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有限要素解析を用いたサウンドブリッジの影響の計算

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの玉手です。

 

音響工学や建築音響学の教科書を見ると、遮音を強化するには壁を二重にすると良いという記述を目にします。

もちろんこの方法は非常に効果的なのですが、見落としがちな注意点が一つあります。それは、二枚の壁を独立させるのは大変難しいため、現実には共通の柱を介して二枚の壁を設置することになり、片方の壁の振動が反対側の壁に伝わってしまうということです。この現象をサウンドブリッジと呼び、思うように遮音性能が向上しない大きな要因の一つになっています。ここでは、簡単な二重壁の遮音の原理と、サウンドブリッジの検討に対する音響CAE(Computer Aided Engineering)によるアプローチの有効性についてご紹介します。解析に使用したツールは音響解析ソフトウェア「Simcenter 3D Acoustics」です。

二重壁の理論

以下のように、平行に設置した、距離 だけ隔てた2枚の面積無限大の壁があると仮定します。このとき、二重壁の音響透過率 は次式のように書くことができます。[1]

 

二重壁

二重壁

 

 

 

 

以下に、2枚の厚さ0.8mmの鉄板を60mmの距離で隔てて平行に設置した二重壁に対して、入射角45度で音が入射した場合の音響透過損失を示します。オレンジ色の実線は式(1)、 (2)によって得られた音響透過損失、青色のマーカー付き実線は有限要素解析によって得られた音響透過損失です。

有限要素解析においては鉄板の大きさを1,414 mm×1,000 mmとし支持条件を自由としています。

板のサイズが有限であるために生じる板の固有振動数における遮音の低下が有限要素解析で見られますが、概して両者の値はよく合っていると言えます。また先に述べた全透過周波数を式(3)より求めると、おおよそ196Hz付近となり、どちらもその周波数をとらえられていると言えます。

 

入射角45度における二重壁の音響透過損失

入射角45度における二重壁の音響透過損失

 

 

60mmの中間層に多孔質吸音材料を充填したときの45度入射に対する音響透過損失(グレーのマーカー)を、前述の中間層が空気である場合の音響透過損失(青色のマーカー付き実線)とともに以下のグラフに示します。本解析にも有限要素法を用いました。

全透過周波数以下を除いてほぼすべての周波数域で、多孔質吸音材料を充填した中間層の音響透過損失の方が大きく、多孔質材料の吸音効果が発揮されていることがわかります。なお、全透過周波数は多孔質材料を充填することによって低域にシフトします。

 

入射角45度における中間層に多孔質吸音材料を充填した二重壁の音響透過損失

入射角45度における中間層に多孔質吸音材料を充填した二重壁の音響透過損失

 

一般的に材料の遮音性能を単一の入射角に対して評価することは稀で、普通はランダム入射と呼ばれるあらゆる方向から音が入射することを前提に評価します。このランダム入射に対する音響透過率は、式(1)で与えられる入射角に対する音響透過率の角度平均で定義され、次式のように書くことができます。

 

サウンドブリッジ

現実的な設置状況を想定して、チャンネルにスポット接続された二重壁の音響透過損失について考えてみましょう。

(a)に示した通り、板の寸法や中間層の厚さは前述と同じで、板の支持条件は単純支持としました。

 

 

二重壁の構成

二重壁の構成

 

有限要素解析では、平面波音源を二重壁の入射側領域の半球面上に等立体角となるように分布させてランダム入射を実現します。

等立体角に分布された259の平面波音源

等立体角に分布された259の平面波音源

 

二重壁のそれぞれの構成に対して、1/3オクターブバンドにまとめた音響透過損失が以下のグラフです。

中間層が空気の場合、1,000Hzあたりまではどちらもあまり変わりませんが、1,000Hzよりも高い周波数では、2枚の板がチャンネルで接続されていないほうが遮音性能は良いと言えます。

一方、中間層に多孔質吸音材料を充填した場合を見ますと、サウンドブリッジの影響が如実に表れていることがわかります。しかし、空気の中間層が二つある場合と比較すると、サウンドブリッジの影響を受けたとしても、多孔質材料の吸音効果によってある程度の遮音性能を確保することができそうです。

 

二重壁の音響透過損失

二重壁の音響透過損失

 

本記事では二重壁の簡単な理論と、チャンネル接続によるサウンドブリッジの影響を有限要素解析によって検討した例をご紹介しました。

えてして教科書にあるような簡単な解析解では現実的な構造で生じる現象を正しくとらえることはできないため、有限要素解析のようなCAEによる検討が有効です。したがってCAEをうまく使うことによって、手戻りの少ない効率的な設計が可能になるのではないでしょうか。

IDAJは、お客様のモノづくりの工程におけるシミュレーションモデルの構築、実測データの取得、精度検証も含め一気通貫でサポートさせていただきます。どうぞお気軽にご相談くださいますようお願いいたします。

 

[1]大野進一、山崎徹(共著)、「機械音響工学」、森北出版(2010)

追記・更新:2023年5月31日

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