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アポロ11号50周年:2本脚の椅子でバランスをとる

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

 

今回は、オートノマスメッシング熱流体解析プログラム「CONVERGE」の開発元である、Convergent Scienceが公開しているBLOGの内容を翻訳してご紹介します。


 

2019年7月16日、私は夜空を見上げてアポロ11号の発射50周年を祝うことでしょう。

計算流体力学にたずさわる者として私は、満月を眺めながら3本脚の椅子という古典的なメタファーについて考えるのです。現代のエンジニアリングの取り組みは、理論、シミュレーション、そして実験に頼っています。理論からは基礎知識を与えられ、シミュレーションは、この理論的知識を実際的問題にどう適用するのかを教えてくれ、そして実験は、私たちが適用した知識が物理的世界に合致していることを確認させてくれます。どの要素も他の要素と取って代わろうとはせず、各要素が互いを強化する状態となっています。現代の基準からすれば、1960年代にはシミュレーションは存在しませんでした。NASAの最初の「コンピューター」は、映画「Hidden Figures」(邦題「ドリーム」)に登場する女性たちであり、人間にできるのはせいぜい比較的単純な計算だけでした。NASAが人類を月に送ったとき、NASAは、2本脚の椅子の上にバランスを取って近代の大聖堂を建てなければなりませんでした。

サターンV型ロケットについてのこの大聖堂のメタファーが私は気に入っています。というのも、この2つの取り組みの間には思いもよらない類似点が存在するからです。中世の大聖堂の建築は、巨大で社会的な取り組みでした。そのスケールのみならず、慎重さと不断の努力において、あらゆる職業、あらゆる地位の人たちの際限のない貢献が必要とされました。設計者は、自分たちが十分に理解している事柄の領域から出て、確固たる粘り強さをもって、未知のエンジニアリング物理を乗り越えねばなりませんでした。完成品は、とてつもないスケールの、無類の驚異的な職人技を表すものとなったのです。

航空宇宙の分野では、私たちにとってアセンブリラインは当たり前ですが、サターンVはそれぞれが一度限りだったのです。アポロプログラム全体では400,000人ほどが雇われており、打ち上げロケットのサターンファミリ-はそのかなりの部分を占めていました。彼らのツールはもちろん中世の職人たちのものよりは高度でしたが、基本的には、この全長363フィートのロケットは手作りで、そうせざるを得なかったのです。ロケットはパーフェクトでなければならなかったのですから。ロケットがパーフェクトでなければならなかった理由は、許容誤差がほぼ存在しなかったためです。なぜなら、エンジニア達は、彼らにとって存在する理解の限界をずっと超えたところに到達しようとしていたからです。巨大なロケットは今ではそうあるものではありませんが、サターンVの設計において困難であったいくつかの点に光を当ててみたいと思います。これらは、現代のシミュレーションツールがあれば、プログラムが変更されてしまったであろうポイントです。

無敵のF-1は、これまでに発射された中で最大の、単一燃料室の液体燃料ロケットエンジンです。設計プロセスはすべての面で困難を極めましたが、実用的な燃料室の設計は特に過酷なものとなりました。大きなロケットエンジンでは、燃焼を伴う流体力学と航空音響学との相互作用が複雑になる傾向があります。燃焼室内の圧力波は局所的に燃焼率を高める可能性があり、これが今度はエンジン内の流れを変えます。これら物理的プロセスが不適切な割合で発生すると、システム全体が自励システムとなり不安定になる可能性があります。設計の観点から、エンジニアは、燃焼室形状、燃料と酸化剤インジェクタの設計、内部バッフルによってエンジンの安定性を制御しなければなりません。 

燃料の注入、混合、燃焼、流出のシミュレーションを行う手立てもなく、スケーリングと実験、それに粘り強さをもって取り組む以外になすすべはありませんでした。彼らはまず、自分たちが知っていて理解しているエンジンから始め、それらを変化させ、拡張しようとしました。特別な2次元の透明な推進室を造り、高速カメラを用いて燃焼領域の不安定性を測定しました。運転中のエンジン内の様々な場所で、とても小さな爆弾を文字通り爆発させ、内部圧力をモニタリングして、爆風が減衰するか増大するかを確認したのです。最終的に彼らは機能するF-1を生み出しましたが、プログラムマネージャのWerner von Braun氏によれば、

 

・・・インジェクタと燃焼器の開発において適切な設計基準が存在しないがゆえに、業界はほぼ完全なる経験的アプローチをとるしかなかった。このことは私たちの理解の足しにはならない。なぜなら、あるエンジンシステムに適した解決法は、たいてい別のエンジンシステムには適用できないからである・・・

 

設計はエンジニアが行ったわけですが、ある意味、エンジニアリングとまでは行かないものでした。粘り強さは最後には報われましたが、F-1燃焼の不安定性は、Apolloプログラム全体を頓挫させるところでした。

