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バッテリーのリスク&ハザードの予測と抑制

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEは、革新的なエンジン専用の熱流体解析プログラムとして産声をあげたソフトウェアです。

CONVERGEは、従来のCFDツールで作業効率向上の大きな障害となっていたメッシュ生成プロセスを、ソルバーに搭載された完全自動メッシュ生成機能がカバーするため、飛躍的にユーザーの作業時間が短縮されます。

また乱流モデル、噴霧モデル、燃焼モデルなど、エンジンシミュレーションに必要な豊富な物理モデルを搭載しており、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、天然ガスエンジン、HCCIエンジンなど、全てのタイプのエンジンシミュレーションに適用することができます。昨今の内燃機関の設計・開発プロセスにおいては、カーボンニュートラル達成のためのさらなる燃費向上が要求されていますが、ニューノーマル時代に適応するために実験や適合工数の削減が必須で、より一層効率的に開発を進めることが求められていますので、ユーザー様にはますますCONVERGEをご活用いただいています。(先進的で効率的なエンジン筒内ソリューションについては、こちらでご紹介しています。

もちろんCONVERGEも、各産業界で需要が高まっている電動化に対応するための機能がリリースされています。

今回は、その機能を使った「バッテリーのリスク&ハザードの予測と抑制」についてご紹介します。

バッテリー解析のためのCONVERGE 3.1の新機能

シミュレーション事例のご紹介の前に、CONVERGEとGT-CONVERGEの新機能を簡単にご説明します。

・熱暴走ソース: Hatchard-Kimモデル、Renモデル

・バッテリー熱ソース:等価回路モデル

・供役熱伝達解析(※)

(※)GT-SUITE V2021からは、GT-SUITE開発元のGamma Technologies LLC とCONVERGE開発元のConvergent Scienceが共同開発したGT-CONVERGEが利用できるようになりました(有償オプション)。GT-CONVERGEでは本機能が利用可能です。

 

■Hatchard-Kimモデル:Hatchard et al. [1-1]とKim et al.[1-2]のモデル

SOC100%のLiCoO2/graphiteのモデルが構築されています。Hatchard-Kimモデルでモデル化されているのは、下記の発熱反応です。

・SEI被膜の分解による発熱

・負極活物質と電解質の反応による発熱

・正極活物質と電解質の反応による発熱

・電解質の分解による発熱

内部短絡等による局所発熱に起因する熱暴走計算事例

内部短絡等による局所発熱に起因する熱暴走計算事例

 

■Renモデル:Ren et al. [1-3]のモデル

Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2/graphiteのモデルが構築されています。Renモデルでモデル化されているのは、下記の発熱反応モデルです。

・SEI被膜の分解による発熱

・負極活物質と電解質の反応による発熱

・負極活物質とバインダーの反応による発熱

・正極活物質とバインダーの反応による発熱

・正極活物質の分解による発熱

・正極と負極間の反応による発熱

ARC試験環境下でのパウチセル熱暴走計算事例

ARC試験環境下でのパウチセル熱暴走計算事例

 

■等価回路モデル

バッテリーでの発生熱量を見積もるモデルとして、等価回路モデルが実装されています。等価回路モデルでは、バッテリーを電気回路に置き換えてモデル化します(下図)。電気回路は直列抵抗と0~3対のRC並列回路で構成されます。

等価回路モデル

等価回路モデル

 

熱発生量は、電流・抵抗とコンデンサー間の電圧・直列抵抗に基づいて計算されます。

直列抵抗やRC並列回路における等価抵抗および静電容量は、温度・充電状態 (SOC:State of Charge)・放電/充電によって変化するため、CONVERGE Studio上でテーブルデータとしてこれらの情報を与えます。これらのパラメータは、HPPCテストで得られた電流・電圧の履歴から事前に同定する必要があります。GT-SUITEに搭載されているBattery Characterization機能を用いると、過渡応答の実験情報から等価回路モデルのパラメータを同定できます。

 

■供役熱伝達解析

GT-SUITEでは、FEモデルや固体熱容量要素を用いた構造体の温度計算が可能です。このGT-SUITEとGT-CONVERGEを使って解析すると、構造体の周囲を通過する流体を3次元的に計算し、かつ構造体表面を連成界面とした共役熱伝達解析が実施することができます。

[補足] GT-SUITEに内包されているリチウムイオンバッテリー解析ツール「GT-AutoLion3D」を使用して、セル内の発熱予測、劣化予測、SOCの分布なども同時に確認することができます。

 

バッテリーのリスク&ハザードの予測と抑制

3種類のAbuse

3種類のAbuse

 

■Thermal Abuseに対する予測と抑制

Thermal Abuseは外部から熱エネルギーが供給される異常状態で、事故火災などの炎にバッテリーがさらされている状況で発生し得ます。

 

 

電気⾃動⾞(EV)等に搭載されるリチウムイオン電池の国連協定規則UN ECE R100-02. Part. IIでは、車両火災事故時に乗員が逃げるまで耐えられるかという観点で耐火性試験を課しています。CONVERGEでは、規則に従って燃料燃焼環境下に置かれたバッテリーパックの受熱状況を予測することができます。

温度等値面 (1800K)

 

バッテリー底面温度分布(10秒間の平均分布)

バッテリー底面温度分布(10秒間の平均分布)

