ユニバーサルミスト(MUM602)の騒音対策事例 ~数値音響解析と音響測定の比較検討例~(その2)
皆さま、こんにちは。
IDAJの玉手です。
今日は解析モデルと境界条件からご説明します。(対象製品の丸山製作所様 ユニバーサルミスト(MUM602)は、こちらをご覧ください。)
ユニバーサルミスト(MUM602)の騒音対策事例 ~数値音響解析と音響測定の比較検討例~(全4回)
解析モデルと境界条件
解析対象部品は、ポンプ、モーター、ケース、カバー、前面パネル、測定台です。複雑になり過ぎるため、その他の細かいハーネスや電源ケーブル、スイッチ等はモデルの対象とはせず、基盤や配線格納部が設置されている別室は解析空間から排除して解析モデルの簡略化を図りました。
Simcenter Nastran Acousticsを用いた有限要素法による周波数応答解析を行いました。この有限要素解析に対してアダプティブ有限要素法のp法を適用し、形状関数の最適高次化を図ります。有限要素には四面体一次要素を採用し、初期の全節点数は150,812節点です。
本解析モデルのすべての面は音響的に剛、すなわち完全反射面として振動連成はしていません。ポンプとモーターの表面を分割し、測定で得られた振動速度を割付けました。外部空間の領域境界には無反射境界を適用して開空間を模擬しています。

解析モデル
先述の通り、音源となるモーターやポンプ部表面の振動速度の測定点は概ね3cmピッチで設定し、この測定で得られた振動速度を、左側の解析モデルの分割面に割り当てて解析しました。

境界条件の設定_モーター・ポンプ表面における振動速度の割付け
測定点各点の振動速度をFFT処理によって狭帯域の周波数データに変換し、さらに1/12オクターブバンドのデータに変換して有限要素解析に用いました。この処理によって、周波数応答解析における周波数ステップ数を適切に調整することができます。
また1/12オクターブバンドへの変換では、振幅をエネルギー合成し、位相はバンド内での平均を取りました。
振動速度の測定値→FFTによる狭帯域データ
・サンプリング周波数:51,200 Hz
・フレーム長:65536
・周波数分解能:0.78125 Hz
1/12オクターブバンドへの変換
・振幅:バンド内でのエネルギー合成値の平方根 + 窓関数補正
・位相:バンド内での平均
解析に用いる振動速度→1/12オクターブバンドデータ
・解析周波数:173–2300 Hz(46バンド)
※上記の操作をすべての測定点に対して実施し、解析で用いる各面に与える振動速度とした。

解析に用いた振動速度の算出
評価点は、各側面の機側1 m点として4点とします。床面からの反射を避けるため床に吸音マットを敷くことで自由空間を模擬します。この自由空間を模擬した解析モデルでは、反射面を設定する必要がなく、モデルの最外殻に無反射境界を想定するため音波を吸収する層を設置します。また、無反射境界よりも外側にある4つの評価点における音圧は、無反射境界における値を利用して境界積分によって求めました。

評価点と外部開空間における境界積分
解析結果の評価
1/12オクターブバンドごとに4つの評価点における音圧レベルと、ケース内部の状況を把握するために、2平面上の音圧レベル分布を求めます。評価点における音圧レベルは、1/3オクターブバンドで測定されたデータと比較するために、4バンドごとにまとめて1/3オクターブバンドのデータとして、測定結果との比較検討に用います。
1/12オクターブバンドごとの周波数応答解析
・評価点201、202、203、204における音圧レベル
・XY平面とYZ平面における音圧レベル分布
1/3オクターブバンドへの変換(4評価点)
・バンド内でのエネルギー合成
・評価周波数:200–2000 Hz(11バンド)
現行モデル
・4評価点における測定結果との比較検討
・2平面の音圧レベル分布から対策案の検討
下記の通り現行モデルに対して、4評価点における1/12オクターブバンドの音圧レベルと、それを1/3オクターブバンドに合成した解析結果を示します。
1/12オクターブバンドでは周波数毎のピークとディップの激しい変化が見て取れますが、1/3オクターブバンドではそれが均されていることがわかります。またそれぞれの評価点において、300Hz付近と1000Hz付近に特徴的なピークを見ることができます。

有限要素解析による音圧レベル
次に1/3オクターブバンドにまとめた解析結果と、測定結果を比較します。ここでは音圧レベルにA特性補正を施しました。
すべての評価点において、全体的な周波数特性の傾向としては、両者は概ね合致しているということができますが、315Hz付近と1250Hz付近で両者の乖離が見られます。これは、解析モデルの簡略化と、解析においてケース等の振動を考慮していないことが原因だと考えられます。

測定と解析によるA特性音圧レベルの比較
以下は、これまでに示した解析結果で特徴的なピークを形成した290 Hzと920 Hzでの音圧レベルのコンターマップです。
評価点においてピークを形成するということは、その周波数では、振動源から放射された音がケースの開口から外部へそのまま伝搬しているものと予想できます。コンターマップを見ると、内部の音圧レベルと同程度の音圧レベルを外部領域でも観察することができました。このことから、外部への騒音伝搬を何らかの方策によって阻止することが騒音対策として有効であると考えられます。

2平面における音圧レベル分布
現行モデルを対象とした解析結果のまとめ
解析で得られた各評価点における音圧レベルの周波数特性は、測定結果のそれと同様の傾向を示しました。
・315Hz、1,000Hz、1,250Hzでは、解析と測定で値の異なるバンドもありましたが、全体的な周波数特性の傾向として解析は測定を表現できているといえます。
・したがって定性的または騒音対策前後の値を解析で評価することが可能であると考えられます。
ケース内部で上昇した音圧がそのまま外部へ放射される周波数では、評価点において音圧のピークが形成されることがわかりました。このユニバーサルミストは、音源であるポンプやモーターが外部から見える構造となっていますが、それを見えなくする対策が重要だと言えるでしょう。
追記・更新:2023年5月31日
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