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バッテリーに用いられる難燃・消炎・消火のための耐火素材の3次元CFD検討

Jun Mizushima

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

バッテリーは、内部に存在する電解液が往々にして可燃性であるため、熱暴走を起こした場合に、発煙・発火にいたることがあります。このような万が一の事態における被害を最小限に抑えるために、吸熱・消炎機能を有した耐火素材が開発されています。

吸熱・消炎機能を有した耐火素材としては、金属水酸化物を使った特許が多数出願されています。金属水酸化物は高温場にさらされると吸熱反応を伴う熱分解を起こし、水を発生させます。この吸熱と水蒸気が消炎として働きます。

耐火素材の一例として水酸化アルミニウムの熱分解反応をオートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEで計算できるようにUDFを構築しましたので、ここでは機能の概要と事例をご説明します。

耐火素材解析のために実装した機能の概要

今回は特許事例としても多い水酸化アルミニウムの熱分解を計算し、吸熱・水蒸気放出を考慮する機能を実装しました。

仕組みは、壁面に隣接するセルの温度情報を用いて水酸化アルミニウムの熱分解反応を解き、熱分解反応の計算結果にしたがって、壁面の隣接セルから熱量を奪い、水蒸気を放出するというものです。

水酸化アルミニウムの熱分解反応では、D. Redaoui et al.[1]が発表している論文を参考に、脱水酸基進行によるべーマイトの生成、アモルファスの生成、べーマイトの熱分解の反応式を考慮しています。

吸熱量は、各熱分解反応の標準生成エンタルピーから算出し、各化学種の標準生成エンタルピーは、NIST(JANAF Thermochemical Tables Fourth Edition)のデータベース[3]と既報の論文を参照して決定しました。

耐火素材の解析事例

非常に簡単ですが、実際にこのUDFを使った事例をご説明します。

10mm×10mm×100mmの直方体密閉容器内に当量比1.0のメタン予混合気を充填した状態で着火させ、耐火・消炎素材の有無や量によって火炎伝播がとのように変化するかを観察するものです。CONVERGEには、詳細化学反応ソルバSAGEがありますので素反応を解くことが可能です。また化学反応メカニズムにはGRI-Mech 3.0を使用しました。

主な計算設定

・計算時間:100ms

・壁面境界条件:断熱条件

・初期条件:当量比1.0のメタン予混合気

・燃焼モデル:詳細化学反応ソルバSAGE

 -反応メカニズム GRI-Mech 3.0[4]

・点火方法:エネルギソース

 -投入エネルギ量:1J

 -ソース付与期間:1ms

 -ソース付与領域:半径2mmの球体内部

・乱流モデル:RNG k-ε

・メッシュ設定:0.5mm均一メッシュ

ただし、エネルギソース付与期間中のみ付与領域のメッシュを0.125mmに細分化

耐火・消炎素材は、下図の赤色で示した壁面に配置しました。Case1は、参考ケースとして耐火・消炎素材を一切用いずに計算し、Case2から4にかけて耐火・消炎素材を配置する壁面数を増やしています。

火炎伝播と水蒸気濃度の様相を中心断面で見ると、耐火・消炎素材が配置されたケースでは、配置壁面近傍で温度が低下するとともに水蒸気が発生していることがわかります。また、火炎伝播速度は、耐火・消炎素材を配置しなかった場合と比較して低下し、4面すべてに耐火・消炎素材を配置すると消炎にいたっていることも観察できました。

  温度 水蒸気濃度
Case1
Case2
Case3
Case4

まとめ

万が一のための耐火・消炎素材を、どれだけの量を、どこに配置したら良いのかといったレイアウト検討に、このCONVERGEを用いたシミュレーションがお役立ていただけるのではないかと思います。また、ここでご紹介した機能は万が一を起こさない吸熱材に対しても応用が可能な技術です。熱暴走のセル間電波を抑制するために、バッテリーセルに吸熱材がコーティングされますが、これらへの適用が十分に考えられます。ベンチマーク計算も承りますので、どうぞお気軽にご連絡ださいますようお願いいたします。

[1] D. Redaoui et al., “Mechanism and kinetic parameters of the thermal decomposition of gibbsite Al (OH) 3 by thermogravimetric analysis,” Acta Physica Polonica A, Vol. 131, No. 3 (2017) pp. 562-565.

[2] Q. Chen and W. Zeng, “Calorimetric determination of the standard enthalpies of formation of gibbsite, Al(OH)3(cr), and boehmite, AIOOH(cr),” Geochimica et Cosmochimica Acta, Vol. 60, Issue 1 (1996) pp 1-5.

[3] M.W. Chase, “NIST-JANAF Thermochemical Tables Fourth Edition,” Journal of Physical and Chemical Reference Data, Monograph 9 (1998) pp 1-1951.

[4] Gregory P. Smith, David M. Golden, Michael Frenklach, Nigel W. Moriarty, Boris Eiteneer, Mikhail Goldenberg, C. Thomas Bowman, Ronald K. Hanson, Soonho Song, William C. Gardiner, Jr., Vitali V. Lissianski, and Zhiwei Qin, http://www.me.berkley.edu/gri_mech/

 

 

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