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永久磁石製造工程での圧縮成形や磁性トナーによる現像プロセスへの適用が可能!磁性体粒子シミュレーション

皆さま、こんにちは。

IDAJの金澤です。

離散要素法(DEM:Discrete Element Method)によるパーティクルシミュレーターAnsys Rockyで、強磁性材料粒子の磁気的な振る舞いを解析することができるソルバーモジュール(API:Solverモジュール)『Magnetic Dipole-Dipole Interaction』をIDAJで開発しました。このモジュールによって、Ansys Rockyの標準機能で可能な固体粒子の運動・接触などの解析に加えて、強磁性体材料の粒子に生じる磁気力を考慮した解析が可能になります。

この記事では、モジュールのモデルや機能についてご説明し、Ansys Rockyとこのモジュールを用いた解析対象を簡単にご紹介します。

Magnetic Dipole-Dipole Interactionモジュールの機能

磁性を示す物質には、正負の磁荷、いわゆるN極とS極が存在します。正負の磁荷は常に対となって存在し、単独では存在しません。正負の磁荷の対を磁気双極子と呼び、これが磁気に関する基本的な要素となります。また、この磁気双極子の性質は、磁気モーメント(磁気双極子モーメント)というベクトル量 で表現され、磁石の周りに生じる磁場や磁石同士の間に働く磁力などは、この磁気モーメント から計算することができます。Magnetic Dipole-Dipole Interactionモジュールでも、粒子の中心に定義された磁気モーメントを用いて磁気的な現象の計算が行われます。

1.磁性体粒子に作用する力

磁気モーメントをもつ粒子に作用する力として、本モジュールでは下記の2つが計算されます。

(1)各粒子の磁気双極子同士の相互作用力

(2)粒子のもつ磁気双極子が外部磁場から受ける外力

例えば、(1)の相互作用力を考慮することで、棒磁石同士が引き合う、反発するといった現象を計算することができます。

異なる磁極間に働く引力(左)と同じ磁極間に働く斥力(右)

異なる磁極間に働く引力(左)と同じ磁極間に働く斥力(右)

(1)に加えて(2)の外部磁場による外力を考慮することで、棒磁石のまわりの磁力線に沿って連なる砂鉄粒子の挙動を計算することができます(上図)。ここでは、棒磁石は粒子ではなく構造物として取り扱い、棒磁石によって生じる磁場はAnsys Maxwellで計算し、外部磁場としてAnsys Rockyに読み込ませました(下図)。

棒磁石と砂鉄を用いた磁力線の可視化実験(左)とAnsys Rockyによる砂鉄粒子の挙動解析(右)

棒磁石と砂鉄を用いた磁力線の可視化実験(左)とAnsys Rockyによる砂鉄粒子の挙動解析(右)

Ansys Maxwellを用いた棒磁石によって生じる磁場の解析

Ansys Maxwellを用いた棒磁石によって生じる磁場の解析

2.強磁性材料の磁化プロセス

強磁性体は常に磁石として振る舞うわけではなく、外部磁場の影響を受けて内部で磁気的な分極が起こった際に初めて磁石としての性質を持ちます。このような過程を磁化と呼びます。一般に、強磁性体の磁化特性は外部磁場 と磁性体内部に生じる磁束密度 の関係を示すB-H曲線で表されます(図左)。また、強磁性体に強い磁場をかけて磁化させると、磁場を取り去った後にも分極が維持される場合があり、その残留磁化が大きいものがいわゆる永久磁石です。

本モジュールでは、この磁化プロセスも考慮されています。前述の棒磁石と砂鉄の解析例では、B-H曲線を簡単な直線近似でモデル化して、磁化の計算を行いました(図右)。下段に示すように、棒磁石に近い砂鉄粒子ほど磁化によって生じた磁束密度が大きい結果となっています。また、棒磁石に特に近い砂鉄粒子では、飽和磁束密度に達する磁気飽和が起きています。

強磁性体の磁化プロセス

強磁性体の磁化プロセス

磁化によって生じた砂鉄粒子内部の磁束密度

磁化によって生じた砂鉄粒子内部の磁束密度

永久磁石製造のための圧縮成形プロセス

本モジュールを使用した磁性粉体シミュレーションの対象としては、永久磁石を製造するための磁性粉末の磁場中の圧縮成形プロセス(磁場成形)があります。

永久磁石の残留磁束密度を高めるためには、磁場成形工程において各粉末の磁化方向を揃えることが重要です。固体粒子や粉末の圧縮成形自体はDEMを用いた解析対象としてメジャーなものの1つで、商用のDEM解析ソフトウェアでも解析できますが、磁気的な作用や配向性を考慮した圧縮成形の解析は行うことができませんでした。しかし、こういった計算も本モジュールでは計算できます。

磁場成形プロセスの概略図

磁場成形プロセスの概略図

引用:小寺ら(2001)「磁場中成形時における磁性粒子挙動に及ぼす粉体密度の影響」

磁性トナーによる現像プロセス

磁性トナーによる現像プロセスにも磁気を考慮したDEM解析が用いられています。レーザープリンターやコピー機といった電子写真技術に用いられている現像プロセスでは、トナー粒子を磁気的に制御しています。しかし、このトナー挙動は、磁気力だけでなく粒子間の相互作用力や粒子同士の衝突などが関わる複雑な現象であるため、実測・実験的手法によって予測することが非常に困難です。

そこで、固体粒子の磁気的な特性を考慮したDEM解析を用いることで、これらの複合的な現象を再現することが期待できます。

まとめ

ここでは、IDAJで開発したAnsys RockyのAPI:SolverモジュールMagnetic Dipole-Dipole Interactionをご紹介しました。実形状粒子の取り扱いや計算速度の点で、他のDEM解析ソフトウェアより圧倒的に優れているAnsys Rockyですが、本モジュールを用いることでさらに幅広い分野での活用が期待できます。強磁性材料粒子の解析技術に課題をお持ちのお客様は、是非一度、弊社へご相談ください。

 

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