 

バッテリーパックが高温環境にさらされると、セルを含むパック内部の温度が上昇します。パック内昇温はオーブン試験であれば均一に、火炙り試験であれば不均一に進行することになります。CONVERGEでは、固体内部の伝熱を含めてパック内部の昇温を予測することが可能です。

 

バッテリーパック内部の昇温予測

 

Thermal Abuseの結果、特定のセルが異常発熱した場合は、冷却システムの制御や断熱板のレイアウトによって他のセルに熱を伝播させないようにしなければなりません。CONVERGEで流体と固体の熱連成計算を行うことで、セル間の伝熱による熱暴走の伝播を予測し、その伝播の有無に対する抑制システムの影響を評価することができます。

 

バッテリー内部の昇温予測

 

 

熱暴走伝播に対する局所発熱位置と冷却制御の影響

熱暴走伝播に対する局所発熱位置と冷却制御の影響

 

■Electrical Abuseに対する予測と抑制

Electrical Abuseは、内外から電気エネルギーが過剰に供給・放出される異常状態であり、過充電や内部短絡によって発生します。

 

 

内部短絡等が発生すると正極と負極が直接つながるため、短絡電流が集中し、セル内部において局所的に高温な領域が出現します。この局所高温領域がセル内を異常発熱として伝播しないように、冷却システムを制御することが重要です。CONVERGEでは、Hatchard-KimモデルとRenモデルを用いてセル内部における異常発熱を予測することができます。

 

局所発熱起因のセル内異常発熱伝播予測(Hatchard-Kimモデル)

 

局所発熱サイズとセル内異常発熱伝播の関係(Renモデル)1

 

局所発熱サイズとセル内異常発熱伝播の関係(Renモデル)2

 

局所発熱サイズとセル内異常発熱伝播の関係(Renモデル)3

 

Thermal Abuseでご説明した通り、セル間で異常発熱を伝播させないことが重要で、単一セル内で発生した局所的な異常発熱をセル内で伝播させないよう冷却システムを制御します。CONVERGEでは、冷媒の流量などを変化させたときのセル内温度分布への影響を予測することができます。

 

左:クーリングチャネル内の流速、右:コールドプレート内温度分布

左:クーリングチャネル内の流速、右:コールドプレート内温度分布

 

■Mechanical Abuseに対する予測と抑制

Mechanical Abuseは、機械的な衝撃を受ける異常状態であり、貫通や圧壊、落下によって発生します。

 

ベントガス流出予測

 

Mechanical Abuseによってセルが圧壊すると、セル内の電解質の蒸発ガスであるベントガスがバッテリーパック内に噴出します。CONVERGEでベントガスの噴出・拡散状況を予測できることはもちろん、詳細化学反応ソルバーのSAGEを用いて、ベントガスの爆発・燃焼の予測も可能です。

 

ベントガスの拡散と爆発予測

 

ベントガスの噴出による自己着火が、その後の爆発・燃焼の発生に大きく関わります。CONVERGEには0次元・1次元の燃焼ユーティリティツールがあり、可燃限界や層流燃焼速度を予測できますので、爆発リスク等の分析や部材温度の管理目安として活用できる可能性があります。

SOCと当量比違いでの各バッテリセルの層流燃焼速度

SOCと当量比違いでの各バッテリセルの層流燃焼速度

層流燃焼速度による燃焼限界予測 SOCと当量比違いでの各バッテリセルの層流燃焼速度の画像は[2-1]より引用

層流燃焼速度による燃焼限界予測
SOCと当量比違いでの各バッテリセルの層流燃焼速度の画像は[2-1]より引用

 

■火災発生時の消火性能評価

万が一バッテリーが爆発・発火した場合、それを消火できるかは、個々のセルを冷却できるか否かにかかっています。

2021年4月17日、アメリカのテキサス州でTeslaのEV(モデルS)の火災事故が発生し、その消火に約2万8000ガロン(10万5991L)の水を使用したと報道がされました。山火事の消火時に使用する世界最大級の消防用航空機で輸送可能な水が約2万ガロンですから、消火にあたって多くの水が必要なこと、つまり消火しづらいことがわかりますね。

CONVERGEには豊富な噴霧モデルや壁面干渉モデルが搭載されているため、消火剤によるセルの冷却状況を予測することが可能で、消火設備のレイアウト検討にもご活用いただけます。

 

オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEの新機能とバッテリーのリスク&ハザードの予測と抑制の可能性についてご紹介させていただきました。本内容にご興味がございましたらどうぞお気軽にお問い合わせください。

 

[1-1]      T.D. Hatchard et al., “Thermal model of cylindrical and prismatic lithium-ion cells,” Journal of the Electrochemical Society, 147, 7 (2001) A755-A761.

[1-2]      G.H. Kim et al., “A three-dimensional thermal abuse model for lithium-ion cells,” Journal of Power Sources, 170 (2007) pp. 476-489.

[1-3]      D. Ren et al., “Model-based thermal runaway prediction of lithium-ion batteries from kinetics analysis of cell components,” Applied Energy, 228, 15 (2018) pp. 633-644.

[2-1]      A.R. Baird et al., “Explosion hazards from lithium-ion battery vent gas,” Journal of Power Sources, 446 (2020) 227257.

 

 

 

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