IDAJ

Solutionソリューション

音響設計

音は意識しなくても聞こえるため、製品の付加価値を決定する重要な要因の一つであるという認識が広まっています。それに呼応するかのように、CADやCAE技術が発展するにつれて音響解析に対するニーズも年々高まってきており、課題解決のため多くの音響解析用ソフトウェアが販売されています。
このようなソフトウェアを導入すればすべての問題が解決するのでしょうか?

実は、導入したソフトウェアを正しく運用するには、高度な経験と技術が必要になります。例えば、様々な部品や材料を音響解析に適したモデルに変換し、そのモデルに用いられるパラメータを測定や実験もしくは推定などによって求め、ソフトウェアに入力しなければなりません。また、解析の検証や製品の現状把握のための検査では、測定や実験が必要になることが多々あり、音響解析を意味のあるものにするためには実験や測定の知識が欠かせません。
弊社では、このような音響設計に対して、CAEを中心とした様々な音響エンジニアリングサービスをご用意しています。経験豊富な音響解析のスペシャリストが、皆様の音響にまつわる課題解決をお手伝いします。

音響解析ソリューションの概要図

コンサルティング

CAEを用いた音響エンジニアリングサービス

製品設計に必要な騒音対策や防音・音響設計を、音響CAEツールを用いてサポートします。また音響解析を実施するまでに必要な部品や材料のモデル化、それに必要なパラメータの同定、さらに解析結果を比較検討するための測定のアレンジメントまでカバーします。音響解析に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

音響解析プロジェクト立上げ時からの支援に関するご相談

音響解析を始めるにあたって、そのプロジェクトに与えられたミッションを検討するためにはどのような評価量を用いるのか、解析条件は何が最適なのかを考えるには広範な知識と経験が必要です。なぜならば、評価量は何を表しているのか、評価量は測定可能なのか、解析には測定が必要なのか、解析条件はどのようなものか、解析条件を再現するにはどのような実験室が必要かということまで考えておかなければ課題とかけ離れた解析となったり、課題解決までに遠回りすることが考えられます。これらリスクを回避するために、課題解決までのストーリー作成からサポートさせていただきます。

音響CAEに関するトレーニングや技術移管

音響解析に関する一般的な解説やトレーニング、また、弊社指定のソフトウェアの使用法に関するトレーニングと技術移管を承ります。音響解析にはそもそも教科書が少なく、また一般的な教科書には書かれていないモデルや考え方などを用いることがあります。音響解析ではどのような計算をしているのか、モデルは何を表しているのかといった実践的なご質問などにお答えします。

受託解析

音響解析および振動-音響連成解析

音響伝搬問題、固体振動による騒音の放射問題、異なる物性を持つ材料を用いた構造の音響特性調査など、幅広く対応しますのでお気軽にご相談ください。

CFDによる解析結果との流体-振動-音響連成解析

CFDを用いた圧縮性流体の非定常計算による直接法や分離解法による音響解析だけでなく、CFDの解析結果から音波伝搬に寄与する音源を推定し音響解析を実行する弱連成解析も行われるようになってきました。IDAJにはCFDを得意とするエンジニアが多数在籍しており、どちらの解析方法が妥当かを検討する土壌があるため、弊社の強みを生かして、解析方法のご相談から承ります。

受託測定・測定システムの構築

CAEに必要な材料物性測定

音響解析でのモデル化の流れは、以下のように表すことができます。それぞれの材料の特性をユーザーが把握して適切なモデルに割り振り、さらにそのモデルに必要なすべてのパラメータをユーザーが用意します。この中でも音響解析に特徴的なものは多孔質材料と有孔材料でしょう。このモデルを使いこなすには高度な専門性が必要ですが、それを解説した資料は意外に少なく、音響解析の運用において高い障壁となることがあります。IDAJでは、これらに精通したスペシャリストがお客様の音響解析におけるモデル化や、必要があればパラメータの同定までをお手伝いします。

CAEに必要な材料物性測定の図

CAEのV&Vのための音響測定

音響解析も他のCAEと同様に、究極的には試作レスを実現することが大きな目標の一つです。その目標を達成するために、特に技術構築段階では実験や測定との比較検討を行う必要があります。そこで重要なのが、音響解析で前提としている計算条件を現実世界で実現するための実験室、計算で求めた評価量を測定するための適切な機器やセンサーの選択といった実験や測定に関する経験と知識です。また、解析と測定とを比較検討することが前もってわかっている場合は、両者の整合性を取るために事前に評価方法等を検討できるとスムーズです。IDAJのスペシャリストは、解析だけでなく測定の経験も豊富ですのでより実践的なアドバイスをさせていただきます。

