ソリューション
ソフトウェア
その他・お知らせ
本文までスキップする

自動車分野だけじゃない!GT-SUITEの空調・冷凍サイクル機能とその活用例(その1)

Shuichi Ogawa

 

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの小川です。

現在、多くのお客様にご利用をいただいているマルチフィジックス・システムシミュレーションツール「GT-SUITE」の原型となる商用ソフトウェアのデビューは、かれこれ40年近く前のことになります。当初は“1次元の圧縮性流体解析でエンジンの吸排気の脈動を扱えるツール”として、自動車分野でのご利用が進みましたが、エンジンや自動車という非常に高度で複雑なシステムの性能を予測するには流体解析だけでは機能が足りず、伝熱も化学反応も機構も制御も…とさまざまな解析領域へと機能拡張をした結果、今日のGT-SUITEという汎用のマルチフィジックス・システムシミュレーションツールへと発展しました。

このような来歴のためか以前からGT-SUITEをご利用のお客様は、自動車分野の専用ツールという印象をお持ちかと思いますが、自動車の様に高度で複雑なシステムを扱えるということは、複合領域で設計される他の機械製品にも幅広く適用が可能だということになります。そこで今回は、空調・冷凍サイクルの解析機能や事例にフォーカスしてご紹介します。

GT-SUITEは自動車分野だけではありません!

1.高い開発力とサポート力

GT-SUITEの開発元のGamma Technologies社は、米国に本社を置き、ヨーロッパ各地、インドなどに支社があり、それ以外の地域ではIDAJを含む複数のパートナー会社が販売・サポートを担っています。GT-SUITEの開発スタッフは100名を超え、ユーザー様からのご要望やマーケットのニーズにスピーディに対応する姿勢を保ち、高い開発力が評価されています。また、IDAJのGT-SUITE担当エンジニアも40名体制となり、手前味噌ではございますが、日本国内におけるサポート力にはご好評をいただいています。

2.GT-SUITEは成長し続けるツール

エンジン性能予測に特化したツール“GT-POWER”として販売を開始した90年代後半のエンジン開発では、熱効率の向上による低燃費化と排ガス規制への対応が強く求められていました。それに対応するために、吸排気脈動でエンジン性能を傾向予測するだけでなく、エンジン内部で起きる燃焼や熱伝達、触媒で起きる化学反応を含めた、1次元の流体ソルバー単独では扱えない複雑な物理現象を、公開された文献などをもとに開発した物理モデルを一つ一つ追加することで改良を重ねてきました。また、燃料、冷却水、オイルといった他の流体システムも、吸排気と同じ1次元ソルバーで扱えるように機能拡張し、伝熱計算のソルバーを連携させ、車両の走行モデル、クランクやカムシャフトの挙動を扱えるような機構系ソルバーも搭載してというように、エンジン専用のGT-POWERから、車両全系を包括的に扱えるGT-SUITEへと成長していきました。現在も開発が止まることはなく、バッテリー、モーター、インバータなど、電動化に関連する機能の拡充などが進んでいます。

このようにして獲得された豊富な物理ライブラリは、空調・冷凍サイクルのシステム単体に、電動モーターで駆動されるロボットアームにと様々な組み合わせで適用することができます。

豊富な物理ライブラリ

豊富な物理ライブラリ

 

3.GT-SUITEは内燃機関(エンジン)専用じゃない!

GT-SUITEの長所は、エンジンが搭載されないバッテリーEVになっても損なわれることはありませんし、船舶や航空宇宙はもちろん、発電やプラント、家電など、さまざまな工業製品のシステムシミュレーションへと幅広く適用していただくことが可能です。車載エアコンのために拡張されてきた空調・冷凍サイクル分野の機能は、業務用の冷蔵庫、フローズン飲料のベンダー機、ビル空調などに用いられる大型のガスヒートポンプ装置などの解析に利用されており、活用事例も続々と公開されています。

空調・冷凍サイクル分野の適用事例

空調・冷凍サイクル分野の適用事例

GT-SUITEの空調・冷凍サイクル機能とその活用

空調・冷凍サイクル分野では汎用ツール、内製プログラム、Excelマクロなどによる専用ツール等があります。これらツールとGT-SUITEとの違いを、“簡単・便利・発展性”という3つのキーワードでご説明します。

1.簡単

(1)CADデータの有効活用

1次元の流体ソルバーに必要な情報は、配管の直径や長さ、曲がりといった数値情報です。これらをユーザーが図面から読み取って入力するのは手間がかかりますが、設計フェーズが進んで、お手元にCADデータがあれば、GT-SUITEのGEM3Dを使って、流体表面の抽出や形状情報の読み取りを自動化することができます。空調・冷凍サイクルのモデルを構築するには、デバイス間の配管をCADデータから作ってしまえば、あとは各種デバイスの性能設定をするだけでシステムシミュレーションを行うことが可能です。

(2)効率的な計算実行と結果確認

計算実行中は専用GUIが起動しますので、収束状況やエラーを確認したり、各種モニタでセンサー値を確認しながら、コンプレッサ回転数やバルブ開度を変化させることができます。ちょうど実験室でシステムのベンチ試験を行うようなイメージです。計算終了後は、各デバイスの状態量や、各部配管での圧力や温度といったセンサー値をより詳しく確認します。実機のベンチ試験データが、ExcelやCSV形式で存在するならば、これらを取り込んで比較したグラフも簡単に作成できます。

