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医療の世界におけるCFD(熱流体解析)

Jun Mizushima

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

主に工業の世界で急速に進行するクリーンテクノロジーにおいて、シミュレーションはより効率的でコストパフォーマンスの高い重要なツールとなってきました。その流れは、医療や医学の世界にも広がっており、オートノマスメッシング熱流体解析プログラム「CONVERGE」の適用事例にもこれらバイオメディカル領域の事例が増えてきましたので、この場をお借りしてご紹介します。

患者の転帰(注:ある一時点での結果、アウトカム)を改善することは、生物医学研究開発の究極の目標です。医学は過去数十年にわたって大幅に進化し、実験という手法から命を救うための数え切れないほどの発見や発明が生まれました。しかし、実験的な研究手法には限界があります。in vivo(注:生体内の、 イン・ビボ)という試験は、侵襲的で費用がかかり、最悪のシナリオでは患者に悪影響を与える可能性があります。in vitro(注:試験管内で、イン・ビトロ)実験は、患者への潜在的な害を排除することができますが、実験室で生物学的環境を適切に再現することは困難なため、in vitroの結果は患者に転換されないことがよくあります。

シミュレーションは、in vivoおよびin vitro技術の補完的なアプローチという位置づけです。In silico(注:シリコン内で、コンピュータを用いて、イン・シリコ)研究は、非侵襲的であり、患者へのリスクを想定されません。さらに、生理学的環境をシミュレーションに組み込むことができるため、仮想のin situ(注:現場で、イン・サイチュ)な研究が可能です。生物医学分野において、シミュレーションと実験の組み合わせはますます一般的になりつつあり、その結果は有望であると考えられています。シミュレーションは、医療機器の設計と評価に役立ち、また、理学的プロセスと疾患の進行に関する理解を深め、最終的には患者の転帰を向上させることができます。

生物医学(バイオメディカル)分野におけるCONVERGEを用いたCFDシミュレーションの適用

 

CONVERGEは、高度な数値流体力学(CFD)ソルバーで、シンプルなケースセットアップ、豊富な物理モデルのライブラリ、後処理・データ解析機能など、生物医学シミュレーションに対して多くのメリットをご提供します。さらに、Convergent Scienceの開発・アプリケーションチームは、Convergent Scienceのソフトウェアがお客様の特定のニーズを満たすことができるように努めています。

複雑な物理ジオメトリのシミュレーション

生物医学におけるシミュレーションのジオメトリは、多くの場合、患者のスキャンから得られた複雑な生物学的な構造がもとになります。患者の解剖学的構造は一人一人異なるため、形状も異なります。CFDシミュレーションでは、物理演算を解くための離散セルにドメインを分割する計算メッシュが必要です。多くのCFDソルバーでは、メッシュを手作業で作成する必要があるのですが、特に対象が複雑な生物学的形状の場合、時間と手間ばかりがかかり、シミュレーションの効率アップを阻害します。

CONVERGEには、オートノマスメッシング機能が備わっていますので、メッシュを手動で作成する必要がありません。計算実行時に、複雑なトポロジー性を保持できる高品質なメッシュを迅速に自動的に生成します。ジオメトリを移動させる場合は、各時間ステップでメッシュを再生成し、モーションをシームレスに調整した上で、結果として生じる流れをとらえます。

大動脈を通過する血流のCFDシミュレーション

 

前立腺肥大による尿流動への影響

計算結果をすばやく取得

生物医学分野では、時間がネックになることがよくあります。CFDは救急医療には適しませんが、命を救う可能性のある心臓弁を設計したり、大動脈縮窄の治療オプションを調査する場合でも、結果はできるだけ早く得たいところです。と同時に、エラーは有害な結果をもたらす可能性があるため、精度に妥協したくはありません。CONVERGEのアダプティブメッシュリファインメント(AMR)は、速度と精度の適切なバランスをとるために非常に有効です。AMRは、シミュレーション全体でメッシュを自動的に調整し、重要な物理特性を捕捉するために必要なときに、必要な場所にセルを追加します。この機能によって高レベルの精度を維持しながら、シミュレーションを可能な限り効率的に行うことができます。

流体と固体の相互作用を捉える

膨大な生理学的プロセスには、流体の流れに応じて移動または変形する固体構造が含まれています。これらの現象を正確に表現することは、現実的な生物医学シミュレーションの鍵となります。CONVERGEには、体内で発生するさまざまな種類の流体-構造相互作用(FSI)をシミュレートするための一連のモデリングアプローチが含まれています。

