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Case Study実績・お客様事例

東芝 様(IDAJ news vol.103)

二次電池「SCiB™」セル開発における電気化学シミュレーションにGT-AutoLionをご活用

株式会社 東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 様
IDAJ news vol.103お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2021年3月

解析種別:劣化予測、システムシミュレーション、電気化学シミュレータ
課題等:リチウムイオン電池、2次電池、安全性、長寿命、低温性能、急速充電、高入出力、試作レス、バッテリー、安全性、耐用年数の向上、設計検討、モデルベース開発

省略

シミュレーションによる予測技術の確立

次世代の二次電池「SCiB™」の研究開発にあたって、リチウムイオン2次電池解析ツール「GT-AutoLion」をご活用いただいています。GT-AutoLionをご導入いただいてから約3年になりますが、採用を決められた理由などをご紹介いただけますか。
SCiB™は、負極にチタン酸リチウムを採用することにより、「安全性」「長寿命」「低温性能」「急速充電」「高入出力」「広い実効SOCレンジで使用可能」という特徴を有する電池で、自動車・バス・鉄道などの乗り物や、エレベーターなどの産業機器、再生可能エネルギーと連動した大規模蓄電施設などのインフラ設備に活用されています。
これら電池用途が拡大する中、電池への要求は高出力、大容量、急速充電などと多様で、顧客には用途に適した電池をタイムリーに提供することが求められています。
材料・デバイスは今までデジタルから遠い領域とも言われていましたが、過去から脈々と培われた多大なノウハウや技術が人から人へ継承されてきた領域でもあります。これら人の中に蓄積したノウハウをシミュレーションなどによってデジタル化して数値化することができれば、技術を横断的に可視化することが可能となり、システムなどの異なるレイヤーをまたいだコミュニケーションを実現できるのではないかと考えました。
一方で、知見をノウハウとして蓄積している研究者の集団であるがゆえに、頭の中でわかっていることを再現するだけのシミュレーションでは開発にはあまり役に立たないのです。そこで、シミュレーションに求める機能をメンバーで議論し、今まで培ってきた材料レベルの知見を設計技術と組み合わせて予測が可能な“予測技術”に着目しました。シミュレーションで用いるGT-AutoLionは、電池材料の細かな劣化反応メカニズムや物性情報をユーザーが定義することができるため、研究者個人が保有していたデータや評価技術などの資産を有効的に活用できる可能性を感じました。
実際にシミュレーション技術導入の前後を比較すると、具体的にはどのような変化がありましたか。
シミュレーションをする上で、皆さんがまず着目されるのは、モデルで導き出される予測精度と再現性ではないかと思います。もちろん、重要な点ではありますが、研究開発の視点では、予測からずれることから気付かされることが多いのです。シミュレーションで模擬できていない現象がどこにあるのか?その現象をどうモデル化したら良いのか?さらにモデル検証に向けて実験側はどのようなデータを取るべきなのか?というように、モデル側と実験側の双方の進め方を何度も見直すことがありました。実験をする者とシミュレーションをする者を分けず、一人で両方をこなすようにし、論理的な視点をもって進められるようになったのはとても良いことだと思います。時々、ツールのバグで苦戦することもあるのですが・・・(笑)。また、システムレイヤを扱うメンバーとモノがない状態でもシミュレーションを通した評価検証ができるようになりました。
シミュレーション技術を含むデジタル技術は、今後ますます重要性が高まるものと考えています。お客様に対して「新しい電池ができましたので使ってみてください」という提案だけでなく、お客様のシステムの中でどれだけお役に立つのかを理解いただくこと、一方向の提案ではなく、デジタルの情報をやり取りし、提案に対してフィードバックをお客様からいただき、改良点をご指摘いただくといったループが早く回せるようになると、開発リードタイムを低減できるものと思います。

