どうする?!ギヤまわりの熱流体解析
皆さま、こんにちは。
IDAJの水島です。
ギヤまわりの流体シミュレーションのためには、回転領域と静止領域で分けて生成したメッシュを使用しなければならず、特にギヤのかみ合わせ部分の領域分けが難しいため、モーフィングを駆使したり、時間刻みごとにメッシュを生成するなど、事前に仕組みを作成しておく必要あり、流体解析エンジニアにとっては、少々厄介な解析対象の一つです。
ここでご紹介する事例で用いたのは、弊社で取り扱っているオートノマスメッシング熱流体解析プログラム「CONVERGE」。別の市販の流体解析プログラムをお使いのお客様がご覧になると、こんなに簡単にできるの?!と驚いていただけるのではないでしょうか。どうぞ最後までお付き合いください。
変速機を構成するギヤには、ギヤ同士の摩擦を低減させるためミッションオイルなどの潤滑油が使用されています。このオイルの流れをシミュレーションすることで、撹拌抵抗トルク、液面上昇高さ、オイル付着、オイルによるギヤの冷却性などの様々な情報を得ることができます。
ディファレンシャルギヤの二相流解析
以下のギヤは、回転軸方向の異なるディファレンシャルギヤです。
全長100mm程度のギヤの加減速を考慮した8秒間の計算を実施しました。最小メッシュサイズを1.5mmとし、解適合格子(AMR:Adaptive Mesh Refinement *1)を用いて液面付近のメッシュを細分化し、液面挙動の精度向上を図りました。
もちろん、公転・自転するギヤ間のわずかな隙間であっても、流体メッシュが自動で生成されます。苦労して、ギヤの移動と隙間の大きさに応じた流体メッシュを用意する必要はありません。さらにギヤ付近や自由表面付近のメッシュを自動的に細分化することができ、微小隙間から流れ出るオイルの気液界面を精度良く捉えることが可能です。

ディファレンシャルギアの2相流解析
(*1)速度、温度、化学種濃度、ボイド率といった変数の空間勾配に応じて、細かいメッシュを自動的に配置するCONVERGEの機能
ギヤ二相流解析の実験値との比較
さて、気になる解析精度について確認します。
液体をギヤでかき上げる実験とCONVERGEによる解析の比較がCONVERGE開発元であるConvergent Scienceのユーザーカンファレンスで報告されましたので一部を引用してご紹介します。
下図の3つ目のグラフは、オイルレベルとトルクの比較を示し、黒線が実測です。低速域やオイルレベルの低い範囲では、ほぼ実測のトルクと近い値を示しています。一方で、高速域でオイルレベルの高い範囲では、メッシュ細分化が必要となる可能性があり、実測値から離れている様子が見て取れます。
(出典)New Applications in Multi-phase Flow Modeling with CONVERGE: Gerotor Pumps, Fuel Tank Sloshing, and Gear Churning. CONVERGE User Conference-Europe 2018
ギヤポンプ性能検証
ギヤがかみ合うギヤポンプのエアレーションやキャビテーションを考慮した解析が可能です。流量の比較をグラフで示します。リリーフバルブやエアレーション・キャビテーションを考慮(Model C)すると、低速域から高速域まで実測値をトレースした計算結果を得ることができました。

ギアポンプかみ合わせ
ギヤまわりの熱流体解析にCONVERGEが最適な理由
1. 計算前の大仕事“メッシュ作成”が不要!
ギヤの形状データのみご準備いただければ、計算中に直交メッシュを自動的に生成するため、噛み合わせのあるギヤでも解析準備が非常に簡単です。MRF(Multiple Reference Frame)を用いた定常計算の際は、回転領域と静止領域に分けなければなりませんが、それでも回転・静止界面にインターフェース境界となるサーフェスを用意するだけで解析実行に移ることができます。

ギアのかみ合わせモデル図
2. 混相流解析に対応
液面をできるだけはっきりと再現するために、液面付近のメッシュだけを細分化する機能(Void率を用いた解適合格子)を利用することができます。もちろん、キャビテーション機能も備えています。

VOF機能を使った気液界面を追跡した計算結果
3. 狭い隙間に対する発熱や圧力損失を考慮
CONVERGEは、狭い隙間の間にあるセルを検出することができますので、検出されたセルへ発熱やポーラス設定をすることが可能です。これによって、実際にはギヤ同士が接触することによって起こる発熱を模擬したり、接触位置での流れを抑えることができます。

CONVERGEの特長_狭い隙間にあるセルを検知

狭い隙間に発熱を与える
4. 流体固体熱連成解析への対応
固体温度の上昇を把握するには、実現象時間を長くとる必要があるため、一般的に膨大な計算時間がかかります。しかし、CONVERGEにはSuper-cycling機能がありますので、定常状態における固体温度分布を短時間で解析することができます。

固体熱連成解析
オイル流れに伴う部材冷却に関するシミュレーション
1. オイルジェットによるピストン冷却
クランクケース内のダクトから噴射されるオイルジェットによってピストン下部を冷却する解析と、より冷却性能を高めるためピストン内部に設けられたクーリングチャネルに向かって噴射する解析です。VOF法による気液混相流解析を行っているため、オイル挙動だけでなくガス流動も同時に解く詳細な解析が可能です。
ピストン下部表面の熱流束分布(青いほど抜熱が大きい)
ピストン表面の温度分布(赤いほど温度が高い)
クランクケース内オイル流動(1)
クランクケース内オイル流動(2)
2. モーター内オイル流動解析
オイルが広がる様子
3. ATFによるモーター冷却熱伝達基礎検証
ATF(Automatic Transmission Fluid)によるモーター冷却の実測結果とCONVERGEの計算結果を比較した事例です。
CONVERGEの計算では、上方からATFを流入させ、下方にある銅線を冷却する計算モデルとなっています。計算負荷低減のため円周方向に1/12サイズ(30deg)形状に切り出しています。なお、ATFの自由表面の挙動はVOF法によりモデル化しています。
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