次世代高速通信技術である5G・6Gを電磁界解析の視点から解説

皆さま、こんんちは。
IDAJの金澤です。
これまでの通信技術は下表のように通信速度、同時接続数、遅延時間を改善して世代を更新しながら発展し、さらに近年は、次世代通信技術として5Gや6Gといった高速通信技術が研究・開発されています。
本記事では、次世代高速通信技術の5G・6Gを電磁界解析の視点から解説し、次世代モビリティに必要な高速通信技術とモデル活用方法についてもご説明できればと思います。
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年 |
XG |
目的 |
機器 |
通信速度 |
同時接続数 |
遅延速度 |
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1981 |
1G |
アナログ携帯電話の普及 |
アナログ携帯電話 |
9.6kbps |
– |
1000ms |
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1991 |
2G |
メール・インターネット利用の普及 |
PHS、 ガラケー、 SMS |
28.8kbps |
– |
300-1000ms |
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1998 |
3G |
世界標準の高速通信の普及 |
ガラケー、 スマホ、 Web |
14Mbps |
– |
100-500ms |
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2008 |
4G |
スマホのためのモバイルネットワーク技術 |
スマホ、 映像、・音楽ストリーミング |
1Gbps |
100k台/km2 |
10ms |
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2019 |
5G |
社会を支えるモバイルネットワーク技術 |
スマホ、 IoT、 VR・AR、 自動運転 |
20Gbps |
1M台/km2 |
1ms |
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2030 |
6G |
人間中心の価値創出 |
– |
100Gbps |
10M台/km2 |
1ms以下 |
1. 5G(第5世代移動通信システム)
5Gは、第5世代の移動通信システムの略で、4G(LTE)の後継として開発されました。5Gの特徴は、以下の3つに集約されます。
- 超高速通信
最大通信速度が数Gbpsに達するとされ、4Gに比べて数10倍の速度です。動画のストリーミングや大容量のデータ転送が短時間で可能になります。 - 低遅延
通信の遅延(データの送信から受信までの時間)が1ミリ秒未満に抑えられ、自動運転や遠隔手術、オンラインゲームなどといった、リアルタイム性が求められる用途に適しています。 - 多数同時接続
IoT(モノのインターネット)に対応し、同時に多くのデバイスが接続できるよう設計されています。都市全体にセンサーやデバイスが設置されても、効率的なデータ通信が可能です。
2. 6G(第6世代移動通信システム)
6Gは、5Gの次に位置付けられる次世代の通信規格で、まだ開発の初期段階にありますが、2030年ごろの実用化が見込まれています。6Gでは、以下のような方向性が期待されています。
- 超高速度
5Gの速度をさらに上回る数百Gbps以上の通信速度が目標とされ、超高速のデータ転送が可能になります。 - 超低遅延
5Gよりもさらに遅延を低減し、瞬時にデータのやりとりができるようにします。これにより、より精密な制御や超高精度の通信が実現します。
- 超カバレッジ拡張
従来の陸上における通信ネットワークだけではなく、空や海、宇宙での通信にカバレッジエリアを拡張する取り組みが行われています。
- 新たな活用領域
空間インターネットやメタバース、ホログラム通信など、現実空間と仮想空間を高度に融合させる技術への活用が期待され、通信だけでなく新しいデジタル体験の提供が可能になります。
- 持続可能な通信
省エネ設計や再生可能エネルギーの活用に配慮し、持続可能性を考慮した通信インフラの構築が進められています。
5Gは現在、実際にサービスが提供され、さまざまな産業で利用されていますが、6Gはさらなる進化を遂げ、私たちの生活に革命的な変化をもたらすと期待されています。

