プレディクションタイプのCFDの適用 ~ガスタービンモデルの進歩~
皆さま、こんにちは。
IDAJの水島です。
今回は、オートノマスメッシング熱流体解析プログラム「CONVERGE」の開発元である、Convergent Scienceが公開しているBLOGの内容を翻訳してご紹介します。
Convergent Scienceは、“内燃機関(IC)エンジンのモデル化から始まった“と申し上げても過言ではありません。当然、CONVERGEの開発においては、ICエンジンシミュレーションを念頭にツールと機能を追加していきました。しかし、詳細化学反応ソルバー、解適合格子による自動メッシュ作成、移動形状、少ない数値粘性など、ICエンジンのシミュレーションに必要だと考えて開発してきた機能は、ガスタービンエンジンのシミュレーションにも大いに適用できるのです!
Convergent Scienceは、しばらく前からCONVERGEを用いてガスタービンエンジンの研究を進めており、ガスタービンエンジンに関する難しい問題を解決すること、ガスタービン業界に対して真の予測ツールをご提供することを目指しています。
私たちは、“非定常で非線形性の強い化学反応プロセス”をシミュレーションにおける難しい問題の一つだと考えています。このような化学反応プロセスは、ガスタービンでは、非定常的な火炎形状、エミッション排出、再点火、リーン・ブローアウト(LBO)、逆火の問題に該当します。
ちょうど、CONVERGEがこういった運転中の重要な現象を予測できることを2本の論文で証明しましたので簡単にご紹介します。
AIAA Paper 2016-4561では、CONVERGEがガスタービンの再点火での着火と火炎伝播を予測できることを実証しました。この論文では、シミュレーション結果とCORIA設計のPRECCINSTA燃焼器のDLR実験データとを比較しました。PRECCINSTA燃焼器は、図1に示すように、5つのバーナーが平行に並んだ垂直燃焼型の装置で、天然ガス燃料が用いられます。

図1:5バーナー構成のPRECCINSTA燃焼器リグの数値解析設定
このシミュレーションは、Convergent Scienceの基準では、きわめて型通りの計算だったと言えます。非常に複雑な形状ではありますがメッシュの自動作成機能で事足り、非定常RANS乱流モデル、火花のエネルギーソース項、SAGE詳細化学反応ソルバーによる化学反応を行います。グリッドは、約1,000万セルとそれほど細かいわけではありませんでしたが、LES計算にコストをかける必要もありませんでした。それにもかかわらず、典型的な再点火の変遷を定性的に実証し(図2)、各インジェクターの着火タイミングが実験誤差の範囲内であったことを示しています(図3)。

図2:時間が異なる3例の火炎の形状
スパークイベントの発生時間はt = 0.0 msです。左がCONVERGEの結果で右が実験1結果です。

図3:インジェクター1〜5の点火のタイミング
解析手法を変更せずに、さらにバーナーが2つのケースとバーナーが4つのケースもシミュレーションしてみました。これらの結果が図4・5です。ここでも、CONVERGEの着火時間は実験誤差の範囲内でした。
モデルパラメーターを調整していませんので、これは高高度での再点火の重要な特性を示すプレディクション(予測)結果になります。これまで、再点火の設計にCFDが使用されてなかったのは、予測解を出せるシミュレーション手段がなかったからです。しかし、ツールの性能向上に伴って、エンジニアリングのベストプラクティスも向上します。
こちらは、ガスタービンエンジンの著名なメーカーであるハネウェル社が、再点火の予測にCONVERGE CFDがどのように使用したかをご紹介した記事です。

図4:バーナー2つのケースの点火タイミング

図5:バーナー4つのケースの点火タイミング
またConvergent ScienceはAIAA論文(AIAA 2017-1059)で、CONVERGEがパイロット安定型の発電用燃焼器のNOxとCO排出を予測できることを示しました。NOxとCOはどちらも環境面で重要な、規制の厳しい排出ガスですが、これらのガスから運転条件を定めることができます。気体燃料駆動のガスタービンは、通常、希薄予混合を使用してNOxを削減しています。多くの場合、これらの乾式低NOx(DLN)燃焼器は、主燃料を可燃性になるギリギリまで予混合し、火炎の安定にはあまり予混合されていないパイロット燃料を使用します。パイロット燃料を最小限にすると、NOxの生成は最小限に抑えられますが、燃焼器の安定性が低下し、LBOと逆火のリスクが高まります。COの排出量は通常、LBOの直前に増加します。
Convergent Scienceは、高品質の実験データが取得できるスケーリングされたDLR燃焼器2の構成を調査しました。図6は使用したテストリグで、図7はその内部形状です。
![図6:DLRスケールリグ燃焼器[2]](https://www.idaj.co.jp/blog/wp-content/uploads/kimiko-nakai/e7fffb22858a4419d1cfcfe28a54b66d.png)
図6:DLRスケールリグ燃焼器[2]

図7:CFDモデル形状
このシミュレーションでも、CONVERGEの詳細化学反応ソルバーを使用し、モデルはLES乱流モデルを使用しました。計算結果は、実験データと一致する速度場を解像し、パイロット燃料比率の増加に伴うNOxの増加を予測することができました。
さらに注目に値するのは、CONVERGEがCO生成のいわゆる「屈曲点」、つまり低パイロット燃料比での急激なCO増加を予測したことです。図8は、パイロットの比率に対してプロットされたCO排出量の予測を示しています。

図8:燃焼器パイロット比率に対するCO生成
COの屈曲点は不完全燃焼の特徴であり、ガスタービンの設計者はこれを初期の火炎吹き消えと燃焼器セクションのダイナミクスの損傷のしるしとして扱います。
重要なのは、この運転範囲の限界は、COレベルの変化が10ppm未満で現れることです!
厳密性の低い化学反応モデル(混合分率またはテーブル形式)では、このようなダイナミクスを予測できるなど思いもしないでしょう。では、なぜこれまで計算できたのでしょうか?
そのようなモデルでは、パイロット比ごとにCOレベルが適切になるように調節されたからではないかと考えています。でも、それではプレディクション(予測)ではなく、ポストディクション(後付け)になるでしょう。
ここでご紹介した2つの論文に共通するテーマは何でしょうか?
ガスタービンの燃焼は、CONVERGEの詳細化学反応ソルバーで正確に予測できます。化学反応速度は、流れのシミュレーションで最も重要な物理量であり、それなしでは厳密性を高めるために費やす計算コスト(LESなど)が無駄になります。CONVERGEを使用すると、ガスタービン燃焼器内の重要なトレーサー化学種や非定常再点火ダイナミクスを正確かつ確実に予測できるのです。
難問に、CONVERGEを使用してみてはいかかでしょうか?
出典:CONVERGENT SCIENCE BLOG(2017年5月22日公開)
Gas Turbine Applications部門長 Scott Drennan
PREDICTIVE CFD APPLIED–PROGRESS IN GAS TURBINE MODELING
- Barre, D., Esclapez, L., Cordier, M., Riber, E., Cuenot, B., Staffelbach, G., Renou, B., Vandel, A., Gicquel, L., and Cabot, G., “Flame Propagation in Aeronautical Swirled Multi-Burners: Experimental and Numerical Investigation,” Combustion and Flame, 161(9), 2387-2405, 2014. DOI: 10.1016/j.combustflame.2014.02.006
- Lammel, O., Stohr, M., Kunte, P., Dem, C., Meier, W., and Aigner, M., “Experimental Analysis of Confined Jet Flames by Laser Measurement Techniques,” J. Eng. Gas Turbines Power 134(4), 2012. DOI: 10.1115 1.4004733
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