活用拡大による船型開発能力の向上を主要な取組の一つとされているため、海事産業に関連する企業や大学などではCFDの高度化に向けて研究が進んでいます。

※CFD(Computational Fluid Dynamics 数値流体力学):計算機上で船体の周囲の流れを再現し、水槽試験を用いずに船体の抵抗等を算出する手法

海洋開発は、多くの船舶が用いられ、その単価とエンジニアリング費の占める割合が高いことから付加価値ビジネスにもつながるため、日本の海事産業にとって重要な分野です。そこでこの分野への進出に向けて、海事生産性革命の第二弾となるj-Oceanが、新しい市場獲得のために推進されています。ここでも海洋開発分野の施設等の設計、建造から操業に至るまでの海事産業の技術力・生産性向上当等が求められています。

 

海事産業におけるCFDをイメージしていただくために、いくつかの事例をご紹介します。

①混相流と流体構造連成機能を使って、船体の6自由度運動を解析しています。気液界面は、解適合格子機能(AMR:Adaptive Mesh Refinement)で解像度高く解いています。本手法によって、波による水上浮揚体の挙動も予測することが可能です。(使用ソフトウェア:CONVERGE)

 

 

 

②伴流を均一化する船舶用ダクトの設計​

伴流(後流)とは、流体中を運動する物体または流れの中で静止している物体の後ろに現れる、乱れた領域のことを指します。船舶において伴流は推力を低下させる原因になります。そこで本事例では、プロペラ付近に設置される伴流を均一化するダクトの設計最適化を行いました。

船体が受ける抵抗の最小化を目的として、遺伝的アルゴリズムを用いて計算しました。数日かかる数千のジオメトリの設計を自動的に処理し、最適なデザインのダクトを3つ選ぶことができました。いずれもリファレンスに比べて性能が高く、抵抗を最大で4%削減することに成功しています。

 

 

造船や海洋開発分野でCFDを活用するために必要なこと

CFDソフトウェアには、内製のCFDソフトウェア、汎用的な市販のCFDソフトウェア、Open SourceのCFDソフトウェアがあります。ソフトウェアを内製できない場合は、市販ソフトウェアやOpen Sourceソフトウェアを導入することになります。いずれにしても、ソフトウェアの使い方を覚えるための教育・トレーニングコスト(費用・時間)がかかります。そして、市販のソフトウェアの購入にあたっては費用がかかります。市販ソフトウェアには、豊富な解析機能が備わり、操作性が良いといった特長があり、また中期的に見れば、工数短縮や実験・試作の削減等によってソフトウェア購入時の費用が回収されていくはずですが、CFD技術立ち上げにあたっての初期投資は安いものではありません。

 

市販のCFDソフトウェアに関しては、以下も併せてご高覧ください。

 ・商用CFDソフトウェアの成熟とニーズの二極化

 ・商用CFDソフトウェアが抱える課題

 

Open Source CFDソフトウェアは無償で提供されており、またオープンコードであるため、ユーザー様の真の資産となります。お客様の投資は、テーマごとの技術開発、保守、技術サポート、システム化等に集中させます。ソースコードでのご提供となりますので、技術開発、自動化、システム化、他ソフトウェアとのリンクが簡単です。技術サポートを提供するベンダーも自由競争となるため、適正なマーケット環境から選択することができます。

一方で、課題があるのも事実です。ユーザー自身での習得、デバッグ、改良、システム構築、利用者展開を行う必要があります。また、誰もが使いやすいようにコードやGUI、操作フローなどが洗練されているわけではありません。例えば、ソルバーコードだけでも80種類以上あり、多くのバラメータ設定を必要とし、また、ドキュメント類も整備されていません。 ソルバーは、商用CFDソフトウェアほど強力ではなく、メッシャーは、ラフさ、メッシュ品質において商用CFDソフトウェアに劣ります。

さらに、数値解析を有効に活用するためには、ソフトウェアの操作技術だけでは足りません。そこには適用技術や知識・経験に基づくノウハウなどが不可欠です。 コードを理解し、デバックや機能向上とバージョンアップ対応、物理モデルの組込みとカスタマイズ、マニュアル作成、利用者の技術サポートとトレーニングなどは、ユーザー様ご自身での対応が求められます。問合せ先も、ソフトウェアベンダー1社のみでなく関係する世界中の窓口が対象です。

 

Open Source のCFDソフトウェアのメリットを享受するには?

市販のCFDソフトウェア、Open SourceのCFDソフトウェア共に、一長一短があります。どちらが良いか、悪いかではなく、お客様のご利用目的に対して、相応しい方をご選択されるべきだと考えます。そして、Open SourceのCFDソフトウェアを導入される場合には、そのメリットを十分に享受するために、市販のCFDソフトウェアに近いユーザーGUIを備えたプリポストプロセッサーのご準備と、技術サポート体制を整備されることをお勧めします。

もちろん、弊社からもこれらソリューションをご提供させていただきます。

 

ennovaCFDとは?

ennovaCFD は、IDAJとEnnova Technologies社で開発したOpen SourceのCFDソフトウェアの一つ「OpenFOAM(註1)」用プリポストプロセッサーです。また、ennovaCFDで設定が可能な範囲であれば、OpenFOAMのサポートも可能です(別途オプション)。

なお、ennovaCFDが対応するのは、OpenCFD版(ESI版)のOprenFOAMです。

(註1)ESI GroupのOpenCFD社が商標登録を持つ物理場の演算コード群です。

Open SourceのCFDソフトウェアの大きなデメリットの一つとして数えられる操作性を、市販のCFDソフトウェアと同等のレベルまでに引き上げることを目的として開発に着手しました。

 

