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シミュレーションによるバッテリーの熱暴走予測(その2)

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

xEVの熱マネージメントシミュレーションの中で、前回から引き続きバッテリーの熱暴走予測についてご紹介します。シミュレーションに利用したツールは、オートノマスメッシング熱流体解析プログラム「CONVERGE」です。

電池パック内における熱暴走伝播予測

単一のセルで熱暴走が生じた場合、それが原因でバッテリーパック内の別のセルで熱暴走が起こるリスクがあります。そのため、単一セルで発生した熱暴走を他のセルに伝播させないことが重要です。またバッテリーセルの熱暴走が進行すると、可燃性のベントガスが排出されるようになり、このベントガスも熱暴走を伝播させる要因の一つになり得ると同時に、ガス爆発によるパックの破損等にもつながります。

1.空冷バッテリーパック円筒セルの熱暴走伝播解析

解析対象は、40個の18,650セルを含む電動自転車用のバッテリーパックです。流体と固体の計算を実施し、固体領域にはバッテリーセルに加えて、スペーサやニッケルストリップ等がモデル化されています。解析モデルを円筒セルの軸方向から見て(下図右)、暗い色で表示されている4つのセルに200Wという大きなエネルギーソースを与えます。まずこれらのセルで熱暴走が起こり、それがトリガーとなってパック内の別のセルに熱暴走が伝播していく様子を計算します。

空冷バッテリーパック円筒セルの熱暴走伝播解析の解析モデル

空冷バッテリーパック円筒セルの熱暴走伝播解析の解析モデル

 

温度分布履歴を示します。最初に温度が上昇するのはエネルギーソースを与えた4つのセルです。その後、周囲のセルでも次々に温度上昇が発生し、熱暴走がパック内で伝播している様子が確認できます。またトリガーとなる4つのセルで囲まれたセルでは、100秒以内に熱暴走が生じたのに対し、その他のセルでは200秒あたりから次々に熱暴走が伝播する様子がみられます。このように、セルの位置によって熱暴走伝播の順序や時間が変わっていることから、熱暴走の伝播を遅らせるための配置検討等に利用できることがご理解いただけるものと思います。

空冷バッテリーパック円筒セルの熱暴走伝播解析結果(温度分布履歴)

空冷バッテリーパック円筒セルの熱暴走伝播解析結果(温度分布履歴)

 

2.パウチセルの熱暴走伝播解析

続いて、2022年のConvergent Scienceカンファレンスで発表された、IFPENによる熱暴走伝播解析の事例をご紹介します。

解析対象は3つのパウチセルからなるクラスターで、実測とも比較しました。ここでは3つのパウチセルを含む固体領域のみをモデル化し、流体領域は考慮していません。各セルの間にはヒートシンクが挟まれており、実験ではヒートシンクの上下に熱電対が設置されています。熱暴走による発熱はHatchard-Kimモデルで模擬し、パラメータは1セルでの実測結果をもとに適合して使用しました。また、熱暴走を発生させるために、セル2と呼んでいる中央のセルに対してヒーター加熱を追加しています。

パウチセルの熱暴走伝播解析の解析モデル

パウチセルの熱暴走伝播解析の解析モデル

 

下図左が各セルの計算結果で、実線は熱発生率、点線は積算熱発生量を示しています。右が実験中の写真ですが、すべてのセルに熱暴走が起こっていることが確認できると同時に、ベントガスが燃焼していることもわかります。一方の熱発生率の計算結果では、セル1とセル2では熱暴走が発生しているのに対し、セル3は熱暴走が起こっていないことがわかり、すべてのセルで熱暴走が起こったという実測結果とは異なります。この実測との違いは、ベントガスの燃焼による影響が考慮されていないことが原因の一つとして考えられます。

パウチセルの熱暴走伝播解析:計算結果1

パウチセルの熱暴走伝播解析:計算結果1

 

そこで境界条件として燃焼の影響を考慮した計算を実施しました。先ほどと同じく各セルにおける熱発生率と積算熱発生量の、2種類の結果を記載しています。オレンジ色のラインは対流境界条件で雰囲気温度として282Kを設定したものであるのに対して、青色のラインは熱電対による実測値を境界条件とした結果です。これらを比較すると、セル1とセル2は結果に違いが見られませんでしたが、セル3の熱発生率は425秒当たりで熱発生率の違いがみられ、境界条件を変更した方が、熱発生率が上昇しています。熱発生率に違いがみられた時刻は、実験でセル3に熱暴走が生じた時刻と近いタイミングとなっています。この結果は、ベントガスの燃焼を考慮することで計算結果が実測に近づいたことを示しており、熱暴走伝播の経路としてベントガスの燃焼が重要であることが示唆されました。

 

パウチセルの熱暴走伝播解析:計算結果2

パウチセルの熱暴走伝播解析:計算結果2

 