その他音響測定業務

物性値測定やV&Vのための測定以外にも測定が必要になることが多々あります。そこで、様々な測定に関するアレンジメントやアドバイス、またこれまでのような測定業務だけでなく、測定システムの構築に対する適切な測定機器の選定や測定器メーカーのご紹介などもお引き受けします。

シミュレーションによる音響材料設計

数値流体解析(CFD)と均質化法による多孔質材料のパラメータ算出方法

自動車の吸遮音材や防音材として、軟質ウレタンフォームのような膜付きの多孔質弾性材料が広く用いられています。
このような材料を音響CAEソフトウェアで解析する場合、Biot-Allardモデルを用いてその材料の音響特性を表現することが一般的です。このとき、“膜”が材料の音響性能を大きく左右する重要な要因であることが、広く知られています。
ところが、その膜のせいで通気抵抗が大きくなることでパラメータの測定が難しくなる、場合によっては測定できなくなるおとがあります。音響管等の測定値からそのパラメータを推定するという方法もありますが、ここで取り上げている膜付きの発泡樹脂系の多孔質弾性材料は、サンプルサイズによってその測定値、すなわち垂直入射吸音率等が変わり、推定の根拠となるデータの決定そのものが困難になるという別の問題が生じます。
そこでIDAJでは、市販の音響CAEソフトウェアに標準的に搭載されているBiot-Allardモデルに用いられるパラメータを対象として、測定や推定による曖昧さを除去することを目的に、数値解析によってそれらを定量的に得る方法をご提案しています。さらにこの方法では、新たに材料を開発するステージにおいて、材料のミクロスケールでのモデルを作成しそれに対する解析をコンピュータ上で繰り返すことによって、目指すべき音響性能に到達できるような材料の設計方針を立てることが期待できます。

音響設計事例

事例1:二重壁のサウンドブリッジの影響

音響工学や建築音響学の教科書を見ると、遮音を強化するには壁を二重にすると良いという記述を目にします。もちろんこの方法は非常に効果的なのですが、見落としがちな注意事項が一つあります。それは、二枚の壁を独立させるのは大変難しいため、現実には共通の柱を介して二枚の壁を設置することになり、片方の壁の振動が反対側の壁に伝わってしまうということです。この現象をサウンドブリッジと呼び、思うように遮音性能が向上しない大きな要因の一つになっています。このような構造的な問題の解明には音響CAEによるアプローチが大変有効です。
本事例では、下図の通り二重壁に4つのパターンを想定し、音響解析ソフトウェア「Simcenter 3D Acoustics」を使って解析しました。左側の2つは柱としてのチャンネル(60×30を想定)がなく2枚の鉄板が独立していると想定したもの、右側の2パターンは鉄板がチャンネルに接続されていると想定したものです。中間層には空気層と多孔質層の2パターンを想定し、多孔質材料はグラスウールとしてMikiモデルを適用しました。またチャンネルと鉄板は、ビスで複数個所留めてあるものとして接続条件を設定しました。

4つの二重壁の構成

これらの想定で得られた4パターンそれぞれの音響透過損失は下図の通りです。 赤い丸のマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が空気層を挟んで独立している構造の音響透過損失を表し、紫の四角いマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が多孔質層を挟んで独立しているもの、水色の三角形のマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が空気層を挟んでチャンネルに接続されているもの、青い菱形のマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が多孔質層を挟んでチャンネルに接続されているものです。この結果を見ると、明らかに2枚の鉄板が独立している構造のほうが遮音に有利であり、チャンネルに接続されている構造では、音の減衰効果を期待できる多孔質層を挟んでもその遮音性能がさほど向上しないことがわかります。

4つの二重壁の音響透過損失

事例2:発電機を想定した防音パッケージの遮音性能評価

発電機は、エンジンやタービンのような動力源がモーターを回して発電しますので、その動力源は大きな騒音源にもなります。そこで、発生する騒音を抑制するために防音パッケージで発電機全体を包み込み、騒音の低減を図ることが一般的ですが、この動力源を冷やさなければならないことから、防音パッケージ内の空気を循環させるための吸気口と排気口を設ける必要があります。対策を何もしなければこの吸気口と排気口から騒音が漏れますので、防音パッケージのパネルの遮音設計とともにこれらの開口部に何らかの騒音対策を施さねばなりません。
このように、防音パッケージは外から見るとただの箱のように見えますが、内部構造は比較的複雑です。この防音パッケージの騒音対策にも音響CAEは有効なのです。
本事例で想定した防音パッケージは下図の通りです。吸気口が2か所、排気口が1か所設置され、パッケージは厚さ3.2 mmの鉄板でできています。解析モデル1は鉄板のみ、解析モデル2はパッケージ内を吸音するために厚さ50 mmのグラスウールを内貼りしています。これら二つの防音パッケージに対して、内部の点音源から放射される音の外部への伝搬を、Simcenter 3D Acousticsを使って解析しました。