5Gや6Gでめざす無線ネットワーク技術への要求条件
3. 5G・6Gのミリ波利用
ミリ波は非常に高い30GHz以上の周波数帯を利用するため、高速通信に必要な広い帯域幅を確保できます。5Gでは通信速度の20Gbpsを達成し、6Gでは100GHzを超えるTHz波を利用することで100Gbpsの高速通信の達成を目指しています。しかし、現状のミリ波は広く普及していません。その原因として、いくつかの技術的・インフラ的な課題が指摘されており、その解決には電磁界解析の技術が欠かせません。
(1)伝搬距離の短さと遮蔽性
ミリ波の波長は非常に短く、伝搬距離が限られており、数10から数100メートルの範囲にしか届きません。また、建物の壁や人間の体などの障害物に弱く、遮蔽されやすい特徴があり、屋内や都市部での使用には多くの中継局などを設置しなければなりません。こういった課題を試作品で検証・評価することは難しく、解析の活用が不可欠です。
(2)消費電力と製造コストの増加
ミリ波通信の伝送距離を上げるには高い信号の出力が必要になるため、消費電力が増加し、高精度の部品や特殊な素材が必要となり、製造コストが上がります。その対策として、動作周波数が高く、増幅器の出力を上げることができる半導体材料のGaN(窒化ガリウム)を量産してコストを下げるなどの対応が求められます。
(3)インフラの利用環境の限定性
一般的な使用環境では、4Gや5GのSub-6の方が現実的なケースが多いですが、ミリ波は高密度なトラフィックが発生する工場・事業所の施設内、スタジアムや空港などの特定用途でのローカル5Gによる多数同時接続・高速通信に適しています。そのため、こういった場所での利用に適したサービスを普及させ、高密度な基地局を設置していく必要があります。
5G・6Gの通信周波数帯域は、これまでの低マイクロ波帯からミリ波、テラヘルツ波帯に変移し、従来無視できた物質の影響を大きく受けるようになったため、アンテナ周辺の構造や反射・透過する材料を解析する需要が高まっています。
4. 伝搬距離の解析
複数のアンテナやコンポーネントを搭載している、5G対応デバイスのスマートフォンやIoTデバイスなどは、高速伝送の損失をできるだけ少なくする設計が求められます。そこで解析によって、デバイス内部の伝送特性に影響する部品寸法を最適化して信号品質を上げ、ノイズを抑制し、消費電力を低減することが期待できます。また、ミリ波帯での通信を効果的に行うには、高精度なアンテナ設計が不可欠で、ビームフォーミング(電波を特定の方向に集中させる技術)や電磁波を制御する解析が求められます。アンテナがどのように電磁波を放射して指向性を定めるかを設計することができ、不要な方向への放射を減らして通信距離の向上を目指します。
使用したソフトウェア:高周波向け電磁界解析ソフトウェア「Ansys HFSS™」
(1)デバイス内部でのミリ波帯高速伝送解析
①コネクタ実装モデルの構造を最適化
コネクタモデルは、スマホ内部などに使用されているBoard to Board Connectorを使用し、差動信号を伝送できるGSSG配列の基板に実装させ、解析設定はSパラメータ[dB]を0~40GHz、TDRのRise Timeを5psとして解析しました。また基板PAD幅とコネクタ端子幅、上下基板に開口を設けて開口長を変更して解析し、反射を抑えるために特性インピーダンスを100ohmに近づくようにパラメータを最適化して対策しました。

コネクタ実装モデルと対策構造
②解析結果
特性インピーダンスの結果を見ると、初期状態からコネクタPAD部の特性インピーダンスを上げるために基板GNDの開口を追加した対策後では、PAD部の②と④の特性インピーダンスが100ohmに近づいていることが確認できます。

特性インピーダンス Z0

特性インピーダンスの経路
挿入損失の結果から、初期状態では、ミリ波帯の30GHz以上で損失が大きくなっていますが、対策後には一般的な変化である線形的に低下するように改善されていることがわかります。図6は、対策後のモデルに20Gbpsのクロック信号を流した後のアイパターンの結果ですが、アイが開いた状態で、良好な通信特性となっていることが確認できました。

挿入損失 S(2,1)

アイパターン 20Gbps
(2)ミリ波(79GHz)パッチアンテナ
パッチアンテナは、基板の表面にアンテナ、裏面にベタGNDの両面基板の構造をモデリングしています。解析空間の外面に境界条件を設定し、アンテナの入力源にポートを設置して解析しました。計算結果としてSパラメータや遠方界、近傍界、電界強度分布を示します(図7)。アンテナ単体だけでなく、アンテナ周辺のフィルタやレンズなどの構造を組み合わせて解析することで、各種目標の特性に合わせて最適化することができます。

パッチアンテナ
(3)ビームフォーミング解析
ミリ波レーダーなどで使用されているパッチアンテナを3本並べた構造で、ビームの指向性を解析することができます。Port.1~3の入力の位相を調整してビームの方向を変更し、遠方界を3Dプロットして指向性を確認したり、電界強度分布のアニメーションで放射原理を確認することができます。

