ソリューション
ソフトウェア
その他・お知らせ
本文までスキップする

CONVERGE筒内燃焼解析:メタンスリップ計算事例

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

先日、弊社Webページでも「カーボンニュートラルに貢献するシミュレーション技術」というテーマでコンテンツを公開させていただきましたが、2050年カーボンニュートラル宣言達成に向けて、様々な業界においてアプローチが検討されています。海運業界では、温室効果ガス削減に貢献するための取り組みの一つである、メタンスリップ削減性能を高める燃焼方式を持つ新たなエンジンシステム開発の動きが加速しています。

国土交通省“グリーンイノベーション基金事業「次世代船舶の開発」プロジェクト”

世界的に地球温暖化対策への関心が高まり、諸外国において2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取組が加速する中、我が国においても2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。四方を海に囲まれ、貿易量の99.6%を海上輸送に依存する我が国おいては、安定的な海上輸送の確保は、社会経済の存続の基盤となりますが、2050年カーボンニュートラルの実現に当たっては、この海上輸送についても取組みが求められます。

 

このような状況を踏まえ、我が国では、世界有数の海運・造船大国として、海上貿易や海事産業の持続的な発展を図りつつ2050年カーボンニュートラルを実現するべく、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成された「グリーンイノベーション基金」を活用して、水素、アンモニアを燃料とするゼロエミッション船の世界に先駆けた実用化に向けた「次世代船舶の開発」プロジェクトを進めています。

(引用:国土交通省“グリーンイノベーション基金事業「次世代船舶の開発」プロジェクト”

 

「次世代船舶の開発」プロジェクトには、大きく3つの研究開発項目があり、そのうちの一つが「LNG燃料船のメタンスリップ対策」です。

・目標:2026年までにLNG燃料船のメタンスリップ削減率60%以上を実現

・研究開発内容:メタンスリップを劇的に低減させるエンジン技術を確立

メタンスリップとは? ~その削減のためのアプローチ~

メタンスリップとは、LNG燃料の中のメタンの一部が、未燃のままメタンとして大気中に排気されることです。メタンはCO2に比べて温室効果が高いため、GHG 削減の観点からもメタンスリップ削減が求められます。

(引用:「触媒とエンジン改良による LNG 燃料船からのメタンスリップ削減技術の開発」事業が NEDO の「次世代船舶の開発プロジェクト」に採択~LNG 燃料船のさらなる環境負荷低減に貢献~(日立造船株式会社・株式会社商船三井・ヤンマーパワーテクノロジー株式会社)2021年10月27日)

 

エンジンの燃焼状態の改良に役立てることを目的として、オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEを用いたエンジン筒内燃焼解析についてご紹介します。

対象は、CONVERGEのデュアルフュエルエンジンのサンプルケースを元に作成し、壁面消炎モデルを適用しました。燃料はガスと軽油で、天然ガス予混合気を軽油マイクロパイロット噴射で着火させて燃焼させ、吸気弁開直前から燃焼行程終了まで計算します。

 

エンジン主要諸元・運転条件

ボア×ストローク:137.16mm × 165.1mm

過給圧:1.83 [bar(絶対圧)]

平均当量比(予混合):0.427

エンジン回転速度:1600 [rpm]

燃料噴孔数:6孔 / 3孔

噴射タイミング(SOI):25, 15, 5 [deg.BTDC]

燃料 :予混合気 メタン(CH4) 111.86[mg/cyl. cyc.]
           マイクロパイロット 軽油2号相当燃料
            6孔:5[mg/cyl. cyc.]
            3孔:2.5[mg/cyl. cyc.]

