【CFD基礎講座:噴霧編(3)】蒸気圧
皆さま、こんにちは。
IDAJの流体解析エンジニア:ナッピです。
これまでの流体解析に関する記事はこちらです。あわせてご覧ください。
はじめての流体解析 ・ これって混相流? ・ CFD基礎講座:噴霧編(1) ・ CFD基礎講座:噴霧編(2)
今回は、液相が沸騰する条件について整理していこうと思います。
大気圧下(1,013.25hPa)では、 100℃で水が沸騰します(この温度を沸点と呼びます)。しかしこの沸点、実は水の圧力によって異なることはご存知ですか?
標高が日本一の富士山の山頂(標高3776m)では、水の沸点が87℃になります。これは富士山頂での気圧が約630hPaであることが起因しています。
では標高が世界一であるエベレストの山頂(標高8448m)ではどうでしょうか?エベレスト山頂の気圧はぐんと下がり、約300hPa。この地点での水の沸点はというと… ?なんと70℃まで下がります!
では、エタノール(アルコールの一種)の沸点はどうなるでしょうか?!
大気圧下では78.3℃。富士山頂では67℃、エベレスト山頂では約50℃となります。
日常でよくみられる物質では、液相の圧力が下がると沸点が下がるという性質を持ちます。また液相圧力と沸点の関係は、物性によって異なります。
ここで、液相の物性値の一つである蒸気圧(vapor pressure)という概念を導入します。
蒸気圧とは「気相と液相が共存し、かつその配分が変化しない状態(相平衡の状態)にあるときの圧力」のことで、温度に依存する物性値です。気象学では飽和蒸気圧と呼ばれています。
さて、いままで「液相が沸騰するときの温度」ということでお話ししてきた沸点ですが、蒸気圧という言葉を使って言い換えると、以下のようになります。
“沸点とは、液相の圧力が蒸気圧と等しくなる時の温度である”
以下は、縦軸を蒸気圧、横軸を温度としたときの関係を示したグラフ(蒸気圧曲線)です。
この蒸気圧曲線を見ると、
- 液相の圧力が下がれば沸点も下がる
- 水の沸点よりエタノールの沸点の方が全体的に低い(エタノールの方が水より蒸発しやすいという特性にもつながる)
といったことがより明確になります。
さて、日常生活でも(富士山に登らなくても)「液相圧力によって沸点が変わる」現象を確認することができますよ。2つほどご紹介します。
圧力鍋
鍋の中の圧力を上げることで、調理時間を短縮させることができるとても便利な調理器具です。これは、「液相圧力を上げることにより、液相自体の沸点が上がる」という性質を利用しています。
船舶用プロペラやポンプ
液相の圧力をどんどん下げていき、蒸気圧以下に達すると、常温下でも気化(沸騰)します。船舶用プロペラやポンプなどの流体機械で発生するキャビテーションはこの液相の性質によるものです。
今回は、蒸気圧という概念を導入することで、液相が沸騰するための条件を整理してみました。
蒸気圧の概念は、液相の蒸発にも応用できます。次回からは、蒸発について詳しくお話しさせていただきます。
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