(3)最適化・DOEなどのパラメータスタディによる広域的な解の探索

1次元のシステムシミュレーションは1回の計算時間が短いので、パラメータを何度も変更しながら繰り返し計算し、最適な組み合わせを探索するのに適しています。GT-SUITEには遺伝的アルゴリズムに基づく多目的最適化機能と、同じくパラメータ探索方法である実験計画法(DOE)に基づく網羅的な計算実行と応答曲面の作成に対応しています。作成した曲面上で、多目的最適化を実施することも可能ですが、より高度で効率的な最適化や分析機能が必要なお客様には、GT-SUITEとの連携が簡単なmodeFRONTIERのご利用もオススメです。

最適化やDOEといったパラメータスタディでは、どうしても大量に計算しなくてはなりませんので、効率的な計算実行環境が大切です。GT-SUITEにはジョブキューイングシステムとなるプログラムがあり、社内に分散実行サーバーを立てて共有すれば、複数ユーザーのリクエストを待ち行列に加えて順次実行したり、複数ノードを使ったマルチケース実行で計算リソースの有効活用ができます。

2.便利

(1)冷媒の物性計算とライブラリの取扱い

GT-SUITEには、1次元のNS式を圧縮性まで含めて解く流体ソルバーがありますので、相変化する冷媒の物性を詳細に考慮することができます。また、アメリカのNISTが提供している冷媒物性計算プログラム“REFPROP”をサブルーチンとして実装することで、NISTが提供する全ての冷媒物性を扱えるようになりました。

流体物性としての冷媒

流体物性としての冷媒

 

(2)配管要素における熱伝達設定

GT-SUITEの配管要素のテンプレートは、中を流れる流体が液体、気体、冷媒でも、高温・高圧、低温・低圧でも、全てに対して適用していただけます。壁面温度に厚肉円筒を想定した伝熱モデルを設定するか、外部に熱容量を接続するか、断熱にするかはプルダウンメニューから、また内部流体と壁面の熱伝達係数は、複数の経験式を切り替えます。例えば、冷却水回路の設計フェーズの上流で、熱交換器の性能などが出揃っていない場合、ポンプ性能と各デバイスの圧力損失だけを仮置きして流量分配を検証し、後々、設計フェーズが進んで熱交換器の性能が入手できたら、同じモデルにデータ入力して伝熱計算まで実施できるというわけです。

(3)熱交換器における熱伝達設定

熱交換器のモデル化では、(ちょっと地味かもしれませんが)生産性の高い機能があります。熱交換器サプライヤから提供されるテストデータや、お手元のベンチ試験で実測されたデータを入力するだけで、伝熱特性や圧力損失特性の近似式に対して、自動キャリブレーションが行えます。前述した最適化機能などと組み合わせて使う必要はありません。例えば熱交換器の外側を通過する空気の伝熱特性を、ヌッセルトの相関式でキャリブレーションする際は、熱伝達係数が流れ場の乱れ方で傾向が変極する様子を検出します。このときレイノルズ数で領域を分け、層流域、遷移域、乱流域と最大3つのゾーンで係数Cと乗数mを得ることができます。

熱交換器の内部を流れる冷媒は、相変化の状態に合わせて細かく場合分けしたキャリブレーションが行われます。同じ混相域でも、凝縮方向と蒸発方向とを別々にキャリブレーションできるため、冷暖房切り替えや除湿運転を行うようなヒートポンプサイクルのモデル化でお役に立つかと思います。

熱伝達係数の相関式は、配管の設定時と同じようにプルダウンメニューから切り替えます。冷媒の凝縮や蒸発には、日本冷凍空調学会で提唱されたメジャーな式が含まれます。キャリブレーション後に、システムシミュレーションで利用するには、熱交換器の内部が1次元的に離散化されますので、チューブを流れる方向やパス割方向に温度勾配を持った計算が行えます。多層式の熱交換器コアでは、前後のコアで異なるパス割を設定したり、各パスの流れ順をカスタムすることができます。また、定置型のエアコンやヒートポンプで採用例の多い、サーペンタイン型やコイル型と呼ばれるコアに対応した専用GUIもあります。

多様なコア形状への対応

多様なコア形状への対応

 

エアコンやヒートポンプで課題になることが多い、熱交換器表面の結露や着霜がモデル化できますので、これらを組み合わせて、凝縮水を取り除く除湿運転や着霜を検知して霜を溶かすための除霜運転をシミュレーションすることができます。GT-SUITEの流体ソルバーは、基本的に過渡計算を行いますので、冷房から暖房への切り替え、除湿のON/OFF、除霜運転への遷移といった非定常的な変化に対応します。

結露と着霜

結露と着霜

 

(4)サブシステムレベルのシミュレーション

コンプレッサ、膨張弁、コンデンサ、エバポレータを備えた冷凍サイクルモデル、キャビン、ブロアファン、HVACドアを備えた空気循環サイクルモデルの熱流体解析を行うことができます。これらのサイクルモデルは、部品を入れ替えた際のマッチングの評価や制御ロジックの変更をテストするためのプラントモデルとして利用されます。コンポーネント同士の接続の自由度が高いため、パーソナル空調のためにエバポレータを複数配置する、HVACシステムの中でPTCヒーターやヒートポンプの有無、配置順を入れ替えるといったアイディアをすぐにモデルに反映させることができます。

 

次回は、コンポーネントレベルのシミュレーションについてご説明します。

本記事でご紹介した内容や、GT-SUITEに関するお問い合わせはこちらまでお願いいたします。

 

 

■オンラインでの技術相談、お打合せ、技術サポートなどを承っています。下記までお気軽にお問い合わせください。ご連絡をお待ちしています。

株式会社 IDAJ 営業部

Webからのお問い合わせはこちら

E-mail:info@idaj.co.jp

TEL: 045-683-1990