ソリューション
ソフトウェア
その他・お知らせ
本文までスキップする

基板単体から車全体までのEMC解析の効率化

 

皆さま、こんんちは。

IDAJの中嶋です。

 

EMC(Electromagnetic Compatibility、電磁両立性)に対して課題をお持ちのお客様からよくお聞きするお悩みは、EMCの問題は全ての構造が複雑に絡んで起こるため、回路設計者や基板設計者、機構設計者らが共同で対策する必要があり、解析ツールを使ってどのように問題を解決していけばよいか判断しづらいということです。

 

車体の解析を例にすると、EMCの解析では信号を生成する基板と、基板に部品を実装し筐体で囲ったECU(Electronic Control Unit)、ケーブルを配線する車体全体を組み合わせて解析しなければなりません。

そのため、車体全ての構造をモデル化して、周波数ごとに大規模な空間の解析が必要になるのですが、

・構造が複雑
・解析設定の難易度が高い
・モデルの構造変更が面倒
・膨大な解析時間
・結果が悪くても、どこが影響しているかわからない

などといった問題があります。


EMC設計・対策の基礎となる「原理と考え方」
Ansys電磁界解析による高速伝送EMI解析
Ansys電磁界解析による伝導・放射ノイズ解析 ~パワーモジュール~
要素の分割(簡易化)で、現実的な伝導ノイズ・放射ノイズ解析を!
IDAJからご提供可能なEMC・電磁波設計に対する支援サービス


EMC設計・対策の基礎となる「原理と考え方」

そこで、構造を要素ごとに分割して解析する、モデルを簡易化するという2つのアプローチを用いて、解析をわかりやすく、かつ使いやすくする方法をご紹介したいと思います。

車体全体のEMCを解析する問題

車体全体のEMCを解析する問題

 

ここからは具体的に事例を用いながらご紹介します。まずは、基板、ECU、車体の3つのステップに分けて解析する方法から。

EMCの解析値を実測値に近づけるには、全ての構造と測定環境をモデル化しなければなりませんが、それはかなり難しく、膨大な解析が必要です。しかし、3D構造を使って、どの周波数帯で放射しやすいかを解析するだけであれば比較的簡単です。そこで、3D構造を要素ごとに分割して解析し、そこで得られた特性を元に放射しづらい構造に変更してからEMCの対策を行います。

ECUのモデルでは、基板モデルをEMCに影響を与えるモデルのみに簡易化し、基板解析で得られた出力信号を連成させて電磁界解析をすることで、基板に筐体やコネクタ、ケーブルを含めた構造の解析を簡単に行うことができます。次にECUのモデルを再び簡易化し、先ほどと同様に連成して解析することで、車体全体のEMCの対策へと進みます。

モデルの簡易化には、EMC基本原理の考え方が必要となりますので、自習とあわせて社内にこれら知見をお持ちの方から教わるのが良いかと思います。もちろん、IDAJでもEMCトレーニングのメニューをご準備しておりますので、弊社のような外部からの技術導入を選択肢に入れていただくこともできます。

Ansysによる基板単体から車体全体におけるEMC解析の効率化

基板単体から車体全体におけるEMC解析の効率化

 

Ansys電磁界解析による高速伝送EMI解析

さて、ここからは解析事例をご紹介します。

1.SIwave、HFSSを用いたEMI解析

(1)SIwaveによる基板単体の解析

事例①実動作を考慮した励起条件を基板へ入力

事例②EMI対策としてコンデンサを配置

 

(2)基板、コネクタ、ケーブル、筐体を含む解析

事例①ケーブルのシールド線を基板へ接続する方法

事例②基板を筐体で囲ったモデルの影響

 

(3)車体内部のケーブル配線の解析

事例①ケーブル3本へ流す交流の位相差

事例②車体ケーブル配線の浮きによる影響

2.ECU基板から車体全体までを効率の良い連成解析方法

Step.1 ECU基板単体のSI、EMI解析

Step.2 筐体付ECUのSI、EMI解析

Step.3 ECUを搭載した車体ケーブル配線のSI、EMI解析

 

<主に使用した解析ツール>

高周波向け電磁界解析ソフトウェア「Ansys HFSS」

アンテナやEMIなどの電磁波放射、ケーブルやコネクタなどの有線の高速伝送、レーダやRCSなどの無線通信の解析に使用されています。

プリント基板・半導体パッケージ向けSI/PI/EMC解析ソフトウェア「Ansys SIwave」

PCBや半導体パッケージのパワーインテグリティ、シグナルインテグリティ、EMCの解析に使用されます。

 

