どうする!?モータの温度評価(その1)
皆さま、こんにちは。
IDAJの中嶋です。
今日はモータの温度評価のために弊社ならびにお客様と一緒に構築した技術についてご紹介します。
モータの温度が上昇する大きな要因の1つに、銅損と鉄損による発熱があります。磁場解析ソフトウェアで銅損と鉄損を求めることができますが、熱流体解析機能は搭載されていないため、その損失によるモータ温度を、熱 伝導・対流・輻射を考慮して計算することはできません。
モータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する装置です。エネルギーを変換する際に生じた損失が熱となってモータの温度が上昇します。巻線での損失を銅損、鉄心での損失を鉄損といいます。銅損は、巻線の電気抵抗により失われるジュール損、鉄損は、材料内部での誘導起電力で生じる渦電流による渦電流損と、交流で鉄心が磁化されるときに生じるヒステリシス損に大別されます。回転子に永久磁石を使用したPM(Permanent Magnet)モータを設計する際に、設計上の重要な部品の1つが永久磁石です。永久磁石は温度が上がると磁力が減ってしまう(減磁する)ため、モータの特性に影響を及ぼします。

PMモータ(出典:一般社団法人日本電機工業会「知っておきたいPMモータ」パンフレット)
設計者にとっては永久磁石の温度を把握することが重要になりますが、回転子鉄心と同時に回転する永久磁石の温度を実測することは簡単ではありません。そのため、温度測定が容易な巻線に熱電対を取り付けて、巻線の温度を代替指標として利用しています。また、一定負荷条件のもとで行われるモータの温度試験では、損失による温度上昇により、永久磁石が減磁することで巻線を流れる電流が増加し、巻線や永久磁石の温度がますます上がり続けてしまいます。巻線の焼損を防止し、永久磁石の磁力が常温に戻しても戻らない(不可逆減磁)事態を避けるために、モータの温度が上昇しきる前に実験を打ち切らなければならず、定常状態に達したモータの温度測定ができないことが少なくありません。さらに、PMモータは、その駆動に交流電圧の周波数や大きさ、電流の制御を行うための制御基板(インバータ)が必要となります。インバータは多数の半導体素子を搭載した基板であり、もしモータで生じた損失が素子の温度に大きな影響を与えていると、基板単体での条件よりもジャンクション温度が上昇してしまい、動作不良や故障につながる恐れがあります。

PMモータの断面図(出典:一般社団法人日本電機工業会「知っておきたいPMモータ」パンフレット)
そこで、モータの温度評価に関して以下のような課題はありませんでしょうか?
- 回転する永久磁石の温度を実測で求めることが難しい
- モータの到達温度を求めることが難しい
- モータの損失(発熱)がインバータの素子に与える影響を知りたい
実測では知ることのできない温度を求める手法として解析(シミュレーション)がありますが、もしモータの磁場解析にJMAGを利用しているのであれば、熱流体解析ソフトウェアとしてSimcenter Flothermを活用し、連携することで問題を解決することができます。
弊社ではFlothermの販売と技術サポートとあわせて、コンサルティングを通した技術構築にも積極的に取り組んでいます。熱流体解析ソフトウェアに、このFlothermを使うメリットは、次のようなものがあります。
- 銅損・鉄損分布を考慮した熱流体解析ができる
- 高速ソルバーで過渡解析の計算時間が短い
- 機電一体での熱流体解析ができる
各メリットについて、少し詳しくご説明します。
銅損・鉄損分布を考慮した熱流体解析ができる
ブログでは時々ご紹介していますが、弊社とFlothermをご契約いただいているユーザー様向けに、弊社が独自に開発した様々な「便利ツール」を無償でご提供しています。
その中の一つが「JMAG-FloTHERMデータマッピングツール」。
これを活用すれば、磁場解析で得られた銅損・鉄損を、分布を持つ発熱量としてFlothermモデルに簡単にマッピングすることができます。
JMAGでは、「多目的ファイル出力ツール」という機能を使って、各種情報をテキスト出力し、JMAG-FloTHERMデータマッピングツールで、このテキストファイルからJMAGの損失分布データを取得します。あらかじめマッピング対象として用意したFlothermのデータをツールに読み込み、損失部品としてアセンブリやパーツを指定すれば、損失分布がマッピングされ、Flothermの発熱分布データを作成することができます。

損失のマッピング
発熱分布データは、Flothermが読み込めるFloXMLという形式で出力されます。その中身は、Flothermで発熱密度として定義されるソース部品の集合体です。
損失分布を考慮した熱流体解析を行うことで、実験で知ることのできない永久磁石の温度を求めることができます。

マッピングによって作成されたソース部品
高速ソルバーで過渡解析の計算時間が短い
Flothermの特長である直交格子と高速ソルバーを生かして、定常解析や過渡解析を短時間で実行することができます。

Flothermと汎用熱流体解析ツールの過渡解析時間の比較
ここでは、Flothermと弊社で保有する他の汎用熱流体ツールで解析時間を比較しました。解析対象には、コールドプレート上に半導体素子を搭載したモデルを用意しました。両ツールの解析条件を同じにし、過渡解析に要する解析時間を比較しています。
その結果、Flothermは1分で解析が終了しましたが、汎用熱流体解析ツールでは22分かかってしまいました。Flothermの高速ソルバーを使用して過渡解析を行えば、実測ではわからないことが多い巻線や、その他の部品の到達温度や到達時間を、短時間で計算することができます。
機電一体での熱流体解析ができる
Flothermは、電子機器専用の熱流体解析ツールとして30年近くの実績があります。基板やヒートシンク、筐体やファンなどはスマートパーツと呼ばれるテンプレートを使用し、パラメータを変更するだけでモデルを簡単に作成することができます。

Flothermのモデル作成画面
さらに、半導体パッケージ部品データ作成WebツールであるFlotherm PACKを使えば、Web上で半導体パッケージの種類を選択して必要最低限のパラメータを入力するだけで、内部構造をモデル化した詳細モデルや、熱抵抗ネットワークで構成される抵抗モデルを作成することができます。単一の直方体でモデル化されたシンプルモデルでは計算できない、ジャンクション温度を求めることが可能です。
もし、基板設計者がFlothermを使ってインバータ回路などの制御基板の熱解析をされているのであれば、その資産を有効活用することで機電一体の熱流体解析が可能になり、モータの発熱の基板への影響を検討することができます。

Flotherm PACKによる半導体パッケージ作成例
次回は、JMAGとFlothermを使ってモータの温度評価をする方法をご説明します。
本件ならびにSimceter Flothermの新規・追加のご契約やお見積もりはこちらまでお気軽にご連絡ください。
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