ソリューション
ソフトウェア
その他・お知らせ
本文までスキップする

高性能・高密度実装時代の”基板回路-熱シミュレーション”をもう一度考えてみませんか?

 

皆さま、こんにちは。

IDAJの錦織です。

電子機器の高出力化・高密度実装化により、熱設計は益々難しい時代を迎えました。電動化が急速に進む自動車業界だけでなく、いち早く熱設計の壁に直面した業界では、基板回路-熱シミュレーションを活用した新時代の熱設計技術が続々と開発され、基板熱設計が改めて注目されています。

今回は、Simcenter Flothermのご紹介を通して、電子機器の熱設計において基板が重要であることを示し、基板のモデリングやジュール発熱解析など、基板の熱解析を中心にご説明します。また、基板回路-熱シミュレーションのキーとなるROM(Reduced Order Model)機能もご紹介します。

電子機器のサプライチェーンで活用されるSimcenter Flotherm

Simcenter Flotherm(以下 Flotherm)は、1989年のファーストリリース以降、電子機器の熱設計分野で世界シェア60%以上の高い信頼を得ているツールです。そして現在、Flothermは電子機器のサプライチェーンで活用されるツールとなりました。掲載できたのは一部のユーザー様なのですが、材料・部品サプライヤー様からモジュール・最終製品メーカー様まで、幅広くご活用いただいています。

電子機器のサプライチェーンで活用されるSimcenter Flotherm

電子機器のサプライチェーンで活用されるSimcenter Flotherm

 

Flothermが電子機器の分野で幅広く使われる理由の一つ目は、なんといっても『高速ソルバー』です。これは、パラメーター解析においても強力なアドバンテージとなります。二つ目は、『幅広いスケールレンジ』。パッケージレベルから筐体レベルまで、様々なサイズのものを解析することができます。また、最終製品の解析では、部品レベルのモデルまで含めて解析することが可能です。

Simcenter Flothermが幅広く使われる理由

Simcenter Flothermが幅広く使われる理由

 

三つ目の特長は、モデルを作成する際に様々な設計データを活用できるところです。CADデータがなくても、Flothermでモデル形状を一から作成することができます。

Simcenter Flothermと各種設計データの連携

Simcenter Flothermと各種設計データの連携

 

基板の熱解析:基板が熱設計において重要な理由

半導体パッケージの上面が空気(自然空冷)の場合、チップで発生した熱流量のほとんどが基板側に流れていることが、シミュレーション結果から知られています。パッケージ上面にシートシンクを配置したとしても、約半分は基板側に流れています。JEITA(電子情報技術産業協会)の技術レポートでは、チップ抵抗の上面に放熱器を付けない場合、基板側への放熱割合は最大99.3%であることが示されています。熱の多くが基板側に流れるということは、基板が重要な放熱経路であり、一種の放熱器であるとさえ言えます。つまり、基板が熱設計に直結しているのです。

基板が熱設計において重要な理由

基板が熱設計において重要な理由

 

基板の熱解析:Simcenter Flothermの基板モデリング(EDA Bridge)

基板を詳細にモデル化するには、EDA Bridgeを使います。

Simcenter Flothermの基板モデリング(EDA Bridge)

Simcenter Flothermの基板モデリング(EDA Bridge)

 

EDA Bridgeの配線パターンのモデル化では、配線パターンを微小領域に分割し、微小領域毎に等価物性を自動算出する“パッチ分割”という方法を採用しています。開発元が実施した実測との比較検証でその有効性が示されています。

微小領域のサイズはスライドバーで簡単に設定でき、パッチ分割後の様子もリアルタイムで確認できます。誘電体層(Via層)に対しても同様にパッチ分割が可能で、層構造を考慮してモデル化することができます。

配線パターンのモデル化(EDA Bridge)

配線パターンのモデル化(EDA Bridge)

基板の熱解析:半導体部品のモデル化(Simcenter Flotherm Pack)

半導体部品を詳細にモデル化する場合、FlothermのオプションであるSimcenter Flotherm Pack(以降、Flotherm Pack)を使用します。Flotherm Pack は、Web上で半導体部品モデルを作成し、保存・管理することができるツールです。30種類以上のテンプレートからパッケージタイプを選択すると、内部構造と材料物性を設定するページが開きます。デフォルトで標準データが入っていますので、必要な個所だけ変更し、設定が完了したらモデルをダウンロードします。

Flotherm Pack は、半導体部品の内部構造をモデル化した”詳細モデル”の他に、詳細モデルから導出する2抵抗モデル・DELPHIモデルと呼ばれる“熱抵抗モデル”も作成できます。

半導体部品のモデル化(Simcenter Flotherm Pack)

半導体部品のモデル化(Simcenter Flotherm Pack)

基板の熱解析:作成した半導体部品モデルの配置(EDA Bridge)

作成した半導体部品モデルをFlothermのライブラリに登録すると、EDA Bridge上で扱うことができます。EDA Bridgeのデフォルトの部品モデルはシンプルモデルですので、変更したいものを選択して置き換えます。一般的に精度は、シンプルモデル→熱抵抗モデル→詳細モデルの順に良くなりますが、モデル規模が大きくなるため、モデリングレベルは部品の着目度に応じてご判断ください。