限界まで使いこなすためにシミュレーター(GT-AutoLion)を活用

続いて、GT-AutoLionの適用事例についてご説明いただけますでしょうか。
リチウムイオン電池は、そのエネルギー密度の高さから小型軽量ながら高い電圧と容量を実現し、スマートフォン、電気自動車などの進歩と普及に貢献してきました。今後は、さらなる高容量・高エネルギー密度化に向けた革新的技術が期待されています。しかし、こうしたリチウムイオン電池への要求の実現は、安全性や耐用年数の向上といった課題と両立させていかねばなりません。特に、SCiB™の利用が想定される産業用ロボット、バス、工場、各種モビリティ、物流、そしてエネルギーといった産業分野への応用には、過酷な環境下での使用を想定した性能の確保が必要となるほか、交換の難しい機器への採用では、長期間にわたる安定した性能と安全性が要求されます。これらは、止めることができない、かつ使用頻度が高い利用シーンであり、稼働率の向上が求められるためです。
このような使われ方を想定した電池開発にあたり、電気化学シミュレーター(GT-AutoLion)を活用しています。
図1 GT-AutoLionの活用フェーズ
リチウムイオン電池は、正極材料、負極材料、セパレータ、電解液、集電体などの材料から構成されており、これらを組み合わせた電極として、最終的には電極を積層や捲回してセルという形にします。このとき、正極・負極の活物質に何を用いるか?電極の形成条件は?さらにこれらをどのように組み合わせてセルにするか?といった、多変数の設計組合せ条件を有する状況にあります。
GT-AutoLionは、電池の材料、活物質、セパレータ、各活物質もしくは活物質と電解液、活物質間の組み合わせによって起こる劣化の反応、セルのデザイン、各段階のレイヤーをモデル化することができますので、これらの特徴をしっかりと組み込み、モデル化することができれば、試作レスや評価を削減した状態で特性を予測することが可能です。従来からシステム設計で広く使われている等価回路モデルは、実験で得たセルの特性を再現してモデル化した高速に計算可能なモデルです。GT-AutoLionでセルを仮想設計し、同じように等価回路モデルを生成すれば、試作レスで性能検証ができるようになります。
材料の物性は、粒子形状や添加剤の添加条件、電解液との組合せによってその値が変わるため、それぞれをGT-AutoLionの式で表現できるように独自のデータベースで定義して記述しました。これらにより設計したセルモデルを検証し、設計検討に利用可能なレベルにあることを確認しています。
図2 電極構成材料の物性等をUDFでDB化し特性を予測
続いて劣化の予測です。劣化反応についても着目したい劣化部分、またその反応が条件によって変わるため、ユーザー関数(註:User Defined Function、UDF)としてサブルーチンを用意して計算しました。GT-AutoLionは、ユーザーが着目したいモデルをサブルーチンとして容易に付加できるのが特長です。また、主要因の劣化モードを仮想的に組み合わせた評価ができるため、各劣化モードが組み合わさった場合の、容量の維持率や抵抗上昇予測も可能です。
図3 劣化分析によって劣化モードを抽出し、モデルを設計することで特性を予測
次にシステム開発への応用についてご説明します。システムを設計する際に、電池の振る舞いが良くわからない状況になると、余裕を持った設計が必要になり、電池のコストや体積が大きくなるという課題があります。また運用開始後に、劣化した電池が特定できない、また劣化した電池は後どれくらい使えるのかがわからなければ、メンテナンスコストがかかります。そこで、導入時に必要最低限な量を適切に把握すること、運用時には状態を見極めてメンテナンスが必要な部分を把握することがシミュレーションの役割だと考えています。
システムシミュレーションの適用例として、ハイブリット型の電動車両に対して電池の応用を検討したケースについてご紹介します。SCiB™の電池モデルはGT-AutoLionのモデルを活用して設計し、その他のハイブリッド車両のコンポーネントである発電機、ギア、エンジン、モータとSCiB™を接続してモデルを構築しています。
図4 ハイブリット型の電動車両モデルへの電池応用
電池は、標準的なエネルギー容量とパワー密度を持っているセル①を基準に、セルのサイズを固定した条件で、電極を厚目付化し容量を重視した高容量セル②と、電極を薄膜化して出力を重視した高出力セル③という合計3種類のセルを仮想設計し、シミュレータの中に組み込んで特性を検証しました。
図5 設計変更したシミュレーション結果
今回の検証では高容量型のセル②は、非常に大きな出力を要求されるときに下限電圧を下回る特徴が出現し、高出力セル③が適する結果となりましたが、低温始動特性を評価したり、運転パターンを変えて評価することで、システムに最も適した電池、そしてその電池の制御方法をデジタル上で把握することができます。

新しい材料からセル設計、サービスまで一貫したモデルベース開発を目指す

シミュレーションを活用することで、開発初期の段階でセルやモジュールを仮想設計し仕様を決めることができれば、後に必要となる安全性等の重要な評価や検証に十分な時間とお金をかけることができます。また、モデルという共通言語で材料からシステムまでの異なるレイヤーが数値として繋がることで、企画段階でも定量的な議論が可能となり、お客様に製品をお届けするまでの時間を短縮することが期待できます。
弊社では、次世代負極材料「ニオブチタン系酸化物(註:NTO)」や、電極とセパレータを一体化したSkin-Coated Electrode(註:SCdE)などのさらなる高容量・高出力化にむけた技術開発にも取り組んでおり、これら設計にもモデルベースを活用してタイムリーに製品を提供していきたいと考えています。
図6 高容量・高出力化に向けた技術開発
詳細にご説明くださいまして、ありがとうございます。続いて、GT-AutoLionをご利用いただいてのご感想やご要望などがございましたら、忌憚のなくお聞かせください。
モデルや現象を説明できずに今でも改良している部分があります。それらに対して、GT-AutoLionのバージョンアップによって必要な機能を盛り込んでもらっていますのでありがたく思います。また、シミュレーションで初めて取り組むテーマであったり、わからない問題が発生したときには、IDAJさんからは「こういうアプローチがありますよ」「こんなソリューションがありますよ」などと、ソリューションを提案してくださるので助かっています。
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.103でご覧いただけます。
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ご活用いただいている製品

分野1:
化学反応解析
分野2:
1Dシミュレーション(システム・シミュレーション)
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