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ユニバーサルミスト(MUM602)の騒音対策事例 ~数値音響解析と音響測定の比較検討例~(その3)

皆さま、こんにちは。

IDAJの玉手です。

 

今日はモデルの妥当性確認についてご説明します。(対象製品の丸山製作所様 ユニバーサルミスト(MUM602)は、こちらをご覧ください。)


ユニバーサルミスト(MUM602)の騒音対策事例 ~数値音響解析と音響測定の比較検討例~(全4回)

その1その2、その3(本記事)、その4


モデルの妥当性確認

解析モデルに吸音材を配置した場合の騒音低減効果予測の妥当性を確認するため、実験と数値解析を比較します。

装置の前面と後面に吸音材を設置した条件、ここでは吸音材配置モデルと呼びますが、その吸音材配置モデルに対して実験と数値解析を実施し比較検討しました。吸音材のモデルには実測した吸音率からパラメータを推定し、インプットデータとして使用しています。

解析モデルの妥当性確認の流れ

解析モデルの妥当性確認の流れ

 

吸音材設置モデルでは、開口部を厚さ10 mmの吸音材で塞ぐこととしました。ケース内部の騒音をできるだけ外部へ漏らさないようにすることで、この対策によってどの程度の騒音の低減が期待できるかを解析によって予想します。

 

解析モデルと境界条件は基本的に現行モデルと同じです。

・境界条件:現行モデルと同一

吸音面を除くすべての面に対して音響的に剛

ポンプ表面を分割し、測定による振動速度を割付け

・吸音材設置条件:

前部開口のみ吸音材設置:吸音材1、2のみ

後部開口のみ吸音材設置:吸音材3、4のみ

妥当性確認のための吸音材設置モデルと境界条件

妥当性確認のための吸音材設置モデルと境界条件

 

ここで、本対策案に用いた吸音材をご紹介します。

吸音材はホワイトキューオンと言い、PETの繊維でできた多孔質材料です。

この吸音材に対して、Johnson-Champoux-Allardモデルを適用し、そのモデルに用いるパラメータを、音響管による垂直入射吸音率の測定結果と合致するように推定しました。

垂直入射吸音率の測定では5個のサンプルを用意し、各サンプルに対して得られた測定値を平均して、ここで用いるデータとしました。

 

吸音材のモデルと設置条件

吸音材のモデルと設置条件

 

続いて、吸音材設置モデルの測定についてご説明します。

測定点は評価点音圧1m位置4点とし、4点の平均音圧を算出します。吸音材なしの現行、前部吸音、後部吸音の3条件で比較します。また吸音材は、解析モデルと極力同じ位置を再現させて加工・配置しました。

吸音材設置モデル

吸音材設置モデル

 

青色が吸音材なしの現行モデル、オレンジ色が前部吸音モデル、灰色が後部吸音モデルです。

630Hz以上で顕著な差はなく、一方で、300Hz付近で前部吸音よりも後部吸音の方が、4dBの低減効果があることがわかります。

吸音材設置モデルの測定結果

吸音材設置モデルの測定結果

 

続いて、解析側での同様の条件を用いたモデル解析を実施します。

この有限要素解析の結果を後に測定結果と比較するため、1/3オクターブバンドのA特性音圧レベルに計算結果をまとめました。

前部正面に位置する評価点201では、前部開口に吸音材を設置した結果が全周波数に渡って最もレベルが低く、後部に位置する評価点203では、後部開口に吸音材を設置した結果が最もレベルが低くなるという期待に沿った結果を得ることができました。

また、側面に位置する評価点202と204では、前部・後部どちら側に吸音材を設置するかに関わらず、開口を塞がない現行のレベルよりも吸音材を設置するほうが音圧レベルを低くすることができるという解析結果を得ることができました。

吸音材設置モデルに対する有限要素解析結果(評価点ごとの比較)

吸音材設置モデルに対する有限要素解析結果(評価点ごとの比較)

 

以下は吸音材の設置個所ごとに解析結果をまとめ、評価点に対する平均音圧レベルを追記したものです。

これを見ますと、吸音材を設置することによる効果を前ページよりもより定量的に評価することができますので、低域においては、前部の開口に吸音材を設置するほうが効果が高いことがわかります。

吸音材設置モデルに対する有限要素解析結果(設置個所ごとの比較)

吸音材設置モデルに対する有限要素解析結果(設置個所ごとの比較)

 

実験結果と計算結果を比較すると、数値計算の方がやや顕著ですが、傾向は概ね一致しています。

実験側で差が小さい理由は、実験側では開口部と吸音材に微細な隙間があり、そこからの漏れが影響しているのではないかと考えられます。

概ね傾向が一致していることがわかりましたので、解析モデルは対策検討の傾向を見るのに有用であることが示されました。また、解析モデルの妥当性が示されましたので、このモデルを用いて更なる騒音対策案を検討することとします。

吸音材設置モデルの実験と計算の比較

吸音材設置モデルの実験と計算の比較

 

その前に、騒音源であるポンプやモータ、また開口からの騒音の伝搬の様子を把握するために、特徴的な周波数での音圧レベル分布を見ておきましょう。

このコンターは、水平断面と縦断面における290Hzの音圧レベル分布を示しており、左から吸音材を設置していない現行モデル、前部開口のみに吸音材を設置したモデル、後部開口のみに吸音材を設置したモデルです。

上記で見た通り、この周波数付近では現行モデルでの評価点における音圧レベルがかなり高く、吸音材を設置することによってそのレベルが下がる様子がコンターでも確認することできます。特に前の開口部付近のレベルを吸音材設置によって下げることにより、全体への放射が抑えられていることがわかります。

吸音材設置モデルの2平面における音圧レベル分布(290 Hz)

吸音材設置モデルの2平面における音圧レベル分布(290 Hz)

 

 

290Hzとは対照的に、920Hz付近では吸音材を設置してもあまり音圧レベルが下がらない傾向にある、つまり吸音材を設置しても、機器内外部の音圧レベル分布に大きな差異が見られないことがわかります。

 

吸音材設置モデルの2平面における音圧レベル分布(920 Hz)

吸音材設置モデルの2平面における音圧レベル分布(920 Hz)

 

■吸音材を設置することで、ほぼすべての評価点と周波数において音圧レベルを下げることができた

・ねらい通りに、吸音材がケース内部で発生する騒音に対する「蓋」の役割を担っている

・この吸音材の蓋は、1000Hz以下の中低域の周波数でも効果を発揮している

・この吸音材が効果的に作用した主な要因は、吸音材のかさ密度が100kg/m3と比較的密であったためと考えられる

・しかし吸音材はあくまで「蓋」の役割が大きいと考えられるため、ケース内部に閉じ込められるエネルギーが上がり、吸音材設置後のほうがケース内の騒音レベルが高くなっている場合も見受けられる

・ゆえに、開口部を密な吸音材で蓋をするという対策案は、評価点における騒音レベルを下げるという観点では非常に効果的である

 

■有限要素法による解析結果と実際の機器に対する測定結果との傾向が一致した

妥当性確認の検討結果から、解析による騒音対策の検討は有効であると言える

 

次回は、具体的な騒音対策案についてご説明します。

 

 

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