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パーティクルシミュレーター「Rocky」の新機能と適用事例

Tatsuya Nakajima

皆さま、こんにちは。

IDAJの中嶋です。

今日は、パーティクルシミュレーター「Rocky」の最新バージョン2022 R1の新機能(機能とモジュール)と適用事例をまとめてご紹介します。Rockyは、粒子の挙動を解析するパーティクルイミュレーターで、球形状粒子だけでなく、ネジ部品やアルミ箔、稲などの実形状粒子を取り扱うことができる世界で唯一のソフトウェアです。お客様からのご要望にお応えしながら、毎年、新しい機能がどんどん追加されています。

Material Wizard

硬さ、形、質量、摩擦、反発力などが様々な粉や岩石を対象として解析を実施する場合には、簡単な実測の結果と比較してRockyのモデルパラメータを調整することをお勧めしています。よく使用される評価指標は安息角ですが、その調整には付着力、転がり抵抗、摩擦係数、反発係数などが考えられ、これらの合わせ込みに手間がかかることがあります。そんなときにご利用いただきたいのが“Material Wizard”です。

Material Wizardの使い方は非常に簡単で、かさ密度、安息角、湿り具合の3つの質問に回答するだけ。これらの正確な数値が分からない場合でも、範囲を3つの選択肢から選択すれば、Rockyの設定パラメータがリストアップ(註1)されます。後は、提示されたリストから良さそうなものを選択して、プロジェクトに設定を追加します。

(註1)リストアップにかかる時間は30~60秒と非常に高速です。これは、様々なパラメータによる大量の計算をもとに作成された入力値と出力値(安息角)のデータベースを参照しているためです。

アセンブリ粒子作成機能

粒子形状を組み合わせて一つの粒子を作成する機能です。凹粒子を、凸粒子の集まりで定義することで、計算時間を大幅に短縮することができます。Rockyで作成した粒子や読み込んだ粒子を材料にして、アセンブリ粒子を定義するテーブルにそれぞれの位置や拡大率、回転の数値を入力し、画面で結果を確認しながらアセンブリ粒子を作成します。

雪だるまアセンブリ粒子

”雪だるま”アセンブリ粒子

 

こちらは、研削加工のシミュレーションにアセンブリ粒子を使用した事例です。Rockyの周期境界機能を使用して、ワークは2つ、砥粒は3つの凸粒子を組み合わせたアセンブリ粒子で定義しました。アセンブリ粒子を使用したことで、メモリー使用量は1/22、計算スピードは36倍にまで向上しています。

アセンブリ粒子使用によるメモリー削減と計算スピードアップ

アセンブリ粒子使用によるメモリー削減と計算スピードアップ

 

一方向非定常連成解析 (Ansys Fluent非定常 ⇒ Rocky)

Rocky DEM 4.5.2までは、翼が回転する解析や流れ場に変動がある場合には、Ansys Fluentとの双方向連成解析が必要でした。方向非定常連成機能が追加されたことで、粒子が希薄な場合には、Ansys Fluentで出力した複数(時間)の流れ場情報を、Rockyで読み込みながら解析することが可能となります。Ansys Fluentは粒子を考慮しない流れ場のみを計算し、各時間のデータを保存するだけで良いため、Ansys Fluentの計算安定性向上や連成解析時間の短縮につながります。

ドライパウダー吸入器の解析

ドライパウダー吸入器の解析

排水ポンプの解析

排水ポンプの解析

指定領域外の粒子計算を凍結するモジュール

指定領域外の粒子計算を行わないことで計算スピードを向上させるモジュールです。領域は、時間移動させることができます。下図は、農耕器具で畑を耕す様子をシミュレーションしたものです。農耕器具が接触して影響を受ける作物(粒子)は器具の周りだけなので、外側の粒子計算を凍結しています。これによって計算スピードは約9.35倍になりました。

指定した領域以外の粒子計算を凍結して計算スピードアップ

指定した領域以外の粒子計算を凍結して計算スピードアップ

指定領域外の粒子衝突計算を凍結するモジュール

粒子同士の衝突の可能性が非常に低いと判断できる領域で、粒子の衝突計算を凍結するモジュールです。

下図は、吹雪の中にある車体への積雪の状態を解析した事例です。指定した領域(紫色の枠)の外側では、粒子は流体力による影響を受けますが、他の粒子との衝突は無視されます。そして、紫の領域に入ると接触判定が有効になり、DEMによる手法で計算されます。