1.SIwave、HFSSを用いたEMI解析

(1)SIwaveによる基板単体の解析

事例①実動作を考慮した励起条件を基板へ入力

基板単体のEMI解析

基板単体のEMI解析

 

SIwaveで求めたSパラメータを回路シミュレータに取り込み、ICの実動作を考慮した励起条件を回路シミュレータのIBISモデルに与えて求めた配線状の電流変化を用いて、再びSIwave上で遠方界・近傍界解析を行います。遠方界では450MHzで高い値となっており、近傍界でも450MHzでプロットした左下の部分が赤く、そこで放射が発生していることがわかります。

基板単体のEMI解析 事例①

基板単体のEMI解析 事例①

 

EMI対策のために下図の赤い丸の場所にコンデンサを配置すると、事例①の解析で「周波数における遠方界の最大利得」で得られた結果(グラフ中の赤い線)から緑色の線まで変化し、450MHzあたりでは40dB程度低下したことが見て取れます。

近傍界では、初期ケースと対策後のケースを比較すると分布的には電界強度が66%減り、赤く色がついた箇所がなくなり、放射している場所が減ったということが確認できます。

基板単体のEMI解析 事例②

基板単体のEMI解析 事例②

 

(2)基板、コネクタ、ケーブル、筐体を含む解析

事例①ケーブルのシールド線を基板へ接続する方法

事例②基板を筐体で囲ったモデルの影響

 

ケーブルとコネクタと基板をつなげた時の放射強度について解析しました。基板は、差動信号を流したもの、その周りにシールドが付いたものの高速伝送の信号線です。

基板、コネクタ、ケーブル、筐体を含むEMI解析

基板、コネクタ、ケーブル、筐体を含むEMI解析

 

基板GNDにシールド線を接続する際、片側のみの接続ではバランスが悪く、インピーダンスの不整合が起きるということは感覚的に理解しやすいかと思います。それを解析で検証してみましょう。下図の下中央が片側シールド接続での電界強度分布で、両側に設置したものが右です。

片側シールド接続では、コネクタ部分で反射が起きていることがわかります。一方で両側シールド接続のケースでは、そういった反射も少なく、スムーズに通っているように見えます。

右上のグラフからは、コモンモード、差動モードのいずれも高い値が出ており、配線方法に様々な配慮が必要であるということがわかります。

基板、ケーブルのEMI解析 事例①

基板、ケーブルのEMI解析 事例①

 

今度は、筐体で囲ったケースを検討します。

筐体GNDとケーブルシールドを接続しないケース(下中央)、接続したケース(下右)を比較しました。

接続しないケースでは放射が大きいことが確認でき、右上のグラフ上でも緑の線と紫の線で大きな差があることがわかります。この結果から、単純に筐体で囲うだけでなく、ケーブルのグランドの接続についても配慮しながら設計しなければならないことがわかります。

HISSでは、このようなモデルを簡易化して検証することができますので、様々なケースを試しつつ良い設計方法を見出し、適切な対策を選択してください。

 

基板、ケーブルのEMI解析 事例②

基板、ケーブルのEMI解析 事例②

 

(3)車体内部のケーブル配線の解析

事例①ケーブル3本へ流す交流の位相差

事例②車体ケーブル配線の浮きによる影響

 

3本のケーブルを車体内部に配線しています。

ケーブル3本に対して同相で交流電流を流したケースと、各ケーブルに対して120degの位相差を持たせて交流電流を流したケースを比較した事例で、もう一つは、ケーブルを車体に対して平行に配線したケースと、20cm浮かせて配線したケースを比較した事例です。

 

車体内部のケーブル配線のEMI解析

車体内部のケーブル配線のEMI解析

 

車体内部にケーブルを配線した構造を用いて、単相(同位相)と三相での最大電界強度を解析して比較しました。

その結果、単相の方が測定点の最大電界強度が高く、三相の方が低いことがわかりました。

車体ケーブル配線のEMI解析 事例①

車体ケーブル配線のEMI解析 事例①

 

続いて、ケーブルの配置の違いによる放射強度を比較します。

車体に対して平行に配した場合と、多少浮かせた場合、両ケースともに三相交流電流を流しています。解析結果から、26MHzあたりで測定点の最大電界強度が上がっていることがわかりました。ケーブルの浮きや曲がりが発生すると、そこで強い放射が発生しますので、EMI対策をする上では配置や曲げ方にも配慮しなければなりません。

