実験だけでは把握できない、流体騒音をシミュレーション!(その3)
皆さま、こんにちは。
IDAJの石川です。
引き続き、流体騒音シミュレーションについてご紹介します。ぜひ「その1・2」もあわせてご覧ください。
前回、流体騒音を直接法でシミュレーションするためには、ソフトウェアに次の3点が必要であることをご説明しました。
1 高並列・長時間のCPU稼働で低価格であること
2 並列性能が高いこと
3 高い解析精度を有すること
オープンソースベース汎用CFDソフトウェア「iconCFD」は、これら全てを満たしているため、流体騒音シミュレーションについてご相談があった場合に、弊社からご提案しているソリューションの一つです。
1 ライセンスフリーで使用コア数や稼働時間に依存しない価格体系
2 高並列での優れたスケーラビリティ
3 直接法を適用するのに十分な計算精度
下図は、1億強のメッシュでDESモデルを使用した1秒間の非定常空力解析を実施し、並列性能を計測したデータです。流体騒音の直接法による解析を、現実的なコストで実施していただくことが可能であることがご理解いただけるのではないでしょうか。

iconCFDの並列性能
直接法による空力騒音の解析事例(1)「ウィンドスロッブ解析」
解析にあたっては、以下の論文[1]を参考にしました。
参考文献
[1] 稲垣昌英ほか,“低マッハ数流れにおける流体共鳴音の数値解析法”,日本機械学会論文集 B 編,Vol. 66,No. 649(2000), pp. 2274-2281.
乗用車がサンルーフや窓を開けて走行した場合、ある車速において、ウインドスロッブと呼ばれる低周波数の空力騒音が発生することが知られています。
これは、サンルーフなどの開口部で生じる周期的な渦放出と、車室内空間のヘルムホルツ共鳴との連成問題となります。キャビティの上流側エッジで発生した渦が下流へ流れる過程で成長し、それが下流側エッジに衝突して渦が崩壊します。それによって圧力脈動が発生してキャビティ内を伝播し、これがキャビティの固有モードを励起、相互にエネルギーを供給し合うことによって自励振動系を形成します。
ウインドスロッブはエオルス音と違い、キャビティ内で若干の密度変化が発生する現象であるため、非圧縮解析を適用して周期的な渦放出を捉えるだけでは不適切な解法だと言えます。

ウィンドスロッブ問題
参考文献[1]を参考に、下図に示す3次元のオープンキャビティ形状を解析対象とします。実測との比較のために、論文にあわせてキャビティ底面の中央部において圧力の時間履歴をモニターします。
![解析形状(参考文献[1]の図3より転載)](https://www.idaj.co.jp/blog/wp-content/uploads/masatoshi-ishikawa/2f7f2711e8d06251e94b8ab5f87de470.jpg)
解析形状(参考文献[1]の図3より転載)
iconHexMeshで生成した解析メッシュを下図に示します。総セル数はおよそ550万で、境界層メッシュは初層厚さを0.1mmとして4層にしました。

iconHexMeshで生成した解析メッシュ
【主な解析設定】
・ ソルバー: 非定常圧縮性ソルバー
・ 圧力と密度の関係: 理想気体の状態方程式
・ 媒質: 空気
– 分子量: 28.9
– 粘性係数: 18.4μ [Pa·s]
– 定圧比熱: 1007 [J/(kg・K)]
・ 乱流モデル: Spalart-Allmaras DESモデル
・ フィルター幅: Δ=(: セル体積)
・ 時間差分: 2次精度陰解法(backwardスキーム)
・ 空間差分: 2次精度中心差分(ローカルブレンド型)
・ 時間刻み: 50μ [s]
・ 計測点のサンプリング周波数: 20kHz
主流速度26m/sと30m/sの2条件で計算した、圧力計測点における音圧レベルを下図に示します。両条件とも100Hzより少し高い周波数において音圧レベルのピークが見られます。

音圧レベル
先に示したピーク周波数と音圧レベルを実測値と比較した結果が下図です。ピーク周波数については、主流速度26m/sのケースで少々誤差が大きいですが、両ケースともに実測値とよい一致を示しています。また音圧レベルは、両ケースとも誤差が1.5%以内であり、実測値と大変よく一致しています。

実測値との比較(左: ピーク周波数、右: 音圧レベル)
さて、次回は「平板を設けた角柱周りの解析」についてご説明します。
流体騒音解析に関してご不明な点やご要望などありましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。
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