指定した領域外の粒子の相互作用を凍結

指定した領域外の粒子の相互作用を凍結

動いていない粒子の衝突計算を凍結するモジュール

粒子が堆積し、ほとんど動いていない場合でも、Rockyは逐一その衝突を計算していますので、粒子が多くなるほど計算負荷が上がります。このモジュールでは、粒子とその隣の粒子の双方が動いていない場合に、粒子の衝突計算を凍結し、計算スピードを向上させます。

石油やガスの掘削時によく使用される岩石の水圧破砕のシミュレーションでは、処理する粒子が時間経過とともに堆積して粒子数が増加するため解析時間が長くなります。そこで、本モジュールを使用して動いていない粒子を判定し、有効な粒子のみの衝突計算を行うことで解析時間を短縮しました。以下のグラフを見ると、本モジュールを使用しないケース(黒線)では時間経過とともに有効粒子数が増加していますが、モジュールを使用したケース(赤点線)では、有効粒子数が一定値に抑えられ、計算スピードが約7.8倍アップしました。

動いていない粒子の衝突計算を凍結(左)・有効粒子数の比較(右)

動いていない粒子の衝突計算を凍結(左)・有効粒子数の比較(右)

コンクリートなどを粒子で再現するボンドモジュール

ボンドモジュールは、指定した時間になると、バネ-ダッシュポット接続を使用して粒子を結合・凝集します。解析実行中に、張応力またはせん断応力が規定値を超えると破断しますので、コンクリートなどの構造物を多数の粒子で表現する場合に有効な機能です。下図はセメントをドリルで掘削するシミュレーションです。

セメントをドリルで掘削する解析

セメントをドリルで掘削する解析

壁面衝突統計(左)と累積せん断強度(右)

壁面衝突統計(左)と累積せん断強度(右)

微粉炭燃焼モジュール(Rocky⇔ Ansys Fluent:双方向連成)

炭素粒子(C)が空気(O2+N2)と反応し、酸素濃度が低下して二酸化炭素を放出する解析が可能です。燃焼速度は局所温度による影響が大きいため、伝導、対流、放射熱が考慮されています。また、各粒子の燃焼だけでなく、燃焼によって消費された酸素量や放出された二酸化炭素の量をAnsys Fluentと共有するため、流体の組成も予測することができます。

以下は微粉炭燃焼の解析で、堆積した石炭に下部から熱い空気が流入し上部へと抜けています。図に示した通り、CO2モル分率(黒)が上昇し、O2モル分率(緑)と炭素平均粒子径(赤)が減少していることがわかります。

微粉炭燃焼模式図

微粉炭燃焼模式図

微粉炭燃焼解析

微粉炭燃焼解析

モル分率と粒子径推移

モル分率と粒子径推移

再結晶化モジュール(Rocky⇔Ansys Fluent双方向連成)

再結晶化モジュールでは、塩化カリウム(KCl)濃度の過飽和が粒子の成長にどのように影響するかを検討することができます。

こちらは、お湯に溶かした塩化カリウムをミキサーで攪拌しながら容器の外壁を冷やし、再結晶化する様子をシミュレーションした事例です。壁面近傍から塩化カリウムの濃度が上昇し、結晶が成長しています。本モジュールでは、結晶の生成は再現できませんので、あらかじめ結晶核としての粒子(塩化カリウム)を投入しておきます。グラフを見ると、冷却されている壁面近傍の粒子(結晶)が、中央よりも大きいことがわかります。

再結晶模式図

再結晶模式図

再結晶解析

再結晶解析

位置による再結晶グラフ

位置による再結晶グラフ

SPH(Smooth Particle Hydrodynamics) ※betaリリース

本バージョンの新機能の中で最も大きなトピックスが“SPH”です。スラリーや液体のスロッシングといった自由表面を持つ複雑な流体-粒子問題の解析に最適な手法です。このSPHも非常に簡単に操作・設定することが可能です。

1.湿式ビーズミル(SPH+DEM)