剛体オブジェクト

血液ポンプや人工心臓弁などの機械装置には、多くの場合、課せられた流体力と加えられた身体力に従って動く剛性コンポーネントが含まれています。CONVERGEの剛体FSIは物体の変位を解析し、計算メッシュを介した物体の動きは、カットセルグリッドの生成によって簡単に対応することができます。流体密度と固体密度が一致する(例えば心臓弁)場合のFSI安定性に関する課題は、陰的な連成手法によって対処します。

人工心臓弁の流体構造連成(“CAPTURING HEART VALVE DYNAMICS WITH IMPLICIT FLUID-STRUCTURE INTERACTION MODELING”

変形可能な構造

流体の流れに応じて変形する動脈壁などの非剛性固体の場合は、CONVERGEのオプションを使用します。変形する固体の運動は、解析関数または医療用画像から取得したモーションプロファイルを使用して規定できます。加えられた流体力に基づいて変形を予測する場合は、CONVERGEとSIMULIA Abaqus Unified FEAソルバーを組み合わせて、高度な 3D FSI 変形解析を実行します。これらのアプローチは、他の多くのアプリケーションの中でも、心血管の動態、膀胱排尿、蠕動ポンプおよび膜ポンプに関する洞察を得るのに有用です。

[流体構造連成解析に関してはこちらの記事もあわせてください]

コンプレッサーのシミュレーションにCONVERGEを適用

ポンプとコンプレッサのためのCONVERGE:設計最適化のためのエンジニアリングソリューション

 

血管内の進行波による弾性変形

せん断応力の予測

壁せん断応力(Wall Shear Stress:WSS)は、子癇前症(しかんぜんしょう)、後天性フォン ヴィレブランド症候群、動脈瘤破裂、アテローム性動脈硬化症などのさまざまな疾患で重要な役割を果たすことが示されています。CFDは、重度の大動脈弁狭窄症に係る乱流の生物学的流れを含めて、高い精度でWSSを予測することができます。CONVERGEには、RANS(レイノルズ平均ナビエ・ストークス方程式)やLES(ラージエディシミュレーション)などの乱流モデルが豊富にあり、これらは速度と精度の範囲に及ぶため、ニーズに合わせて適切なモデルを選択することができます。

頭蓋内動脈瘤のリスク評価

関連する液体や気体種を含めたシミュレーション

CONVERGEは、ニュートンまたは非ニュートンの生体液を含んだシミュレーションにも対応します。さらに、オイラー多相モデリング機能によって、必要な数の液体と気体種をシミュレーションに含めることができます。これら機能を利用すれば、手術中のCO2注入、血液ポンプのキャビテーション、持続的気道陽圧法(CPAP)の装置の結露など、さまざまな検討が可能になります。

生理学的境界条件の適用

血管のCFDシミュレーションで捕捉するのは、大きな循環器系のごく一部です。生理学的な関連性を確保するには、シミュレーション領域に含まれる容器の下流の過渡流れ場を考慮する必要があります。CONVERGEには、下流動脈の物理的な柔軟さを説明するためにウィンドケッセル(Windkessel)モデルがあります。このモデルは、収縮期と拡張期プロセスにおける主動脈の膨張、収縮、抵抗効果を電気回路とのアナロジー(類推)で再現しますので、CFDシミュレーションから医学的に有用な結果を得ることができます。

エアロゾル化液滴のモデル化

COVID-19パンデミックでは、エアロゾル化した飛沫のモデリングに対して多くの関心が寄せられました。CONVERGEのラグランジュモデルは、パーセルをシミュレートするための計算効率の高い方法です。これらのモデルを適用して、咳による飛沫、マスクとフェイスシールドの影響、室内でのウイルスを含んだ飛沫拡散、換気システムの有効性、吸入と呼気、くしゃみ、点鼻薬からの鼻を通る飛沫の流れなどの問題に適用することができます。

おわりに

私が担当しているCFDが、医療・医学分野に対してお役に立てるようになってきたということは、個人的には非常にうれしく、また、ますます興味が惹かれるところです(私の興味は”カーリング”だけではありません。)。バイオメディカルは、CONVERGEが注力している領域でもありますので、今後、お客様とご一緒に技術構築をさせていただく機会が頂戴できればと考えております。IDAJは、CFDだけでなく様々なシミュレーション技術を保有していますので、お客様の課題に即した最適なソリューションをご提案させていただきます。本記事や、CFD、CAEに関してご質問やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽に弊社までお問い合わせください。

 

上記本文とは直接的には関連しませんが、遠心型血液ポンプ性能評価にCFDを適用した事例もございますので、最後にご紹介します。

 

遠心型血液ポンプ性能解析

 

Convergent ScienceのWebページ“THE POWER OF COMPUTATIONAL MEDICINE”を翻訳して加筆しました。

 

 

 

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