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音響解析を意味のあるものにするためには?

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの玉手です。

 

音は意識しなくても聞こえるため、製品の付加価値を決定する重要な要因の一つであるという認識が広まっています。それに呼応するかのように、CADやCAE技術が発展するにつれて音響解析に対するニーズも年々高まってきており、課題解決のため多くの音響解析用ソフトウェアが販売されています。このようなソフトウェアを導入すればすべての問題が解決するのでしょうか?実は、導入したソフトウェアを正しく運用するには、高度な経験と技術が必要になります。

例えば、様々な部品や材料を音響解析に適したモデルに変換し、そのモデルに用いられるパラメータを測定や実験もしくは推定などによって求め、ソフトウェアに入力しなければなりません。また、解析の検証や製品の現状把握のための検査では、測定や実験が必要になることが多々あり、音響解析を意味のあるものにするためには実験や測定の知識が欠かせません。

 

今回は2つのシミュレーション事例をご紹介します。

 

■二重壁のサウンドブリッジの影響

音響工学や建築音響学の教科書を見ると、遮音を強化するには壁を二重にすると良いという記述を目にします。もちろんこの方法は非常に効果的なのですが、見落としがちな注意事項が一つあります。それは、二枚の壁を独立させるのは大変難しいため、現実には共通の柱を介して二枚の壁を設置することになり、片方の壁の振動が反対側の壁に伝わってしまうということです。

この現象をサウンドブリッジと呼び、思うように遮音性能が向上しない大きな要因の一つになっています。このような構造的な問題の解明には音響CAEによるアプローチが大変有効です。本事例では、以下の通り二重壁に4つのパターンを想定して解析しました。左側の2つは柱としてのチャンネル(60×30を想定)がなく2枚の鉄板が独立していると想定したもの、右側の2パターンは鉄板がチャンネルに接続されていると想定したものです。中間層には空気層と多孔質層の2パターンを想定し、多孔質材料はグラスウールとしてそのモデルにMikiモデルを適用しました。またチャンネルと鉄板は、ビスで複数個所留めてあるものとして接続条件を設定しました。

 

4つの二重壁の構成

4つの二重壁の構成

 

これらの想定で得られた4パターンそれぞれの音響透過損失は以下の通りです。赤い丸のマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が空気層を挟んで独立している構造の音響透過損失を表し、紫の四角いマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が多孔質層を挟んで独立しているもの、水色の三角形のマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が空気層を挟んでチャンネルに接続されているもの、青い菱形のマーカーで示される結果は、2枚の鉄板が多孔質層を挟んでチャンネルに接続されているものです。

この結果を見ると、明らかに2枚の鉄板が独立している構造のほうが遮音に有利であり、チャンネルに接続されている構造では、音の減衰効果を期待できる多孔質層を挟んでもその遮音性能がさほど向上しないことがわかります。

 

4つの二重壁の音響透過損失

4つの二重壁の音響透過損失

 

■発電機を想定した防音パッケージの遮音性能評価

発電機は、エンジンやタービンのような動力源がモーターを回して発電しますので、その動力源は大きな騒音源になります。そこで、発生する騒音を抑制するために防音パッケージで発電機全体を包み込み、騒音の低減を図ることが一般的ですが、この動力源を冷やさなければならないことから、防音パッケージ内の空気を循環させるための吸気口と排気口を設ける必要があります。対策を何もしなければこの吸気口と排気口から騒音が漏れますので、防音パッケージのパネルの遮音設計とともにこれらの開口部に何らかの騒音対策を施さねばなりません。このように、防音パッケージは外から見るとただの箱のように見えますが、内部構造は比較的複雑です。この防音パッケージの騒音対策にも音響CAEは有効なのです。

本事例で想定した防音パッケージは以下の通りです。吸気口が2か所、排気口が1か所設置され、パッケージは厚さ3.2 mmの鉄板でできています。解析モデル1は鉄板のみ、解析モデル2はパッケージ内を吸音するために厚さ50  mmのグラスウールを内貼りしています。

これら二つの防音パッケージに対して、内部の点音源から放射される音の外部への伝搬を解析しました。

 

防音パッケージの構造

防音パッケージの構造

 

受音平面として4つの平面を設定し、それら平面に対して鉄板のみのパッケージとグラスウールを内貼りしたパッケージの音圧レベル分布を求めました。

パッケージで囲まれているため、基本的にパッケージ内の音圧レベルが高いことがわかりますが、125  Hzにおいてはグラスウールによる吸音の効果はあまり表れておらず、グラスウールの有無による音圧レベル分布の差異もほとんど見られません。これに対して500 Hzになるとその吸音効果により、グラスウールを内貼りしているパッケージ外部の音圧レベルのほうが低いことがわかります。

一般的に多孔質材料は周波数が高いほどその吸音性能が高くなる傾向にあるため、本事例のように高い周波数のほうが音圧レベルは下がります。このように音響CAEを用いることによって、この騒音の低減量で十分か否か、異なる対策を施した場合の効果はいかほどかなどといった定量的な議論が可能となります。

 

4枚の受音平面

4枚の受音平面

125 Hzの解析結果(GW:グラスウール)

125 Hzの解析結果(GW:グラスウール)

500 Hzの解析結果(GW:グラスウール)

500 Hzの解析結果(GW:グラスウール)

■CAEに必要な材料物性測定

音響解析では適切なモデル化が重要です。音響解析でのモデル化の流れは、以下のように表すことができます。それぞれの材料の特性をユーザーが把握して適切なモデルに割り振り、さらにそのモデルに必要なすべてのパラメータをユーザーが用意します。この中でも音響解析に特徴的なものは多孔質材料と有孔材料でしょう。このモデルを使いこなすには高度な専門性が必要ですが、それを解説した資料は意外に少なく、音響解析の運用において高い障壁となることがあります。

 

モデル化の概念

モデル化の概念

 

■CAEのV&Vのための音響測定

音響解析も他のCAEと同様に、究極的には試作レスを実現することが大きな目標の一つです。その目標を達成するために、特に技術構築段階では実験や測定との比較検討を行う必要があります。そこで重要なのが、音響解析で前提としている計算条件を現実世界で実現するための実験室、計算で求めた評価量を測定するための適切な機器やセンサーの選択といった実験や測定に関する経験と知識です。また、解析と測定とを比較検討することが前もってわかっている場合は、両者の整合性を取るために事前に評価方法等を検討できるとスムーズです。

 

 

IDAJでは、音響設計に対して、音響CAEに関するトレーニングや技術移管、測定システムの構築を含めて、CAEを中心とした様々な音響エンジニアリングサービスをご用意しています。経験豊富な音響解析のスペシャリストが、皆様の音響にまつわる課題解決をお手伝いします。ご興味がおありの方は、下記までお気軽にお問い合わせください。

 

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