ROM(Reduced Order Model:縮約モデル、低次元化モデル)技術を用いた事例(その2)
皆さま、こんにちは。
IDAJの玉手です。
今回は、Simcenter FlothermのROM技術を用いた事例をご紹介します。
(これまでの記事)
(少しおさらい)
■Simcenter Flotherm「BCI-ROM」(Boundary Condition Independent Reduced Order Model)
BCI-ROMは、境界条件に依存しない次数削減モデルで、解析空間の各境界の熱伝達係数を指定することで、任意の条件での解析を行うことができます。要求する相対誤差と、解析で使用する熱伝達係数の範囲を入力すると、MATLABやGNU OctaveなどのMATLAB互換ソフトウェアで解析するためのファイルを出力することができます。出力したモデルは、これらのシステムツールで、周囲温度と境界条件としての熱伝達係数を変化させて解析することができます。一度低次元モデルを出力すれば、様々な条件の過渡解析を高速に行うことができ、場合によってはFlothermでの熱流体解析時間の1/40,000程度で得られる例もあります。
■Simcenter Flotherm「Thermal Netlist」
Thermal Netlistは、Flothermモデルから作成された等価の熱回路網モデルで、回路シミュレータを用いて、熱に関するシミュレーションを実施する際に使用します。要求する相対誤差を入力すると、Mentor GraphicsのEldoやSystemVisionでの電気回路と熱回路の連成解析に使用するためのファイルを出力することができます。
CASE時代が幕を開けた今、求められるのはズバリ「低次元モデル」による過渡熱設計です。競争力のある電子機器には、過渡状態の熱設計が不可欠であると考えています。
今や自動車は、100年に一度の変革期を迎えており、“CASE”によって自動車のECU市場は大きく拡大することが予想されます。一説には、2017年に9.5兆円だったECUの世界生産額が2030年には17.8兆円にも上るといわれています。
特に安全・センシング系や情報系を中心に、ECU市場も急速に拡大する傾向にあり、新たな分野のECUのニーズが生まれるということは、それに伴って設計スピードの向上も急務となります。
多機能化による消費電力の増大や、居住スペース拡大に伴う設置可能スペース縮小など、車載ECUの熱設計の難易度は上昇するばかりで、もはや定常状態では熱設計限界を超えてしまい、熱設計が成立しなくなっています。各部品の温度を時系列でモニターし制御する、「過渡状態」を意識した熱設計が必要となってきました。
実はFlothermの「過渡解析」の歴史は古く、Flothermの大きな特徴の一つである「超高速ソルバー」を生かして、他ツールでは困難な、実製品の放熱パスを確実にとらえた詳細な解析モデルも、設計フローの許容範囲で過渡解析を実行することができ、これまでも多くの電子機器の熱設計に活用されてきた実績があります。
それでも最近、自動車産業関連の設計者を中心に「さらに高速に過渡解析を実行したい」という声が高まってきました。この要求にお応えしたのが、「低次元モデル(Reduced Order Model = ROM)」です。
ROMは、3次元形状の熱流体解析モデル(方程式n個)から作られるモデル(方程式r個)。n≫rとなり、解くべき方程式の数が少なくなるため、高速に解析結果を得ることができます。さらに、MATLAB、Octave、GT-SUITEなどのシステムツールや、Eldoなどの回路シミュレータに組み込んで解析を行うため、マルチドメイン解析にも応用が可能です。
過渡変化を考慮した熱設計が必要な、全ての電子機器の熱設計業務を、より効率よく
車載ECUをはじめ、5G基地局用制御機器、次世代スマートフォンなど、過渡変化を考慮した熱設計が必要な、全ての電子機器の熱設計業務には、「低次元モデル化」は強力な武器となる技術だと思います。
Flothermでは、2種類の低次元化モデルを出力することができます。
・BCI-ROM(Boundary Condition Independent)
フォーマット:MATLAB・GNU Octave
設定可能境界条件:周囲温度・周囲熱伝達係数
・Thermal Netlist(Boundary Condition Dependent)
フォーマット:Eldo (Mentor Graphics)
設定可能境界条件:周囲温度
※対応するFlotherm解析モデルの条件
解析タイプが固体熱伝導解析であること、物性値に温度依存性がないこと など
BCI-ROM適用事例:太陽光に連動して動作するPHEV用車載ECUの事例(ユーザー様事例)
このECUに搭載されたダイオードの入力電力は、ソーラーパネルが受ける日射の変動に合わせて急峻に変動します。しかも日中連続動作のために温度変化が大きく、その回数も多いため、はんだ接合部が冷熱ストレスとして影響を受けます。
これまでもFlothermで過渡解析を行っていましたが、高速なFlothermソルバーであっても解析時間がかかり、設計担当からの要求仕様変更に対して即座に回答できないという課題を抱えていました。
そこで今回、低次元モデルを利用して発熱量が時間変化する過渡解析を実施されることになりました。
以下は、Flothermによる解析結果です。
実時間16,000秒間のシミュレーションには、Flohermの高速過渡解析でも3.5時間かかります。
問題となるはんだ接合部含め、ダイオード各部に設定したモニター点温度の時間変化もほぼ一致しています。
しかも、MATLABによる計算時間は、約2分!
ということで、今後は、「仕向け地(欧州や北米など)により異なる条件の解析」、「システム変更(ルーフ面積が拡大すると、入力発熱量・電力が異なってくる)対応」などでの検証に活用されるご予定です。
修正:2022年8月26日
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