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【適用事例】Rocky DEMとAnsys Fluentを用いた乾燥粉末吸入器の薬剤粒子輸送の予測シミュレーション

皆さま、こんにちは。

IDAJのAnsysプロダクト担当の河口です。

 

今回は、医療用機器開発におけるシミュレーション技術の適用について、事例を用いてご紹介します。

 

乾燥粉末吸入器(Dry Powder Inhaler:DPI)のような、呼吸器へ薬剤を送るための器具は、有効成分(Active Pharmaceutical Ingredient:API)を効率的に呼吸器系の目的とする位置に届けるために広く使用されています。実際に、私も数年前、風邪をこじらせた際に医師から処方された薬は、吸入器を用いて服用するものでした。

 

パーティクルシミュレーター「Rocky DEM」には、薬剤輸送や相互作用の物理的メカニズムをコンピューター上で再現するユニークな機能が多数ありますので、DPIデバイスの設計最適化に大いにお役立ていただくことができます。

ラボでの実験と比較すると、Rocky DEMを用いた高精度なシミュレーションは、コストや工数、開発期間を抑えることができますので、DPI製品の研究開発サイクルの短縮に貢献します。

Rocky DEMは、繊維のような異方性形状の場合でも任意形状粒子として許容しますので、空気流動によって働く力を考慮しながら粒子輸送の挙動を正確に予測します。また、接触検出モデルは、複雑な形状の粒子間の相互作用を正確にとらえることができます。薬剤放出時の粒子-粒子間の相互作用力、すなわちファンデルワールス力と静電力は薬剤粒子の挙動に重要な役割を果たし、放出された粒子サイズ分布は、肺疾患治療に必要な、指定された肺部位への薬剤の有効投与量の評価に大きく影響します。

Rocky DEMはこのようなニーズに応えるために複数の接着力モデルを提供しており、表面エネルギーパラメータを定義するだけで、材料の接着・凝集挙動を予測することができます。

 

こちらは、Rocky DEMとAnsys Fluentの1方向連成流体粒子挙動連成(CFD-DEM)シミュレーションの事例です。

下図は、シミュレーションを駆使して設計したDPI形状と、壁面近傍に6層のレイヤーメッシュを配置した流体ボリュームの多面体メッシュを示しています。

 

 

まずは、流体メッシュの計算精度と計算効率のバランスを検討するためにケーススタディを実施しました。以下はその結果と最終的なメッシュの仕様です。

 

 

今回のCFD-DEMシミュレーションで特筆すべき項目は以下の通りです。

1.流体粒子挙動の1方向連成連成シミュレーション

今回のケーススタディでは、粒子挙動が流体側に与える影響は少ないと仮定して、粒子と気流の一方向連成を適用しました。ANSYS Fluent でCFD シミュレーションを実施して定常状態の気流場を生成し、その次に、この流動場データをRocky DEMにインポートして流路内の粒子が流体から受ける抗力と粒子軌道を計算しました。

 

2.カスタマイズされた非球状粒子形状

Rocky DEMでは、様々な形状やサイズ、剛体や弾性変形するフレキシブル粒子を簡単に定義することができます。繊維状のファイバー粒子、薄いシェル形状も粒子として定義します。また、3D CADデータもしくは3Dスキャンしたデータがあれば、それを取り込んでシミュレーションに利用することも可能です。

今回のスタディでは、球面円柱状粒子(図中のSphero Cylinder)と球状粒子の粒子輸送効率を比較しました。球面円柱状粒子の垂直アスペクト比を2.0と定義し、等価球径は球状粒子と同じ値である3μmとしています。

Rocky DEMに搭載されている非球形粒子のサンプル形状例

 

3.粒子と粒子の相互作用

Rocky DEMは、個々の粒子に作用する過渡的な力やトルクを明示的にモデル化することができます。また、任意形状の粒子間での接触検出や接触力を計算することが可能です。

今回のスタディでは、粒子間のファンデルワールス力と静電力の計算に、Johnson-Kendall-Roberts(JKR)凝集を用いたHertz-Mindlin(H-M)モデルを用いました。

 

4.Rocky DEMの結果処理機能

Rocky DEMでは、シミュレーションの結果を効率的に表示させ、分析に用いることができます。

“Particle Time Selection Process”をクリックすれば、位置や速度などの粒子情報、粒子-粒子間の相互作用、粒子-デバイス間の相互作用を把握することが可能です。また、カスタマイズしたPythonスクリプトを使用して、粒子のプロパティを出力することができます。例えば、マウスピース開口部で放出される空気力学的粒子径分布(Aerodynamic Particle Size Distribution:APSD)をエクスポートして、ヒトの気道内での薬剤粒子輸送の調査への活用が想定されます。

下図は、DPIの中心断面における流体速度分布と、時間t=0.001秒における球形粒子と球⾯円柱形粒子の粒子輸送挙動の比較を示しています。この2つのケースの比較から、球形粒子は、粒子-粒子衝突周波数が異なる細長い粒子と比較して、流動輸送により早く追従して移動することがわかります。したがって、粒子形状が粒子の分散に大きく影響し、放出されるAPSDを決定する1つの要因になることがわかりました。

 

 

今回は医療用機器デバイスの開発にシミュレーション技術が適応された例をご紹介させていただきました。

我々がお客様にご提供するシミュレーションに関する様々な技術が、世界中の人々の健康と快復の一助になるのであればこんなに嬉しいことはありません。

 

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