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シミュレーションによるバッテリーの熱暴走予測(その1)

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

xEV用バッテリーとして広く利用されているリチウムイオンバッテリーは、エネルギー密度が高く寿命が長いなどの特長がある一方で、熱暴走による火災発生のリスクがあるという安全上の課題があります。バッテリーの熱暴走から火災等の事故に至るプロセスを大別すると、(i)外部からの受熱等によるセル温度の上昇、(ii)セル内部での発熱反応(熱暴走)、(iii)セル間での熱暴走の伝播となります。熱暴走による被害の抑制方法を検討する上では、これら現象を予測する手法が必要です。

今回はその予測に、オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEを適用した手法をご紹介します。

リチウムイオンバッテリーのリスク要因

リチウムイオンバッテリーのリスク要因

 

 

熱暴走の外的要因予測:バッテリーパック耐火試験シミュレーション

バッテリーのセルが熱暴走に至るかどうかを予測するには、バッテリーが外部から受け取る熱量を予測しなければなりません。まずは、バッテリーパックが高温環境にさらされている場合に受け取る熱量の予測事例をご紹介します。

電気自動車などに搭載されるリチウムイオンバッテリーに関する国際協定規則では、バッテリーパックの耐火性試験の方法が規定されています。下図左は、燃焼している燃料の上にバッテリーパックを配置することで火炎にさらすという耐火性試験の模式図で、この試験を模擬する解析モデルの概要が右です。ガソリンを液膜として配置したオイルパン面の上にバッテリーパックを配置し、計算初期にエネルギーソースを与えることで着火させます。その後は、詳細化学反応モデルSAGEによって燃焼過程を正確に計算します。

バッテリーパック耐火試験シミュレーション:解析モデル

バッテリーパック耐火試験シミュレーション:解析モデル

 

パック表面温度と火炎の計算結果を示します。火炎の形状やそれに誘起される流れ場をそのまま計算することで、パック表面の温度分布を予測することができます。右はパック底面の温度分布で、この結果から、外部環境からの酸素供給の少ない中央部の温度が低く、外側が高い温度となっていることが分かります。このようにバッテリーパック外部からの熱伝達量を予測し、パック内部の解析と組み合わせてバッテリーセルの温度予測に利用します。

バッテリーパック耐火試験シミュレーション:解析結果

バッテリーパック耐火試験シミュレーション:解析結果

 

単セルの熱暴走予測:熱暴走予測モデル

バッテリーが高温状態になると、SEI被膜、正極、負極、電解質のそれぞれが熱によって分解される熱分解や、正極・負極と電解質間での反応等がバッテリーセル内で発生します。これらの反応は発熱反応であるため、反応が開始すると急激にセルの温度が上昇し熱暴走に至ります。CONVERGEには、セル内での異常発熱を模擬した2つのモデルが搭載されており、バッテリーセルが熱暴走に至るかどうかを計算することができます。

 

 1.Hatchard-Kimモデル

Hatchard、Kimらによって提案されたHatchard-Kimモデルは、反応式やモデルパラメータがSOC100%のLCO正極材のバッテリーをベースに作成されています。このモデルでは、SEI被膜の分解反応、負極と電解質による反応、正極と電解質による反応、電解質の分解反応の4つの反応を考慮しています。

左が文献値、右がCONVERGEによる計算値ですが、角型セルの熱暴走によるセルの温度上昇を計算したCONVERGEの結果が文献値の傾向と一致していることが確認できます。

Hatchard-Kim熱暴走モデル

Hatchard-Kim熱暴走モデル

 

2. Renモデル

これはNMCを正極材とするバッテリーに対して、Hatchard-Kimモデルよりも多い、6種類の反応式を用いてモデル化されています。下図右にはRenモデルの検証結果で、黒いマーカーは実測値、赤い実線はCONVERGEによる計算値です。これもCONVERGEの結果が文献値の傾向とよく一致していることが確認できます。

Ren熱暴走モデル

Ren熱暴走モデル

 

3.熱暴走モデル反応式の合わせこみ

バッテリーの熱暴走による反応は、正極材、負極材、電解質等が関わる反応であることから、材料が異なるバッテリーセルでは異なる熱暴走反応が起こります。Golubkovら(※)は、バッテリー正極材の種類によってセルの温度履歴が変わることを示しています。したがって、熱暴走の反応モデルを適用する上では、実際に利用するバッテリーの種類によって反応式やパラメータを変更する必要があると言えます。

COVNERGEに含まれる先述の2つのモデルは、いずれも特定の種類のバッテリーセル構造に対して構築されたモデルとなるため、これらのモデルに含まれないケースでは、熱暴走モデル反応式の合わせこみが必要です。下図はパラメータフィッティングツールのイメージ図です。まず示差走査熱量測定(DSC)によって、対象とするバッテリーのデータを取得します。このデータは昇温速度の異なる数ケース分を用意します。それらのデータに対して、複数のアレニウス型の反応パラメータを同定する形をとります。以下の例では、実測値のピークが3つ存在するため、アレニウス型反応式を3つ用いて適合しています。

COVNERGEでは、将来的に熱暴走反応式のパラメータについて、適合ツールを実装することを計画しています。

(※)A. W. Golubkov et al., “Thermal-runaway experiments on consumer Li-ion batteries with metal-oxide and olivin-type cathodes”, RSC Adv., 4(2014), 3633

熱暴走モデル反応パラメータ適合ツール

熱暴走モデル反応パラメータ適合ツール

 

次回は、「パック内における熱暴走伝播予測」についてのご紹介から始めたいと思います。

 

 

 

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