防音パッケージの構造

受音平面として下図の通り4つの平面を設定し、それら平面に対して鉄板のみのパッケージとグラスウールを内貼りしたパッケージの音圧レベル分布を求めました。また、125 Hzと500 Hzの解析結果も併せて示します。
パッケージで囲まれているため、基本的にパッケージ内の音圧レベルが高いことがわかりますが、125 Hzにおいてはグラスウールによる吸音の効果はあまり表れておらず、グラスウールの有無による音圧レベル分布の差異もほとんど見られません。これに対して500 Hzになるとその吸音効果により、グラスウールを内貼りしているパッケージ外部の音圧レベルのほうが低いことがわかります。一般的に多孔質材料は周波数が高いほどその吸音性能が高くなる傾向にあるため、本事例のように高い周波数のほうが音圧レベルは下がります。このように音響CAEを用いることによって、この騒音の低減量で十分か否か、異なる対策を施した場合の効果はいかほどかなどといった定量的な議論が可能となります。

4枚の受音平面
125 Hzの解析結果(GW:グラスウール)
500 Hzの解析結果(GW:グラスウール)

事例3:ユニバーサルミスト(MUM602)の騒音対策事例
~数値音響解析と音響測定の比較検討例~

解析対象は、式会社丸山製作所様(以下丸山製作所様)が設計開発されている「ユニバーサルミスト」です。
ユニバーサルミストは、暑気・熱中症対策、静電気除去、加湿、ホコリ除去、ヒートアイランド対策、舞台演出などの用途で、工場、商店街、学校など様々な場所で利用されています。エントリーモデルである「MUM602」は、タイマー操作による間欠運転が可能で軽量、水道と直結させるため給水作業は不要です。本体には給水ホースと排水ホースを接続し、排水ホースにミストノズルを取り付けることで、そのノズルからミストを発生させます。
以下の写真にあるのは、本体のポンプ機構部で、駆動時には動作音が生じます。様々な場所で利用されるため、音環境へ配慮し快適な空間づくりにつなげていくためにも、ユニバーサルミストの騒音の低減対策を検討しました。

ユニバーサルミスト

現象を把握するための実験を経て、Simcenter 3D Acousticsを使ってシミュレーションを実施しました。
解析対象部品は、ポンプ、モーター、ケース、カバー、前面パネル、測定台です。複雑になり過ぎるため、その他の細かいハーネスや電源ケーブル、スイッチ等はモデルの対象とはせず、基盤や配線格納部が設置されている別室は解析空間から排除して解析モデルを簡略化したうえで、有限要素法による周波数応答解析を行いました。この有限要素解析に対してアダプティブ有限要素法のp法を適用し、形状関数の最適高次化を図ります。
本解析モデルのすべての面は音響的に剛、すなわち完全反射面として振動連成はしていません。ポンプとモーターの表面を分割し、測定で得られた振動速度を割付けました。外部空間の領域境界には無反射境界を適用して開空間を模擬しています。

ユニバーサルミスト解析対象部品

以下は、測定結果と解析結果の比較です。
すべての評価点において、両者の全体的な周波数特性の傾向は概ね合致しているということができますが、315Hz付近と1250Hz付近で両者の乖離が見られます。これは、解析モデルの簡略化と、解析においてケース等の振動を考慮していないことが原因だと考えられます。
評価点においてピークを形成するということは、その周波数では、振動源から放射された音がケースの開口から外部へそのまま伝搬しているものと予想できます。コンターマップを見ると、内部の音圧レベルと同程度の音圧レベルを外部領域でも観察することができました。このことから、外部への騒音伝搬を何らかの方策によって阻止することが騒音対策として有効であると考えられます。

測定結果の図
解析結果の図

これらの結果を踏まて、騒音対策を検討します。まずは、解析モデルに吸音材を配置した場合の騒音低減効果予測の妥当性を確認しました。
装置の前面と後面に吸音材を設置した条件、ここでは吸音材配置モデルと呼びますが、そのモデルに対して実験と数値解析を実施し比較検討しました。吸音材のモデルに必要なパラメータを実測した吸音率から推定し、インプットデータとして使用しています。

