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次世代高速通信技術をミリ波・テラヘルツ波解析視点から解説(その2)

 

皆さま、こんんちは。

IDAJの中嶋です。

5Gや6Gの通信周波数帯域は、低マイクロ波帯からミリ波、テラヘルツ波帯へと変移し、これまでなら無視できた小型な物質の影響を大きく受けるようになってきたため、アンテナ周辺の構造や、反射・透過する材料を解析する需要が高まっています。

前回の、有限要素法によるミリ波・テラヘルツ波解析に続いて大規模通信解析とTHzメタマテリアル解析についてご説明します。

ハイブリッドソルバーによる大規模通信解析とTHzメタマテリアル解析

車内や室内、ローカル5Gエリア内などの大規模な領域におけるミリ波やテラヘルツ波の解析の場合、有限要素法だけでは膨大な解析メモリが必要となるため、現実的なレベルでの計算ができません。Ansys HFSSには、有限要素法(FEM)、モーメント法(MoM)、レイトレース法(SBR+)を同じGUI上で設定できるハイブリッドソルバーが搭載されているため、解析精度を下げることなく、解析メモリ・時間を効率的に削減することができます。

ここからは、ハイブリッド機能を使用したミリ波レーダー、建物内の5G通信などの解析事例と、テラヘルツ波を制御するためのメタマテリアル解析事例をご紹介します。

1. ミリ波モジュールの解析

(1)ハイブリッドモデル

構造体ごとにソルバーを使い分けるハイブリッド解析では、解析時間とメモリを大幅に削減することができます。FEMは全空間に3Dメッシュを作成して解析しますので、計算負荷は極大となります。ハイブリッド解析では、対象とする構造体に適した解析手法を設定することができるため計算負荷が下がり、大規模解析に適した手法です。

ミリ波モジュール解析を例にすると、全体の形状を設計するには、個別構造のステップごとにアンテナの特性を解析して確認します。ミリ波アンテナ単体では、FEMの空気領域を含む単体パッチアンテナの形状を解析し、79GHz帯の反射損失を下げる形状となるように最適化します。レンズ付ミリ波アンテナでは、単体パッチアンテナにMoMを適用したレンズをモデル化し、ハイブリッド解析によってレンズで遠方界の指向性を上げるように最適化します。筐体やグリルを組み合わせたミリ波モジュールでは、筐体とグリルをPO・IEのMoMでモデル化し、ハイブリッド解析で特性を求めます。また、ハイブリッド解析でも、ポスト処理によって遠方界・近傍界をプロットすることができ、アンテナ周りに部品を追加することによる特性の変化が把握でき、モデル設計に役立てることができます。

 

ミリ波モジュール構造

ミリ波モジュール構造

ミリ波の遠方界Far Field・近傍界Near Field

ミリ波の遠方界Far Field・近傍界Near Field

 

(2)ハイブリッド解析とFEM解析の比較

ハイブリッド解析を使用する利点は、FEM解析と同等の解析精度を保ちながら、計算時間と使用メモリを大幅に削減できることです。アンテナ単体のFEM解析の計算時間を基準に計算時間を比較すると、レンズ付ミリ波アンテナでは、ハイブリッドは+13分、FEMは+28分、ミリ波アンテナモジュール全体になると、ハイブリッドは+33分、FEMは+256分で、複雑な構造になればなるほどハイブリッド解析による計算時間削減効果が得られ、様々な構造の解析にトライする時間を確保することができます。

レンズ付ミリ波アンテナ

レンズ付ミリ波アンテナ

ミリ波アンテナモジュール

ミリ波アンテナモジュール

  ハイブリッド FEM
計算時間 メモリ 計算時間 メモリ

アンテナ単体

0h44m

19.7GB

レンズ付アンテナ

0h57m

25.4GB

1h12m

36.3GB

アンテナモジュール

1h17m

37.1GB

5h00m

121GB

ハイブリッド解析とFEM解析の計算時間(Core:28、メモリ:128GB)