車体ケーブル配線のEMI解析 事例②

車体ケーブル配線のEMI解析 事例②

 

2.ECU基板から車体全体までを効率の良い連成解析方法

ステップ1:ECU基板単体のSI、EMI解析

ステップ2:筐体付ECUのSI、EMI解析

ステップ3:ECUを搭載した車体ケーブル配線のSI、EMI解析

 

設計する上で知りたいのは、実条件を用いた際にどのような放射が発生するのかということ。

ECU基板単体から車体全体までを効率良く解析するには、これまでご説明したように、現時点では、基板、筐体、車体などに解析モデルを分けて解析し、個別にEMIの対策をするというように、適切にステップを刻んで進めるのが良さそうです。

次のステップに移る際には、EMIに影響を与えるモデルだけを残して(簡易化)して配置し、一つ前のステップで解析した結果を1D(1次元)モデルに置き換えて、続くステップの入力としていきます。

ECUを搭載した車体ケーブル配線を効率よく解析する

ECUを搭載した車体ケーブル配線を効率よく解析する

 

まずは基板レベルから始めましょう。FPGA(Field Programmable Gate Array)への信号を0/1で入力し、その基板のコネクタPADから出力される信号を予測してEMI対策を実施します。次にEMI対策後の簡易基板モデルに、筐体やコネクタ/ケーブルを付けたECUモデルを用いて3D構造部品の影響を確認して、必要であれば対策をします。最終的には、これらの各要素を車体に追加して接続することで、信号が変化し、実際にケーブルに伝わる信号の放射ノイズを計算します。

これによって、EMC解析のためにケーブルから放射する現実に近い放射ノイズパターンをHFSSに取り込み、EMIの強度としてシミュレーションすることができます。

ECUを搭載した車体ケーブル配線を効率よく解析する(連成方法)

ECUを搭載した車体ケーブル配線を効率よく解析する(連成方法)

 

Ansys電磁界解析による伝導・放射ノイズ解析 ~パワーモジュール~

高速信号のスイッチングによって伝導ノイズや放射ノイズに影響が出るか否かを、SiCのパワーモジュールを例にご紹介します。

<主に使用した解析ツール>

高周波向け電磁界解析ソフトウェア「Ansys HFSS」

寄生パラメータ抽出ソフトウェア「Ansys Q3D Extractor」

パワーモジュールや半導体パッケージ、コネクタ、バスバー、PCB、ケーブルなどの電子部品の構造を解析して寄生パラメータのRLCGを抽出します。

ここでは、比較的簡単なモデルを用いて回路を作成しています。

SiCパワーモジュールのSPICEモデルを3つ使用して、疑似モーターの回路とLISN回路によってインバーター回路を作成して解析した「インバーター構造のCircuitによるLISN回路の伝導ノイズ解析」、バスバーと筐体のモデルを作成し、3D構造による寄生成分をQ3Dで抽出し、インバーター回路に組み込んで伝導ノイズを解析した「Q3Dによるバスバーと筐体を含めた伝導ノイズ解析」、SiCモジュールユニットを簡易化してケーブルを接続させ、HFSSによりSパラメータを解析し、インバーター回路に組み込んで伝導ノイズを解析、さらに解析した伝導ノイズの特性をHFSSの入力条件として放射ノイズを解析した「HFSSによるケーブルと測定環境を含めた伝導ノイズと放射ノイズ解析」についてご説明します。

SiCパワーモジュールの伝導ノイズと放射ノイズ解析

SiCパワーモジュールの伝導ノイズと放射ノイズ解析

 

下図のように、回路は一般的なLISN回路を用意して、パワーモジュールを三つ並べて三相の交流とし、モーター自体はただのRL回路で作成して解析した結果で、LISN回路とモーターUV線の伝導ノイズを示します。

インバーター構造のCircuitによるLISN回路の伝導ノイズ解析

インバーター構造のCircuitによるLISN回路の伝導ノイズ解析

 

実際には、3D構造が計算精度に影響しますので、SiCモジュールに、DC側・AC側バスバーとシールドやヒートシンクといった筐体の構造を追加してQ3Dで解析し特性を明らかにした上で、Circuit用に1D化してから回路シミュレータに組み込みました。

バスバーと筐体を含めた伝導ノイズ解析(1)

バスバーと筐体を含めた伝導ノイズ解析(1)

 