・計算概要

非定常流動・噴霧・燃焼解析

3次元

圧縮性考慮:実在気体状態方程式(Redlich-Kwong)

解析アルゴリズム:PISO

時間刻み:可変

乱流モデル:RNG k-ε

噴霧モデル:噴射,液滴分裂,抗力,蒸発,液膜等のサブモデルを利用

燃焼モデル: G方程式(詳細化学反応オプション利用)

 

 

 

まずは、SOI 25BTDC 6孔での燃焼解析結果から示します。マイクロパイロット噴射による着火後、火炎伝播燃焼が解析できていることがわかります。また、様々な隙間や窪み等において生じる未燃燃料が残存する様子も再現されています。

 

メタン質量分率分布(105 deg.ATDC)

メタン質量分率分布(105 deg.ATDC)

 

続いて、筒内圧力履歴・未燃メタン履歴などを確認してみましょう。

熱発生率・CO2モル分率を見ると、自着火後に燃焼が進行し、燃焼はほぼ終了していることがわかります。燃焼後期においては、未燃メタンが残存しており、未燃燃料の残存の影響によってわずかでありますがCOも残存しています。熱発生率波形からは、燃焼後期にノッキングが発生し、その後の燃焼進行が速くなっていことが見て取れます。

 

 

噴射タイミング(Start of injection:SOI)を遅角化すると、燃焼が緩慢となります。それによって燃料が燃え切らずに、シリンダヘッド下面、ライナ壁面、ピストンクレビス周辺に多くの未燃メタンが残存しています。

 

 

 

 

 

左:温度等値面(1500K)・燃料液滴半径、中央:温度分布、右:メタン質量分率

左:温度等値面(1500K)・燃料液滴半径、中央:温度分布、右:メタン質量分率

 

噴射タイミングを遅角化すると、燃焼・熱発生が緩慢となり、筒内圧力ピークが低下、燃え切っていないケースがあることがCO2のモル分率からわかります。これによって、燃焼後期の未燃メタンが増大しています。

一方で、筒内圧力の低下によってNOxは低減し、SOI15、5BTDC条件では燃焼後期の熱発生率スパイクは生じていません。SOI25ではノッキングが発生し、その後の燃焼が他条件より迅速化しています。

 

 

こちらは噴孔の数による影響を確認したものです。噴孔数が減ると着火領域が減少し、着火後の火炎伝播が緩慢になります。それによって燃料が燃え切らず、特にピストンクレビス周辺に多くの未燃メタンが残存しています。

 

左:温度等値面(1500K)・燃料液滴半径、中央:温度分布、右:メタン質量分率

 

 

 

左:温度等値面(1500K)・燃料液滴半径、中央:温度分布、右:メタン質量分率

 

着火タイミン

着火タイミング:10BTDC

燃焼後期:105ATDC

燃焼後期:105ATDC

 

噴孔数が少なくなると燃焼・熱発生が緩慢になり、筒内圧力ピークが低下していることがわかります。それに伴って燃焼後期の未燃メタンが増大し、筒内圧力の低下によりNOxは低減しています。

 

 

筒内燃焼解析結果から ~諸元・形状によるメタンスリップ量の定性評価が可能~

上記のいくつかの計算結果と検討内容から、CONVERGEを用いて、デュアルフュエルエンジンのような燃料噴射や蒸発・混合、自着火を伴う複雑な噴霧・燃焼解析を実施できることがご理解いただけたものと思います。また、壁面消炎モデルをUDF機能で実装することによって、NOxだけでなく、壁面での未燃メタンの燃え残りを評価できるようにもなります。もちろん、噴射タイミングSOI 25 BTDCのケースのようにノッキングの発生も解析可能です。

未燃メタン増大の傾向、または、それによって未燃メタンが増大する傾向を確認することができました。今回は、マイクロパイロット噴射諸元の効果を確認しましたが、ピストン頂面形状などが燃焼に及ぼす影響なども検討することができます。

アンモニアを燃料の一部に用いるアンモニア混焼エンジンにおいても、未燃アンモニアの排出であるアンモニアスリップを低減することが求められています。アンモニアスリップの検討にも、この手法がご活用いただけるものと思います。

CONVERGEによる筒内燃焼解析によって、エンジンの諸元・形状によるメタンスリップ量を定性評価し、燃焼改善方策の効果確認にご活用いただければと思います。

 

 

■オンラインでの技術相談、お打合せ、技術サポートなどを承っています。

本件ならびに本記事で登場する製品やサービスに関しては、下記までお気軽にお問い合わせください。ご連絡をお待ちしています。

株式会社 IDAJ 営業部

Webからのお問い合わせはこちら

E-mail:info@idaj.co.jp

TEL: 045-683-1990