 

F-1インジェクタプレートのクローズアップ。1428個の液体酸素インジェクタおよび1404個の RP-1 燃料インジェクタの多くを確認できる。インジェクタプレートは直径約44インチで、2つの円形バッフルおよび12の放射状バッフルによって、13のインジェクタ室に分割されている。写真:Mike Jetzer (heroicrelics.org) 

 

Rocketdyneのエンジニアが現代のシミュレーションツールを使えていたらと想像してみてください!CONVERGEのようなツールがあれば、液体燃料噴霧衝突のシミュレーションを直接行うことができ、形状と噴霧パラメータを変化させることができます。CONVERGEのようなツールがあれば、衝突圧の変動による局所燃焼増強を計算でき、異なるバッフル形状と構造を使って、その緩和効果を測定することができます。また、Werner von Braun氏の言葉を借りるなら、燃焼不安定性への対処方法を新たな知識として蓄積することができるのです。

Saturn I (flight SA-5) のRP-1 燃料タンクのスナップ写真。カメラは、タンクの一番上中央から下に向けられた状態。アンチスロッシュ・バッフルに注目。写真:Mark Gray。YouTubeより。

 

巨大な下段タンクの燃料スロッシュもまた設計上の難題でした。第1段ロケットの液体酸素タンクの直径は33フィート、長さは60フィートでした。こんなとてつもないタンクを、飛行の象徴である振動と加速にさらしながら、どうやってスロッシュの研究をするというのでしょうか?ゼログラビティでの余った推進剤の挙動はどうでしょうか?

1960年代の答えは、ロケットを造って飛ばしてみろ!

実際、初期のサターンの発射では(もちろん搭乗員なしです)、タンク内の燃料の流れをモニタリングするビデオカメラが搭載されていました。あの時代のカメラはフィルムで録画していましたので、そのカメラは放出可能なカプセルに入れられていたのです。映像を数分録画した後、カプセルは使用済みのロケットから安全な場所へとパラシュートで降下するのです。

このエンジニアたちに現代の流体シミュレーションツールをプレゼントしたら、大喜びしたに違いありません。

 

映画「Apollo 13」をご覧になった読者の皆さんは、サターンVの第2弾ロケットの中央エンジンが発射の際に故障したことを思い出されるのではないでしょうか。これはpogo振動、別の燃焼不安定性の問題によるものです。ロケットでpogo振動が発生すると、推力の瞬間的な増加によってロケットの構造が収縮します。これによって、誤った周波数の場合、燃料の流れが急増して、推力に自励の瞬間的増加を新たに引き起こす可能性があります。深刻なケースでは振動が機体を破壊することもあります。システムの離調のため様々なスタンドパイプやアキュムレータを追加しましたが、これは、効果を測定するためにロケットを飛ばしながら、繰り返しされたに過ぎません。今日、私たちは、構造物を造る前に流体構造連成を試すことができるのです!現代のシミュレーションツールは、設計プロセスにとって劇的な助けとなっています。

 

サターン V 第1段 Pogo 防止バルブ(図:NASA)

 

今日の航空宇宙エンジニアリングコミュニティでは驚くべきことが行われています。スペースXとブルーオリジンは、垂直着陸に成功しましたし、ユナイテッド・ローンチ・アライアンスは、デルタIVとアトラスVで完璧な運航記録を蓄積しました。ロケットラボやファイアフライ・エアロスペースなどの企業は、多国籍コングロマリットのリソースがなくても、ペイロードを軌道に乗せることが可能なことを証明しました。ですが、私にとっては、十分に理解できていない物理プロセスと格闘して、2本脚の椅子で人類を月に飛ばせたエンジニアたちの信じがたい偉業を超えるものはありません。

サターンV打ち上げロケットについてもっと読んでみたくなりましたか?

Roger Bilstein博士のStages to Saturnから始めることをおすすめします。

 

出典:CONVERGENT SCIENCE BLOG(2019年7月15日公開)

(一部編集して翻訳)APOLLO 11 AT 50: BALANCING THE TWO-LEGGED STOOL

主任研究員 Erik Tylczak

 


CONVERGEをご存じでない皆様、是非こちらをご視聴ください。CONVERGEの概要について9分で確認いただけます。

 

CONVEREGEの適用についてご不明な点がございましたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。

 

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オートノマスメッシング熱流体解析プログラムCONVERGEは、2008年の販売を開始以来、エンジン筒内の3次元解析をメインターゲットに、世界中で広くご活用いただいています。

普段CONVERGEをご利用いただいていないモデルベース開発を統括・推進されていらっしゃる開発責任者・管理職・シニアエンジニアの皆様、これからCONVERGEのご導入をご検討される方、IDAJにコンサルティング業務の依頼を検討される方に、CONVERGEがどういう場面でお役立ていただけるかをわかりやすくご紹介しています。

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