Q3Dで解析した結果をCircuitに組み込み、伝導ノイズを解析しました。その結果が下図の右側です。

上段のLISN回路の伝導ノイズは、10MHz付近で違いが見られます。また、モーターUV線の伝度ノイズでも10MHzあたりで上昇し、さらに高周波付近でも少し上昇するという変容が見られました。

このように単純な構造ではなく、様々な成分を追加することでより実動作に近い解析ができることがおわかりいただけるかと思います。

バスバーと筐体を含めた伝導ノイズ解析(2)

バスバーと筐体を含めた伝導ノイズ解析(2)

 

SiCモジュールユニットを簡易化してケーブルと接続し、測定環境も含めてSパラメータ(Scattering parameter)を解析、インバーター回路に組み込んで伝導ノイズを解析しました。

伝導ノイズの解析後に放射ノイズを解析しますので、空間の電磁界伝搬を計算することができるHFSSを使用しています。

ケーブルと測定環境を含めた伝導ノイズ解析(1)

ケーブルと測定環境を含めた伝導ノイズ解析(1)

 

HFSSで計算した結果が下図右側グラフの赤い線です。モーターUV線は、そもそもケーブルが長く、その影響が顕著で、30~40MHzの辺りで高いノイズが出ていることがわかります。LINS回路の伝導ノイズは、10MHz付近で違いがみられます。

ケーブルと測定環境を含めた伝導ノイズ解析(2)

ケーブルと測定環境を含めた伝導ノイズ解析(2)

 

ここまでの解析で得た伝導ノイズのFFT特性を用いて、放射ノイズを解析します。各周波数における3m近傍の最大放射電界強度[dBuV/m]を求めました。以下は、ピークが現れる30 MHz、80 MHz、250 MHz、570MHzの電界強度分布です。

結果をアニメーション表示すれば、放射の状況をより詳細に把握することができますし、実際にはアンテナを付けて測定環境により近づけてEMC対策を行うことができます。

測定環境を含めたケーブル放射ノイズ解析

測定環境を含めたケーブル放射ノイズ解析

 

要素の分割(簡易化)で、現実的な伝導ノイズ・放射ノイズ解析を!

回路設計、基板設計、機構設計と要素を分割して解析し、その結果を1次元で連成して放射に影響する伝導ノイズを解析、その結果をもとにそれぞれで対策した後に、HFSSに取り込んで放射ノイズを解析するというフローがEMC設計においては現実的な流れではないかと考えています。

分割して解析・対策すると計算にかかる時間も短くて済みますし、また、要素ごとの計算を平行して進めることができますので、事前にEMCへの対策を行いながら、最終的な放射強度を計算することが可能です。

実際に測定してみて高いピークが現れた場合、各要素で解析した結果などを参照しながら、どの部分で強度が高いのかを把握することもできます。ぜひ、大いに解析を活用しながら効率的なEMC対策を行っていただければと思います。

SiCパワーモジュールの伝導ノイズと放射ノイズ解析まとめ

SiCパワーモジュールの伝導ノイズと放射ノイズ解析まとめ

 

IDAJからご提供可能なEMC・電磁波設計に対する支援サービス

EMC・電磁波設計に対する各種サービスは、お客様からのご要望にお応えする形で、ここ数年で立ち上げたソリューションです。EMC・電磁波設計に必要なシミュレーションツールのご提供と、それらを使ったエンジニアリング・コンサルティングだけでは複雑なEMC対策には対応しきれませんので、測定・検証、技術トレーニングもあわせてソリューションとしてご提供しています。

EMC対策の技術トレーニングは、様々なところから提供されていますが、IDAJでは、主に設計者様を対象とさせていただいていますので、数式のご説明は必要最小限にとどめ、ノイズ低減のための設計ルールや対策手法をその原理から理解いただくことを主眼にコンテンツを構成しました。作業レベルでルールを適用するのではなく、原理との関連性を理解しておくことで、設計現場での応用範囲が広がりますので、設計変更にも対応がしやすくなるはずです。

各種ツールやMC・電磁波設計に対する支援サービスにご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせくださいますようお願いします。

EMC・電磁波設計ソリューション

EMC・電磁波設計ソリューション

 

Ansys Electronics

 

追記:2022年8月5日

■オンラインでの技術相談、お打合せ、技術サポートなどを承っています。下記までお気軽にお問い合わせください。ご連絡をお待ちしています。

株式会社 IDAJ 営業部

Webからのお問い合わせはこちら

E-mail:info@idaj.co.jp

TEL: 045-683-1990