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アリーナ音場解析結果の可聴化 ~シミュレーション結果を聴いてみよう!~

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの錦織です。

これまでは物理分野にごとに対応するCAEツールが進化してきましたが、昨今は、様々な物理領域にまたがる解析が必要となり、それらをシームレスに解析したいというニーズが高まっています。Simcneter 3Dはそれを実現すべく、NX CADを含むマルチフィジックス解析を実現するためのプラットフォームとして開発されました。様々な物理分野を一つのプラットフォーム上で解析することが可能なSimcneter 3Dですが、ここではSimcenter 3D Acousticsを用いた振動音響解析に着目してご紹介します。

Simcenter 3D Acousticsには、広範なプロセスをカバーするために非常に多くの機能が搭載されています。Simcenter 3Dという大きなプラットフォーム上ですべての操作が可能なため、CADによるモデリングから、アッセンブリでできたモデルのメッシング、境界条件等を設定するためのプリプロセッシング、ソルバー、またソルバーによる解析結果を見るためのポストプロセッシングまでのすべてをカバーしています。

先進的な多数の技術が多数備わっていますので、少ない計算リソースで多くの解析が可能で、かつ短時間で高精度な計算ができます。

振動・音響のための効率的かつ先進的専門技術のご提供

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Simcenter 3D Acousticsの解析手法

Simcenter 3D Acousticsの解析手法の特徴を簡単にご説明します。

一般的な音響解析ソフトウェアにも搭載されている有限要素法(FEM)境界要素法(BEM)ではありますが、様々な機能がありますので、それらより速く正確に計算することができます。そして最大の特徴は、Ray Acoustics(音線追跡法)が備わっている点です。

Simcenter 3D Acoustics

Simcenter 3D Acousticsの解析手法の特徴

Simcenter 3D Ray Acousticsの最大の特徴は、何と言っても高周波音響解析を現実的な解析時間で実行できる手法だということです。都市計画やドーム会場などを対象とした大規模演算を可能にする機能だと言っても過言ではありません。波動論的解析手法にこれらを適用しようとしても、どうしても不可能なケース、例えばFEMやBEMでは高周波解析や大規模演算は非現実的ですし、それでも計算しようとするならば、大規模かつ高額な計算機リソースが必要です。

そこで、幾何音響理論に注目し、その中でも、Adaptive Beam Tracing(アダプティブ ビーム トレーシング)、Particle Tracing(パーティクル トレーシング)といった二つの手法をハイブリットさせることによって、より正確な計算が可能になりました。FEMやBEMに比べて100倍以上の高速演算、パネルの透過音解析、音線がどのように飛んで行ったかを追跡できるRay Path分析、そして幾何光学的回折理論の適用によって回折も考慮することができます。さらには可聴化機能との連携が可能です。

Simcneter 3D Ray Acoustics_音声追跡法(1)

Simcneter 3D Ray Acoustics_音声追跡法(1)

Adaptive Beam Tracingは、壁面反射時に三角錐のビームを自動的に分割しますので、正確に投影反射を捉えることができます。

Particle Tracingにおける壁面反射は、鏡面反射と拡散反射(Lambertの法則)があり、残響環境における後方反射は重要です。これを捉えるために有限なエネルギーを持つ粒子を追跡し、受音球を定義、時間ステップごとに捕らえた粒子によって各バンドのヒストグラム(時間経過に伴う強度)を作成します。これらの反射では、実際のジオメトリを考慮することができますので、場を拡散音場とした、Sabineの統計的アプローチとは対照的だと言えます。

Simcneter 3D Ray Acoustics_音声追跡法(2)

Simcneter 3D Ray Acoustics_音声追跡法(2)

幾何光学的回折理論は、高い周波数領域、または波長に対して対象物が大きい時に近似が可能です。一様幾何的回折理論(Uniform geometrical theory of Diffraction:UTD)に基づく高度なアルゴリズムを採用していますので、より高い精度を得るために影の領域やあらゆる場所での回折効果、また多重回折を考慮することができます。

高さ1メートル、幅2メートルの地面上に建てられた防音壁をどのように音が回折していくかを計算したのか下図です。周波数は2kHzで地面は剛としています。左から2番目(BEM)は境界要素法によって回折を計算したものです。波動論的に計算しましたので最も正確な結果です。続いて、左から3番目のRay(Shadow Only)は回折理論で計算しましたが、オプションを使って影の領域でない部分は回折を計算しませんでした。結果をご覧いただくと、三角形の部分に若干不自然な印象をお持ちになるのではないでしょうか。右端のRay(Everywhere)は、すべての領域を回折理論で計算しましたので、境界要素法に引けを取らない正確な結果を得ることができました。

エッジ回折

エッジ回折

光学的回折理論では、エッジ回折と表面回折の2つを考慮しているのが特徴です。エッジ回折は3次元的な回折だと言うことができ、エッジ上の回折点を頂点として円錐状に回折波が存在すると仮定しています。また、表面回折は、表面上に生じる波であるクリーピング波を適切に捉られるところが特徴です。滑らかな散乱体表面を伝搬する表面回折波は、伝搬するにつれて強く減衰しますが、影の領域では大変重要な役割を担っています。

幾何光学的回折理論

幾何光学的回折理論

左の動画は回折を考慮しないもの、右はエッジ回折と表面回折の両方を考慮した計算結果です。円筒を回折し、表面に沿ってなめるようにきちんと回折が計算されていることが見て取れます。

Simcenter 3D Ray Acousticsは、建築音響で用いるほとんどの音響指標を算出することができます。音圧レベル分布はもちろん、エコーダイアグラム、バイノーラルインパルスレスポンスなども計算することができます。また、残響時間、クラリティ、直接音の到達時間、D50、初期残響時間、STIと呼ばれる音声明瞭度(男性・女性とも計算可)、RASTI、IACCも計算できます。

Simcenter 3D Ray Acousticsのアウトプット

Simcenter 3D Ray Acousticsのアウトプット

可聴化機能と適用事例のご紹介

シミュレーションで得た結果を、実際に音として聞いてみたいと思われたことはありませんか?