比較的大きな砕料は、ビーズの衝撃により粉砕します。これに対して微小砕料は、欠陥が少なく、理想強度に近いため、「ずり」の力による表面粉砕が主となります。従って、比較的大きな砕料には乾式ビーズミルが、微小砕料には湿式ビーズミルが適しています。湿式ビーズミルでは、砕料とビーズ以外に液体を使用し、流体のせん断力と摩擦力で砕料を粉砕します。これまでRocky単体では、液体を取り扱うことができなかったため、Ansys Fluentとの連成が必要で、解析設定の手間や計算時間の観点から難易度の高い事象の一つでした。Rocky 2022 R1では、自由表面流体を取り扱えるSPHが使用できるようになったため、湿式ビーズミルなどの解析もRocky単体で簡単に実施できるようになりました。

下図は、投入する液体量が異なる湿式ビーズミルの解析事例です。右のミルは、左よりも液体量が多いため、砕料(黒色)やビーズ(灰色)の流動性が高く、液体が集まっている部分(Slurry pooling)も確認できます。装置の消費電力をRockyで確認すると、右の方が少ないことがわかりました。砕料にかかるエネルギーなどを評価すれば、装置の理想的な運転方法を検討するのに役立つものと思います。

湿式ビーズミルのSPH-DEMによる解析

湿式ビーズミルのSPH-DEMによる解析

 

2.テトラポットによる消波(SPH+DEM)

海岸線付近で波が崩れる現象である砕波は、水塊の分裂や再合体を伴う激しい水面形状の変化です。これを格子法で解析すると、水面境界の変形の追跡に大きな困難が生じるため水面追跡精度が低下しますが、SPHでは液滴の飛散を精度よく容易に取り扱うことができます。

こちらは、波をテトラポットにより消波する解析事例です。テトラポットをアセンブリ粒子で作成し、波をSPHで定義しています。波の飛沫などもSPHであれば容易に再現できます。

テトラポットによる消波

テトラポットによる消波

 

3.水たまりドリフト走行(SPH+Ansys Motion)

水たまりに車が侵入してドリフト走行する解析では、水たまりをSPHで表現し、車の挙動をAnsys Motionで計算しています。水(SPH)から受ける抗力を元にAnsys Motionが車の姿勢を制御しています。

水たまりドリフト走行(SPH+Ansys Motion)

水たまりドリフト走行(SPH+Ansys Motion)

 

4. トラクターの水たまり走行(SPH+Ansys Motion+Ansys Mechanical)

トラクターが水たまりに侵入した解析では、水たまりをRockyのSPHで表現し、車体の挙動解析をAnsys Motionで、フロント部品が受ける応力解析をAnsys Mechanicalで実施しています。

トラクターの水たまり走行(SPH+Ansys Motion+Ansys Mechanical)

トラクターの水たまり走行(SPH+Ansys Motion+Ansys Mechanical)

 

ここでご紹介した事例はいずれも新機能を用いて解析したもので、実際のモデルに近い複雑な形状や解析が多いことがご理解いただけたものと思います。Rockyは、今後もお客様からのご要望に基づいて様々な機能の追加・改善を意欲的に行っていく予定です。粒子・粉体解析でのお困りごと、実施したいができないことなどございましたら、その内容を弊社へお送りくださいますようお願いいたします。

 

パーティクルシミュレーター Rocky DEMとは?

離散要素法(Discrete Element Method: DEM)によって大量の粒子や、粉体の全体的な挙動を予測するための、強力なパーティクルシミュレーター。

粒子や粉体の挙動予測は、鉱業・自動車・機械・建築土木・農業・食品・医療・化学・材料など多くの産業界の生産技術分野でのニーズが増しており、粒子形状のモデル化方法や取り扱うことができる粒子の数、計算時間の短縮、他の分野のシミュレーションとの連成など多くの技術課題があります。
Rocky DEMは、実形状粒子の詳細なモデル化、GPUによる高速計算、最新の物理モデル、豊富な結果処理機能、使いやすいユーザーインターフェース、Ansysツールとの連成解析によって、設計現場の解析ニーズに幅広くおこたえします。

詳細は、こちらをご覧ください。

Rocky DEMの解析事例を多数掲載しています。IDAJ Youtube Channelはこちらです。

 

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