EDA Bridgeから基板モデルをFlothermに転送し、解析領域や条件を設定して、基板の熱解析を行います。

半導体部品モデルの置き換え(EDA Bridge)

半導体部品モデルの置き換え(EDA Bridge)

基板の熱解析結果

解析後は、表面温度分布や断面の温度・速度ベクトル・熱流束分布などを可視化して確認できます。あわせて、各種物理量の数値データの確認も可能です。

基板の熱解析結果

基板の熱解析結果

ジュール発熱解析(配線パターンのモデル化)

大電流を扱う電子機器では、ジュール発熱が無視できないケースがあります。基板配線パターンのジュール発熱を考慮した解析の場合は、電流経路の形状が重要になるため、先ほどの“パッチ分割”によるモデリングでは残念ながら不十分です。そこで、“Power Map”で配線パターンをモデル化します。

ジュール発熱解析(配線パターンのモデル化)

ジュール発熱解析(配線パターンのモデル化)

 

Power Mapの作成方法は2つあります。一つ目は、SIEMENS社のPower Integrityシミュレータ『HyperLynx PI』でDCドロップ解析後に、Power Mapファイルを出力し、それをFlothermに読み込みます。この方法では、HyperLynx PIで計算したジュール発熱分布と配線パターン形状を取り込むことができます。

Power Mapを作成する方法①

Power Mapを作成する方法①

 

二つ目は、配線パターンの白黒画像と、弊社が開発してユーザーサポートセンターから配布しているオリジナルマクロ「Powermap Creator by BMP」を使って作成する方法です。この方法では配線パターン形状のみ作成されるため、ジュール発熱の設定はFlothermで行います。

Power Mapを作成する方法②

Power Mapを作成する方法②

 

ジュール発熱解析結果

下図は、基板配線パターンをPower Mapでモデル化して解析した結果です。拡大図を見ると、配線の細い部分でジュール発熱が大きくなっていることがわかります。ジュール発熱解析では、設定した条件で発生したジュール発熱量を確認することができます。

ジュール発熱解析結果(基板配線パターン)

ジュール発熱解析結果(基板配線パターン)

 

ジュール発熱を考慮する対象は、バスバーの方が多いかもしれません。バスバーを対象とした解析結果がこちらです。

ジュール発熱解析結果(バスバー)

ジュール発熱解析結果(バスバー)

 

基板を筐体に入れた全体解析

Flothermは、基板単体の解析だけでなく、筐体を含めた最終的な製品形態での温度予測や熱設計にもご利用いただけます。自然空冷、強制空冷はもちろんのこと、水冷や太陽輻射(日射)を考慮した解析も可能です。

基板を筐体に入れた全体解析

基板を筐体に入れた全体解析

 

ROM(Reduced Order Model)機能

Flothermには、モデルをROM化するオプション機能があります。出力したROMは、回路シミュレータや数値解析ソフトウェア、マルチドメイン解析ツールなどで使用でき、超高速計算や他の物理領域モデルと組み合わせたマルチドメイン解析を行うことができます。ROMは、元になるFlothermモデルの特性を正確に再現するように出力されるため、ROMを使って得た結果は、元のFlothermモデルを解析した結果とほぼ同じです。

ROMの概要

ROMの概要

 

ROMの活用例の一つに、回路-熱連成シミュレーションがあります。回路素子の特性を温度に関連して変化させて解く際の熱モデルに、FlothermのROMが使用できます。

ROMの活用例(回路-熱連成シミュレーション)

ROMの活用例(回路-熱連成シミュレーション)

 

FlothermのROMを使った回路-熱連成シミュレーションの実施例が、SIEMENS社から紹介されています。左上はPartQuest Exploreというツールで、電気回路モデルとFlothermのROMを用いた回路-熱連成シミュレーション、左下はEldo Platformというツールで、同じく回路-熱連成シミュレーションを実施した事例です。いずれも、回路素子の特性を温度に関連して変化させて解くシミュレーションです。

回路-熱連成シミュレーションの事例紹介

回路-熱連成シミュレーションの事例紹介

 

電気と熱には相似性があるため、回路設計者の方に身近なSPICEでもFlothermのROM使った熱解析が可能です。

今回は、改めて基板の熱設計についてご検討いただく契機になればという思いでご紹介しました。Flothermは、電子機器の熱設計において重要な基板を詳細にモデル化して解析できるだけでなく、大電流が流れる際に生じるジュール発熱の解析も可能です。また、モデルからROMを出力することができ、超高速計算やマルチドメイン解析の熱モデルとして使用することができます。高性能・高密度実装時代に不可欠な熱設計技術構築にあたって弊社がご支援させていただけることがあれば、お気軽にご相談いただけますと幸いです。

 

 

 

■オンラインでの技術相談、お打合せ、技術サポートなどを承っています。下記までお気軽にお問い合わせください。ご連絡をお待ちしています。

株式会社 IDAJ 営業部

Webからのお問い合わせはこちら

E-mail:info@idaj.co.jp

TEL: 045-683-1990