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マフラーの消音設計 ~音響透過損失と放射音の解析~

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの玉手です。

 

自動車の排気消音器に代表されるマフラーは、音や流体の通路となるダクトのある一部に設置される消音器(サイレンサー)を指します。このマフラーの騒音源は様々に考えられますが、エンジンからの爆発音やそれに付随する比較的周波数の低い音となることが多いようです。

この低い周波数にも対応させるため、低周波域に共鳴周波数を設計できる拡張(膨張)型、共鳴器型、分岐管、拡張共振型といった音響素子と、広い周波数域や中高周波数域で効果を発揮する干渉型、吸音型、抵抗型の音響素子を組み合わせて設計します。

これらの音響素子にはそれぞれに特徴的な消音機構が備わっており、また、その消音機構はすでに十分に研究されていますので、減音量などを見積もることができます。

しかし、製品設計において音響素子を組み合わせたマフラーの全体的な音響性能を検討する場合、伝達マトリクス法で統合的に音響性能を評価することは難しく、有限要素法をはじめとする3次元的な数値解析手法を用いる必要があります。

音響透過損失と外部領域への音響伝搬を考慮した連成解析が重要な理由

マフラー全体の音響性能を検討する際の評価指標は、音響透過損失とマフラー外部での評価点における音圧の2つが考えられます。

音響透過損失は、マフラーに入力される騒音がマフラーの出口でどの程度減音しているかという、ダクト内部での音波伝搬の等価回路的表現におけるマフラーという音響素子の消音性能を表しており、直感的でわかりやすいのが特徴です。一方、ダクトから外部領域へ放射された後にどのような音として評価点へ到達するのかまでは検討できないため、マフラー外板から透過する音の影響を考慮することはできません。

 

したがって音響透過損失を頼りにマフラーを設計したとしても、評価点における騒音レベルが期待通りに下がらないということが懸念されます。ゆえに、外部領域への音響伝搬を考慮した連成解析が重要だというわけです。

マフラーの消音設計

 

ここでは、3種類のマフラーの音響性能について検討してみましょう。

 

[MUFFLER 1] ダクトと共鳴胴のみで構成され、「拡張型」と「拡張共振型(挿入管型)」の音響素子を組み合わせました。

マフラー1

 

[MUFFLER 2] MUFFLER 1に有孔板による流路を追加し、有孔板での共鳴効果を期待したものです。

マフラー2

 

[MUFFLER 3] MUFFLER 2の中央の部屋に多孔質材料を充填し、多孔質材料の吸音効果を加味しています。

マフラー3

 

これら3種類のマフラーに対して、内部の音響領域、マフラーを構成する鉄板の振動領域、さらに外部の音響領域をすべて連成させた有限要素解析を適用しました。外部音響領域では、地面に剛平面を設定し、地面から高さ200 mmにマフラーのダクト中心が位置するようにしています。

シミュレーションに使用した音響CAEツールはSIEMENS社製Simcenter Nastran Acousticsで、AML (automatically Matched Layer:音波吸収層)を適用することによって開空間の解析が可能になります。

有孔板は、伝達アドミタンスにより接続条件をモデル化し、多孔質材料にはDelany-Bazley-Mikiモデルを適用しました。

 

[解析概要]

・音響-振動-音響FEM強連成解析

 -音響:内部領域(空気)

 -振動:マフラー外板(鉄板)

 -音響:外部領域(空気)

・外部領域の境界条件にAMLを適用:開空間をモデル化

・音響透過損失の評価:Simcenter Nastranのポスト処理機能を利用した3点法

・有孔板のモデル化:伝達アドミタンスによる接続条件付与

・多孔質材料のモデル:Delany-Bazley-Mikiモデル

 -グラスウール:かさ密度48kg/m3を想定

マフラーの解析モデル

マフラーの解析モデル

 

消音性能が高い自動車用マフラーの設計のために

3点法によって導出したマフラーの音響透過損失を以下に示します。

音響透過損失は数字が大きいほどマフラーの減音量が大きい、すなわち消音性能が高いことを示す評価指標です。期待通り、多孔質材料を充填したMUFFLER 3の音響透過損失が最も高く、高性能であることがわかります。

しかし、MUFFLER 2はMUFFLER 1よりも劣る周波数帯域が存在しています。この原因は、共鳴機構を狙った多孔板が、音の漏れを許してしまうという負の効果を生んでいるのではないかと推測しています。

マフラーの音響透過損失

マフラーの音響透過損失

 

続いて、マフラー吐出口から斜め45度方向50 cmに設定したマイクロホン位置における音圧レベルを示します。

この評価点ではマフラーの外板から透過する音や地面からの反射音などが含まれます。この外部領域における音圧レベルは値が小さいほど騒音が低い、すなわちマフラーが高性能であることを示しています。

MUFFLER 1・2・3のどれをとっても際立って優れた性能や、逆に、性能が劣るものは見当たりません。

音響透過損失での評価ではMUFFLER 3が明らかに優れた性能を示していましたが、マイクロホン位置の音圧レベルを見るとMUFFLER 3の優位性は高い周波数域に限られています。

この音響透過損失とちぐはぐな結果となった原因を探るべく、特に外部領域に対して大きな音響放射となっている940Hz付近のマフラー内外部の音圧レベル分布、音響インテンシティ分布、外板の等価放射パワーを確認してみましょう。

マイクロホン位置における音圧レベル

マイクロホン位置における音圧レベル

 

こちらは、音圧レベル分布です。

一見してわかるように、流入ダクトで共鳴が発生し、大きくなった音圧がマフラー内部へ流入しています。このダクトの共鳴はダクトの長さに依存しますので、その影響を考慮しない、つまりダクトは無限に長いと仮定する音響透過損失では把握できない現象です。またMUFFLER 3ではマフラー中央の部屋のレベルが他の二つと比べて低くなっていますが、これは充填された多孔質材料の吸音効果であると考えられます。

音圧レベル分布(940Hz)

音圧レベル分布(940Hz)

 

続いて音響インテンシティ分布とマフラーの流出入ダクト、それらが接続されている側板の等価放射パワーを示します。

まず目を引くのは、マフラーの胴から外方向へ向かって流れるインテンシティベクトルで、ダクトの吐出口以外から外部へ流出する音響エネルギーが少なからず存在することがわかります。

また、吐出ダクトが接続されているマフラー側板に同じような縞模様が見えますが、これは流入ダクトからマフラー内部へ放射された大きなエネルギーがぶつかることで側板に生じたモードであると判じることができ、これはどのマフラーにも共通の現象です。そしてその側板ではかなり大きな振動が生じ、その振動によって外部へ音が放射されている様子がわかります。

つまり評価点(Mic.)のある方向へ音が側板を通して放射されているため、マフラー中央の部屋に多孔板による共鳴効果があろうが、多孔質材料による吸音効果があろうが、総合的にはそれらの効果を相殺してしまったと考えられるのです。これも音響透過損失ではわからない現象です。

音響インテンシティと等価放射パワー(940Hz)

音響インテンシティと等価放射パワー(940Hz)

 

マフラーの音響性能評価には、音響透過損失だけでなく、放射音の解析も重要であることがご理解いただけたのではないでしょうか?!

こちらでご紹介した解析では、振動と音響の連成解析だけでなく、有孔板の伝達アドミタンスによるモデル化と多孔質材料のモデル化が必要です。IDAJでは、このような条件設定も含めて皆様の解析をご支援させていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください!

※IDAJは、音響解析ソフトウェア「Simcenter 3D Acoustics」の販売と技術サポートを開始しました。

 

追記・更新:2023年5月30日

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