結果をグラフで確認しても、よほどの専門家でない限り、どのような音なのかをイメージするのは極めて難しいものです。やはり、音の印象は、実際に聞いてみないと判断できないのではないかと思います。

そこで有用なのがSimcenter 3D Ray Acousticsにポスト処理として備わっている、解析空間の響きを体験できる可聴化機能です。

ドライソースと解析で得たバイノーラルのインパルスレスポンスを畳み込むことで様々な空間や、同じ空間であっても異なる場所での聴こえ方の違いが体験できます。また、音源を入れ替えることによる印象の違いを体験したり、各音源での音質評価指標を算出することが可能です。この音質評価指標が計算できることで、定量的な判断材料を提供できることになります。

可聴化機能

可聴化機能

ここからは、Simcenter 3D Ray Acousticsを用いたアリーナ会場の適用事例をご紹介します。計算結果は実際にご試聴いただけます。ここでご紹介する音源はすべて両耳用のヘッドホンでお聴きいただくことを前提に作成していますので、ヘッドホンを装着してご試聴いただくことをお勧めします。(片耳だけのイヤホンや、スピーカーでお聴きになると、音の方向性や臨場感が損なわれます。)

解析対象となる屋根付きアリーナ(ドーム型)には、前方にステージ(プロセニアム)があります。客席以外は同じ反射性材料を用いており、反射性を強めるために全周波数帯域にわたって吸音率を0.1以下にしています。また全周波数帯にわたる拡散係数は0.2と設定しました。音源にはスピーカを仮定し、その指向性を考慮します。会場の大きさは長さ方向に28.5メートル、高さ方向に21.9メートルあります。一方で、屋根なしアリーナ、いわゆる野外劇場型のアリーナでも、材料と音源であるスピーカは屋根ありアリーナと同じものを使っています。

解析対象のアリーナ会場(屋根付き・屋根なし)

まずは定常音源に対する音圧レベル分布を動画でご覧いただきます。この2つの音圧レベル分布の動画は、ある一定間隔の周波数をスイープさせて表示したものです。

屋根付きアリーナ会場では天井からの音の反射の影響が特に後方座席で大きく、屋根なしアリーナ会場では前方座席の音圧レベルと後方座席のそれと比べると明らかに前方座席のほうが大きいことがわかります。これは、距離減衰が発生しているからだと解釈できます。

屋根付きアリーナ

屋根なしアリーナ

続いて、残響時間です。分布を見てみると、屋根があるほうが残響が長いであろうという予想通りの結果が得られています。こちらも1/3オクターブバンドごとの残響時間を動画で示しています。

屋根付きアリーナ

屋根なしアリーナ

残響時間(RT60)分布

次は、RASTI(Rapid Speech Transmission Index)の分布です。

RASTIはいわゆる音声明瞭度を表す指標で、残響が長い反射性材料で作られたアリーナ会場なので、屋根付きではRASTIの値が低く、反対に屋根なしでは高くなっています。値が高いほど明瞭度が高いため、屋根付きアリーナでは、どのように話しているかわかりにくいという状況が発生することが予想されます。

RASTIの分布

RASTIの分布

それでは実際にシミュレーション結果から得られた音響をお聞きいただきましょう。

まずは、無伴奏ソロヴァイオリンの音楽をお聞きください。聞いている場所は、センターと前方左側です。

(お願い)再生ボタンを押下すると音が出ます。両耳用のヘッドホンをご準備の上、音量を調整してご試聴ください。

座席位置:センター 座席位置:前方左前

屋根付き

屋根付き

屋根なし

屋根なし

お好みが分かれるところだとは思いますが、私個人としては、残響がある音楽のほうが、より良く聴こえました。

またステージ向かって左側前方座席に座りますと、そこからはステージが右側に位置しますので、右側から音が聞こえていることがはっきりとおわかりいただけるのではないでしょうか?しかもそれは、残響が少ないほうが顕著でしたね。

さて続いては、音楽ではなく人間の声による場内アナウンスをお聞きいただきます。

(お願い)再生ボタンを押下すると音が出ます。両耳用のヘッドホンをご準備の上、音量を調整してご試聴ください。

座席位置:センター 座席位置:前方左前

屋根付き

屋根付き

屋根なし

屋根なし

残響が少ない分、はっきりとアナウンスが聞こえるのは屋根無しのほうですね。また左側前方座席は、音源に近いということもあり、音声明瞭度が悪いとまでは言えませんが、音源の方向性や屋根があることによって生じる反射音による増強などもお聞き取りいただけたのではないかと思います。

まとめ

Simcenter 3D Ray Acousticsを用いた音響解析では、建築音響等で用いる指標を、単なる評価点での算出だけでなく、その分布を求めることがでます。これによって、シミュレーションの段階から残響時間や音響明瞭度の空間的バラツキの検証が可能になります。

解析で得られる評価点でのBIR(Binaural Impulse Response)にドライソースを畳み込み、実際にどのように音が聴こえるかを、設計段階からチェックすることができます。

Simcenter 3D Acousticsにご興味がございましたら、ぜひ当社までお問い合わせくださいますようお願いいたします。

 

 

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