2. SBR+による79GHzミリ波レーダーのドップラー解析

(1)構造ごとの解析設定

ミリ波レーダーのドップラー解析をAnsys HFSSで解析するには、まずミリ波アンテナをFEMで解析して設計し、解析したモデルを3D Component化します。そのモデル周辺にレンズ、筐体、グリルのモデルを配置してハイブリッド解析のための設定を行います。ミリ波アンテナをFE-BI(FEM)、レンズ、筐体、グリルをMoMとして遠方界を解析し、遠方界データを求めます。ドローンミリ波レーダー実装部に遠方界データを適応して、SBR+の設定を行いADP(Accelerated Doppler Processing)を解析します。

ステップ構造ごとの解析設定

ステップ構造ごとの解析設定

 

(2)ADP解析 (Accelerated Doppler Processing)

ドローン1とドローン2を移動させながら、走行している車の加速ドップラー処理解析を行います。アニメーションでは、時間経過によってドローンと車が移動し、X軸を距離 [m]、Y軸を相対速度 [m/s]、プロットを反射強度 [dB]として表示されます。

加速ドップラー処理

加速ドップラー処理

 

3. ローカル5G(4.5GHz・28GHz)の木造住宅への影響

ローカル5Gを想定して、敷地内の設置型アンテナTxとスマートフォンのアンテナRxをモデル化し、木造住宅の内外でどのような特性を持つかを、Ansys HFSSのSBR+ソルバーで解析しました。

スマートフォンのアンテナRxが遮蔽物なしの屋外にある場合、挿入損失の4.5GHzと28GHzを比べると、周波数の影響によって理論通りの約16dBの差が現れます。木造構造物とガラスの遮蔽物がある屋内の場合は、4.5GHzではあまり影響は受けませんが、28GHzでは建物の影響で20dBの差が現れ、約4dB損失が悪くなることがわかります。

Ansys HFSSのFEMで解析した精度の良いアンテナ特性を用いて、より簡単にSBR+での大規模解析が可能になりますので、5Gの周波数領域では大規模な解析サイズとなる、住宅・工場・ビル・車などの通信特性を把握することができます。

ローカル5G基地局(Tx)

ローカル5G基地局(Tx)

挿入損失S(Rx,Tx)

挿入損失S(Rx,Tx)

 

4. THz材料解析

THzを制御するフィルタとしてC型を6層重ねたメタマテリアルをモデル化、上方からTE・TM方向の平面波を照射し、挿入損失を解析しました。C型の寸法のMLを0.13-0.17mmまで変化させて、ML寸法の変化による損失特性を確認することができ、得られた結果から、周波数特性の目的に合うML寸法(今回は0.15mm)を選択します。TE(赤色)・TM(緑色)の挿入損失の周波数特性をみると、149GHzではTMのみ透過、159GHzではTE・TM共に透過、218GHzではTEのみ透過することがわかります。それぞれの周波数で、CP円偏波を上方から入射したメタマテリアル透過後の電界強度分布をみると、149GHzではTMの直線偏波のみ、159GHzではTE・TMは透過するが位相ずれにより楕円偏波となり、218GHzではTEの直線偏波のみに変化することが確認できます。

THzメタマテリアル

THzメタマテリアル

TEとTM挿入損失S(2,1)(ML=0.15mm)

TEとTM挿入損失S(2,1)(ML=0.15mm)

 

 

TE

TM

149GHz

反射

透過

159GHz

透過

透過

218GHz

透過

反射

周波数特性

 

円偏波入射と電界強度分布

円偏波入射と電界強度分布

 

 

今回は、Ansys HFSSを使用した有限要素法による解析、ハイブリッドによる大規模通信解析についてご紹介しました。5Gや6Gでは、これまでの無線通信で考慮する必要がなかった材料特性や微細な構造でも影響が現れるため、解析によってどのような現象が起こるかを検証しなければなりません。IDAJは、5G・6Gに代表される次世代高速通信技術のさらなる向上のためのシミュレーション技術構築のご支援ができればと考えておりますので、本稿の内容にご不明な点がございましたら、どうぞお気軽に弊社までお問い合わせください。

 

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