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自動車分野だけじゃない!GT-SUITEの空調・冷凍サイクル機能とその活用例(その2)

Shuichi Ogawa

 

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの小川です。

前回記事からの続きをご紹介します。

(5)コンポーネントレベルのシミュレーション

システムレベルではコンプレッサの性能として、回転数、体積効率、断熱効率を暫定値で与えることで計算が始められます。仕様が決まり、コンプレッサ単体試験の実測結果が得られるようになれば、回転数ごとのP-Q特性と断熱効率をマップデータに置き換えることができますので、これら複数のマップを制御指示値で切り替えれば、可変容量式のコンプレッサを表現できます。一方で、コンポーネントレベルでは、斜板式やスクロール式などのチャンバー容積の変化を与えて、脈動を計算する詳細モデルを作成することができます。一部のポンプやコンプレッサは、CADデータ上でシャフトを回転させ、チャンバー容積やポート開口面積の履歴を抽出できるため、工数的な負担がかなり軽減されます。また、熱流体だけではなく、リードバルブの剛性、駆動シャフトのねじれ振動、スライドやピボットによる可変容量機構などのメカ的な計算と連成させることも可能です。

コンプレッサをはじめとする流体機械のコンポーネント

コンプレッサをはじめとする流体機械のコンポーネント

 

6)空間(居室、車室など)の快適性評価

居室や車室(キャビン)を検討する際は、システムレベルでは全体を1つの解像度として捉える0次元モデルや、大まかな温度分布を捉えるためのマルチゾーンモデルを使っていただくと、計算時間が早くて好都合です。一方で、コンポーネントとして詳細な設計をするには、輻射熱の影響や人体の各パーツの温熱感と快適性を解くために細かく離散化されたTAITherm連成モデルを使用するという選択肢があります。このように、設計の各段階で必要なモデルの詳細度・粒度、モデル化の範囲、物理領域を選ぶ自由度があることも、GT-SUITEの大きな特徴です。

キャビンの快適性評価

キャビンの快適性評価

 

空調された空間を快適だと感じるには、4つの環境要因が重要だとされています。しかし人の感じ方は千差万別で、その影響度は人によって異なり、一義に定義することは難しいため、空間内の快適性は温熱感覚に着目して評価することが一般的です。この温熱感覚の評価指標には何種類かありますが、GT-SUITEとTAIThermではPredicted Mean Vote(PMV)と呼ばれる快適性指標を出力することができます。このPMVは気温、湿度、風速、輻射、着衣量、活動量を考慮した温冷感指標で国際的に規格化されており、快適性の評価では比較的よく使用されます。出力される結果値は+3から-3までの7段階で、±0.5以内が快適だとされます。

TAIThermの人体モデルオプションを使って、頭部、腕、太もも、手先、足先といった人体各所の感じ方や人が快適だと感じているかどうかを示すBerkeley Comfort、等価温度という指標を出力することができます。このため、風当りによって手先のみが冷たくなり不快だ、足元のみ温かいといった状況で人がどう感じるかという空調の運転によって生じる現象や、シートヒータを使用して太ももの裏側だけ温かいときの快適性などの評価が可能です。この人体の感じ方や快適性は時系列に記録され、動画として再生することができます。また空間内に複数の人体モデルを配置できますので、感じ方に差をつけた人体モデルを複数作成・配置して計算すれば、パーソナル空調の検討に使えます。

TAIThermのBerkeley Comfortモデル

TAIThermのBerkeley Comfortモデル

 

3.発展性(活用例)

(1)自然冷媒ヒートポンプ給湯器(エコキュート)

エコキュートなどのシステム製品では、ヒートポンプサイクルを単体で評価するのではなく、温めたお湯を貯湯するタンクユニットや、給湯口に温度調整して供給するためのサーモスタットなど、さまざまな装置がセットで設計されますが、GT-SUITEならばシステムを丸ごとシミュレーションすることが可能になります。

GT-SUITE内で冷媒の物性計算に用いられるREFPROPは、CO2の超臨界領域の物性が扱えますし、GT-SUITEの圧縮性流体解析ソルバーでは貯湯槽の中で重力の影響による温度分布を再現させることができます。COPを向上させるために、CO2ヒートポンプでは内部熱交換器で冷媒同士を伝熱させ、膨張弁を固定オリフィスで設計したり、電磁弁によって制御しますが、これらも全て再現することができます。給湯回路内のサーモスタットは、自動車の冷却系で良く使われますので、サーモワックス型、電磁弁型問わずモデル化が簡単です。さらにヒートポンプの始動から貯湯槽の温度上昇、設定温度でシステムが停止するまでの過渡運転を計算し、P-h線図やT-s線図をアニメーションで確認することができます。

