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【適用事例】CONVERGEによるアーク溶接の流動シミュレーション

皆さま、こんにちは。

IDAJの水島です。

CONVERGE」は、エンジン筒内やガスタービン、ポンプ、コンプレッサのシミュレーションで広くご活用いただいます。先日は、当ブログで、塗装プロセスのシミュレーションへの適用事例についてご紹介しましたが、ここまで適用範囲が拡大しているのは、CONVERGEのメッシュ作成の簡便さを代表とする、熱流体解析に取り組みやすくする機能があることも理由の一つだと思います。

今回は、マツダ株式会社様でアーク溶接にCONVERGEを適用された事例を論文(※)に基づいてご紹介します。

(掲載の内容は、マツダ株式会社様の利用合意受けているので、他への転載、転用を一切禁じます。)

(※)出典:田中、斉藤、深堀、小川:ハイアルゴン溶接の技術開発:マツダ技報No.34(2017)、122-127

ポイントは、“アーク溶接時のスラグ生成メカニズムに着目”されたこと。

溶接ビード上に生成したスラグは、主にガラス質で導電性が無いため電着塗料の付着を阻害するため、その周辺から発錆しやすくなります。

MAG溶接などのガスシールドアーク溶接では、下図内に黄色で示したとおり、溶接部のまわりにシールドガスを流すことで、まわりの空気を遮断し、溶接部におけるスラグの生成を抑えています。

シールドガスはArとCO2の混合ガスとなっており、CO2から熱解離したOもスラグ生成に関係しますが、今回は“シールドガスによりまわりの空気を遮断すること”に特化してご説明します。

CO2の役割は、先ほどご紹介した論文に記載されていますのでどうぞご参照ください。

 

溶接の基本行程の概略図

 

マツダ様では、実験でシールドガスを噴出させるノズルの内径を変えたり、シールドガスの流量を変更したりして、生成したスラグの量を調査し、ノズル径や流量によって、生成されるスラグの量が変化するという結果が得られています。

 

シールドガス流量とスラグ量の関係(実験)

シールドガス流量とスラグ量の関係(実験)

 

また、横軸をシールドガス流速に変更してみたところ、流速が高くなるとスラグ量が多くなる傾向は部分的にみられますが、完全な相関はなく、またノズル径によってスラグ生成量が大きく異なることが確認できました。

シールドガス流速とスラグ量の関係(実験)

シールドガス流速とスラグ量の関係(実験)

 

これらから、次の仮説を立てました。

・シールドガス流速が大きいほど、シールドガスの中に空気が巻き込まれていて、スラグが生成しやすくなるのではないか。

・ノズル径が大きい方が、アーク中心から大気までの距離が大きくなり、スラグが生成されにくくなるのではないか。

 

溶接用シールドガスの概略図

溶接用シールドガスの概略図

 

この仮説を確認するためには、アークまわりの速度分布やO2の濃度分布を実験的に調査しなければならないのですが、それはかない難しいものになります。そこで、エンジン筒内解析などに使っていたCONVERGEを用いた熱流体解析で、仮想的に調査を実施しました。

 

開放空間を模擬した解析空間に、実験と同じ角度に傾けた溶接ノズルを配置します。

 

解析モデル

解析モデル

 

解析領域全体は空気で、解析領域まわりの円筒部分は圧力境界として空気が出入りするように設定しています。シールドガスの流入境界(Shielding Gas)からは、シールドガスの成分であるArとCO2を流入させました。ワイヤ先端へも流入境界(Arc Gas)を配置し、アークの代わりに温度15,000K、速度200m/sのシールドガスと同じ成分のガスを噴射させて、結果を確認してみました。

その結果の一部が、こちらです。

解析結果:ノズル径φ13mm、シールドガス流量20l/min

解析結果:ノズル径φ13mm、シールドガス流量20l/min

 

解析の結果、

・空気がシールドガスに巻き込まれている。

・母材付近でガスが渦を巻いている。

・O2が母材上の渦を巻いている箇所で停滞している。

ということがわかり、解析前に立てた仮説が確からしいという見込みが得られました。

そこで、この解析結果が実験と近い傾向が得られているかを確認するために、先に示したグラフにCONVERGEで得られた溶接部近傍のO2濃度をプロットしてみました。

 

シールドガス流量と解析によるO2濃度(左縦軸)・実験によるスラグ量(右縦軸)の関係

シールドガス流量と解析によるO2濃度(左縦軸)・実験によるスラグ量(右縦軸)の関係

 

実験でのスラグ生成量の傾向とCONVERGEでの計算結果による溶接部近傍のO2濃度の傾向には相関があり、シールドガスの与え方によってO2濃度が変化し、それに伴ってスラグ生成量が変化していることが確認できると考えられます。

CONVERGEによる流れ解析の考察を行うことで、大気中の酸素の溶接金属への流入メカニズムが推定されました。

この結果は、マツダ様で実部品の適用に生かされています。

O2の流れの模式図

O2の流れの模式図

 

以上のように、溶接手法の検討や溶接部まわりで起こっている現象について、CONVERGEを用いてメカニズムまで推定することができました。CONVERGEは形状に対して柔軟に解析空間メッシュを生成できますので、今後もノズル形状やシールドガスの流入方法などの検討にもご活用いただけるものと思います。

この事例は、冒頭でご紹介した技報に掲載された内容を要約したものですが、マツダ様には2016年に開催した弊社IDAJ CAE Solution Conferenceでご講演いただいたり、さらなる研究内容について技報でご紹介いただいています。

  • 斉藤他:亜鉛めっき鋼鈑用スラグ溶接プロセス開発に向けた基礎検討-第3報:エンジン筒内解析の応用によるスラグ生成メカニズムの解明-:溶接学会全国大会講演概要:第99集(2016-9):106-107
  • 斉藤他:エンジン専用熱流体プログラムの適用による溶接スラグ生成メカニズム解明:溶接技術2017年2月号:46-49

CONVERGEはエンジンに特化したCFDツールだと見なされがちですが、特長的な機能を生かしてますます適用範囲が拡大しています。アイディア次第で、これまでCFDの適用が難しかったケースにも活用できる可能性がありますので、「こういう問題をCONVERGEで解析できますか?」といった概要だけで結構ですので、まずはお気軽に是非弊社営業担当までご相談ください。

 

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