パッチアンテナアレイ
5. 遮蔽性の解析
ミリ波の波長になると共振する波長が短くなり、これまでは問題にならなかった窓ガラスやブラインドなどの基地局とデバイス間の物体の影響を受けるため、解析によってその影響を確認する必要があります。ここでご紹介する事例では、窓ガラスや自動車エンブレムの反射・透過特性を求め、通常の物質とは異なる構造的な特徴を持つメタマテリアルによる負の屈折率や、異常な透過・反射特性などの電磁応答を解析しています。特定の設計によって波長の調整や電磁波の制御が可能となり、構造による特異な応答を把握し、特性の理解や応用範囲の拡大が可能です。
(1)ミリ波伝搬解析
①窓ガラス、合わせガラス
ミリ波帯の波長では窓ガラス程度の厚さでも波長の影響を受けるため、どのような透過特性を持つかを解析で確認します。4mm厚の単層ガラスに平面波を入射したケースでは、ガラス内で1/4波長となる8GHzの倍数で挿入損失(グラフ赤線)に変化が起こり、16GHzでは透過、24GHzでは反射するというように特性が変化していることがわかります。ガラスを2枚並べた構造に平面波を入射したケースでは、単相ガラスより合わせガラスの方が透過率の変化が増えていることがわかります(グラフ青線)。

窓ガラス(単層ガラス、合わせガラス)

挿入損失 S(2,1)
合わせガラスの電界強度分布を確認すると、16GHzでは反射がなく全て透過していますが、24GHzではガラス面の前後で電界強度分布が変化し、反射が生じていることがわかりました。ミリ波を扱うときは窓ガラスの影響なども考慮する必要があります。
この他、ガラスにフィルムを貼った構造や、コンクリートなどを対象として、反射損失や挿入損失を求めることができます。

合わせガラスの電界強度分布
②遮光ブラインド
一般的なオフィスで見られるような、ガラス前に金属のブラインドを配置したモデルを作成して解析すると、低周波では透過し、高周波ではブラインドの傾きθによって特性が変わることがわかります。

遮光ブラインド(θ=30deg)
θ=30degでは、0.5GHzでは透過、1.8GHzでは反射小、3.3GHzでは透過、7.1GHzでは反射大、10.5GHzでは透過、電界強度分布を見ると、複雑なモードが現れています。窓ガラスや遮光ブラインドでミリ波を扱う際は、このような特性が現れるため、解析にどのような影響があるかを確認する必要があります。

挿入損失 S(2,1)

電界強度分布
(2)THzメタマテリアル解析
①自動車ミリ波レーダー用のエンブレム
自動車のミリ波レーダー用のエンブレムは、細かいクラックを形成して光沢を出し、高級感を保ちつつ、ミリ波が透過できるような形状をしています。このクラック構造を模擬してモデル化し(図15)、特性を求めることができます。

パッチ型メタサーフェス
クラックの面積を小さくすると透過する周波数を上げることができ、挿入損失をみると、高周波では反射し、低周波では透過する特性を持つことがわかります。クラックの大きさを制御して、可視光の800~400nm(375~750THz)では反射させ、ミリ波は透過する特性を持たせることなどが可能になります。

挿入損失 S(2,1)
②THzメタマテリアル
THzを制御するフィルタとしてC型を6層重ねたメタマテリアルをモデル化し、上方からTE・TM方向の平面波を照射して挿入損失を解析しました。C型の寸法のMLを0.13~0.17mmまで変更し、ML寸法の変化による損失特性を確認、得られた結果から周波数特性の目的に合うML寸法(今回は0.15mm)を選択します。

THzメタマテリアル
TE(赤色)・TM(緑色)の挿入損失の周波数特性をみると、149GHzではTMのみ透過、159GHzではTE・TM共に透過、218GHzではTEのみ透過することがわかります。

TE、TM挿入損失 S(2,1) ML=0.15mm
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TE |
TM |
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149GHz |
反射 |
透過 |
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159GHz |
透過 |
透過 |
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218GHz |
透過 |
反射 |
各周波数における、上方からCP円偏波の平面波を入射したメタマテリアル透過後の電界強度分布をみると、149GHzではTMの直線偏波のみが透過、159GHzではTE・TMは透過するが位相ずれによって楕円偏波のみが透過、218GHzではTEの直線偏波のみが透過することがわかります。

円偏波入射の電界強度分布
6. まとめ
ここでは、次世代モビリティに必要な高速通信技術とモデル活用方法についてご説明しました。高速通信技術の5G・6Gでは、これまでの無線通信で考慮しなかった材料特性や微細な構造についても影響が現れるため、Ansys HFSSなどの電磁界解析ソフトウェアを用いた計算によって、どのような現象が起こるかを検証する必要があります。
Ansys HFSSは、5G・6Gの普及に必要なミリ波の伝搬距離や遮蔽性の評価において必要とされる解析が可能で、今後の通信技術の発展に対して多いに貢献できるものと思います。Ansys HFSSだけでなく、ここでご紹介した解析にご興味がございましたら、お気軽にIDAJへお問い合わせ、ご相談くださいますようお願いいたします!
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