3.ベントガスの燃焼解析

先ほどの事例で、ベントガスの燃焼が熱暴走伝播に影響する要素であることがわかりました。そこで、COVNERGEを用いたベントガスの燃焼解析の事例もご紹介します。解析対象は、1で紹介した40個の円筒セルを含む自転車用のバッテリーパックです。あるセルで熱暴走が起こったと仮定し、そのセルからベントガスを噴射するための流入境界条件を設定しました。ベントガスの流量や組成を入力条件として与え、ガス組成はエタン、エチレン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素を考慮しています。ベントガスは火花を模擬したエネルギーソースによって着火させ、詳細化学反応ソルバーSAGEによる燃焼計算を実施しています。

バッテリーパック内のメタン濃度と、火炎の広がりを確認するための温度等値面を示します。0.35秒あたりでベントガスが着火し、その後火炎がパック内を広がる様子が確認できました。このような解析と、バッテリーセルの熱暴走モデルを併用することで、ベントガスの燃焼による熱暴走伝播を予測することができます。

ベントガスの燃焼解析

ベントガスの燃焼解析

 

4.熱暴走反応と連成したベントガス噴射モデル

ベントガス燃焼の解析事例では、ベントガスの流量を入力条件としており、バッテリーセル内の熱暴走反応は考慮していません。しかし熱暴走によるセルの発熱とベントガスの発生量は連動しているため、これらを同時に解くことはパック内の圧力やベントガス分布を予測する上でも重要です。

熱分解反応にはSEI被膜の分解や正極材の分解などの複数の反応がありますが、ベントガスの発生量は反応ごとに異なります。また、各反応で発生するベントガスの量をモデル化するのは容易ではありません。そこで、ベントガスの発生量を見積もるためのアプローチの一つに、発生するベントガスのモル数が、熱暴走による熱発生率に比例するという考え方があります。以下はJhuらの文献から引用した図で、実線は温度上昇速度、マーカーはモル数の増加速度を示しています。これによると、温度の上昇速度すなわち熱発生率とガスの発生量が同じトレンドになっていることがわかります。このことから、ベントガスの発生量を熱暴走による熱発生率から見積もることは、ある程度妥当であると考えることができます。

18650 LCOセルの温度に対する温度上昇速度およびベントガスモル数増加速度

18650 LCOセルの温度に対する温度上昇速度およびベントガスモル数増加速度

(C. Y. Jhu et al, “Self-reactive rating of thermal runaway hazards on 18650 lithium-ion batteries”, Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, 106(2011), 159、J. K. Ostanek et al, “Simulating onset and evolution of thermal runaway in Li-ion cells using a coupled thermal and venting model”, Applied Energy, 268(2020), 114972、より画像引用)

熱暴走反応モデルとベントガス噴射を連成するモデルの一例を示します。各図の左側がバッテリーセルの固体領域、右側が流体領域を示しており左から速度、温度、メタン濃度です。こちらの計算結果では、バッテリーセル内の発熱に連動してベントガスが噴射される様子が確認できます。

セル内部の熱暴走反応とベントガス噴射をカップルしたモデル

セル内部の熱暴走反応とベントガス噴射をカップルしたモデル

 

最後は、ベントガス噴射モデルをEV用バッテリーパックに適用した事例です。左がバッテリーセル表面温度とベントガス挙動、右が各セルの断面における温度コンター図です。セル温度により、バッテリーセル間で熱暴走が伝播している様子が確認できます。また、熱暴走の発生にともなって、バッテリーパックの外にベントガスが噴射されていることもわかります。これはバッテリーパック外のベントガスの挙動に着目した解析ですが、パック内の空間をモデル化することで、パック内の圧力上昇などのベントガス挙動に注目した解析も可能です。

 

EV用バッテリーパック外へのベントガス噴射シミュレーション結果

EV用バッテリーパック外へのベントガス噴射シミュレーション結果

 

「CONVERGE」の開発中のバッテリー関連機能

ここまでご紹介したとおり、CONVERGEはバッテリーの熱マネ予測に資する機能を精力的に開発しています。

バッテリー等価回路モデルは、充電・放電中のバッテリー発熱を模擬するモデルです。短絡モデルは、バッテリー等価回路モデルと併用することで、短絡電流による発熱を模擬することができます。さらに詳細なモデルとして連成電位ソルバーを開発中で、正極・負極の2種類の電位を解きます。

詳細に発熱をモデル化する方法として、GT-SUITE/AutoLionとの連成機能があります。バッテリーの発熱とバッテリー固体の温度をGT-SUITE/AutoLionで解き、外側の流体領域をCONVERGEで解きます。この機能を利用すると、バッテリーの発熱を詳細にモデル化しつつ、冷媒の流れを3次元性で考慮した解析を実施することができます。

CONVERGEバッテリー用新機能と開発中の機能

CONVERGEバッテリー用新機能と開発中の機能

 

2回にわたって、オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEを用いたバッテリーの熱暴走予測事例をご紹介しました。本稿でご紹介した手法によって、バッテリーが置かれる外的要因の予測から熱暴走に至った場合のパック内の伝播までを予測する一気通貫の解析手法の構築が可能となります。これらの事例や機能にご興味がございましたら、お気軽にお問合せいただければ幸いです。

 

 

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