騒音対策検討の図

実験結果と計算結果を比較すると、数値計算の方がやや顕著ですが、吸音材を配置することによる騒音レベルの低減傾向は概ね一致しています。実験側で低減量の差が小さい理由は、実験側では開口部と吸音材に微細な隙間があり、そこからの漏れが影響しているのではないかと考えられます。概ね傾向が一致していることがわかりましたので、解析モデルは対策検討の傾向を見るのに有用であることが示されました。また、解析モデルの妥当性が示されたとも言えますので、このモデルを用いてさらなる騒音対策案を検討することとします。

実験結果と計算結果の図

ここまでの検討を踏まえて、騒音対策案として「開口と音源の間にジャマ板を設置する」という方針について検討したいと思います。開口部を吸音材で塞ぐというアイディアは、確かに騒音を外に出さないという意味では有効でしたが、排熱を考えると非現実的だと言わざるを得ません。そこで、開口部を完全に塞いでしまうのではなく、流路を確保しつつ騒音が直接的に外部へ放射しないように、吸音材付のジャマ板を設置することとしました。このような対策を取るため、ケースを前後方向に若干引き延ばし、内部空間を広げています。このケースの形状を変更したモデルを、修正モデルと呼びます。なお、ジャマ板の設置によって外部からケース内部を覗いても、音源となるポンプやモーターは見えなくなりました。

対策案の図

このジャマ板を設置することによって、ほぼすべての評価点および周波数において音圧レベルを下げることができました。吸音材を用いない、または薄い(10mm以下)ままで用いると吸音効果がほとんど得られず、ジャマ板を設置したことによる音圧レベルの低減効果は期待することはできません。(ここでは、詳細説明は省略しますが、吸音材の厚さをすべて10mmとすると、期待した騒音低減効果を得られませんでした。)
そこで今後は、ケース内の排熱との関連を考慮することによって、より現実的な低騒音モデルの検討が可能になると期待できます。


[ 本事例作成にあたってご協力いただいた企業 ]
製品情報提供:株式会社丸山製作所様
測定装置・技術提供:株式会社小野測器様

事例4:マフラーの消音設計 ~音響透過損失と放射音の解析~

自動車の排気消音器に代表されるマフラーは、音や流体の通路となるダクトのある一部に設置される消音器(サイレンサー)を指します。このマフラー全体の音響性能を検討する際の評価指標は、音響透過損失とマフラー外部での評価点における音圧の2つが考えられます。
音響透過損失は、マフラーに入力される騒音がマフラーの出口でどの程度減音しているかという、ダクト内部での音波伝搬の等価回路的表現におけるマフラーという音響素子の消音性能を表しており、直感的でわかりやすいのが特徴です。一方、ダクトから外部領域へ放射された後にどのような音として評価点へ到達するのかまでは検討できないため、マフラー外板から透過する音の影響を考慮することはできません。
したがって音響透過損失を頼りにマフラーを設計したとしても、評価点における騒音レベルが期待通りに下がらないということが懸念されます。ゆえに、外部領域への音響伝搬を考慮した連成解析が重要です。

ユニバーサルミスト

3種類のマフラーに対して、内部の音響領域、マフラーを構成する鉄板の振動領域、さらに外部の音響領域をすべて連成させた有限要素解析を適用しました。外部音響領域では、地面に剛平面を設定し、地面から高さ200 mmにマフラーのダクト中心が位置するようにしています。
シミュレーションに使用した音響CAEツールはSIEMENS社製Simcenter Nastran Acoustics(※)で、AML (automatically Matched Layer:音波吸収層)を適用することによって開空間の解析が可能になります。
有孔板は、伝達アドミタンスにより接続条件をモデル化し、多孔質材料にはDelany-Bazley-Mikiモデルを適用しました。
(※)Simcenter Nastran Acousticsは、Simcenter 3D Acousticsのソルバーの一つです。​

[解析概要]
  • 音響-振動-音響FEM強連成解析
    - 音響:内部領域(空気)
    - 振動:マフラー外板(鉄板)
    - 音響:外部領域(空気)
  • 外部領域の境界条件にAMLを適用:開空間をモデル化
  • 音響透過損失の評価:Simcenter Nastranのポスト処理機能を利用した3点法
  • 有孔板のモデル化:伝達アドミタンスによる接続条件付与
  • 多孔質材料のモデル:Delany-Bazley-Mikiモデル
    - グラスウール:かさ密度48kg/m3を想定
ユーザーサポートセンター 無料で資料請求