 

ennovaCFDの特徴

  1. トポロジー修正機能
  2. 強力な自動メッシャー機能
  3. 豊富なOpenFOAM設定機能
  4. 業務効率化のための支援機能

 

1.トポロジー修正機能

OpenFOAMに付随する自動メッシャー「snappyHexMesh」は、STL(Stereolithography)などのトポロジー情報を持たないファセットからメッシュを作成します。その結果、CAD形状で重要となるフィーチャーなどを認識できず、形状再現性が著しく低下します。

ennovaCFDは、CADの中間フォーマット形式(step形式など)を入力データとし、ennovaCFD上でそれらの修正や追加を実行でき、基本的には他のツールを介さずにメッシュ生成するトポロジーとして修正することができます。また、閉空間抽出を自動で行うため、複雑な固体を含む熱流体解析の面倒な作業の一つである各部品の定義をユーザーが行う必要はありません。

 

 

 

2. 強力な自動メッシャー機能

ennovaCFDは、CADのフィーチャーを認識し、それを生かしてメッシュを自動で生成する「Topology Based Mesh」というアルゴリズムを採用した、非常に強力なメッシャーです。

Topology Based Meshが威力を発揮するのは、翼エッジなどへメッシュを寄せたい場面です。

多くのメッシャーでは、ユーザーが手動で翼エッジへメッシュが寄るように設定しますが、ennovaCFDではメッシャーがトポロジーを認識して、自動で翼エッジへ寄せたメッシュを生成します。

ennovaCFDで生成可能なメッシュタイプは、レイヤーメッシュ、テトラメッシュ、ポリヘドラルメッシュです。

 

3.豊富なOpenFOAM設定機能

ennovaCFDは、非圧縮、圧縮、VOF、CHT、粒子、Overset、移動メッシュ、Adjoint機能、Waveモデル、多数のfunctionObject、多数のfvOptionsなど、他のOpenFOAM用GUIと比較しても豊富な設定メニューがあります。

ennovaCFDのOpenFOAM設定GUIは、国内で開発していますので、日本のユーザー様のご要望を取り入れるのは、柔軟かつ敏速に対応しています。この点においては、海外製ツールとの違いが明らかとなります。

設定メニューの豊富さは、解析事例をご覧いただければご理解いただけるものと思いますので、ぜひこちらもご覧ください

 

 

4.業務効率化のための支援機能

ennovaCFDは、OpenFOAM用プリポストを支える三本柱の機能のほかにも、業務効率化のための支援機能を備えています。これら機能は、お客様のCFD解析を効率化し、成果をあげていただくことに大いに貢献できるものと確信しています。

 

基本的な結果処理機能:複雑な結果処理が必要ない場合は、ennovaCFDだけで解析工程が完結します。

パワフルなマクロ機能:マクロ機能を使って作業を自動化し、定型業務対応や最適化解析に貢献します。

UserGUI機能:定型業務のGUIの簡易化、OpenFOAMへの未対応設定やカスタマイズ機能GUIなどを作成できます。

 

 

造船分野での適用事例のご紹介

OpenCFD版(ESI版)OpenFOAMを使用した、造船分野での計算事例をご紹介します。

  1. プロペラ解析
  2. 船体解析
  3. 洋上解析

 

1.プロペラ解析

(1)マクロで自動化した単相プロペラ解析

PPTC case2.3.1のキャビテーションタンクモデルを、単相非圧縮simpleFoamで計算しました。計算と計測の比較は、キャビテーション無しのKt値としました。翼周りの解析に適した、Topolog based meshで翼端にヘキサメッシュを自動生成しています。

OpenFOAMの解析結果は、PPTC case2.3.1の実験結果とKtがよく一致していることがわかります。

 

 

(2)伴流を考慮したプロペラ解析

伴流プロペラ単体解析ツールは、ennovaCFDのUserGUI機能を使用しました。PIVで計測した2次元断面流速ベクトルを使って、プロペラ上流の流速を固定します。計測した2次元断面流速ベクトルは、座標値(Y,Z)とおにUserGUIに読み込んで設定しました。

一様流中のプロペラ単体解析とは違い、伴流を考慮した場合でもennovaCFDを使うと簡単に解析を実施できます。

 

(3)キャビテーション解析

interPhaseChangeDyMFoamを用いたPPTC case2.3.1のキャビテーション解析は、KtとKqともに実験と大変良い一致を示しています。

 

 

2.船体解析

(1)マクロで自動化した自航解析・抵抗解析

ennovaCFDのマクロ機能を使って、単相非圧縮simpleFoamの自航解析・抵抗解析を実施した事例です。船型は公開船型JBCを使っています。収束性がよく、短時間で結果が得られます。

 

 

(2)定常VOFを利用した造波自航解析/抵抗解析

時間積分にlocalEuler法を適用し、定常VOF解析法を使って造波抵抗を考慮した自航解析・抵抗解析を実施した事例です。通常の非定常VOF解析と比べて短時間で解析結果を得ることができます。船型は公開船型JBCを使用し、プロペラの回転効果は、MRF法で反映させています。

 

 

 

(3)Oversetメッシュによる自由航行解析

6自由度モデルとOversetメッシュ機能を使って自由航行解析を実施した事例です。この解析では、プロペラの推進力で船体が動きます。解析領域はその船体の動きとともに移動していきます。

 

 

 

3.洋上解析

(1)不規則波解析(OC6 LC3.5)

不規則波の事例として、OC6 LC3.5をハーフモデルで計算したケースを示します。この事例では、不規則波の減衰を検討するため、構造物を取り除いて不規則波の伝播だけを観察しています。

 

 

 

(2)Oversetメッシュによる洋上構造物解析(OC5)

Oversetメッシュを使った洋上構造部の解析事例です。解析対象はOC5の構造物と計算条件です。係留策は線形ばねで反映させています。

 

 

 

 

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