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【適用事例紹介】患者の個別条件でのシミュレーションによって疾患からの快復を支援 ~気道内の薬剤微粒子挙動の把握~

皆さま、こんにちは。

IDAJのAnsys・Rocky DEMプロダクト担当の河口です。

 

今回の新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的パンデミック以前から、実は呼吸器疾患は世界的な死因の第1位に挙げられるほど、多くの尊い生命を奪っている疾患です。私自身まったくその事実を知らなかったため、呼吸器疾患について無防備でもありました。

当然、この疾患の治療や予防のために、世界中の国々や自治体、医療機関、研究機関が膨大なコストを費やしています。今回の世界的パンデミック以前の水準でも世界で約2億5千万人が罹患しており、その治療には一人当たり毎年100万円以上のコストがかかっていると言われてます。そしてそのコスト以上に、これらの患者の方々が経験するQOL(Quality of Life)の低下はプライスレスです。これらのことを考えれば、世界中の医療機関や研究機関が治療の質の向上と同時に、研究関連のコスト削減にかなり本気で取り組んでいることは想像に難くありません。

 

(ここからは「呼吸器内に投入する粉末薬剤の輸送シミュレーションと“営業部通信”」の内容の一部を詳しくご説明します。)

医療薬の吸入器を例にとると、機器の設計開発のエンジニアリング的ハードルで最も高いものは、患者の体内での呼吸の気流パターンと、気道内の微粒子挙動に関する知見が十分ではないことです。その結果、現状では、最良の性能を持つとされる吸入器でさえ、吸入された薬剤全体の約30%しか目的の部位に送達させることができず、薬剤の多くは無駄になり、さらに副作用を引き起こす要因の1つにさえなっています。吸入器の性能向上を阻む大きな要因は、患者それぞれの気道の形状や呼吸パターンのばらつきが大きいこと、もちろんですが、人体内の気道内の直接的サンプリングが困難なことにあります。

このように医療分野での実験ベースでの研究は、難しさと多額のコストを伴うため、コンピューターシミュレーションを用いた最適化が有効な選択肢となり得ます。

研究者は、空気流量、3Dスキャンした気道形状、粘液層の厚さや粘着性などのシミュレーション条件を変化させ、年齢や病状、被験者間のばらつきなどといった異なる条件下でも吸引時の実際の挙動を予測することができるようになります。そのシミュレーション結果を分析することで、作動条件によって薬剤の量や粒子径を変化させて、体内の薬剤分布を量的・空間的・時間的にコントロールし、薬剤の送達(到達量)を最大化することができるようになりました。

 

薬剤粒子の挙動は主に流体の力に支配されるため、このようなシミュレーションには流体シミュレーション(CFD)が広く使用されており、実験値との比較等も多く報告されていますが、離散要素法(DEM)の粒子挙動シミュレーションとCFDとを連成させて計算し、さらに次のステップを予測する技術が注目され、徐々に実用化されつつあります。

 

続いて、DEM-CFD連成シミュレーションのメリットと適用例についてご紹介します。

まずはパーティクルシミュレーター「Rocky DEM」 と3次元汎用流体シミュレーションプログラム「Ansys Fluent」を連成する場合のフローチャートを示します。

 

1方向または双方向のDEM-CFD連成計算のアルゴリズム

1方向または双方向のDEM-CFD連成計算のアルゴリズム

 

Rocky DEM – Ansys Fluent連成計算のメリット

1. DEMとCFDの統合

Rocky DEMは、Ansys Workbenchに組み込まれており、Ansysツールと統合されていますので、簡単にシームレスなDEM-CFD連成が可能です。粒子挙動は流体の力の影響を受けるが、流体の流れには粒子の影響を受けないという今回のような問題では、1方向のDEM-CFD連成計算が適切です。また、この計算はRocky DEMのGUIの中のボタンを1クリックするだけで簡単に実行することができます

 

人の肺のモデリング(3Dスキャン、CADデータ化、CFDメッシュ作成)

人の肺のモデリング(3Dスキャン、CADデータ化、CFDメッシュ作成)

 

2. ワークベンチ上での最適化

Ansys Workbench上でRocky DEMを実行することで、粒子径や空気流量などの変数をパラメータ化し、応答面を生成してパターンの変動を確認することができます。大規模なデザインスタディを簡単に実行でき、短時間で最適条件の検討と特定を実現することができます。

 

3. マルチメッシュ

Rocky DEMは、四面体、六面体、多面体という複数のCFDメッシュタイプをサポートしています。特にAnsys Fluentの多面体メッシュ(ポリヘドラルメッシュ)は、高品質で計算効率が高く、かつソルバーの安定性が向上するため、今回の計算でも多面体メッシュを使用しました。

 

4. カスタム粒子形状

Rocky DEMでは、球形だけではなく任意の粒子形状、例えば、長い繊維状の粒子や高アスペクト比粒子といった特殊な粒子形状を使って計算することができます。さらにCADデータをインポートして、カスタム粒子形状をモデル化できるため様々な薬剤形状の検討が可能です。

 

5. 高速な計算

 Rocky DEMは、これまでのDEMツールに比べて非常に高速に計算実行することができますが、DEM-CFD双方向連成シミュレーションを行う場合でもその威力は変わりません。Ansys Fluentの計算にはLinux OSの計算サーバーのCPUを使用し、Rocky DEMの計算には、CAD用の端末となっているWindows OSのGPUを使用するといったことができるため、2つのソフトウェアが計算資源やメモリを共用することはありません。

 

精度の高いシミュレーションのためには、接着力パラメータが重要です。このパラメータを取得するには、3Dプリンターで作成された気道実験装置での実験結果と、局所的な粒子沈着をマッチングさせるなどといった材料挙動のキャリブレーションが必要となります。接着力の剛性が低下すると接着力や粒子付着率が比例して低下するため、今回は異なる値を評価し、定常 15 リットル/分(LPM)吸入時の実験とのマッチングを確認しました。

 

健康なヒトの肺の口から喉の領域における局所沈着率、15LPM定常吸入時

健康なヒトの肺の口から喉の領域における局所沈着率、15LPM定常吸入時

 

シミュレーション結果を用いて、健康な気道での粒子挙動と粒子の付着を示したアニメーションが以下です。特にRocky DEMの結果処理機能を使えば、各葉状気管支に付着した粒子をマーキングすることができますので、理解が深まり次なる改良へのアイディア創出を支援できるものと考えます。

 

 

このように、患者さん毎の気道形状や、呼吸頻度と吸入量などの条件に合わせたシミュレーションで、疾患に対する理解が深まり、より効率的な臨床計画の策定につながる可能性があります。シミュレーションを用いた研究成果が、新型コロナウィルス(COVID-19)をはじめとする呼吸器疾患の患者さんの一刻も早い快復に少しでもお役立ていただけることを切に祈っております。

 

最後に、Rocky DEMの開発元であるESSS社が、各種AnsysツールとRocky DEMの連成計算をご紹介した動画も併せてご高覧ください。

 

 

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