エコキュートのモデル化

エコキュートのモデル化

 

エコジョーズのような潜熱回収型のガス給湯器を接続した、ハイブリッド型の給湯器へも適用できます。GT-SUITEならば一度作成したサブシステムを簡単に取り換えることができますので、“エコキュートモデル”から“エコジョーズモデル”への改造にも手間はかかりません。その他、室外機・室内機の台数を増やしてシステムをマルチ化した場合の重力の影響によるバラつき検討、ガスエンジンを取り付けたガスヒートポンプ給湯器、ガスヒートポンプエアコンの検討等、幅広くご活用いただくことができます。

ハイブリッド給湯器への拡張

ハイブリッド給湯器への拡張

 

(2)スクロールコンプレッサのスタートアップ振動

メルセデスベンツ社様の電動スクロールコンプレッサの初期デザインでは、停止状態からスタートアップすると高周波数の振動が発生し、ノイズの原因となっていました。そこで、スクロールチャンバの容積変化やポート開口面積の変化を適切に与えて脈動を再現するコンプレッサの詳細な流体モデルを構築し、周波数解析などを進めると、吐出の脈動と振動の周波数が一致しないことがわかりました。そのため固定スクロールに支持されているシャフトエンドのベアリングや、可動スクロールを揺動させるエキセントリックシャフトのローター接触などの機構的な挙動もGT-SUITE上でモデル化しました。

流体モデルと機構モデルをインテグレーションして、スタートアップ条件のシミュレーションを実施したところ、振動が再現され、周波数特性も近くなることが確認されました。モデル上で検証を進めた結果、振動はエキセントリックシャフトの捩じり剛性による減衰効果が大きいこと、シャフトの回転方向を変えることで大幅に低減されることなどがわかり、机上検討のフェーズで対策案を打ち出すことができました。この結果、同社からは、GT-SUITEモデルがデジタルプロトタイプとして開発プロセスに組み込んでいけるポテンシャルがあるというご評価をいただくことができました。

スクロールコンプレッサのスタートアップ振動の検討(1)

スクロールコンプレッサのスタートアップ振動の検討(1)

スクロールコンプレッサのスタートアップ振動の検討(2)

スクロールコンプレッサのスタートアップ振動の検討(2)

 

(3)伝熱解析の詳細化

GT-SUITEのGEM3Dには流体モデルの作成支援だけではなく、固体熱解析用のメッシュを生成するためのオートメッシュ機能があります。パワーコンバータのチップ発熱を境界条件として与えれば、インバータ基板の熱解析が可能ですし、冷媒用の電動コンプレッサを駆動するインバータであれば、コンプレッサのハウジングを経由した熱伝達で、冷媒が基板の熱を奪うような解析に発展させることができます。GT-SUITEならば、モーター内部の電磁気的な発熱なども含め、統合的な熱解析が行えます。

有限要素(FE)メッシュを用いた伝熱解析の詳細化

有限要素(FE)メッシュを用いた伝熱解析の詳細化

 

インバータ基板のような電子機器であれば、基板とチップの接触熱伝達や各部の熱伝導などを熱回路網モデルに縮退する、Simcenter FlothermBCI-ROMという高速化機能を併用することもオススメです。この縮退モデルはFMUで出力できますので、前述のインバータ基板をBCI-ROMに差し替えた計算が可能になります。インバータ基板は詳細なモデル化が不要だが熱バランスの計算はしておきたいという場面などでお役立ていただけそうです。

BCI-ROM(FMU)とGT-SUITEの連成

BCI-ROM(FMU)とGT-SUITEの連成

 

後半でご紹介した空調・冷凍サイクルに関する情報提供にとどめるつもりで書き始めたのですが、自動車分野以外のお客様にぜひご覧いただいたいという思いから、前半にかなりのウェイトを置いた記事になってしまいました。自動車という複雑で高度なシステムに対応してきたGT-SUITEとその利用技術は、他の製品開発でも必ずお役立ていただけるはずです。私たちエンジニアも様々な製品開発についてどんどん勉強していきたいと思いますので、まずは技術相談などでお気軽にお声掛けいただけますと幸いです。

本記事でご紹介した内容や、GT-SUITEに関するお問い合わせはこちらまでお願いいたします。

 

 

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