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電子機器サプライチェーン間のモデル流通に最適な熱モデル「組み込み型BCI-ROM」誕生!

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの錦織です。

製品の開発プロセスが、モデルベースデザイン(MBD)へと移行されようとする変革期において、モデルの重要性は益々高まっています。モデルには開発段階に応じた粒度・精度が求められますが、社外流通を踏まえると情報の秘匿性も確保しなければなりません。

電子機器の熱設計においては、従来から半導体部品や受動素子部品の熱モデルが部品メーカから提供され、それらが流通していますが、精度と情報の秘匿性の両立が困難なため、提供モデルの多くが熱抵抗モデルと呼ばれる簡易モデルで、高精度な詳細モデルは提供されにくい状況にありました。

そこで、この課題を解決し、モデル流通を円滑に促進するため、202310月にリリースされた電子機器専用熱設計支援ツールSimcenter Flotherm 2310では、“組み込み型BCI-ROMEROMEmbeddable BCI-ROM)”の機能が実装されました。本記事ではこの新機能についてご説明します。

ROMとBCI-ROM

組み込み型BCI-ROMEROM)をご説明する前に、「ROM」と「BCI-ROM」について簡単にご紹介します。

一般にROMReduced Order Model)とは、過渡現象含む3次元モデルの挙動を維持したまま適切に低次元化した近似モデルで、モデル規模が小さいため、ROMを使うことで計算コストを大幅に削減することができます。この3次元モデルからROMを出力する機能は、Simcenter Flotherm 2019.2からご利用いただけます(オプション機能)。こちらは、FlothermでのROMの出力処理のイメージです。数式処理で低次元化して出力されるため、熱流体解析の結果は必要なく、また、ROMから元の3次元モデルの情報を得ることは不可能で、秘匿性が極めて高いのが特徴です。

FlothermのROM出力の処理イメージ

FlothermのROM出力の処理イメージ

 

BCI-ROMBoundary Condition Independent ROM)は、Flothermが出力するROMの一つで、設定した熱伝達係数と温度が変わっても、元のFlothermモデルの挙動を再現できるように出力されるため、BCI-ROMを使って解析をするときに、熱伝達係数と温度を変更(再指定)して解析することができます。つまり、BCI-ROMの設置環境として、自然空冷・強制空冷・水冷などのあらゆる環境条件を想定することができます。なお、FlothermROMは、線形伝導モデルから出力される仕様のため、元となるFlothermモデルの対流と輻射は、形状の表面に設定する熱伝達係数と温度でモデル化します。元のFlothermモデルと出力したBCI-ROMの端子イメージを示します。

ROMを出力するためのFlothermモデル(3次元線形伝導モデル)と出力したBCI-ROMの端子イメージ

ROMを出力するためのFlothermモデル(3次元線形伝導モデル)と出力したBCI-ROMの端子イメージ

 

このBCI-ROMは、Flotherm以外のPartQuest Explore(シーメンス社)やGT-SUITE(Gamma Technologies社)といった、様々なシステムツールで使用することができます。

※BCI-ROMの精度検証につきましては、シーメンス社から発行されたドキュメントを弊社ユーザーサポートセンターからご提供していますので、あわせてご参照ください。

このSimcenter FlothermのROMについてはブログ記事「ROM(Reduced Order Model:縮約モデル、低次元化モデル)技術を用いた事例(その2)」でご説明していますのであわせてご高覧ください。

BCI-ROMの使用例

BCI-ROMの使用例

EROM:Embeddable BCI-ROM

EROMは、Flotherm 2310で実装された新しいモデル入出力機能で、BCI-ROMをFlothermで使用できるようにしたものです。特長は、下記の通りです。

  • 内部構造をブラックボックス化、つまり秘密にしたままモデルを出力
  • 解析精度は詳細モデルと同レベル
  • 複数発熱源、過渡解析に対応
  • 半導体パッケージや基板などFlothermで作成したモデルであればEROM化可能
  • Flothermの他の部品モデルと同じ感覚で使用でき、対流・輻射を考慮した計算が可能

EROMは、電子機器の熱設計において、部品メーカー様・セットメーカー様ともにWin-Winな熱モデルであり、EROMをご活用いただくことでモデル流通の活性化による解析精度向上や工数短縮などが期待できます。

電子機器サプライチェーン間のモデル流通に最適なEROM

電子機器サプライチェーン間のモデル流通に最適なEROM

ここからは、BGAパッケージの詳細モデルをEROM化し、それをスマートフォンモデルに取り込んで解析するまでの流れをご紹介します。

1.EROMのエクスポートの準備

FlothermROMは線形伝導モデルがベースなので、Flotherm Packで作成したCPU詳細モデル(BGA15mm x 15mm196pin)の表面に熱伝達係数と環境温度を設定(解析領域面とカットアウトを使用)し、Siliconの熱伝導率を単一値とする、[解析タイプ]熱伝導のみにするなどの設定を行います。

EROMのエクスポートの準備

EROMのエクスポートの準備

2.EROMエクスポート

上記モデルからEROMをエクスポートします。本ケースでは、出力に要した時間は約5秒でした。

EROMのエクスポート

EROMのエクスポート

3.EROMのインポート

Flotherm 2310で実装された[組み込み型BCI-ROM]スマートパーツを使用し、EROMを選択してプロジェクトにインポートします。EROMの外観は、内部構造が無く、アウトラインだけが表示されます(注)。EROMのインポート後、発熱量と輻射率を設定します。

(注)ダイアログで、ソースとモニター点をEROMで表示させる設定が可能

EROMのインポート

EROMのインポート

4.プロジェクトの解析

EROMを基板上に配置し、比較のために詳細モデルとEROMの2ケースで解析を行います。

解析プロジェクト

解析プロジェクト

5.解析結果比較(詳細モデル vs EROM

解析結果から、EROMが詳細モデルの挙動を精度良く再現できていることが確認できます。また両プロジェクトの合計セル数と解析時間を比較すると、EROMを使用することで、セル数が減り、解析時間が短縮されたことがわかります。

解析結果比較(詳細モデル vs EROM)

解析結果比較(詳細モデル vs EROM)

 

CPUモデル

合計セル数

解析時間

詳細モデル

1,185,066 

29分30秒 

EROM

612,572 

17分4秒 

複数の発熱源に対応

マルチチップモジュールをEROM化し、ヒートシンク付き強制空冷環境で解析しました。複数の発熱源を持つ強制空冷環境ですが、EROMは詳細モデルの挙動を精度よく再現できています。

マルチチップモジュールの事例(強制空冷)

マルチチップモジュールの事例(強制空冷)

 

マルチチップモジュール

合計セル数

解析時間

詳細モデル

387,590 

26分4秒 

EROM

300,204 

24分12秒 

まとめ

本記事では、Flotherm 2310に実装されたEROMEmbeddable BCI-ROM)の概要をご紹介しました。EROMは、様々な実装条件で使用でき、高精度かつ秘匿性の高いモデルなので、電子機器サプライチェーン間のモデル流通に最適な新しい熱モデルだと言えます。ぜひ御社製品の熱モデルをFlothermEROMで出力し、サプライチェーンに展開してみませんか?

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